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冷徹令嬢は王国最強戦力たちを乱しがち。最強魔導騎士は今日も赤面しています  作者: 荒木カルメン


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第3話 書庫のあと

第2話に続く話です。

「姉上は本ではないですよね」


姉が姉の命の恩人(仮)に後ろから抱きしめられている状態なのに、当の本人たちは、「本を支えているだけ」だと主張している。なんて危険な思考だろう。


カイルはユリウスの意図を汲んでか、後に続いた。


「王国最強戦力くんは出会った初日から2日連続でリゼリア様を抱擁しております。そして出会って2日目に非常に近しい間柄の名前呼びという王国最速記録を出しました。報告案件ですね」


「抱擁って、どちらも介抱という行為ですよ、ユリウス。報告とは、どちらの方にでしょうか、カイル」


姉上は本気で介抱されているだけだと思っているらしい。

「姉上の介抱を連日してくださり、ありがとうございました。ルーク」

姉上がルークと呼ぶなら、僕が敬意をもって呼ぶのは癪だし、すでに『そいつ』と罵倒した後である。それよりも僕もカイルの報告先が気になる。


「やんごとなきお方に報告依頼をいただいております。」 


「殿下?」皆が同じことをつぶやいた。

「さてどうでしょうか。守秘義務がありますのでこれ以上はお伝えできません。」


「プリオラート様は初日から俺を見張っているけど、それも依頼先は一緒かな?あなたは諜報活動員か」


「ルーク様、私のことはカイルと呼んでいただきたい。私は清く正しい商家の三男ですので。そして先ほど私もあなたのことを王国最強戦力くんと思わず呼んでしまいましたからね。申し訳ありませんでした。実はツッコミや辛口に定評があったりするんです。」


「皆さま、ユリウス様はリゼリア様とお茶をしようとされていました。話の続きなどは談話室でというのはいかがでしょう。お茶を用意しますよ。」


「皆で行くの?」

ユリウスはルークをけん制した目で見ながら言った。


「ユリウス、せっかくの機会です。皆が良ければ行きましょう」


「俺はこの本を先に読んで、参考資料になりそうなところをピックアップしておくよ。リゼの負担を減らしたい。」


「ありがとうございます。ですが、一緒に調べていただくのであれば少しお伝えしたいことがあります。宜しければ、いらっしゃいませんか」


「いく」


◇◇◇

談話室にはいくつか部屋があり、予約制で貸し切りにできる。その為令嬢たちが頻繁にお茶会をしているので、ティーセットや軽食、スイーツなどはカフェテリアが談話室に届けてくれる。


カイルが先にカフェテリアへ行き、手配をしてくれた。談話室につく頃には、紅茶とサンドイッチ、スコーンとジャムがおかれていた。

おのおの席に着いたのだが、席に座る場所でルークとユリウスが言い合いになるも、ルークがリゼリアの隣を確保した。


「私とルークは昨日の飛竜の異常事態を調べるために書庫へ行きました。関連しているかは別として、ある噂は私に関連している為、ルークには私から伝えたいと思います。」


一呼吸置いたリゼリアが話そうとする前にルークが先に口を開いた。


「話をしてくれようとするのは嬉しい。ただ、リゼが無理をして話そうとしているのであれば、今じゃなくていい。」

少し心配そうにリゼリアを見るルークを他の3名が見つめていた。


「少し辛い過去なのです。心配してくださりありがとう。」

「7年前に私たちの母は魔獣に襲われ他界したのですが、その時私も母と一緒にいました。父が不在の時に聖王国の方が話があると来訪され、馬車で連れられてしまいました。その時でした。」


「だから、昨日飛竜が私に向かってきたという噂もあり、私も実際そのように感じました。事件の可能性もあるかもしれません。他の国が関連しているかもしれません。ただ、なぜ私が狙われるかはわかりません。」


「姉上」

うつむいて話し終わったリゼリアに、ユリウスはかける言葉も見つからず、ただ呼んだ。ユリアス自身も母を亡くした事件であるが、一緒にいた姉上の思いを考えると胸が苦しい。


