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第95話 首都侵攻5





奴隷になるというのは、間違いなく不幸なことである。




だが、奴隷の中でも、エリュシールの奴隷となった者達は、より恐ろしい目に遭うことで有名だった。




その最たるものの象徴が、奴隷兵という名の、爆弾にされることだろう。






生きながらにして、爆ぜる運命を無理やり持たせられたのだ。


その心中たるや、想像しても胸糞悪く、察しきれない。




エリュシールは洗脳魔法を持っているが、この奴隷兵には勿体無いと、それすら使わず、行かねば死ぬだけだと、恐怖でけしかけている。





もう、希望などという言葉は、奴隷兵にはない。




彼らにとって、もはや生きるという選択肢は奪われたまま、歩くしかないのだ。



願わくば、敵がさっさと引いてくれれば、今は爆発されずにすむ。



どちらにせよ、次の戦いで、また駆り出されるのだが・・・。





そんな彼らの前に、1人の女が立ちはだかる。



その周りに、武装した兵もいる。





ミスズだ。




クリーム色の髪をなびかせて、凛と見つめる目線の先に、奴隷兵たちを見つめる。








「聞いてください。今から、あなた方を、解放します」






静かに、ミスズは宣言した。




出まかせや、騙そうとする言い方ではない。



あくまでも、ゆっくりと、聞こえるようにそう言ったのだ。




奴隷兵達は、何を言い出すのやらと、冷めた目で見ている。



絶望に慣れ過ぎた彼らにとって、この程度の言葉は、ノイズでしかない。



すぐに「え!助けてくれるの?」と飛びつけるほど、希望を見い出せる精神状態ではないのだ。




むしろ、これは罠か?



