第12話 空と海の間で
リゼリアはラインハルトとハンモックに横たわりながら過ごし、あっという間に時間が過ぎていた。
夕食にと話があった名物の網焼きが中庭に準備され始めていた。
エレネが食事の前に湯浴みとお着換えをしてはと提案があり、一度部屋に戻った。
「楽しそうでしたね、お嬢様。お疲れは少しとれましたか?」
「はい、おかげさまで気持ちも体もゆったりできました。殿下が甘い香りがすると言われていました。お気に召したようですよエレネ」
「そうですか。オレンジとジャスミンを合わせております。緊張をほどき、少しだけ心の距離を近づける効果もありますから、殿下に届いて何よりです」
「そうなのですね。良い香りです。」
エレネは、少し距離を置いて側に仕えていた。
目の良いエレネはラインハルトがリゼリアに近づきドキドキしていたのを見逃していなかった。
軽く湯浴みをして汗を流し、再び植物由来の優しい香油を軽くつけ、髪をとかす。
リゼリアは先ほどまで白いサマードレスを着ていた。軽い生地で肌触りもよく、シンプルながらもふんわりしたラインが綺麗でとても似合っていた。
夜は淡いラベンダーカラーで少し落ち着きのある雰囲気にと用意している。
この姿は誰もが見惚れるだろう。食事をするのでハーフアップに髪を結わいた。
完璧だ、とエレネは自画自賛というよりもリゼリアの姿に賞賛を送っていた。
トン、トン、軽く扉を叩く音がした。
「リゼリア、もし準備が整っていたら一緒に食事の会場にいかないか?」
「殿下、迎えにきてくださったのですか。ありがとうございます」
扉が開いた瞬間、リゼリアのあまりの美しさにラインハルトは言葉を失っていた
☆☆☆
会場には皆がすでに集まって、冷たい飲み物を飲みながら談笑していた。
ユリウスは真っ先にリゼリアに気づき、声をかけた。
「姉上、とってもお綺麗です」
その声に反応してルークとカイルはユリウスの目線の先を追った。
「リゼリア様、本当にお綺麗ですね。そのドレスも良くお似合いです」
カイルは流暢に言葉がでていた。
「リゼ。。。すごく綺麗だ」
淡いラベンダー色で、透明感のある薄布が重ねられている。風とともにふわっとなびき、幻想的な雰囲気をまとっていた。
隣でエスコートしているラインハルトも、リゼリアの美しさに慣れず、いつもより少しぎこちなさを感じた。
ルークは、リゼリアの横にいるラインハルトに目を向けた。
胸がざわつく。
リゼリアの横に立っているのは自分ではない。
そばにいたい。リゼリアの一番近くにいたい。
どうしたらいいか自分でもよくわからない。
ただ、自分の気持ちが確かなものだとは分かった。
リゼリアが好きなんだと。
☆☆☆
夕暮れの空のグラデーションはとても美しい。沈みかける太陽の眩い光を受けながら夜の帳が降りて色が混ざりあう。
この町の名物料理である網焼き料理は従者も護衛も合わせ皆で食事をする。立食で行い、皆が皿やグラスを持って楽しく食べていた。
リゼリアの前には小さなテーブルが用意されており、エレネがサラダを持ってきてくれた。
ユリウスが続いて
「姉上!姉上の好きな白身魚もありました。特製スパイスが振ってあり良い香りがします。どうぞ」
「リゼ、今焼きあがったお肉だよ。串に刺さっていて食べやすいし、どうぞ」
「リゼリア、貝はどうだ、おいしいぞ」
「皆さま、リゼリア様は一度に全ては食べられませんよ」
「ありがとうございます」
いつの間にか、目の前のテーブルには沢山の食べ物が並んでいた。
皆の笑顔も目の前に並んでいた。
焼き場の近くには護衛が料理人に焼き加減について質問しながら串焼きを食べていた。ラインハルトの従者たちもそれぞれに好きなものを一緒に食べている。
笑い声が絶え間なく、笑顔にあふれる場所になっていた。
とても心地よく、優しく、温かい場所だった。
「どうだ、リゼリア。気に入ったか?」
ラインハルトはリゼリアの隣へ行き、尋ねた。
「殿下…、素敵ですね」
「…! リゼリア、もう一度言ってくれないか。素敵だと!」
「この笑顔あふれる風景が素敵ですね、殿下」
「…私もそう思うよ、リゼリア。君もその一員なんだよ」
ラインハルトは皆へ目線を向けて言った。
☆☆☆
楽しかった網焼きの夕食が終わり、室内で紅茶を楽しんでいた。
カイルとルークが露店通りが楽しかったから、皆で明日行こうとなった。学園の話、飛竜事件の話はせず、自然と楽しい会話が続いていた。
「そろそろ、星も綺麗に見える時間だ。外へ出てみよう」
ラインハルトが声をかける。
トクン、、、
ルークは以前見た星空とリゼリアを思い出した。星の光と月に照らされた川を背景にリゼリアが良く似合っていた。
「リゼ、楽しみだね」
「ええ、ルーク。楽しみです」
リゼリアは微笑んだ。
夕食時の賑わいとは対比的に外には静けさが一辺に広がっていた。
外に出ると暗闇の中に、星の光が降り注いでいた。空の星がとても近く感じ、星が海に映って海はキラキラと眩い。幻想的な風景だった。
