木から木か、徒歩三時間か……
水源は見つけた。
少しながら、平らな土地もある。
そして――。
「お約束通りの斜面、と」
私は周囲を見渡した。
平地は少ない。でも、まったくないわけではない。家を建てる場所も、工夫すれば確保できそうだ。それに、周りは木だらけ。
「木材に困ることはなさそうね」
家を建てるにも、道具を作るにも、木は必要になる。その点は問題なさそうだ。
あとは、実際に何人くらい住めるのか。
畑を作れる場所はあるのか。
まだ調べることは多い。
でも、新しい集落の候補地としては、悪くないと思う。
「さて……」
私はヴァイプを振り返った。
「ヴァイプさん!」
「はい! お嬢様!」
「歩いて帰るわよ!」
「はい! 分かりました!」
……よし。
今回は絶対に歩いて帰る。行きは、ヴァイプに抱えられて木から木へと飛び移った。
あれは移動というより、命懸けのアトラクションだった。もう二度とごめんだ。
「普通に歩いて帰りましょう!」
「はい!」
ヴァイプは元気よく返事をした……本当に分かっているのかしら?
◇
「これは……」
私は山道を歩きながら、周囲を観察していた。
道は細い。曲がりくねっている。
ところどころ、辛うじて人が通れるように整備されている感じだ。
「ちょっとした登山に近いわね……」
しかも、平坦な道がほとんどない。
上り坂があれば、下り坂もある。
道幅も狭い。
「道そのものは、少しなら拡げられそうだけど……」
問題は、地形だ。
無理に拡げようとすれば、斜面を削る必要がある。
場所によっては、かなり大掛かりな工事になるだろう。
「でも、馬に荷馬車を引かせるのは無理そうね」
道幅だけでなく、傾斜も問題だ。
荷物を積んだ荷馬車が通れるような道ではない。
仮に通れる場所があったとしても、途中で行き詰まる可能性がある。
「馬に直接、荷物を積む程度が限界かな……」
私はため息をついた。
なるほど。これなら、物流費が跳ね上がるわけだ。荷物を運ぶにも、人手がいる。
馬を使うにしても、積める量には限界がある。
しかも、集落同士の距離が離れている。
「うーむ……」
何とかならないものか。
私は考える。
第一集落には、木の鎖を使った仕組みがある。
あれを集落単位でつなげられないだろうか?
「木の鎖を、もっと長く……」
集落と集落の間を結ぶ。
水車の力を使って、荷物を運ぶ。
そうすれば、人が山道を何時間もかけて運ばなくてもよくなるかもしれない。
「水の力だけで荷物を輸送できれば……」
これは大きい。
もちろん、途中に高低差があったり、木の鎖を支える場所が必要だったりする。
簡単にはいかないだろう。
でも、もし実現できれば――。
「物流費を、かなり抑えられるかもしれない!」
私は思わず拳を握った。
新しい集落を作るなら、そこに住む人たちの暮らしを考えなければならない。
家を建てる。食料を運ぶ。道具を運ぶ。
作った商品を外へ運ぶ。どれも物流が必要だ。
そして、この領地では、その物流が大きな問題になっている。
「やっぱり、木の鎖を使った輸送を考えないとね……」
私は、頭の中であれこれと考えながら歩き続けた。
◇
「はぁ……はぁ……はぁ……」
ようやく、領館に戻ってきた。
私はその場にしゃがみ込んだ。
「つ、疲れた……」
ヴァイプは平然としている。
「お疲れ様です、お嬢様!」
「……ヴァイプさん」
「はい?」
「元気ね……」
「そうですか?」
……そうですか、じゃない!
私の足は、もう限界だ。
「私の足で、約三時間……」
行きはヴァイプに運ばれて、あっという間だった。でも、歩いて帰ると三時間。
つまり――。
「往復で六時間……」
移動だけで、一日が潰れる。
これでは、気軽に現地調査へ行くこともできない。
途中で休憩を入れれば、もっと時間がかかるだろう。
「……うーむ」
私は腕を組んだ。
選択肢は二つ。
一つ。
ヴァイプに抱えられて、木から木へ飛び移る。
移動時間は短い。ただし、怖い。もの凄く怖い。
二つ。
自分の足で、山道を歩く。
安全性はこちらの方が高そうだ。
ただし、三時間。往復なら六時間。
「…………」
私はヴァイプを見る。
ヴァイプは、にこにこと笑っている。
「お嬢様、次はどこへ行きましょうか?」
「……」
次?次ですって?
「……ヴァイプさん」
「はい!」
「木から木へ飛び移るのって、怖くないの?」
「全然怖くありませんよ!」
即答だった。
「むしろ、楽しいです!」
「…………」
駄目だ。
この子には、私の気持ちは分からない。
「……はぁ」
私は深いため息をついた。
新しい集落の候補地は見つかった。
物流の問題も見えてきた。
収穫はあった。
でも――現地調査をするたびに、これでは困る。
「木から木か……」
「はい!」
「徒歩三時間か……」
「はい!」
「…………」
どちらも嫌だ。
しかし、どちらかを選ばなければならない。
究極の選択じゃないの、これ!?
私は頭を抱えた。
領地開発を進めるには、まず自分の移動手段を何とかしなければならないらしい……。




