第4話 父の思いと幼馴染の思い
今回は少し重めです。糖質はかなり少ないですが、お伝えしたい内容でした。
王立学園の学園長室へ向かっている男性がいた。
アルベルト・デ・ラレド公爵。
リゼリアとユリウスの父親である。
用件は学園守備の強化とリゼリアの護衛依頼だ。
飛竜事件の報告を受けた時、妻の事件が重なった。もう二度と大切なものを失いたくない。今回リゼリアが無事だったことへの安堵はあるものの、最悪の結果もあったのだと思うと気が気でない。
「適切な対応をしなくては。」
落ち着かない気持ちを胸に自然と足取りは早くなっていた。
ドアをノックすると2人の声が聞こえた。
「お待ちしておりました。ラレド様。」
「久しぶりだな、アルベルト」
一人は学園長。もう一人は国王だった。
「陛下。なぜこちらにいらっしゃるのですか。」
「息子の学校に保護者がきても良いではないか。おまえもそうだろう。」
「承知しました、陛下」
「学園長、さっそくですが、飛竜の学園侵入事件を受け、学園の防衛機能を強化すること、娘が狙われた可能性があれば護衛をつけたいと相談しに参りました。」
アルベルトは口早に話す。
「ラレド様、被害が少ないとはいえ、リゼリア様を危険に晒してしまい申し訳ありませんでした。
防衛機能に関しては全結界の機能確認、また守備員に上空も監視対象に追加させました。さらなる強化に向けて現在検討中です。」
「リゼリア嬢の護衛については私から話そう。いいかな学園長」
「お願いいたします」
「護衛は騎士科一年のルーク・デ・バルケラはどうかと考えている。
ゼノスのもとにおった、別名王国最強戦力だ。
飛竜事件時にはリゼリアを助け、飛竜を殺さずに仕留めた。周りもよく見ている。
そして国も彼を見定めたい。どんな人物なのか。
また護衛として傍に置くには、周囲の目についてしまう。
令嬢のやっかみ、息子の婚約者候補の一人だしな。
そこで此度の事件の調査協力を二人に依頼する形で自然とそばにつかせるのはどうかと学園長と話をしていた。」
「壊滅できても守れるのか。任せられるのか。様子をみましょう。
また普段はリゼリアを冷徹令嬢と呼ぶ者たちは、表面的に有能だと讃えているように見せ、けなしている。これ以上憂いを増やしたくありません。その流れは良い案だと言えます。」
「自分でリゼリアに伝えるか?」
「いや、あの事件の後も、声をかけられていません。無事でよかった。大丈夫かと言いたいが娘を直視できない。妻がいればと思ってしまう」
アルベルトは娘により厳しくしてきた。守るため、困らないため。それが必要などと信じていたが、今はわからない。
「妻は自由な人でした。難しい顔をしているとき、悲しいことがあったとき、リゼリアにも私にも、菓子を口に放り込むのです。
『甘いものは魔法のお薬よ』って。
そしてそばで笑って聞いてあげるくらいがいいのよって。
今はそばへの行き方がわからない。一緒にリゼリアを守ってほしい」
アルベルトはうつむき、涙をこらえていた。
国王は幼馴染の顔をしてアルベルトの話を黙って聞いていた。
「自分のペースで良い。無理に変わらなくとも良い。
ただ、そばに行くのはそんなに難しいことではない。
息子の恋が成就したらリゼリアは私の娘にもなる。まかせておけ。」
「殿下…娘の意思を第一に尊重してくれと言いましたよね。
あなたの義娘になる前に私が娘のこと頑張る話でしたが。
王子?もうそんなに距離が近いのですか?」
「報告によると、今一番リゼリア嬢と近いのはルークだそうだ。息子を応援せんと危ういな。」
「最強戦力とは飛竜事件で初めて会ったと聞きましたが…近いとは?」
「飛竜事件時は救助といえど抱擁が長く、次の日はリゼと呼んだそうな」
「陛下、学園長…危険では?」
「恋は危険ではないよアルベルト」
「…業務があるため、失礼しますが、要注意人物として記憶しておきます。
失礼いたします」
アルベルトは勢いよく部屋をでた。
これ以上は話を聞きたくないという雰囲気だったが業務ということにしておこうと国王は心の中でつぶやいた。
その後、国王はラインハルトを呼び、公爵との決定事項をルーク、リゼリアに伝えてほしいこと、また飛竜事件の調査協力メンバーをルークとリゼリアと共にカイル、ユリウスにも依頼したいとあった。
◇◇◇
ラインハルトは国王の話とアドバイスを受け、焼き菓子を持って談話室の方に向かっていた。
飛竜事件の調査協力。
リゼリアの安全確保。
