第20話 花を飾って
突然の王城パーティは休日に開かれた。
天気も良く晴れ渡っている。
今日はダンスパーティとのことなので、エレネは朝からドレスを見繕っていた。
「お嬢様、いくつか用意しましたが、本日のドレスはどれにしましょう」
「これは私にも似合いますか、エレネ」
リゼリアが淡いオレンジ色のドレスを手にとっている。
ふんわりとしたAラインに、胸元で切り替えがありガーベラの花が切り替えに装飾されたもの。
今まで、落ち着いた色で目立たないドレスのみを着ていたリゼリア。
淡いながらも主張があり明るい色だ。
普段のリゼリアなら絶対選ばない色であることにエレネは驚いていた。
「はい、お嬢様にとってもお似合いなドレスですよ。
優しいお嬢さまが際立つ色ですね」
目立つことを恐れていた。
明るい色など似合わないと拒絶をしていた。
そんなリゼリアがよく微笑むようになり、ついには今まで選ばなかったドレスを自分で選んだ。
エレネはリゼリアの心が少しずつ開いているのを実感した。
良い出会いと経験を重ねているのでしょうね。
「お嬢様、ドレスも髪型も、支度はエレネにお任せください。今日はダンスを楽しんでいらしてくださいね」
「ありがとう。エレネ」
他の令嬢にしたらドレスを選んだなど、ささいな日常かもしれない。
けれど、お嬢様にとっては大きな一歩の出来事である。
喜びをかみしめながら、ドレスの支度を進めていった。
◇◇◇
寮から王城まではラレド家の馬車で行く予定となっていた。
ユリウスと待ち合わせて学園の門まで移動する。
ラレド家の馬車を見つけた時、外にはアルベルトの姿があった。
「リゼリア、ユリウス」
「父上、こちらにいらっしゃってくださったのですね」
ユリウスが声をかけた。
「よく無事でいてくれた。良かった」
父は二人を見ると安堵し、声を震わせていた。
馬車の中に入ると、アルベルトは俯いて話し出した。
「リゼリア、すまなかった。
母を目の前で亡くしたお前にどう向き合っていいか、
わからなかった。
辛くないように、自分を守れるようにと厳しくなり、距離をおいてしまった。
大切なお前たちが危険な目にあったと聞き、二度と後悔したくないと思った。
心配なら直接伝えよう。たまには家族で食事や出かけたりもしよう。
許してくれるなら」
アルベルトはリゼリアの方を見上げた。
覚悟した顔だった。
「お父様、私は、てっきり嫌われていると思っていました」
「娘を嫌う親がどこにいる。すまなかった」
泣き出しそうなリゼリアを見て、向かいに座っていたアルベルトは、
ぎこちなさそうにリゼリアの頭を撫でた。
アルベルトはすでに涙をこぼしていた。
妻の綺麗な銀色の髪と大きな瞳。小さなリゼリアはもうここにはいない。
寂しさと後悔を振り切り、これからの未来を父として応援していこう。
◇◇◇
「お手をどうぞ…リゼリア」
馬車が王城に着くと、ラインハルトが馬車の前で待ちかまえていた。
馬車から出てきたリゼリアは今まで見たことのない明るい色のドレスに身を包んでいた。華やかで優しい色。とても似合っており、リゼリアが美しくて、エスコートに乱れが生じてしまう。
「ありがとうございます、殿下」
「リゼリア、今日は一段と美しい。華やかで明るい色も君にぴったりだね」
「殿下、娘のエスコートをしていただき、ありがとうございます」
「ラレド公爵、一緒にいらっしゃったのか、リゼリアと」
「そうです。これからは父らしくね。娘の未来のためにも頑張りますよ」
「父上、殿下の距離にご注意を」
ユリウスがこそっとアルベルトに伝えた。
「そうだな。殿下といえ、節度ある注意をしてもらわなければなりませんからね」
話をしながら会場の庭園へ向かうのだが、ユリウスとアルベルトの視線がラインハルトとリゼリアに向かいすぎており、ラインハルトは身構えてしまった。
会場にはルークがゼノスと一緒にプレートを持ち、食事を楽しんでいた。今日の食事は立食形式であり、会場の隅には様々な食事が並んでいた。
ルークは厚切りのお肉をフォークで口に運んでいる。
