移動手段が想像と違いすぎる!
まずは、その土地を見に行きたいけど……。
「ヴァイプさん!」
「はい! お嬢様!」
「その土地は、ここからどれくらいかかるの?」
「うーん……そうですね」
ヴァイプは少し考えてから答えた。
「私の足で、ここから三十分ちょっとだと思います」
「三十分!?」
思っていたより近い。
もっと遠い場所だと思っていたのに。
「なら、今から見に行っても余裕かな?」
「そうですね!」
「じゃあ、私をそこまで連れて行ってもらってもいい?」
「はい! 分かりました!」
ヴァイプは元気よく返事をした。
そして――首を回し、肩を回す。屈伸をする。
「…………」
「……何しているの?」
「準備運動です!」
「準備運動?」
「はい! お嬢様は私が運びますので!」
「……はい?」
運ぶ?私を?どうやって?
「えっと……普通に歩いて行くんじゃないの?」
「いえ! その方が早いので!」
「その方?」
「では、お嬢様! 行きますね!」
「ちょ、ちょっと待って!」
私が止めるよりも早く、ヴァイプが動いた。
気がつくと――私はヴァイプの右腕に抱えられていた。
「……え?」
「しっかり掴まっていてくださいね!」
「ちょ、ちょっと待って! 凄く嫌な予感がするんだけど!?」
「行きまーす!」
「いやああああああああっ!」
ヴァイプは――崖から飛び降りた。
「ぎゃあああああああああああああっ!!」
私の悲鳴が山に響き渡る。
◇
「ちょっ! 待って!」
ヴァイプは木から木へと飛び移っていた。
しかも、私を抱えたまま。
「高い! 速い! 怖い!」
目の前の景色が、もの凄い勢いで流れていく。
木の枝。葉っぱ。崖。そして、また木の枝。
「待って! 待って! 普通に道を歩いてよおおおおっ!」
「こちらの方が早いですよ!」
「そういう問題じゃないでしょおおおおっ!」
ヴァイプは軽々と木の枝を蹴り、次の木へと飛び移る。まるで猿だ。
いや、猿より凄いかもしれない。
「お祖父様あああああっ!」
私は思わず叫んだ。
お祖父様!お祖母様!
あなたたちは、この子に何を教えたの!?
「お嬢様! もう少しですよ!」
「何がもう少しなのよおおおおっ!」
景色が動く。木が迫る。また飛ぶ。
そして、また飛ぶ。
「ひいいいいいいっ!」
私は必死にヴァイプの服を掴んだ。
絶対に離さない。離したら終わりだ。
そんなことを考えているうちに――。
「はい! 着きました!」
「…………」
私は地面に降ろされた。
「…………はぁ」
「…………はぁ」
「…………はぁ」
息が切れている。いや、私の場合は息だけじゃない。心臓がバクバクしている。
足に力が入らない。
「確かに……三十分ぐらいだったけど……」
私は、ふらふらしながら周囲を見渡した。
目的地には着いた。
確かに着いた。
でも。
「移動手段がおかしいでしょおおおおっ!」
「えっ? そうですか?」
ヴァイプが首を傾げた。
「お祖父様とお祖母様から、こうするように教わりましたけど……」
「…………」
もう駄目だ。この子も完全にパンパ家の人間だ。
いや、違う。パンパ家に染められた人間だ。
「……普通は道を歩くのよ」
「そうなのですか!?」
「そうなの!」
私は力いっぱい叫んだ……もう、疲れた。
◇
「……で」
私は深呼吸して、気持ちを落ち着かせた。
「ここが、新しい集落の候補地なのね?」
「はい!」
ヴァイプが元気よく答える。
目の前には、木々に囲まれた土地が広がっていた。
「…………」
私はゆっくりと周囲を見渡す。
確かに、ある程度の広さがある。
ここなら、家を建てる場所も確保できるかもしれない。
「うーん……」
まだ詳しく調べないと分からないけど。
少なくとも、最初から無理という場所ではなさそうだ。
「まずは、土地の広さと水場を確認しないとね」
「はい! お嬢様!」
「それから、家を建てられる場所と、畑にできそうな場所も……」
私は周囲を見ながら、考えを整理していく。
新しい集落を作る。簡単な話ではない。
でも、ここに人が住めるなら、二百人の受け入れ先を増やせるかもしれない。
「よし!」
私は拳を握った。
「まずは、ちゃんと調査しましょう!」
「分かりました!」
ヴァイプが笑顔で頷く……ただし。
「帰りは、普通に道を歩くからね!」
「えっ?」
「絶対に! 普通に! 歩いて帰るからね!」
「……分かりました!」
ヴァイプは少し残念そうに頷いた。
なぜ残念そうなの!?私は、また頭を抱えた。
新しい集落の開発。その第一歩は――どうやら、私の心臓を鍛えるところから始まるらしい。




