第7話 男たちの浮かれた男子会
書きたくなった追加閑話です。楽しんでもらえたら嬉しいです。投稿時間を変更してすみませんでした。
夜。
男子寮の談話室に、四人が集まっていた。
ラインハルト、ルーク、カイル、ユリウス。
机の上には資料が並んでいる。
飛竜事件の報告書。
偽造通行紋。
黒い術式。
情報共有をという名目で集まったのだが、約二名の表情がおかしい。
ラインハルトは資料を読みながら時々、顔がゆるむ。
決してゆるむ内容ではない。
ルークも資料を見ている。
見ているはずなのに、何もないところで耳が赤くなる。
ユリウスは資料を一枚置いた。
「今日は解散でよろしいでしょうか」
「なぜだ」
ラインハルトが顔を上げる。
「会議ができる顔ではありません」
「できる」
ラインハルトとルークは同時に言った。
カイルは紅茶を飲みながら言う。
「では、正直に今思い出していることは何ですか。殿下から」
ラインハルトは少しだけ姿勢を正した。
「リゼリアとの昼食会が有意義であった。
心の距離があれだな、こう遠くは無くなった。
また次も近いうちに計画を立てる必要がある。」
ユリウスは天井を見た。
「もう寝たいです」
「付き合え」
ラインハルトが即答した。
「王太子命令をそういうことに使わないでください」
カイルは次にルークを見る。
「では、ルーク様」
ルークは分かりやすく赤くなった。
「星を見た。ミルクを魔法で温めて飲んだ」
「どなたと?」
「リゼと」
「夜に?」
「うん」
「なるほど。夜のお忍びデートですね」
「デートじゃない。星を見ただけだ」
ルークは真っ赤だった。
ユリウスが机に手をつく。
「夜に。姉上は時々、星空を見に行きます。護衛は助かりましたが、非常に複雑です。あなたも危険人物なので」
ラインハルトは静かにルークを見た。
「ミルクを魔法で温めたのか」
「そう。昼に、リゼが冷めた紅茶をそのまま飲もうとしていたから」
カイルは自分の紅茶のカップを差し出した。
「見てみたいです。実演できますか」
ルークはカイルからカップを受け取るとカップに手をかざした。
小さな炎が灯る。
赤みがかった、半透明の炎。
カップの底を包むように揺れている。
「これは難しいな」
ラインハルトが身を乗り出す。
「攻撃魔法より細かい制御がいる」
ルークは真剣だった。
紅茶が急に沸騰し始めた。
「あ、強い」
「実に良い訓練ですね」
カイルが言う。
「リゼリア様のことになると新しい魔法制御の訓練が生み出される。素晴らしいです。王国の未来は明るいです」
ラインハルトは袖を整えた。
「私もやる」
「リゼリアが冷めた紅茶を飲まずに済むなら、覚える価値はある」
ラインハルトの手に、金色の光が灯る。
炎ではなく、光の熱だった。
カップの周りがほのかに明るくなる。
「殿下の魔法は、温めるだけでも王族的な華がありますね」
カイルが言う。
「集中できない。茶化すな」
すぐに紅茶がボコボコと音を立てて蒸発していく。
ラインハルトは慌てて魔力を弱める。
「難しいな」
「俺もまだ上手くできない」
ルークが真剣に頷く。
「やるしかないな」
「二人とも目が本気です」
ユリウスが椅子に沈んだ。
「王子と王国最強戦力も真剣に訓練。飲み物温め魔法、正式訓練候補として、やんごとなき方に報告します」
そこでカイルが、さらに楽しそうに言った。
「やんごとなき方?父上か?」
「守秘義務です、殿下」
「では殿下。もし、リゼリア様とお忍びで出かけるなら?」
「お題が悪い」
ユリウスが顔を上げる。
「仮定です」
ラインハルトは少し考えた。
「温室もいいな。花がある。寒くない。茶も飲める。本も読める」
ルークが頷く。
「いいな、そこ」