「ルーク、ゼノス様」
リゼリアは自然と自分から声をかけていた。
「リゼ!」
「お嬢ちゃんと王子たちがきたか」
ルークはいつもの騎士科の服装とは異なり、礼装を着ていた。アイボリーを基調とした爽やかな姿で胸元には深い青のスカーフが添えられていた。
「リゼリア、とっても素敵だね。素敵すぎて言葉が出てこない」
赤くなりながらも、優しく笑ったルーク。
「ありがとうございます。嬉しいです」
少し照れながらリゼリアはこたえた。
「ルーク君、君がリゼリアを飛竜から守り、その後も護衛として働いてくれたことに心から感謝する。ありがとう」
アルベルトはルークの横に立ち、一礼をした。
「ラレド公爵。私はリゼ…リゼリア様を守りたくて、そばにいました」
ルークは緊張しながらも真っすぐにアルベルトを見て伝える。
「父上、姉上にとって、ルークは危険なんですよ」
「ルーク君、君がそばにいると危険だと息子がいっているのだが」
「え? 私は守る側ですから」
「こら、アルベルトも弟くんも我が弟子をいじめないでほしい。
この手は打たれ弱いぞ、きっと」
ゼノスが笑いながらラレド公爵家の男性たちを止めた。
国王が近寄り、話に入る。
「アルベルト、近くにいけてよかったな」
「陛下、はい」
リゼリアのそばに自然に立つアルベルトをみて陛下は彼が娘に歩み寄ったことを悟った。
「リゼリア、私と一曲踊ってくれないか」
ラインハルトが手を出し、軽くお辞儀をする。
演奏者はラインハルトの言葉を聞いて、ダンスの演奏に移る準備をした。
「宜しくお願いします、殿下」
「子どもの頃以来だな。君は昔、ダンスも割と好きだった」
「そうでしたっけ。私はしっかり踊れるでしょうか、自信がありません」
「リゼリア、音楽を聴き、私の動きを感じろ。サポートもするし体はきっと覚えている」
「リゼリア、しっかり踊る必要はない。楽しもう」
「殿下、ありがとうございます」
ゆっくりと和やかな曲であった。二人は手を重ね、ステップをし、笑顔で踊っていた。
「リゼリア、今日このようにまた一緒に踊れることが私は幸せに感じる」
「私も嬉しいですよ、殿下」
演奏が終わり軽く息のあがった二人。
近くでルークは拍手をしていると、ラインハルトがルークに声をかける。
「ルーク、姫様がお待ちだぞ」
「俺、踊るの慣れてない」
「リゼリアが知っている。君らしくないな。いいのか」
「いや、行く。リゼ待って」
「リゼ、俺と踊ってください」
「喜んで」
次の曲が始まる。ゆっくりで踊りやすいものであった。リゼリアは少し踊りなれたのか、ぎこちないルークをリードしていた。
「ルーク、あなたにも苦手なものがあったんですね。」
「ごめんねリゼ」
「謝らないでください。かわいいルークを見つけてちょっと嬉しいのです」
ふふふと笑う珍しいリゼリア。ルークを少しからかっているかのよう。
「?リゼ、いじめないで」
飛竜を倒したとき、あんなに素早く見事な身のこなしだった。
夜、体術を練習していた時はしなやかで芯が通っている動き。
無駄がなく綺麗な体の動きからは想像できない、ぎこちないダンスのステップ。
幾度も戦ってきたことを物語る動きに反して不器用なダンスはとてもかわいく思えた。練習したらきっと上手くなるだろう。
今だけみれる不器用ルークを覚えておきたい。
いじめてるわけじゃない。人間らしさを感じた。
「沢山一緒に踊ればいいじゃないですか、ルーク」
リゼリアは微笑んでいた。
ダンスに自信がないもの同士練習しあえばいい。
「今日のリゼ、強すぎ」
ルークは照れて足が少しもつれた。
咄嗟にリゼリアを胸に抱きしめて動きを止め、転倒を防いだ。
「ルーク?」
少しずつ赤面していくリゼリアを余所にルークだけの時間は止まっていた。
「王国最強戦力くんは、ここぞという場面を逃がしませんね」
カイルがいつの間にか参列して、アップルパイを食べながらつぶやいた。
この後閑話が続きます。ここまで読んでいただき本当に嬉しいです。物語はまだまだ続きます。お付き合いください。第二章では愛すべき新キャラも登場します、




