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冷徹令嬢は王国最強戦力たちを乱しがち。最強魔導騎士は今日も赤面しています  作者: 荒木カルメン


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第5話 剣はまっすぐに

飛竜事件調査協力チームの発足の翌日、チームのメンバーのうち、約二名が寝不足だった。寝不足というより二人とも眠りにくかったという方が正しいか。一人は翌日の昼食会が楽しみすぎた。もう一人はその昼食会に関して良い感情を持てず、悶々としていたようで、どういうわけか早朝、同じタイミングに騎士科の訓練場に出向いていた。


キンッ。ガキンッ。ガキンッ。

激しい剣が交わる音が鳴り響く。


「ラインハルトは攻めに攻める姿勢だな。ぶれなくて真っすぐな良い剣だ」


「全力で王国最強戦力に挑まなければ、私の剣は届かないだろうよ。」


迷いのない一歩で間合いを詰め、鋭い突きを放つ。ルークは半歩だけ後ろに引き、流れるように剣を返す。ラインハルトは相手に考える隙を与えない剣であり、真正面から振り下ろし、当てに行く。王族のたしなみとしての剣ではなく、実戦を想定した鍛錬の積み重ねを感じさせるようだった。


「ルークはよく見ているな。飛竜事件の時も最小限の対処。私と昔から剣の練習をしていたかのように的確な封じ方だな。」


「剣や戦いが好きってわけじゃないからな。剣を使う理由があっただけ。」


「そうか。前線はそうなんだろうな。国のため、これまでの戦いに感謝を伝えたい。」


「国のためじゃない。目の前の人たちのためにやってきた。師匠も同じだから弟子になった。」


ラインハルトは一呼吸おいた。

「ルーク、目の前にいるリゼリアをどう思って助ける?」


ルークは迷わなかった。

「リゼのそばにいたいから」


「リゼリアは一応、私の婚約者候補の一人だ。しかし言っても候補だ。彼女を縛るものではない。だからといってルークがリゼリアの一番近い場所にいていいというわけではない。」


「私もリゼリアを守り、そばにいたいと思う一人だ。」


「リゼがラインハルトを選んだのなら、俺は二人に幸せになってほしいと。。。思いたい。。。けど」


「けど?」

「俺のそばにいてほしいとも思う。だからよくわからない。」


ラインハルトは苦笑した。

「わからないんだな。あれほど赤面して、あれほど近づいて、離れないくせに。」


「くっついてない。偶然なんだ。」

「やっかいだな」

「自覚はある。たぶん」

「まあいい。私は伝えたぞ。昼食の時は一応近くで護衛してもらうからな。カイルと話をしておいてくれ。」

「わかった」

商家の三男はこの様子を記録して、やんごとなき方への報告書を作成する準備をしていた。


◇◇◇

貴族科と騎士科は週に何科目かで合同の座学がある。将来の領主候補が自領の騎士団や護衛のスカウトが可能になるよう交流の意味合いが含まれているのだが、勇ましい騎士科の生徒は貴族科令嬢たちの中で人気も高い。最近はルークに熱視線が多く集まっていた。

「バルケラ様って素敵よね。今朝は殿下と仲良く話をされていたそうで、美男が揃ったご様子をぜひこの目で見たかったわ。」

「剣を振る姿も素敵ですが、本を読んでいる姿も絵になるわ」

遠くから眺めている令嬢も多いが、声をかける令嬢も少なくない。

「バルケラ様、よかったら昼食をご一緒していただけますか?これまでの武勇伝をお聞かせください。」

「お声をかけてくださり嬉しいのですが、本日は予定が入っております。他の方とお楽しみください。」

貴族社会は慣れないと話していたルークだが、その優雅な対応は自然だ。


昼食ってリゼたちはどこで食べるのか聞いておけば良かった。俺がリゼを迎えに行っても変だよな。今日はまだ会えてないから声をかけたいけど、昼食は遠くから見守るしかないな。


