この領地、木から木へ飛び移るの!?
うーむ。二百名か……私は机の上に置いた書類を眺めていた。
「一ヶ所の集落に全員は、厳しそうよね」
そもそも、パンパ領には複数の集落がある。
でも――。
「私は、辛うじて第一集落しか見たことがないし……」
第一集落だって、少し見て回っただけだ。
他の集落がどんな場所なのか、詳しくは知らない。
受け入れ先を考えるにしても、まずは現状を把握しないと。
「どうしました? お嬢様?」
隣にいたヴァイプが、私の顔を覗き込んだ。
「いや。私、第一集落を少ししか見たことがなくて。他の集落のこと、全く分からないのよね」
「なるほど」
ヴァイプは頷いた。
「ざっくりですが、私は第三集落で暮らしていましたし、ここに来る時に第二集落も通りましたので、説明できますよ?」
「そうだ!」
私は顔を上げる。
「まず第三集落のことを教えて!」
「はい!」
ヴァイプは元気よく答えた。
「第三集落は、この領地の麓にあります。人口は、約三百名程度です」
「三百名……」
そこに、さらに三百名近く来る可能性があるのか。
「いっぺんに三百人も来るとは思えませんが……恐らく数十名程度なら、問題ないと思います」
「なるほど」
確かに、怪我人や体力の落ちた人もいる。
全員が同じ日に移動するわけではないだろう。
少しずつ受け入れていけば、何とかなるかもしれない。
「じゃあ、第二集落は?」
「こちらは、二百二十名程度だと思います。その周りにも、何十世帯か点在しているはずです」
「そうなのね」
私は感心した。
「よく覚えてるわね」
「はい! お祖父様とお祖母様に仕込まれましたので!」
「……仕込まれた?」
何を?
いや、今はそこを気にしている場合ではない。
「それで、第一集落は?」
「こちらは百五十名程度です。こちらも周りに何十世帯か点在していると思います」
「ふむふむ……」
私は紙に数字を書き込んでいく。
第三集落、約三百名。
第二集落、約二百二十名。
第一集落、約百五十名。
これに、それぞれ周辺の世帯が加わる。
「うーむ。その人口に、さらに三百名か……」
なかなか大変だ。集落の人口が一気に増える。
食料は足りるのか。住む場所は確保できるのか。
仕事はどうするのか。考えることが多すぎる。
「そうですね……」
ヴァイプも難しい顔をしている。
「まずは、どの集落なら受け入れられるのか、確認しないとね」
「はい、お嬢様!」
よし。とりあえず、集落の情報は分かった。
次は――。
「第三集落から、ここまでの道はどんな感じ?」
「かなり細い道で、うねうねとしていると思われます」
「……思われます?」
私は首を傾げた。
「歩き心地とかは?」
「んー……どうでしょう? 悪いんじゃないでしょうか?」
「……ん?」
何かがおかしい。
「歩いた感じは?」
「どうでしょうか?」
「…………」
私はヴァイプを見つめた。
ヴァイプも、こちらを見つめ返している。
「なんか……会話が噛み合わないんだけど?」
「そうですか?」
「いや、だって、ここまで来たんでしょ?」
「はい!」
「なら、道を歩いた感じくらい分かるよね?」
「山道は歩いていませんが?」
「…………はい?」
今、何と言った?
「山道は歩いていませんが?」
いやいやいや!
二回言わなくていいから!
「……どゆこと?」
私が聞き返すと、ヴァイプは不思議そうな顔をした。
「え? お祖父様とお祖母様に言われましたが?」
「何を?」
「この領地では、山道は歩かずに木から木へ飛び移るのだと聞いております」
「…………」
私は固まった。
「……木から木へ?」
「はい!」
ヴァイプは元気よく頷いた。
「その方が早いそうです!」
「…………」
お祖父様。お祖母様。
あなたたち、何を教えているのよ!?
いや、待て。まさか――。
「ヴァイプ……」
「はい、お嬢様!」
「あなた、木から木へ飛び移れるの?」
「まだ練習中です!」
「…………」
私は天井を見上げた。まだ練習中!?
つまり、できるようになるつもりなの!?
「……普通は、山道を歩くものじゃないの?」
「えっ?」
ヴァイプが目を丸くした。
「そうなのですか!?」
「そうなのよ!」
思わず叫んでしまった。駄目だ。
この子も、すっかりパンパ家に染まっている。
いや、正確には、お祖父様とお祖母様に染められている。
「……うーむ」
私は頭を抱えた。
集落の人口は分かった。
でも、道の状態はよく分からない。
しかも、ヴァイプの常識も怪しい。
「……まずは、普通に歩いて移動する人の話を聞こう」
「はい! お嬢様!」
ヴァイプは元気よく返事をした。
……うん。
これから先、大丈夫かしら?
私は、二百名の受け入れ計画を見つめた。
領地開発は順調。新商品も増えている。
そして、専属メイドもできた。
なのに――この領地、普通の常識を知っている人が少なすぎる!
私は、深いため息をついた。




