第30話 一緒に
馬車までの道のりの間、ルークとリゼリアは手をつないでいた。
寒い夜気の中、ルークの手は火照ったように温かい。
その手が、リゼリアの手を優しく包んでいる。
ルークは、リゼリアが自分の一部になったかのようにも感じて、顔まで赤くなっていた。
馬車まで、あと少し。
ルークは、隣を歩くリゼリアにそっと話しかけた。
「リゼは、合宿が始まってから、自分の意思を伝える機会が増えたね」
「そう感じますか?」
「うん。走りたい、知りたい、行きたい、食べたい。俺は、いろんなリゼを知れて嬉しいよ」
リゼリアは少し考えた。
「ガイウス殿下が、『どうしたい』と聞いてくださる機会があるからでしょうか」
「その機会を活かして、自分がしたいことを口に出せるようになっているんだと思う。ガイウス殿下はすごい」
「そうですね。自由な方です」
「俺も、リゼがしたいことや好きなことを言えるように応援したい。できれば、一緒に確認していきたい」
「ルークと一緒にできたら、楽しそうですね」
「リゼがそう言ってくれるなら、すごく嬉しいな」
ルークは、つないでいる手を少しだけ自分の方へ寄せた。
自然と肩が触れそうな距離になる。
満面の笑みで顔を覗き込まれ、リゼリアは無意識に息を止めてしまった。
胸の奥で、鼓動が高鳴る。
なぜだろう。
苦しいのに、嫌ではない。
むしろ、その温かさが愛おしい。
馬車の前に着くと、ルークは名残惜しそうに手を離した。
けれど、リゼリアの手には、まだルークの温もりが残っているような気がした。
今までも、手をつないだことはあったはずだ。
それなのに、今日は違う。
寒さのせいだろうか。
温かさが、すごく愛おしい。
少しだけ、恋しいとさえ思ってしまう。
王城に到着した。
お腹が満たされ、馬車に揺られていると、途端に眠気が襲ってくる。
リゼリアは、うとうとしているうちに、隣のユリウスに少し寄りかかってしまったようだった。
「姉上、お疲れでしょうから、今日はゆっくりお休みください」
「ありがとう、ユリウス。あなたも休んでくださいね」
「リゼリア、今日は楽しかったな。また行こう」
ガイウスが明るく言う。
「はい。また行きたいです」
「リゼ、お休みなさい」
ルークの声は、いつもより少し柔らかかった。
皆でリゼリアの部屋まで送り、彼女が部屋に入るのを見届ける。
それぞれ自室へ戻ろうとした時だった。
廊下の向こうから、ラインハルトとカイルがやってきた。
「皆で王都へ食事に行ったらしいなぁ」
ラインハルトは、心なしか肩が落ちている。
いつも通り整った顔をしているのに、明らかに元気がない。
「私たちが報告をしている間に、なんでも串焼きのお店に行ったとか」
カイルも笑っている。
しかし、目は笑っていなかった。
「あぁ。。。」
ルークは何と言えばいいか分からず、固まった。
「なんだ、ラインハルトとカイルは一緒に行けなくて寂しかったんだろう。悪かった」
ガイウスが、がははと笑いながら素直に詫びる。
「ガイウス殿下に真っ直ぐ謝られると、何も言えなくなる」
ラインハルトは少し参ったような顔をした。
「リゼリア様も、串焼きのお店で召し上がったんですか? 意外ですね」
カイルが不思議そうに尋ねる。
「うん。リゼは串のままかぶりついていた。可愛かった」
ルークが笑顔で伝えた。
「ルーク。姉上は上品に、串のまま召し上がっていましたから」
ユリウスがすかさず訂正する。
「リゼリアが食べたのか。私も見たかったな」
「殿下、かなり正直な心の声がでておりますよ」
カイルが笑顔でラインハルトに告げた。
「よし、ラインハルト、カイル。お前たちだけ寂しい思いをさせるわけにはいかない。来てくれ」
「え? どこへ行くのですか」
カイルが警戒したように尋ねる。
「俺の部屋で飲み直そう。お前たちには茶でも出すぞ」
「え?」
「思いを語り尽くしてくれていい。置いていかれて悲しかった。リゼリアと一緒にいたかったとかな」
「語り尽くすほどのものでもない」
ラインハルトは即座に否定した。
「では、もう一人から何したか聞いておいたほうがいいぞ」
ガイウスはにやりと笑う。
「もう一人?」
ルークが不思議そうに尋ねた。
「お前が一番話すべきことがあると思うぞ」
ガイウスが豪快に言う。
「リゼリアの手をつないだ男としてな」
「人が多かったから」
「ユリウスは注意しなかったのか?」
ラインハルトは気になってユリウスにきいた。
「そうだったんですね」
ユリウスが少しとぼけたように話す。
「弟くんがついに折れたんですか?ルーク、詳しくききたいですね」
カイルが楽しそうに頷いた。
「よし、そのあたりも詳しく聞こう」
「詳しく聞かなくていい」
ルークの耳が赤くなる。
ガイウスは楽しげに笑い、全員を自室へ連れていく。
こうして、なぜか急遽、男だけでの茶飲み会がその夜開催されることになった。
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