道具も人材も、集まるのが早すぎます!
数日後。
「……随分と完成するの、早くね?」
私は、ヴァイプさんから報告を受けて、思わず呟いた。
抜根機と人力クレーン。
どちらも、図面を職人さんに渡してから、まだそれほど日が経っていない。
試作品ができるまで、もっと時間がかかると思っていたのに。
「はい! 確認しに行ったところ、お嬢様の考えは面白い! だから、ついつい職人魂に火が付いた、とのことです!」
ヴァイプさんが、職人さんから聞いた話をそのまま伝えてくれた。
「……そうですか」
面白いと思ってもらえたのは嬉しい。
嬉しいのだけれど……仕事が早すぎませんかね?
もう少し、のんびり準備するつもりだったのに。
まあ、完成したものは仕方がない。
抜根機もクレーンも、実際に使ってみなければ分からない部分はあるだろうが、これで開拓作業を進める準備が一つ整った。
「……出来てしまったなら、次は人材確保か」
私は机に向かい、紙を広げた。
道具があるだけでは、開拓はできない。
実際に土地を整える人。木を切る人。
石を運ぶ人。水路を作る人。
それぞれの作業を指揮する人も必要だ。
そして……。
「んー? 食事を作る人も必要か」
開拓作業は、体力を使う。
食事を用意する人がいなければ、作業する人たちが自分で準備しなければならなくなる。
それでは効率が悪い。
かといって、リヒトさんを連れて行くわけにもいかない。
屋敷の料理を任せているのだから、いなくなったら困る。
「その辺りの人材も募集するか」
私は、開拓に必要な人材を書き出していった。
経験者がいればありがたい。
未経験でも、体力があり、真面目に働いてくれる人なら候補になるだろう。
もちろん、最初から大勢を連れて行くわけにもいかない。
まずは現地を確認し、作業場所や水の確保、休憩場所などを整える必要がある。
「よし。こんなところかな」
私は募集の書類を書き上げた。
そして、ヴァイプさんに差し出す。
「ヴァイプさん。これを回しておいてください!」
「分かりました!」
ヴァイプさんは書類を受け取り、すぐに動き出した……さて。
これで募集をかけたわけだけれど。
もし、誰も応募してこなかったら?
その場合は、開拓の開始を遅らせるしかない。
そもそも、無理に始めても仕方がないのだ。
「……まあ、なるようになるか!」
私は、あまり深く考えないことにした。
道具はできた。あとは人が集まるのを待つだけだ。
そう。待つだけ。私はそう思っていた。
次の日。
「……お、おう?」
私は、集まった人たちを前にして固まっていた。
「こちらが、開拓作業への参加を希望された方々です!」
ヴァイプさんが、いつも通りの落ち着いた声で報告する。
目の前には、ずらりと人が並んでいた。
一人。二人。三人。
……いや、数えるのはやめよう。
どう見ても、二十人を超えている。
「……三十人近く、いる?」
「はい!」
ヴァイプさんは、元気よく頷いた。
「皆さん、新しい集落の開拓に興味を持たれたようです!」
……まさか、こんなにすぐ集まるとは。
募集したの、昨日ですよ?昨日!
「……逃げられんか」
思わず小さく呟いた。
ここで「やっぱりやめます」と言うわけにもいかない。集まってくれた人たちは、開拓に参加するつもりで来ているのだ。
ならば、こちらもきちんと準備をしなければならない。
「……よし」
私は気持ちを切り替えた。
まずは、全員を連れて現地へ向かうわけにはいかない。
先発の人たちに現地の状況を確認してもらい、必要な作業や準備を進めてもらう。
そのためには、現地で動ける人を選ぶ必要がある。
「まずは、先発として、この方に行ってもらいましょう」
私は、候補の中から一人を選んだ。
経験があり、周囲の人たちと相談しながら動けそうな人だ。
「お願いします!」
「はい。お任せください!」
その人は、しっかりと頷いた。
私は集まった人たちの前に立ち、簡単に話をすることにした。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます!」
……うう。
こういう場で話すのは、あまり得意ではない。
いや、四歳児が三十人近い大人の前で演説する状況そのものが、普通ではないと思う。
けれど、ここまで来たら仕方がない。
「これから、第一集落と第二集落の間に、新しい集落を作る計画を進めます!」
私は地図を広げた。
「この場所です!」
地図上の候補地を指し示す。
「水源があり、集落を作れるだけの土地もあります。ただし、山の斜面ですから、最初から何でもできるわけではありません」
ここは大事なところだ。
土地があるからといって、すぐに家を建てられるわけではない。水が使えるか。道が通れるか。安全に住める場所はどこか。
それらを確認しながら、少しずつ開拓していく必要がある。
「まずは現地を調べ、作業場所を整えることから始めます。無理をせず、安全を第一に進めてください!」
私の言葉に、集まった人たちが頷いた。
……よし。
とりあえず、伝えることは伝えた。
「それでは、まず先発の方に現地を確認してもらいます。詳しい作業内容は、調査の結果を見てから決めましょう!」
私は地図を畳んだ。
これで、第一段階は終了だ。
道具は完成した。人も集まった。
そして、現地を確認するための先発要員も決まった。
……あれ?
思っていたより、順調に進んでいない?
「ふふふ……これなら、案外早く新しい集落ができるかもしれないわね!」
私は、少しだけ期待した。
もっとも、このときの私は、まだ知らなかった。
開拓が進めば進むほど、次に考えなければならないことが増えていくという現実を。
そして、私の仕事もまた、どんどん増えていくということを……。
「……いや、増やしたくないんだけどなぁ」
小さく呟いた声は、誰にも聞こえなかった。