皆は言葉を失った。
ルークはリゼリアを見た。
銀色の髪が星の光に反射し、天使の輪が現れているかのように見え、リゼリア自体も神秘的な雰囲気をまとっているかのようだった。
「きれいだ」
ルークから発せられたその言葉は、一人の少女に向けられた。
「最強だなルーク」
ラインハルトが隣にきてルークに声をかけた。
「今日、最強が更新した。なんと表せばいいか、わからない」
「それは同意する」
庭の縁に近づいて、海を見下ろした。波の音が耳に心地よく、海も光輝いていた。
そんな時、リゼの両手が一瞬、星の欠片が降ってきたかのように淡く光輝いた。
その後リゼの胸の前に小さな光が現れ、次第に大きくなり、手のひらくらいの大きさの少女が姿を見せた。手には光る小さな花を持っている。
「ノア!!!」
リゼリア、ラインハルト、ユリウス、そしてルークが呼んだ。
ノアは花を淡く輝かせながら、海の方に向かい進んでいく。
両手を広げ、上にかざし、祈るようなポーズをしたかと思うと、そっと花を海に落とした。
ノアはゆっくりとリゼリアの方へ戻ってくる。
直後、海に光が広がった。
海が光り輝き、イルカが何頭もジャンプし始めた。魚も勢いよく飛び跳ねている。
幻想的でとても綺麗だった。
皆はその光景に目を奪われている中、リゼリアは違った。
ノアが急に出てきた。
大規模で海が光輝き、海の生き物が飛び跳ねている特別な状態。
リゼリアはノアに止めてとも言えないし、どうしたら良いか混乱していた。怖い。そう感じていた。ノア自体に悪意はない。ただ、予測できないもの、どんな力かわからないこと、コントロールできないことへの恐怖だ。
「リゼリア!大丈夫だ。」
ラインハルトがとっさにリゼリアを抱きしめた。
「カイル、これはリゼリアに関わる現象だ。離宮の管理者に至急伝えろ。海とは反対側に煙火を上げるようにと。少し長めに派手に。頼む」
「私も光球をいくつか空に打ち込む。時間稼ぎにはなるだろう」
海の光と異変に周辺にいた者が騒ぎ出していた。
ラインハルトは海とは逆方面に勢いよく魔法を放つ。その魔法は空で光り輝き、くつもの光の球が弾け、夜空に花のような光を咲かせた。
ノアが心配そうにリゼリアを覗き込む。
「大丈夫です、ノア。心配をおかけしました。びっくりしました。」
「姉上!」
「リゼ!」
ラインハルトはそっとリゼリアを離し、近くの椅子まで誘導し彼女を座らせた。
ノアは笑顔を向けるとすっと消えていった。
「殿下、ご対応ありがとうございました」
「気にするな。皆の注意が煙火に向き、海の状態を一種の魔法だと思ってくれるだろう」
煙火が空高く上がり、大きな音を立てて空を飾っていた。
カイルも戻ってきたところだった。
リゼリアはカイルを見て言った。
「カイル、驚かせてしまいました。私にはよくわからない力があります。ノアという少女が、星や月の光で力を得て、出てくることがあります。悪さをしたことは一度もありません。浄化に近いものだと思っていました。ただ、この力はコントロールもできませんので、使わないようにと父と陛下に言われています。黙っていてすみません」
「ルークにはこの前、少しだけ話しました。」
「ルークに?」
ラインハルトがリゼリアに尋ねた。
「はい。ルークには知っていてほしいと思いました」
「リゼ、今、海は落ち着いているし、ラインハルトの対応のおかげで町も騒ぎになっていない。大丈夫?」
ルークはリゼリアの肩をそっと優しくなでた。
「はい。ありがとうございます。びっくりしました。どうしようと困りました」
「今夜はここでお部屋に戻りたいと思います。皆さんありがとうございました」
「姉上、一緒に部屋へ戻りましょう。エレネについてもらい部屋で休んでください」
「リゼ、ゆっくりしてね。明日の朝は様子を見に行くね」
「はい」
リゼリアが部屋に戻っていった後、ラインハルトはルークに声をかけた。
「リゼリアが自分からノアの事、話していたんだな。どう思う?」
「内緒だと言われていたんだ。あれは浄化ではないな。自然や生き物の根本のエネルギーが増幅したような感じだった。力の底上げのような。」
「リゼリアは動揺するも、魔力の枯渇や大きな消耗は見られていないように思う。魔法とも異なる。ラレド公爵と父上には相談するべきだろう。」
「ああ。自分の力が分からないことは、恐怖だ。ラインハルトのリゼへの対応は完璧だった。王子はさすがだな。」
「認めるのか私を。受け取っておくぞ」
「今日、ラインハルトとリゼが食事に来た時、綺麗なリゼの横にお前がいた。
俺がそばにいたいと思った。
好きなんだと自覚した。
ただ、だからといって何かを変えたくない。
今は気持ちのままに行動しようと思う。」
「聞いたぞ。
やっと言えたな。それでいい。
望むところだ」
「明日のリゼの様子しだいだが、朝は俺の番だぞ」
「今回の件を至急父上に使いを出す。朝は残念ながら邪魔する時間はなさそうだ」
2人の男はしばらく、絶景の星空と海を眺めて語り合った。




