違う!木から木へ飛び移りたいんじゃない!
夕食時。
クルークは、食事をしながら、ずっと気になっていたことを尋ねることにした。
「あの……お父様?」
「どうした? 開拓の件か?」
「いえいえ。そうではなくて……木から木へ飛び移って移動する件ですが……?」
すると、お父様は手を止め、真剣な顔で私を見た。
「クルーク。まだダメだぞ?」
「……はい?」
「十一歳までは我慢して、道を歩きなさい」
……ん? 何ですと?
いや、待って。どうして、そうなるの?
「いえ……そうじゃなくて……」
「いくらクルークのお願いでも、年齢に達していなければダメだ」
お父様は、いつになく厳しい口調で言った。
「まだ脚力も足りないし、受け身も十分にできない。身体がある程度できていないと、こればかりは譲れない」
……いやいやいや!
だから、私は木から木へ飛び移りたいなんて、一言も言っていないんですけど!?
「そうよ! クルーク!」
今度は、お母様まで口を挟んできた。
「まだまだ絶対にダメですからね! ヴァイプさんに運んでもらうのが恥ずかしいのは分かりますが、みんな最初はそんなものよ!」
「……え?」
ヴァイプさんに運んでもらうのが恥ずかしい?
いや、別に恥ずかしくない……いや、あの移動方法は怖いけど!
でも、そもそも私は、自分で飛び移りたいわけではないのだ。
「いや、だから……」
「そうだよ、クルーク!」
今度はブレイお兄様が、身を乗り出してきた。
「あれは慣れないと、めちゃくちゃ怖いんだ! 俺だって、まだ慣れてないんだから!」
「……お兄様も、やっているの?」
思わず聞き返してしまった。
「当たり前だろ? でも、まだまだ練習中だよ!」
……そうですか。
十一歳のお兄様も、木から木へ飛び移る訓練をしているんですね。いや、そこじゃない!
「だから、クルークは絶対にダメだからな!」
「そうよ! 私だって、まだ担いでもらっているんだし!」
今度はワイズお姉様まで参戦してきた。
「……お姉様も?」
「そうよ! 木から木へ飛び移るのは、簡単じゃないんだから!」
ワイズお姉様は、真剣な顔で頷いた。
……なるほど。
お姉様も、まだ一人では自由に移動できないらしい。だから、ヴァイプさんに運んでもらっているのか?
いや、待って。それって、普通に道を歩けばいいだけでは?
「…………」
クルークは、家族の顔を順番に見た。
お父様は、私の安全を心配している。
お母様も、私が一人で飛び移ろうとしていると思っている。
ブレイお兄様は、自分の経験から危険性を説明してくれている。
ワイズお姉様まで、同じように心配している。
……うん。
みんな、善意なのだ。善意なのは分かる。
分かるけれど!
「……いや、そうじゃなくてですね……」
私は、額に手を当てた。
私は、木から木へ飛び移りたいわけではない。
領民が当たり前のようにそんな移動方法を使っていることが気になっただけだ。
危険なら、普通に道を歩けばいいのではないか。
そう言いたかったのに……。
「クルーク。約束だぞ。十一歳になるまでは、勝手に飛び移ろうとしてはいけない」
「はい……」
「お父様の言う通りよ。危ないことはダメですからね」
「……はい」
「クルーク、焦る必要はないからな! 俺も練習しているところだし!」
「……はい」
……どうして、こうなった?
クルークは、心の中で深いため息をついた。
違う。そうじゃない。
クルークは、ただ聞きたかっただけなのだ。
この領地では、木から木へ飛び移ることが、どれほど一般的なのか。
そして、なぜそんな移動方法が当たり前になっているのか。
それを確認したかっただけなのに!
「はぁ~……そうじゃなくてですね……」
クルークは、もう一度説明しようと口を開いた。
しかし、家族はそろって私を見つめている。
その目は、幼い娘が危険なことに興味を持ってしまったのではないかと心配する、優しい目だった……うん。
もういいや。
今、何を言っても伝わらない気がする。
「……何でもありません」
クルークは、そっと食事に戻った。
「そうか? 何かあったら、いつでも相談しなさい」
「はい……」
お父様は満足そうに頷いた。
お母様も安心したように微笑み、ブレイお兄様とワイズお姉様も、ようやく食事に戻った。
……どうやら、家族は私が納得したと思っているらしい。
違うんだけどなぁ。
クルークは、心の中でもう一度呟いた。
私は、木から木へ飛び移りたいんじゃない!
……ただ、この領地の常識が心配なだけなのだ。
でも、その説明をするのは、また今度にしよう。今はただ、普通に道を歩くことが、こんなにも貴重な常識だったのかと、改めて思い知らされた夕食だった。




