開拓の手引きは、お祖父様の書庫に?
「うーむ……」
私は机に向かい、腕を組んでいた。
「あー言ったけど……開拓とは?」
いや、我ながら今さらである。
領民たちには、木材を確保するために、まずは目的地を切り拓いてほしいと伝えた。
そこまでは間違っていない……はずだ。
多分。
「まず、木を切り倒す。これは間違っていないな」
木が邪魔なら、切る。
もちろん、残す木と切る木を見分ける必要はあるけれど、そこは現地の人たちに判断してもらうしかない。
切り倒した木は、建築用の木材として使える。
枝や細い木も、薪などに利用できるだろう。
無駄にしないことが大切だ。
「うん。木材の確保までは、これでいいとして……」
問題は、その先だ。
新しい集落を作るのだから、住む場所が必要になる。
家を建てるためには、建築用の木材を加工しなければならない。
そして、家を建てる場所も確保しなければならない。
「住むところを建てたなら……本来なら、次は畑か?」
食料を確保できなければ、人は住み続けられない。
新しい集落を作る以上、畑を作ることも重要だ……ただし。
「平らな土地は、貴重なんだよねぇ」
パンパ領は山ばかり。
広くて平らな土地など、そう簡単には見つからない。せっかく見つけた平地を、全部畑にしてしまうわけにもいかない。
住居も必要だし、道も必要だ。
作業する場所や、木材を保管する場所だっているだろう。
「当面は、住む場所を優先した方がいいかな?」
まずは安全に暮らせる場所を作る。
そのあとで、周囲の斜面を利用して棚田を作れないか調べる。
水源から水を引けるかどうかも確認しなければならない。
うむ。考えることが多すぎる!
「……やっぱり、ある程度切り拓く作業が終わってから、現地で指揮を取った方がよさそうね」
現地に行けば、地形も見られる。
どこに家を建てられそうか。
どこなら畑にできそうか。
水路はどこを通せばいいのか。
実際に見なければ分からないことも多い。
今の段階で、机の上だけで全部決めようとするのは無理がある。
「とはいえ……」
私は、机の上に広げた地図を見つめた。
現地に行ってから、何も分かりません、では困る。
少しくらいは、開拓について知識を入れておきたい。
「今のうちに、何が必要になるか……知識だけでも入れておくか?」
そうだ。分からないことは、調べればいい。
幸い、パンパ領には古い書籍が残されている。
特に、お祖父様の書庫だ。
あそこなら、何か参考になるものが見つかるかもしれない。
「よし! お祖父様の書庫に行こう!」
私は立ち上がった。
以前、書庫で見つけた本や日記。
あれらは、領地の昔の様子を知る手掛かりになるはずだ。
この領地も、最初から今の姿だったわけではない。お祖父様が領主だった頃、さらにその前。
山の中に集落を作り、道を通し、人が暮らせる場所を増やしてきたのだろう。
ならば、開拓を始めた頃の記録が残っている可能性もある。
「確か、お祖父様の日記もあったよね」
私は、書庫で見つけた日記を思い出した。
日記なら、当時の苦労や工夫が書かれているかもしれない。
どこに道を通したのか。水をどう確保したのか。木材や石材を、どうやって運んだのか。
今の私が悩んでいることと、似た問題に直面していた可能性は高い。
「……他にも、何か参考になる書籍があるかもしれないし」
私は頷いた。まずは書庫を調べる。
必要な知識を集め、過去の経験から学ぶ。
そして、現地で実際の状況を見ながら、計画を調整する。
うん。
なかなか、まともな進め方ではないだろうか。
「よし! これなら、きっと何とかなる!」
私は意気揚々と書庫へ向かった。
……ただし。
お祖父様の書庫には、領地開拓の記録だけでなく、私がまだ読んでいない本が山ほどある。
そして、私は本を見つけると、つい夢中になってしまう性格だった。
「ふふふ……何か面白い本があるといいなぁ!」
……いやいや。
今回は遊びに行くんじゃない。
開拓の勉強だ。勉強!
私は自分に言い聞かせながら、書庫の扉を開けたのだった。




