第9話 それぞれの休日
剣術大会の翌日から二日間、学園は休みを設けている。
出場者の疲労回復のため、また観戦者の興奮が翌日にも後を引かせないようにするためである。
過去の剣術大会で運命の騎士を見つけたご令嬢は、翌日に騎士への熱烈なお誘い行動が目に余ったらしい。
とにかく『授業にならない』翌日は休みのほうが良いと講師陣は満場一致でこの案を採用。
王国が誇る王国騎士団の団長は、昨日の騎士団代表の敗退ぶりが気がかりで、朝からルークを騎士団の訓練場に呼び出していた。
騎士団長 エルマー・メンデウス
平民から一般入団し団長まで上り詰めた民の英雄的存在だ。努力家で部下思いの団長だが、恐らく王国でも指折りの負けず嫌いであろう。
朝の訓練は通常の3倍厳しかった。
副団長のダレス・デ・ぺスカードは苦笑しながら皆に謝っていた。
「騎士団全員でもあれには敵わないだろう。経験、分析力、対応力…暗部っぽい動きも独特だった。さらにただの騎士ではなく魔導騎士だ。魔法も追加されたら小隊どころじゃない、小国制圧できるのでは。」
当の本人であるルークは朝からいじけていた。
「まだリゼに褒められていない。今日俺に会いにくるかもしれない。。。たぶん。。。」
「リゼリア様の事か?ラレド公爵令嬢といわず、お前のところには沢山のご令嬢が殺到する。騎士として学園の混乱要素は排除だ。王都郊外に定期的な数件の魔獣被害が寄せられている。二日あるから、はしごして片っ端から対応していくぞ。魔法も使え」
「え?二日も寮を空けるの?せめてリゼに褒められてからがいい。」
「…」
「昨日の真面目な王国最強戦力はどこいった。素直だが、面倒だ。行くぞ」
「大会優勝にあわせて休日の治安を解決したと公爵令嬢が知れば、さらに褒められるのではないか?私と魔獣狩りを競ってもいいぞ」
「。。。行こう、リゼが喜ぶ」
団長は王国最強戦力を一瞬でやる気にさせた。さすが団長に上り詰めた方だなと副団長のダレスは感心してしまった。
◇◇◇
ラインハルトは最近機嫌が良い。そして菓子について追及し始めていた。
「父上が菓子は大事だと言われていたからな。
庶民向けの菓子にどんなものがあるか、流行や人気なものなどを知りたい。
私も自らみておきたい。一緒についてきてほしい」
若い女性騎士と男性騎士を呼び、声をかけた。
「菓子ですか。お忍びで?」
「国家運営に必要な市場調査だ。お忍びで行く。君たちも味を確認して、感想を述べてほしい。行くぞ」
「はっ」
◇◇◇
ユリウスは父のアルベルトと王城で業務を行っていた。
「父上、こちらが私の国民の健康維持に関する草案です。
内容は薬師や医者による簡単な講演を一般公開して、早期に病気の症状に気づき対応することができないか。国民の治療にかかる金銭的負担の軽減、教会頼りではなく、薬師や医師の育成や地位を保証につながります。」
「良い案だなユリウス。まずは私たちの領で実施し、講演料は領主が負担。領民の関心程度や病気の種類なども聞き込みを講演時にするか」
リゼリアやユリウスは聖王国の血が流れていることもあり、神官らが行うような回復魔法能力は高い。特にユリウスは魔力量も高いため、早くから教会での奉仕活動や次期領主として父と様々な業務に関わっていた。アルベルトも妻を亡くしてから、より一層医療領域の改善と誰もが健康でいられるようにと精をだし、国へも働きかけている。一部の教会派閥は良くは思っていないことも確かだろう。
「姉上は今、高位治療についてまとめているそうです。高位治療が必要な際に、その前段階として応急処置ができる者が地域にいることが必要だと話されていました」
「必要な資料があれば教えなさいと伝えておいてくれ」
「父上から姉上に伝えてもいいのではありませんか」
「そうだな。すぐには伝える時間がないから。今回は任せたぞ。ユリウス」
◇◇◇
「お嬢様、学園の行事である学園祭でお召しになるドレスを新調予定ですが、ご希望はありますか」
寮では一人の従者が登録制となり主人の部屋を出入りすることができる。
エレネは幼少時よりリゼリアの筆頭従者であり、学園の世話も任されている。
服装やスキンケア等自身のことについては、無頓着なリゼリアに代わってリゼリアが映えるように、快適でいられるように、全力で取り組んできた。
「いつもありがとうエレネ。お任せします。」
「学園祭は秋。秋らしく、えんじ色のもの、山吹色のものをご用意しようかと思っております。えんじ色は落ち着いた色で陶器のような美しいお嬢様の肌とも相性は良いですし、山吹色はお嬢様のふんわり可愛らしい側面を引き出すことでしょう。どちらがよいですか?」
「派手ではない方をお願いします」
「どちらも派手ではないですが、えんじ色を第一候補として制作にうつりますね。
ウエストの締め付けは無く、ふんわりとした素材で残暑にも着苦しくないようにしますよ。楽しみです」
「エレネの優しさが細部まで行きわたったドレスね。ありがとう」
「お嬢様の為ならば全力で務めさせていただきます。こちらは今日の香油です。天気も良く汗ばむ時間帯もあるでしょう。ミントとオレンジの花がブレンドされた香油です。爽やかな自然の香りですが、いかがでしょう。」
「落ち着きます。」
以前は笑うことが多かったお嬢様。
母君の死と自身の誘拐未遂事件の後から極端に減った。公爵様も声をかける姿を見なくなり、気が付いたら冷徹令嬢、無機質令嬢と呼ばれるようになっていた。
人と距離をとり、読書や仕事に精をだす姿は年頃のご令嬢とはかけ離れていた。
少しでもお嬢様のお力になりたい。
お嬢様の周りは私を含め、お嬢さまを大切に思っている。
最近バルケラ様とお知り合いになってから、少し顔の表情が硬くないように思える。殿下も以前の殿下のように親しみを感じたご対応だ。
エレネはお嬢様の魅力を最大限に伝えたい。
うちのお嬢様の美しさ、可愛さ、優しさを!