ルーク・デ・バルケラを、自然な形で彼女のそばにつかせること。
伝えるべきことは多い。
けれど、手の中の焼き菓子を見た瞬間、ラインハルトの記憶は幼い日の庭園に戻る。
本を読みたいリゼリア、綺麗なバラを一緒に見に行きたいラインハルト。
どちらも譲らず、幼い二人は言い合っていた。そこへ焼き立てのマドレーヌを一緒に食べようとサロンに準備をしたリゼリアの母が呼びにきた。
三人の希望がバラバラなのを聞いて、母親は楽しそうに笑って提案した。
『ラインハルト殿下の行きたい場所で本を読みながらマドレーヌを食べましょう。素敵な計画になりましたね。』
『それでよいのですか』
『一つに決めなくてもいいのよ。いろんな道を選んでみて』
あの日、リゼリアは庭園の木陰で本を読み、ラインハルトはお気に入りの大きなバラを見ている。二人の間には焼き立てのマドレーヌがお皿に置いてあった。リゼリアの母は微笑みながらマドレーヌを食べていた。
「リゼリアに自分の気持ちを出してほしい。私は婚約者候補は名だけで何もしていないな。」
談話室の前で足を止める。中からユリウスの声が聞こえた。
「姉上、僕と席を変わりましょう。危険です。」
「ユリウス、ルークはお茶を飲んでいるだけですよ」
「王国最強戦力くんを危険人物と認定」
「カイル、認定しないで」
和やかな雰囲気だと外からもわかった。
ラインハルトは扉を軽く叩き一言かけた。
「失礼する」
ラインハルトが現れると皆が一斉に立とうとしたが、ラインハルトは片手で制した。
「歓談中にすまない。王家と学園からの連絡がある。
飛竜事件は、ただの事故ではない可能性がある。そこで、リゼリア、ユリウス、カイル、そしてバルケラ卿。君たちに調査協力をお願いしたい。私も加わる。」
「私たちにですか?」
リゼリアが尋ねた。
「表向きは調査協力だ。リゼリアが狙われた可能性がある以上単独行動は避けたい。」
「私の為に、皆さまにご迷惑をかけたくありません。」
「迷惑ではない」
静かに温かくルークが言った。
「私もできる限り力になりたい。宜しく頼む。」
ラインハルトは遅れてリゼリアや皆に声をかけた。
ユリウスもカイルも頷いている。
「ありがとうございます。ルーク、殿下、カイル、ユリウス」
リゼリアは何かつっかえたものがとれたかのように、お礼が口から素直にでた。
「それと、これは差し入れだリゼリア。昔、君の母上にいただいたマドレーヌを思い出してね。」
リゼリアの瞳が揺れ、少し涙ぐんだように見える。
「母を覚えていらっしゃるのですか」
「もちろん。幼い時、庭園で、本と菓子とバラ見学を全部選べばいいと教えてくれた人だ。」
「そうでしたね。殿下。」
リゼリアは瞳を潤ませながらも小さく微笑んだ。
その微笑みにラインハルトも懐かしそうに目を細めた。
「昔の君はよく笑い、そして私とよく言い合いをしたものだ。」
「小さいリゼ。。。」
ルークがマドレーヌを見ながら小さくつぶやいた。
天使のような可愛い小さなリゼリアをルークは恐らく妄想しているのだろうとユリウスとカイルは察した。
「ルーク!姉上のことを考えてますよね!!!」
「王国最強戦力くんは思考がただ漏れでおもしろい。」
「皆仲が急によくなったな。」
王子は皆が敬称を使わずにそれぞれを呼び、思ったことを口にしている姿に驚いていた。
「バルケラ卿、私も調査協力の一員だ。王太子という地位は関係なしに、皆に接しているようにしてほしい。ルークと呼ばせてもらう」
「慣れていないから助かる。ラインハルトは小さいリゼを知っているんだな。。。。ずるいな。」
「リゼって呼んでいるんだな。リゼリアは私と幼馴染だ。父もラレド公爵とラレド領で長く過ごし、友人なので、よくお互いに訪れあっていた。」
ラインハルトは少し得意げにしている。
「殿下の幼馴染攻撃がルークにはいりましたよね、今。王国最強戦力くんはずるいっていうものだから」
カイルはすかさずノートに記入しようとした。
「僕は、姉上と共に過ごしてきました。」
「ユリウスは、そちら側に行って張り合わなくていいんだよ。弟には誰もかなわないから。」
「リゼリア、明日の昼食は一緒にどうだろう。明日はデザートに君が好きだったリンゴのパイとアールグレイを出してもらうようにしよう。」
「ご一緒させていただきます。殿下」
リゼリアの返答を聞き、嬉しそうなラインハルト。そして拳を握って自分の膝を小さく叩くルークを商家の三男は見逃さなかった。
殿下参戦、やっとできました




