まさか領民も、木から木へ!?
はっ!? しまった! もう夕方!?
クルークは、窓から差し込む夕日を見て驚いた。お祖父様の日記を読み込んでいたら、いつの間にか時間が過ぎてしまっていた。
読んでいて面白かったのは確かだ。
木を蹴り倒して家を作ったり、お祖母様が熊を仕留めたり……いや、普通ではない話ばかりだったけれど。
でも、今回の開拓に使えるかと言われると……開拓に木を蹴り倒すとか、さすがに真似しろと言われてもできない。
「……あれは、お祖父様だからできたのよね」
うん。
そういうことにしておこう。
私には私のやり方がある。
道具を使い、人手を集め、少しずつ開拓を進める。それでいいのだ。
「お嬢様!」
「はーい! どうしたの、ヴァイプさん!」
書庫で日記を片付けていると、ヴァイプさんがやって来た。
「今朝出発した開拓団から、報告があるそうです!」
「報告? 何じゃらほい?」
「開拓団の男性が、報告に来ております」
「分かったわ。通して!」
しばらくすると、一人の男性が部屋に入ってきた。
「お嬢様。本日は、予定地への道具の運び込みを行いました。あと二日ほどで終わる見込みです。その後、道具を組み立て、いよいよ木の伐採に取りかかろうと考えております」
「分かったわ!」
クルークは頷いた。
道具の運び込みが進んでいるなら、順調だろう。
抜根機とクレーンは、組み立ててから実際に使えるか確認してもらう必要がある。
それから、木の伐採だ。
「でも、そこまで細かく報告しなくてもいいわよ? 何度も往復するのも大変でしょうし」
進捗が分かるのはありがたい。
けれど、作業のたびに細かい報告をしていたら、現場の人たちの負担になってしまう。
私は、そう思って言ったのだが……。
「いえ、私は第一集落に住んでおりますので」
「……ん?」
クルークは、思わず男性を見た。
「ちょっと待って。まさか、毎日通うつもりなの?」
「はい。現地に泊まり込む者もおりますが、私は通うつもりです」
「……いやいや。でも、通うの大変じゃないの?」
「そうですかね?まあ、四十五分ほどですし」
「四十五分……?」
私は、嫌な予感を覚えながら尋ねた。
第一集落から、新しい集落の予定地まで。
山道を歩いて、四十五分という意味だろうか?
「……まさか、貴方も木から木へ!?」
「ええ。歩くより早いですから。ただ、私はあまり得意ではないんですが」
「…………」
クルークは、言葉を失った。
木から木へ飛び移るのが、まだ得意ではない?
それなのに、通勤手段として使っているの!?
しかも、歩くより早いから?
「……まさか」
私は、ふと思いついた疑問を口にした。
「領民全員、木から木へ飛び移って移動するの……?」
「全員かどうかは分かりませんが、そうする者はおりますよ。山道を歩くより早いですから」
「…………」
クルークは、天井を見上げた。そうする者はいる。つまり、この男性以外にも木から木へ飛び移る人がいるということだ……いや、そもそも誰が教えたの?
お祖父様?お祖母様?
絶対に、その二人だよね!?
「……この領地、どうなってるのよ」
思わず呟いてしまった。
開拓団は順調に動いている。
道具も運び込まれ、木の伐採も間もなく始まる。そこまではいい。
でも、通勤事情が予想外すぎる!
クルークは、改めて男性を見た。
「……無理はしないでね? 危ないと思ったら、ちゃんと道を歩いてください」
「はい。気をつけます」
男性は一礼すると、部屋を出ていった。
……うん。
本人が納得しているなら、今はいいのかもしれない。ただし新集落の開拓が進んだら、道も整備したい。
人が安全に移動できて、荷物も運びやすい道を作る。
それは、開拓を進めるうえで重要なことだ。
「……よし。やっぱり、道の整備も大事ね」
クルークは、机に戻って新しい紙を取り出した。
木を切り倒すだけでは、集落はできない。
人が暮らせる場所を作り、物を運べる道を整え、少しずつ生活の基盤を作っていく。
そして、できることなら……。
「……領民が木から木へ飛び移らなくても済むようにしたいわね」
クルークの呟きに、ヴァイプさんが首を傾げた。
「どうしてですか? 便利ですよ?」
「…………」
クルークは、そっと紙に目を落とした。
どうやら、パンパ領の開拓は、土地だけでなく領民の常識とも向き合う必要がありそうだった。