「リゼ、大事な話をしてくれてありがとう。少し辛いことではない。すごく辛かっただろう。悲しかっただろう。無理はしないでほしい。」


ルークの声は静かで、温かさがあった。


「私は大丈夫です。」

「リゼは大丈夫じゃなくてもいいんだよ。泣いても、怒っても、黙っても、悲しんでもいいんだ。リゼが傷ついているのに、大丈夫ですって言っている方が困る。そばにいるから、言葉にしなくてもいい。」


「ありがとうございます。ルーク。」

潤んだ瞳は必死に涙をとどめているようにも見えるが、少し微笑んでいるリゼリアにお礼を言われ、本能的に体は隣に座るリゼリアの方へ引き寄せられ、自分の手がリゼリアの顔へ向かっている。


「それ以上姉上に近づいたら僕が困ります。ルーク。」

「え?。。。ごめん、ごめん。。。」

立ち上がり訴えかけるユリウスに対して、ルークはびっくりし我に返った。


「リゼが強いから、俺も無意識だった。」


「王国最強戦力くんは、加速して甘い行動に切り替えましたからびっくりでした。報告案件追加です。」

「悔しいですが、ルークの言葉だけは感謝します。姉上に平気なふりをしなくていいと言ってくださったことはね。」

「距離は別件ですよ。」


「ユリウス、あなたもありがとう。」

リゼリアは微笑んでユリウスの方をみた。


「ずるい、ユリウス。リゼの最大限の微笑みがユリウスに向かっていた。」

リゼリアの自然で優しい微笑みは、いつも少しだけ垣間見る微笑みではなく、本来の微笑みなのだろう。


「弟特権、家族特権ですよルーク。姉上、本来はよく笑うんです。」


「弟になりたい。だめ?ユリウスは王国最強戦力と交換しない?」


「ルーク、私の弟はユリウスですよ。」

「そうか。。。じゃあ別の特権を探そう。」

「探さないでいいですから!!!」

「リゼが笑ってくれる特権がいいな。」

「特定すぎます。」



「皆さま、家族での会話を楽しまれているところ申し訳ありませんが、こちらの資料をみてください。」

「カイル、家族でまとめないでください。」ユリウスは少し興奮気味にいった。


カイルが開いたのは『偽造紋事件記録』だった。

「昨日の飛竜の登録通行紋。ルークは黒い靄が出ていたとおっしゃいましたね」

「ああ。通行許可紋の上に、別の術式が重ねられていた」

「それと似た記述があります」

カイルは本の一頁を指で示した。


赤い目の魔獣。

黒く濁った紋。

操られた獣が特定の人物だけを狙ったという記述。


ユリウスの表情が変わる。

「これ……7年前の事件と似ている」

リゼリアの指先が、わずかに震えた。

ルークはそれに気づく。

迷いながらもルークはリゼリアの手に触れないぎりぎりの位置へ、自分の手を置いた。


「リゼ」

「大丈夫です」

「うん。でも、大丈夫じゃなくてもいい」


リゼリアはルークを見る。

その言葉は、先ほどと同じだった。


けれど、今度は少しだけ受け取り方が違った。

「……はい」


リゼリアは小さく頷いた。


「少し、怖いです」


姉上が…怖いと言った。

あの姉上が。


ルークは静かに頷く。

「怖くていい」

「はい」

「でも、一人で怖がらないで」

リゼリアの目が、また少し潤む。


ルークは今度こそ手を伸ばしかけたが、ユリウスの視線に気づいて止まった。


「……触れていい?」


「僕に聞かないでください!」

「いや、怒られるかと」

「怒りますけど!」


リゼリアは小さく瞬きをしたあと、ほんの少しだけ微笑んだ。

「手を、少しだけお借りしてもいいですか」

「……俺の?」

「はい」

リゼリアは自分から、ルークの手の上にそっと指先を重ねた。


「リゼは……本当に強い」


「またそれですか?」


「うん。強すぎる」

ユリウスは顔を覆い、カイルはノートを取り出した。


「カイル、そのノートはなんですか」

「報告書の下書きです。王国最強戦力くんが、赤面の異常事態と機能停止をおこしています。」

「ルーク、前回飛竜の異常紋に対してどのようなことをしたのか説明してください。」

「リゼの手が。。。」

「ほら」

「姉上、私の手をお使いください。なんなら両手にしときましょう。」

「ユリウスありがとう」


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