「君は来なくていい」
「リゼが落ち着けそう」
「そこは同意する」
カイルはルークを見る。
「ルーク様なら?」
「また星を見に行きたい。温かい飲み物もリベンジできるし。リゼと星が最強の組み合わせだった。綺麗すぎた」
ラインハルトは黙った。
「……それは良いな。だが君はもう一緒に行ったのだから、次は私がリゼリアを連れていく。」
「え?」
ユリウスが思わずラインハルトの方を見た。
ラインハルトは腕を組む。
「星なら王家の海の保養地がいい。君がそこまで言う、星の下のリゼリアを私も見たい。より良い環境で」
「殿下が暴走しています。急に規模が大きくなりましたね」
カイルは笑いを堪え切れない。
「うるさいぞカイル。王家の海の保養地なら、海にも星が映る。
空も海も星だらけだ。
リゼリアはきっと喜ぶ。
」
カイルが手帳を止める。
「殿下」
「リゼリアを喜ばせるなら、良い場所を選びたい」
「お忍びとは」
ユリウスが低く言う。
「護衛が絶対必要。俺も行く。殿下も要人だし、そんなリゼを見逃せない」
ルークは真剣な顔でラインハルトを見た。
ラインハルトは少し考えた。
「しかたないな」
ラインハルトとルークが握手をしだした。
「殿下の勢いが急すぎて眩暈がします。しかも二人で結託しているし。」
ユリウスは非常に困っていた。
カイルが楽しそうに割り込む。
「仲良しになりましたね。前線仕込みの距離の詰め方でしょうか。色々早くて楽しいです。おっと。」
ユリウスは頭を抱えた。
「父上に相談しなくては。ですが当の姉上にも、まずお聞きしなくては。行かせたくないけど」
ラインハルトは真面目に答える。
「よし、私は心に余裕があるとも見せたい。皆で行こう。その方がリゼリアも喜ぶな」
ルークも頷く。
「有意義な会議だったなラインハルト。しっかり計画できた」
ユリウスが叫ぶ。
「この為に集まったわけではありませんから!会議内容がまったく違いますよ。」
カイルもユリウスに続く。
「皆様の活発なご意見のもと、国のための新たな訓練内容と、リゼリア様を喜ばせるための海の保養地視察案が計画されました。
」
「そうだ。最強の組み合わせを確認するのは公務に値する」
ラインハルトはにやりと悪い顔をした。
ユリウスは頭を抱える。
「皆さん、乱れすぎです。王族規模の計画にしないでください」
ユリウス以外は笑ってユリウスの苦悩を流す。
ラインハルトはユリウスとルークを見る。
「冗談だ、ユリウス。まだ先の予定としよう。まずは明日の剣術大会だ」
「そうだな」
「君は思いきりやるといい。」
ルークは少し驚いた。
「いいの?」
「剣では君の見せ場だ」
ラインハルトは少しだけ笑う。
「私は別の形で、リゼリアに良いところを見せる」
カイルがにやりとした。
「つまり、殿下も褒められたい」
「そうだ」
ラインハルトは堂々と言った。
ユリウスが目を閉じる。
「開き直った」
ルークも小さく言う。
「俺も、褒められたい」
「開き直るな」
ユリウスが即座に突っ込む。
カイルは満足そうに手帳を閉じた。
「本日の記録。会議は不成立。殿下は昼食会で目がゆるみ、ルーク様は星見で赤面。ミルク温め魔法は訓練として優秀。お忍び案は温室、そして王家の海の保養地へ拡大。殿下とルーク様はリゼリア様の為に結託。これはやんごとなき方が非常に喜ばれますね」
「カイル」
ラインハルトとルークの声が重なった。
カイルはにこやかに頷く。
「息ぴったりですね」
ユリウスは深いため息をついた。
「姉上の周り、どんどん面倒になっています」
結局、飛竜事件の資料はほとんど進まなかった。
代わりに、ミルク温め魔法と海の保養地案だけが、妙に真剣に検討された。
胃痛薬を探すユリウス




