第19話 静かな優しさ
学園長室の横にある特別会議室、
学園長、騎士団長、ラインハルト、そしてカイル
が席に着き、今回の学園祭の騒動について話をしていた。
騎士団がルシアの従者アマリアを拘束し、
給仕の姿を装っていた三名と共に尋問をした。
学園長が手元にある資料を確認しながら説明を始めた。
「今回の事件は、教会の副司祭マシューとカティス侯爵夫人が関与し、
リゼリア様を標的にしたものでした。」
騎士団長が付け加えるように続ける。
「マシューは事件直後失踪。
もともと彼は共和国より派遣されたばかりであったそうです。
夫人はリゼリア様の孤立を誘導するよう従者などを利用し関わっていましたが、
学園祭での誘拐は知らない様子でした」
ラインハルトは俯きながら質問をした。
「何のために二人は動いた」
「夫人はルシア様が王太子婚約者ひいては王妃になれるように。
マシューからの提案でリゼリア様を孤立することが国や王家に必要なことであると。リゼリア様は本来聖王国の血を継いでいることから教会に属する運命に従っていない悪しき行いをしている。
教会に属し人々を導いてこそ、本来あるべき姿だと思っていたようです」
「ルシア嬢が婚約者になれば、夫人も新たな地位が確立される。
マシューも夫人とのつながりで教会にも融通がきくことにもなるだろう。
リゼリアは教会で新たに担ぐために利用価値もあるとふんだわけか。
ひどいな」
ラインハルトは机に拳をあてた。
カイルが騎士団長に尋ねる。
「リゼリア様を襲った連中は?」
「三名の実行犯は共和国出身で仕事として請け負った仲のようです。
リゼリア様を誘拐し、その名誉を傷つけ、王子の婚約者候補から脱落するように仕向けること。従者アマリアは、今回ルシア様が邪魔になる可能性が高いと判断し、
一緒に薬物を摂取させたとのこと」
「リゼリアが無事で本当に良かった」
ラインハルトはため息とともにつぶやいた。
学園長は沈黙をさえぎり皆を見ながら伝えた。
「春の飛竜事件との関連は、現時点ではわかりません。今回も共和国系教会の命令か、マシュー個人の判断か、もしくは聖王国関連か。判断はできかねます」
騎士団長が加えて話す。
「マシューに関しては引き続き調査継続。カティス侯爵家は爵位降格。
夫人の関連する偽善団体や教会の取り調べも行っています。
ルシア嬢については、王太子婚約者候補からの取り消しを決定しております」
「そうか」
怒りと悲しみを混ぜたような苦い顔をしたラインハルトは一言放った。
学園長がラインハルトに声をかける。
「殿下、ルシア嬢には私から話をしましょう。
後でこちらに来るように伝えています」
「すまない、頼む」
ルシア嬢は芯が強く皆が慕う立派な令嬢だ。
母親の歪んだ期待と行動が仇となったか。
立ち直れるかは本人次第だな。
学園祭のドレス披露の舞台で、ルシアと一緒にいた時のことが頭をよぎった。
あの時交わしたダンスの約束が守れないことを少し寂しく思った。
◇◇◇
夕方の授業が終わり、生徒たちはそれぞれ寮へ戻ったり、お茶を楽しもうとしている。
「リゼリア様、少しお時間良いかしら」
ルシアがリゼリアの教室まできていた。
「ルシア様、お待ちください。今そちらに伺います」
「近くの談話室を予約しているの。一緒にいきましょう」
周囲の噂好きな令嬢たちが扇子で口元を隠しながら話をはじめている。
だが、ルシアは全く気にしていなかった。
談話室には、紅茶と洋ナシの小さなタルトが用意されていた。
「長いはしないつもりよ。このタルトを食べる時間つきあってくださったら嬉しいわ」
「ありがとうございます、ルシア様」
「学園祭の事件の詳しい話と今後について学園長から話をしていただいたの。
私の母と教会の副司祭が関係していたわ。
私が婚約者になれるようにと手を引いていたみたい。
あなたに危害が及ばなくて良かった。ごめんなさい」
ルシアは頭をさげ謝罪をした。
いつも姿勢よく堂々としているルシアからは想像ができない姿だった。
「頭をお上げください。ルシア様が悪いわけではないでしょう」
「家は爵位降格、婚約者候補も取り消しの処分をくだされたわ。
私は受け入れているの。
私自身も王妃になることしか考えていなかった。
立場を目的にしていた。
