開拓地に、まずは食糧庫を作ろう!
二日後。
開拓地から連絡が入った。
どうやら、予定地の木をある程度切り倒したらしい。
「……相変わらず、早くね?」
思わず呟いてしまった。
いや、ありがたいことだ。
ありがたいことなのだけれど、私が想定しているよりも、何もかも進むのが早い。
職人さんは、抜根機とクレーンをあっという間に作ってしまった。
開拓団の募集をすれば、翌日には三十人近く集まった。
そして今度は、木の伐採まで進んでいる。
……我が領民、行動力がありすぎませんかね?
「まあ、報告が来てしまったら、見に行かなければならないわね……」
現場指揮を任されている以上、実際の様子を確認する必要がある。
机の上で考えているだけでは分からないことも多い。
というわけで……。
「クルークお嬢様! 落ち着いてくださいね!」
「……分かったわ」
私は、ヴァイプに抱え込まれた。
「ひっ……!」
次の瞬間。視界が揺れた。
いや、揺れるどころではない。
地面が遠ざかり、木々が目の前を流れていく。
「ヒィーーーーー!」
私の悲鳴が、山の中に木霊として響いた。
……だから!
だから、普通に道を歩いて行きたいって言ってるでしょうが!しかし、ヴァイプは止まらない。
木から木へ。斜面から枝へ。
まるで当たり前のように飛び移っていく。
「お嬢様、もう少しですから!」
「もう少しって、どこまでよーーーー!」
返事をする余裕など、あるわけがなかった。
そして……。
「はぁ、はぁ……やっと着いた……」
ようやく地面に降ろされた私は、その場にしゃがみ込んだ。もう二度と経験したくない。
……いや、開拓地に来るたびにこれなの?
勘弁してください。
私は深呼吸をして、周囲を見回した。
確かに、木はかなり切り倒されている。
そのおかげで、狭いながらも平らな土地が見えていた。
「へえ……」
思っていたより、悪くない。
ただし、広くはない。
「……広さは、どれくらいだろう? 百坪くらい?」
正確な面積は分からないけれど、最初の拠点にするには十分かもしれない。
ここに道具や資材を置き、作業の準備を進める。それから、少しずつ周囲を切り拓いていけばいい。
「お嬢様!」
声を掛けてきたのは、開拓団の責任者であるツーシュさんだった。
「お疲れ様! ツーシュさん!」
「ありがとうございます。わざわざお越しいただき、恐縮です」
「それで、平らな土地はここだけなの?」
「いえ。もう少し拡張できます。ただ、資材や道具を置き、ここで寝泊まりすることを考えると、まずはこの程度でよいかと思いまして」
なるほど。
確かに、最初から広範囲を切り拓いても、管理が大変になるだけだ。
必要な場所から順番に整えていく方がいい。
「それに、この先をどうするか、お嬢様と相談したいと思っておりました」
「なるほどね……」
私は、改めて周囲を見回した。
山。木。斜面。そして、わずかな平地。
パンパ領らしい景色だ。
「水源は大丈夫?」
「はい。それは問題ありません。近くに水を確保できる場所があります」
「それなら、ひとまず安心ね」
水がなければ、人は暮らせない。
食事にも必要だし、道具を洗ったり、作業に使ったりすることもある。
水源が確保できるのは、大きな利点だ。
「ならば……」
私は考え込んだ。
さて、どうしようか。
ここに荷物を置くのはいいとして、寝泊まりするなら最低限の設備も必要だ。
食料も持ち込まなければならない。
けれど、食料をそのまま置いておけば……。
「……野生動物に食べられるかもしれないわね」
山には鹿や猪がいる。
場合によっては、ほかの動物が食料の匂いにつられてやって来るかもしれない。
せっかく運んできた食料を荒らされたら、たまったものではない。
「ツーシュさん。この付近の地図はある?」
「はい。こちらです」
ツーシュさんから地図を受け取り、私は広げた。
簡単なものだけれど、周囲の地形が分かるようになっている。
「なるほど……」
平らな土地は、今見えている場所だけではない。少し先にも、拡張できそうな場所がある。
全体としては、今の拠点の倍くらいの平地が確保できそうだった。
「そうですね。あとは、お約束の斜面です」
ツーシュさんが苦笑した。
「……北側の斜面の方が急なのね」
地図を眺めながら呟いた。
斜面の傾きによって、できることは変わってくる。急な場所に無理やり家を建てるわけにもいかない。
棚田を作るにしても、地形を詳しく調べる必要がある。
今は、すぐに結論を出せそうにない。
「さてさて……どうしたものか」
私は、地図を見つめながら考えた。
荷物を置く場所は必要。
道具を保管する場所も必要。
寝泊まりする場所も、いずれは整えたい。
そして、食料の保管場所も……。
「……うん。食糧庫が欲しいわね」
まずは、食料を安全に保管できる場所を作るべきだ。ただの小屋では、野生動物に荒らされる可能性がある。
かといって、頑丈な建物を一から建てるのも大変だ。そこで、私は北側の斜面を見た。
「……洞窟でも掘るか」
斜面を利用して、食糧庫を作る。
地盤が安定していて、安全に掘れる場所なら、地面の温度変化も受けにくい保管場所にできるかもしれない。
もちろん、どこでも掘ればいいわけではない。
崩れやすい地盤では危険だし、水が染み込んでくるような場所も困る。
まずは、掘れる場所かどうかを確認してもらう必要があるだろう。
「ツーシュさん。まずは、食糧庫を作りましょう。北側の斜面で、安全に掘れそうな場所がないか調べてください」
「食糧庫ですね。分かりました!」
「野生動物に食べ荒らされたくないですし、食料を安全に保管できる場所は必要だと思います」
「確かに、その通りですね。人を回して調査させます」
ツーシュさんは、すぐに動き始めた。
……うん。これで、まず一つ。
開拓地で暮らすための準備が進みそうだ。
棚田を作るのは、まだ先になるかもしれない。
土地の状態を調べて、住居を建てる場所を決めて、必要な設備を整える。
一つずつ進めていくしかない。
「……よし。少しずつ形になってきたわね!」
私は、開拓地を見回した。
まだ木々に囲まれた山の中。
けれど、ここから新しい集落が始まるのだ。
そう考えると、少しだけワクワクしてきた。
……ただし。
「……帰りも、あの移動方法なのよね?」
私の視線が、自然とヴァイプに向いた。
「はい! お任せください!」
「……うん。できれば、もう少し優しくお願いします」
開拓は順調。
でも、私の移動だけは、まだまだ課題が多いようだった。




