パンパ領の常識、私には分かりません!
「はぁ……」
クルークは、自分の部屋で大きく息を吐いた。
我が家の常識。いや……領内の常識?
それが、よく分からない。
夕食のとき、お父様たちに木から木へ飛び移る話をしたら、なぜか私が自分で飛び移りたいと思われてしまった。
しかも、十一歳になるまでは禁止だそうだ。
……いや、そもそも、やりたいなんて言っていないんですけど!
「……何なのよ、もう」
クルークは椅子に座り直した。
そもそも、どうしてこの領地では、木から木へ飛び移ることが当たり前になっているのだろう?山が多いから?
道が狭くて歩きにくいから?
それとも、木がたくさんあるから?
「……環境がそうさせたってこと?」
山の中で暮らしていれば、木々を利用した移動方法が発達することもあるのかもしれない。
普通の道を歩くより、木の上を移動した方が早い場所もあるだろう。
……いや、早いからといって、誰でもできるわけじゃないと思うけど!
「ある意味、進化したってことなのかしら?」
木から木へ移動するのが得意な人たち。
その環境に適応した結果、そんな移動方法が広まった……。
うん。
考えてみれば、あり得ない話ではないのかもしれない。
……いや、やっぱり、あり得るのかなぁ?
「謎!」
結局、それに尽きる。
クルークは頭を抱えた。
この領地には、私の知らない常識が多すぎる。
お祖父様とお祖母様が規格外なのは、もう分かっている。
けれど、領民まで同じようなことをしているとなると、話が変わってくる。
一部の人が特殊なだけなのか。それとも、領民の間では広く知られた技術なのか。
その辺りも、まだ分からない。
「……ん?」
クルークは、ふと考え込んだ。
待てよ?木から木へ移動するのが、この領地の常識だとしたら……。
「道を作ることって、もしかして反対されるんじゃない?」
普通に考えれば、道は便利だ。
歩きやすくなる。荷物を運びやすくなる。
年寄りや子供でも移動しやすくなる。
そして、開拓した土地と既存の集落をつなぐためにも必要だ。
でも、もし領民たちが木から木へ移動することを当たり前だと思っているなら?
わざわざ道を整備する必要がないと考える人もいるかもしれない。
「……いや、でも」
クルークは、少し考えてから首を振った。
報告に来た男性は、木から木へ飛び移るのが苦手だと言っていた。
つまり、誰もが得意というわけではない。
それに、お年寄りだっている。
十一歳以下の子供もいる。
そういう人たちにとっては、普通に歩ける道があった方が便利なはずだ。
「……流石に、道作りに反対はしないか?」
少なくとも、新しい集落を作るなら、道は必要だ。
木から木へ飛び移るのが得意な人だけを基準にしていたら、移動できる人が限られてしまう。
荷物を運ぶにも、道があった方がいい。
……うん。
やっぱり、道は作るべきだ。
問題は、どんな道を作るか。
狭い山道を少しずつ整備するのか。
木材を運べるようにするのか。
将来的には、集落同士をつなぐ道を広げるのか。考えるべきことは、まだまだある。
「……はぁ」
クルークは、もう一度ため息をついた。
どうしても、私の常識と、この領地の常識がずれている気がする。気のせいだろうか?
……いや。
気のせいじゃないよね!?
木から木へ飛び移るのが通勤方法になっている時点で、絶対におかしいもの!
「……まあ、いいわ!」
クルークは、勢いよく顔を上げた。
分からないことを考え続けても、今すぐ答えが出るわけではない。
必要なら、領民たちに話を聞けばいい。
道が必要かどうかも、実際に暮らしている人たちの意見を聞けば分かるはずだ。
クルークは、この領地を便利にしたい。
暮らしやすくして、食料を増やし、仕事を増やし、領地を豊かにする。
そのために開拓を進めているのだ。
「そんなことは気にせず! 頑張るわよ!」
クルークは、机の上に広げた開拓計画を手に取った。
まずは、新しい集落の開拓。
それから、住居と水源、棚田の計画。
そして、道の整備。
やることは山ほどある。
パンパ領の常識が何であろうと、必要なものは必要なのだ。
「ふふふ……新しい集落を、便利で暮らしやすい場所にしてみせるわ!」
クルークは、気合いを入れ直した。
……ただし。
このときの私は、まだ知らなかった。
道を作ることそのものよりも、道を歩くのが当たり前だと思っている私の方が、この領地では少数派なのかもしれないということを。
「……いや、そんなわけないわよね?」
自分に言い聞かせながら、私は次の計画を考え始めたのだった。