これからは、私なりに国に何ができるかを考え、貢献していこうと思う」
「自分のことではなく、国に貢献しようと努力されるルシア様は素敵な方ですよ。
応援しております」
リゼリアはルシアを見つめながら話した。
「リゼリア様、叶うなら、またお茶にお誘いしてもよろしいでしょうか。
今度は食べきれないほどのお菓子を用意しますね。」
「はい、お待ちしています」
ルシアの目には大きな涙が溜まっていたが、決してこぼさないように耐えていた。
◇◇◇
ルシアとの話を終え、寮に帰るとエレネが殿下から言伝をもらっていた。
夕食を皆で一緒にとらないかとのお誘いだった。
いつもの食堂ではなく、学園の客間での夕食会だという。
リゼリアは少し緊張しながら扉を開けた。
「リゼリア、こちらに」
ラインハルトが立ち上がりエスコートしにきてくれる。
ラインハルトの横には陛下がすでに着席しており、食前酒を楽しまれている。
そこには、ルーク、カイルとユリウスがすでにいた。
いつものメンバーの顔触れに、リゼリアは少し安心する。
「リゼリア、体調は問題ないか?此度は大変だったな。
皆の働きによって、リゼリアも学園の生徒たちも無事で安心したよ」
「陛下、ありがとうございます。
体調は問題ありません。
夕食にもお招きいただき光栄です」
「堅苦しくなくて良い。
ラインハルトの父が同席しているくらいの気持ちでよい」
「今日の夕食は豪華なものではなく、生徒が食堂で食べるものをこちらに運ばせただけだ。メインはキングサーモンのレモンバター添えだぞ。スープもおいしそうだ」
国王は生徒と同じ料理を楽しそうに待ち構え、すでにスープを口にしている。
「皆も温かいうちに食事を始めよう」
ゆっくりと皆で夕食を食べる。
時間が過ぎるとこを気にせず食べるのは、いつぶりだろうか。
学園祭の準備に追われ、急いで食べることが習慣化されていたようだ。
食後の紅茶を待っている間、国王は皆に向けて声をかけた。
「二つ、皆に話しておきたいことがある。
一つは皆が学園祭の最後であるダンスパーティを楽しめていないのでな。
お前たちを王城に招いてささやかなダンスパーティを開催しようと思う。
子どもの心配をしていたラレド公爵も呼んでおるぞ」
「父上もきてくださるんですね」
嬉しそうにユリウスがリゼリアに笑顔を向ける。
「二つ目は、前にあった時に話していたリゼリアの魔法能力、
ノアについての研究を王城で行うことになった。
ゼノスはルークもラインハルトも鍛えると楽しみにしておる。
ユリウスは王国最高峰の医療チームとともに、
治療や回復における手段を広げる研究を行ってほしい。
カイルには、うちのとっておきを教えよう。」
カイルは俯き、受け取った紅茶を静かに飲み始めた。
とっておきとは何だろう。
身震いをしながらも陛下に確認をすることはできなかった。
「私もゼノス様から、指導をいただけるのか。
これはルーク、お前の最強の名が危ういかもしれんぞ」
「ラインハルト、意気込みがすごいな」
ルークはラインハルトに笑って答える。
「リゼリア、学んで知って、自分らしく過ごせるようにな」
王はリゼリアに語りかけた。
◇◇◇
「リゼ、良ければ寮まで送っていきたい、いいかな?」
「ありがとうございます、ルーク」
いつもなら、大丈夫です、問題ないです、といいそうなリゼリア。
だが、今日は受け入れてもらえて嬉しそうなルーク。
女子寮はすぐそこなので時間にして5分もない。
だけど、リゼリアと一緒にいれるのなら、ルークにとっては貴重な時間だ。
「寒くない?」
「温かいケープを羽織っているので、むしろ今の温度が心地よいくらいです」
ルークはそっとリゼの手をとり、自分の手で包むかのように握った。
「ほらっ、手は冷たくなっている。
俺の手は熱すぎてリゼの手がすごく気持ちいい」
「ルークの手ってすごく温かいですね」
少し顔を赤らめて戸惑いがみえるリゼリアだが、手をほどくようなことはなかった。ルークの体温が心地よい。
手から体中にめぐってくるような優しい温かさ。
5分が短いようで長くも感じた不思議な時間だった。
いよいよ第一章の終わりまでもうすぐです。
各キャラ達にしてもらいことなどあれば、ぜひぜひ教えてください。
閑話やスピンオフで取り扱ってみたいです。




