楽しい時間
満月の明るい光に照らされる中、ノアの持つ月光花は眩い光を放っていた。
その光を浴びたガイウスも、ほのかに光っているように見える。
「なんだか、体が温かくなったようだぞ。
体もすっと軽くなった気がするが……。
ノアがしてくれたのか? ありがとう」
ノアは満足したように小さな手をガイウスに向けると、
少しずつ体の輪郭がぼやけていき、そのまま消えていった。
ガイウスはしばらく、ノアのいた場所を見つめていた。
「消えたな」
「リゼ。大丈夫か?」
「リゼリア、何か気になることはあるか?」
ルークがまずリゼリアのもとに駆け寄り、心配そうに見ている。
ラインハルトも続けて声をかけてくれた。
「ありがとうございます。大丈夫です」
「俺も大丈夫だ。むしろ元気だ」
「ガイウス殿下、ご無事で何よりです」
ローザは安心したように声をかけた。
「ああ、ガイウスに何かあってはと、一瞬肝が冷えたわい」
陛下は、よかったとガイウスを見て一息ついた。
「そうだな。
ただ、怖いものや危険なものというよりも、神秘的で優しい存在のように感じたな」
ゼノスはノアを思い出し、感じたことを伝えた。
「陛下、ゼノス様。俺は無事です。
そのくらいにして、食事をしましょう。
せっかくの焼きたてを食べられるのです。
今はこちらの方が優先順位は高い」
「そうだな、ガイウス。今は食事だ」
陛下は笑いながら答えた。
「そうです。皇族も王族も、できたてを食べられる機会はそうそうないでしょう。
今日を楽しみに、朝から頑張ったのです」
「リゼもお腹すいた? 何か取ってこようか?」
「お腹がすきました。では、一緒に取りに行きましょう」
ルークは笑顔で頷き、一緒に網焼きの良い香りがする方へ向かった。
ルークは「大丈夫?」と聞く以上、深く踏み込んではこなかった。
ただそばにいてくれる。
その優しさが嬉しかった。
ガイウスの言うように、香ばしい匂いや食欲をそそる匂いが次々に漂ってくる。
今は空腹を満たすことに集中できそうだ。
走ってよかった。
リゼリアは肉や色とりどりの野菜を選び、皿に乗せていった。
「ガイウス殿下、お皿に茶色の立派な山ができておられます。
こちらのお皿のものもお召し上がりください」
ローザはピーマン、玉ねぎ、にんじん、コーンなどの焼き野菜に加え、
トマトやレタスなどの生野菜サラダも皿に盛っていた。
「疲れているローザが食べるといい」
「このコーンとトマトは殿下が食べましょう」
「それなら食べられる」
ふと奥の方を見ると、肉を山盛りにしたガイウス殿下の皿に、
ローザがトマトとコーンを添えようとしているところだった。
お兄さんでも、強くても、苦手なものがあるのだ。
そう思うと、少し親近感が湧いた。
「リゼ、このソースがかかった肉、おいしそうだよ。よかったら食べて」
「ありがとうございます」
ルークは良いものを見つけたと、嬉しそうに取り分けてくれる。
ルークの皿を覗くと、先ほど見たガイウスの皿に少し似ていた。
ただ、肉が山になっていないだけ。
まだ十分、皿に余裕はある。
「ルーク、こちらのコーンとピーマンもおいしそうですよ。どうぞ」
「……ありがとう、リゼ」
「ルークは野菜が苦手ですか?」
「いや、苦手とまではいかないよ。でも、肉には敵わないね」
「そうですか。このにんじんは、とても甘そうですよ」
「リゼがそう言うなら、食べてみたいな」
皿にはもう隙間がなかったため、リゼリアはにんじんをルークの口元へ差し出した。
「どうぞ」
フォークに刺されたにんじんが、ルークの口元の前にある。
リゼリアは笑顔で、ルークが食べるのを待っていた。
「ありがとう、リゼ……」
ルークは恥ずかしそうに焼きにんじんを口に入れると、赤い顔のまま、よく噛んでいた。
満足そうに見守るリゼリアは、
自分のしたことがルークにとってどれほど嬉しい行為だったのか、まったく気づいていない。
近い距離。
自分を見つめる笑顔。
ルークには、それが眩しかった。
「おいしかったですか?」
「うん。……できれば、もう一つ食べたいな」
にんじんというよりも、この状況が続くことを惜しんでの言葉だった。
「姉上も食べたらいかがです? おいしそうなにんじんですよね」
にこにこと、とてもよい笑顔のユリウスが近づいて声をかけてきた。
「ユリウス、お疲れ様でした。今終わったのですか?」
「はい。今日は神聖魔法でできることを確認していました。
魔力の減り方や、段階的な操作方法などを学びました。
もうお腹がすいて、切り上げてきましたよ」
「タイミングがちょうどよかったですね。
ルーク君がおいしそうなにんじんを食べさせてもらっているのが見えましたから」
カイルは飲み物を片手に、笑顔を絶やさない。
「僕のにんじん、三つあげますよ」
ユリウスとカイルも加わると、とたんにリゼリアの周りは賑やかになった。
おいしいごはんと笑う声に癒やされ、自然と力も抜けていく。
一通り食事を終えたころ、
ガイウス殿下と一緒に食べていたラインハルトが、マグカップを持ってやってきた。
「リゼリア、温かい飲み物を持ってきたぞ。冷えるといけない」
「ありがとうございます、殿下」
「ラインハルト、魔法で温めたのか?」
「ゼノス様に、ワインを温めてほしいと言われてな。
それで、ガイウス殿下が興味を持って離してくれなかった。
網の上に置いて温めてもよかったんだが、せっかくだしな」
「ルーク、お前の温め方は炎らしいな。俺のワインも頼めるか」
ガイウスは、少し大きなマグカップを持ってきた。
どのくらい時間が経ったのだろう。
食べて、話して、気がつけば月は位置を変えていた。
楽しい時間は、あっという間に過ぎていった。
最後まで読んでいただきありがとうございました!
もし興味をもってくださったら
感想・評価・ブックマーク登録などをしていただけると次回作の励みになります!