ドレス姿の素敵なお嬢様に見惚れるあの方々をぜひ見たい。
静かにやる気に満ちていた立役者のエレネだった。
◇◇◇
商家の三男の一日の始まりは非常に早い。
最近は対象人物が早朝より行動することもあり忙しさが極まっていた。
王国最強戦力くんは、朝早くに突然やってきた騎士団員に連行されていった。情報収集によると団長が王都郊外の治安の改善をルーク様に手伝わせたいとのこと。
報告では、彼はリゼリア様に褒められていないといじけていたらしい。
大会当日も、皆が自室でくつろいでいる時間なのに書庫や訓練場で鍛錬をしていた。明らかに偶然を装って誰かに会いたそうだったが、その行為が幸いしてルークを探すご令嬢との遭遇を回避していた。
殿下は昨日、自室でさっそく紅茶を魔法で温める練習を行っていた。非常に健気だ。
本日のユリウスとリゼリア様の予定はすでに把握済み。念のため、リゼリア様の自室や女子寮全体の警備巡回を多めにし、陛下の近衛兵を数人配置しているらしい。本日は陛下はゼノス様と一緒だから世界一安全とのこと。
カイルは昼食後、王都の一等地に位置する教会の近くで紅茶を飲んでいた。
ルシア・デ・カティス侯爵令嬢の母親は慈善団体を運営しており、多額の寄付金をこの教会に収めている。一般的な簡素で小さな教会とは異なり、こちらは様々な彫刻が飾られ、白く美しくそびえ建つ。
貴族の間ではこの教会で結婚式を挙げることが一種のステータスになっており、結婚式時のお布施は桁が異なり、結婚式の予約も1年以上埋まっていると噂される。
資金は十分過ぎるほど潤っている。
カティス侯爵夫人の口添えがないとこの教会での結婚式は予約できないとも言われており、夫人の周囲は大きく膨らんでいた。
カイルはルシアの取り巻きがルシアが教会に出向くという話を聞き、やんごとなきお方にお願いをした。この教会とルシア嬢の関連に更なる諜報活動が必要だと。事実昼前にルシア嬢は現れ、教会で長い時間過ごしている。すでに協力者はルシア嬢が内部でどんな話をするか、少しでも確認できる事を祈り待っていた。
若い神官が門から出て買い物に出かけた。
その神官は日用品店に出かけ、石鹸を買った。お金と共にある一枚の小さな紙を渡した。
日用品売り場の店主は、妻にお腹がすいたからカフェテリアでテイクアウトを買ってくると店番を任せた。
店主はカフェテリアに出向き注文した後、お金と小さな紙を渡した。
店員は店内の対応をすると言って、カイルのもとへ向かった。
「お客様、紅茶が少しこぼれているようですので、良かったらこちらの布をお使いください」
カイルは突然店員から声をかけられた。
テーブルの上の紅茶の横に位置する、ただの小さな一滴を見つめた。
少し前、紅茶を持ってきた店員は少し雑な置き方をしていて少しこぼれていたのだ。
「ありがとうございます。使わせていただきます」
「失礼しました」
カイルはその置かれた布の下に一枚の紙をみつけた。
「やんごとなき方の力はすごいな」
思わず口にした。
紙には
「孤立は誘導 母 血 悪 帰るべき 学園祭」
と書かれていた。
「…詳しく」
しばし固まり、自分の力量不足に反省しながら、
無性にアップルパイが食べたくなった商家の三男だった。