見せかけの優しい言葉で油断させているうちに、こちらを一掃するつもりかもしれない、という騙し討ちの警戒をする。




そんな奴隷兵達の気持ちが、ありありと伝わってくるからか、ミスズも気圧されそうになる。




だが、ミスズの目は死んでいなかった。





「私が!解除魔術をかけますので!どうか大人しく、じっとしていてください!」




意を決して、そう叫び、杖を構える。



だが、奴隷兵は攻撃されると思い、悲鳴をあげて固まる。




そこへ、後ろからヤジが飛んできた。






「どうせ方便だ!殺す気なんだろ!」


「助けると見せかけて騙し討ちか!やる事えげつないなぁオイ!」



敵兵だ。


馬に乗り、魔術紋のない体で、自分たちの外道を差し置いて、ミスズへ心無い言葉をかける。



そして、奴隷兵をけしかける。





「お前ら!優し言葉をかけて殺そうとしてる敵がいるぞぉ!お前らの敵だぁ!殺せ!殺せ!殺せぇえええ!」



「悪いのアイツらだ!アイツらが攻めてこなければ!お前らもこんな目に遭わなかったのになぁ!」




騒ぎ立て、奴隷兵の恨みをミスズたちに向ける。





「なっ!悪いのはそもそもこんな酷い魔術紋をかけているそっちでしょ!」




ミスズの叫びは、奴隷兵には聞こえない。




奴隷兵の叫び声が、ミスズの声を掻き消す。




そして、走り出した集団に、ミスズ達は冷や汗を吹き出す。





接触すれば、死は免れない。



敵兵の慣れた扇動にやられた。


幹部も撤退を命じるが、もう遅かった。







ーーー急に、地面がえぐれる。





奴隷兵たちは、蟻地獄のように、その穴に吸い込まれるようにして、捕まる。



ミハエルによる、精霊魔法だ。

大地を緩やかに陥没させる。



ミスズ達が目を白黒させている間に、ミハエルが2人いた兵士の1人を弓で頭を撃ち抜いた。


あっけなく、天に召される。

いや、地獄に叩き込まれるの間違いか。




そして、もう1人はレジスタンスが取り囲み、馬から引きずりおろし、武器を取り上げる。




「なっ!なにを!このぉ!」





ミハエルが冷たい目で、その敵兵を見た。





「汚いツラだな。命を何とも思っていない、クソのツラだ」




「へ、へへへ、お、オレは、ただの兵士で、め、命令されたから・・・わ!悪いのは教皇だ!命令に叛いたら、こ!殺されちまうよ!」



ミハエルの怒気に呑まれ、敵兵は情けない言い訳を繰り出す。




「な!なぁ!ほ、捕虜にしてくれ!降参だ!投降するからよぉ!」




ミハエルは剣を抜き、敵兵の眉間に剣先を向ける。



「やっ!やめろぉ!この!クソ奴隷エルフが!テメェらなんか上等な性奴隷だろうが!オレは人間だぞ!分かってんのかぁぁ!!」





ミハエルが見たこともない、怒りに満ちた顔をする。



目は血走り、顔はこわばる。



美しいエルフの顔は、全くそこには無かった。



レジスタンス達でさえ、ビビり狼狽える。





ミハエルは、剣をしまう。



敵兵士は、安心したのか息を漏らし、体から力を抜いた。




その瞬間を逃さず、ミハエルは全力で敵兵士の股間を蹴る。


鉄製の靴を履いていたミハエルの、全力の蹴りを、リラックスして敵兵は無防備な金的で受け止めたのだ。




絶叫する。




一際大きな絶叫だ。




一部始終を見ていた奴隷兵も、つい見いる。




あれだけ自分たちを良いように扱ってきた、恐怖の対象である敵兵が、1人はあっさり倒され、もう1人は金的を潰されている。




ミハエルの怒りは収まらないのか、もう体に力が入らない敵兵の胸ぐらを掴むと、全力で奴隷兵の穴の中に突き落とす。



情けない声をあげて、敵兵は転げ落ちながら、ボロボロになって奴隷兵の元に落ちる。






奴隷兵達は、ぽかんと見ていた。


レジスタンス達も、理解が追いつかずミハエルを見ていた。





ミハエルは穴に覗き込んで言う。





「どうせ、奴隷兵に万が一触られても良いように、お前らは奴隷兵を触れるし、触られても爆発しないんだろ?」




敵兵士は返事ができない。


だが、奴隷兵達もそれは知っていた。


逃げようとした仲間の奴隷兵を、掴んで捕まえているのを何度も見た。


この兵士どもを触って爆破するなら、むしろコイツらに何としてでもしがみつく。





「武器はない。動きもしない。なぁ!クソ野郎・・・お前、因果応報って知ってるか?」




ミハエルは冷徹に見下して、言った。









「お前がやったことの罪、報いを受けろ。そこにいる奴隷兵達に、お前が何をしていたか、教えてもらいな」






敵兵士は、ミハエルの意図が分かり、痛みに悶えながら、恐怖も覚える。




「やっ!やめっ!たすけ!助けてっ!助けてぇえええ!!!」




だが、もう遅い。



というより、ミハエルの言うとおり、因果応報である。





ゴルドが積み上げ、やってきた事は、ゴルドを助けている。




ミハエルはそんな場面を、何度も見ている。





そして、穴の中で繰り広げられている報復は、その逆だ。





敵兵士は、己のしてきた事を、今まさに返されている。




魔法でぐちゃぐちゃになるのではなく、人力で破壊されているという違いはあるものの、その末路は、散々煽って爆破させてきた奴隷兵と、同じものだった。





ミスズ達がその光景に呆然としている中、ミハエルが大声を張り上げる。






「聞け!囚われた者たちよ!」




奴隷兵達が、ミハエルの方を向く。




「お前達を縛っていた兵はご覧の通りだ!我々は!その兵どもより!強い!!」




その言葉は、分かりやすく強かった。




奴隷たちにとって、逆らえない存在を、文字通り雑魚のように葬った。



その光景を目にした奴隷兵達は、ミハエルの言葉に、耳を傾けている。





「私が!本気を出せば!お前らだって無事では済まない!だがどうだ!私はお前らを無傷で捕らえている!!」





ミハエルの堂々とした言葉に、その動作に、もう奴隷兵達は魅入られたかのように、食い入るように見つめていた。




初めて、爆破するという恐怖以外の感情が、奴隷兵達に流れている。





「我々は!お前らに危害を加えない!我々の目的はただ一つ!!」






ミハエルは拳を天に向けて振り上げる。







「我が主人!ゴルド・アイハンドの名の元に!諸悪の根源である!エリュシール国を打倒する事である!!」






奴隷兵達が、一拍の静寂ののち、割れんばかりの歓声と雄叫びを上げる。



魂の叫びである。




生きる事を奪われた者たちの、地獄からの怒声である。






「生きたいものは!我らの解除魔術を受けよ!生きて!エリュシールへの叛逆の狼煙となれ!!」






ミハエルは、精霊魔法で声を大きくして、奴隷兵達の爆音を超えて宣言する。





「ーーー囚われた者たちよ!その檻を壊し!エリュシールの呪縛を消し飛ばすのだ!!」








ミスズは、固まって動けない。



そこへ、ミハエルが平然に歩いてきて、ミスズの肩をポンと叩く。









「これくらい煽らないと、話は聞いてくれんぞ?」





まるで、なんて事のない作業のように言う。



レジスタンスの幹部は、冷や汗を流す。




アイハンド家の家臣の中で、最も優れた人物は、ヴォルクであると思い込んでいた。


それ以外の人物は、凡夫、もしくは優秀程度にしか思っていなかった。




とんだ勘違いである。





涼しい顔して、周囲を索敵する指示を出すミハエルの背を見て、幹部は考えを改めた。








(でも、領主様の名前出して良かったのかな?)



(アイハンド卿のお名前、出して大丈夫か?)




(((ゴルド様って、すげーんだな)))






レジスタンス達の気持ちは、一つになっていた。





ゴルド「え?オレ関係なくない??」

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