その時背後からカイルがルークに声をかけてきた。

「ルーク様、さあ現場へ昼食を持っていきましょう」

「現場?」

「護衛現場です。殿下とリゼリア様の昼食会。見守り担当にも食事は必要ですから」

カイルは当然のように紙袋を二つ差し出した。

「これは?」

「サンドイッチです。王国最強戦力くんが嫉妬で空腹を忘れると困りますので」

「嫉妬じゃない」

「では警戒ですね」

「……警戒だ」


◇◇◇

庭園の東屋には、白いクロスのかかった丸テーブルが用意されていた。


焼き野菜のキッシュ。

白身魚の香草焼き。

小さなサンドイッチ。

そして最後には、アップルパイとアールグレイ。


リゼリアは並べられた料理を見て、ほんの少しだけ微笑んだ。

「……覚えていらしたのですか」

「もちろん。君は昔、このパイだけは本を置いて食べていたからね」

ラインハルトが笑うと、リゼリアは少し恥ずかしそうに視線を落とした。

「それは……幼い頃の話です」

「今も嫌いではないだろう?」

「……好きです」


小さな声で照れていた。

けれど、その返事があまりにも素直で、ラインハルトは思わず微笑んだ。

「よかった。今日は、ちゃんと食べてほしい」

リゼリアは静かに頷き、まずキッシュに手を伸ばした。

一口食べると、表情がほんの少しやわらぐ。

「美味しいです」

「私もいただこう」


ラインハルトは紅茶を置き、少しだけ真面目な顔になる。

「リゼリア。昨日、君の母上のことを思い出した。君は昔、もっとよく笑って、よく言い返していた」

リゼリアの手が少し止まる。


「私は、君を見ていたつもりで、見えていなかったのだと思う」

「殿下……」

「だから、これからはちゃんと見る。王太子としてだけではなく、幼馴染として。君が無理をしている時は、気づけるようになりたい」

リゼリアは少し驚いたように彼を見た。


「……ありがとうございます、殿下」

「それと、もう一つ」

「はい」

「嫌なものは嫌だと言ってほしい。昔のように」

リゼリアは少し困ったように視線を揺らした。

「昔の私は、そんなに言い返していましたか」

「かなり」

「……それは、申し訳ありません」

「私は嬉しかったよ」

ラインハルトは笑う。

「君が本を読みたいと言い張るたび、私はどうすればこちらを見てくれるのか、真剣に考えていた」

リゼリアはほんの少し笑った。

「殿下も、バラを見せたいと譲りませんでした」

「そうだったな」

二人の間に、少し懐かしい空気が流れる。

リゼリアはリンゴのパイが出されると、目を輝かせた。

本当に少しだけ。

けれど、ラインハルトにはわかった。

「先にパイを食べてもいいよ」

「順番があります」

「昔は先に食べていた」

「今は公爵令嬢ですので」

「ただのリゼリアとして食べればいい」


「……では、一口だけ」

その声が少しだけ弾んでいて、ラインハルトは心から思った。

これから、もう一度見ていこう。目の前のリゼリアを。


◇◇◇

食事の終わった後ラインハルトは護衛のいる場所にリゼリアと向かった。

「ルーク、護衛お疲れ様。

正直、今日ここで距離を縮めに来られたらどうしようかと思っていたよ」

「……そんなことはしない」

「そうだね。君はしなかった」


ラインハルトは、まっすぐルークを見た。

「男だな、ルーク」

その言葉に、ルークは少しだけ目を見開く。


胸の奥は、まだもやもやしていた。

リゼリアがラインハルトと向かい合って食事をして、少し笑っていた。

自分の知らない昔の話をしていた。

苦しいほどではない。

けれど、落ち着かない。


ルークはラインハルトを見る。

「ラインハルトも、こんな、もやもやな気持ちを味わっているのか?」

ラインハルトは一瞬きょとんとしたあと、ふっと笑った。

「当然だ」

「当然?」


「今日は、ルークの番だ」


ルークは言葉に詰まった。

ラインハルトはリゼリアへ向き直る。

「また一緒に食べよう、リゼリア。今日は楽しかった。今度はリクエストを受け付けるぞ」

「はい。ありがとうございます、殿下」

リゼリアは静かに微笑んだ。


そして少し考えたあと、ルークとカイルの方を見る。

「今度は護衛と言わず、皆で食べましょう。楽しそうです」


ルークの表情がぱっと明るくなる。

「やったぁ」

あまりにも素直な声だった。


カイルが即座にノートを開く。

「結局、殿下の番を奪っていませんか?

席順は重要な議題ですね。」

ルークは固まった。

ラインハルトは笑うしかなかった。



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