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第92話 首都侵攻2





「なぁ、見張りサボってていいのか?」




エリュシール国の、外壁警備を行う番兵が、寝転びながら、ベテラン兵に聞く。



「あん?気になるならお前見張れよ」



「オレはもうさっき見てたよ。交代なのにサボってるのはそっちだろ」


「なーにが交代だよ。本当は2人1組でずっと見張るのが正しいんだろ」


ベテラン兵はバカにするように笑う。



若い番兵は、心配そうな顔をしながら、でも見張る気にもなれなかった。




「貴族派、来たりするのかな?」


「来るわけねーだろ。お前バカだなぁ」


ベテラン兵は鼻で笑って、若い兵を見る。



「貴族派は、自分の領地守るので精一杯なんだよ。しかもトップのギリス侯爵がいりゃあ話は別だが、そいつが居ないんだ。誰も頭にならねぇから、貴族派はバラバラになって動いてる。いい鴨だよ」



へっへっへ、とベテラン兵は笑う。


「貴族派が大量に潰されるから、奴隷市に貴族令嬢が流れるな。そして、娼館に買われる。楽しみだなぁ~」


ベテラン兵は興奮しながら、寝返りをして、ニヤニヤしている。




「そんな、単純な話かなぁ・・・」



若い番兵は、どこか不安を抱きながらも、だが、流されてきた手前、自ら考えることをしない。




「どうにかなるといいな・・・」



そんな事を、願うように思いながら、若い番兵は空を見る。




「あー、空はいいなあ・・・ん?」




綺麗な青空を見ていると、黒い小さなゴミが見える。



何だろう?、と若い番兵がぼーっと見ていたら、小さい点が、弧を描いていた。



次の瞬間、それがゴミではないことに気付かされる。




矢であった。




だが、気付いたのが先か後か、隣のニヤニヤして目を閉じていたベテラン兵の脳天に突き刺さる。



若い番兵は、何が起きたのか、すぐに理解できなかった。



しばらく呆けて、起き上がる事すらしない。



何をすべきか、特に考えていなかったので、どうすればいいのか分からないのだ。



その内、大勢の兵の声が聞こえる。



若い番兵は、ようやく塀の上から、恐る恐る顔を覗かせた。






「いけぇぇええええ!!!!」





ビィンセントが檄を飛ばす。



レジスタンス達が怒りを、憎しみを、苦しみを、全てぶちまけるように、火矢と油を矢につけて、矢を飛ばす。




若い番兵は、その様を見て、走り出して逃げた。



報告も何もしない。



ただこの場から逃げることしか考えていなかった。




初めて、自分の意思を優先したのだった。





その間にも、見張り兵による報告が無いので、警備の初動が遅れる。



火矢と油が合わさり、火の手がどんどん広がる。





「・・・罠か?全然敵が出てこねぇぞ?」




ビィンセントがさすがに疑う。



あまりにも静かで不気味なのである。




「攻めるフリですが、相手が気付いてくれて無いのは、困りますな」



レジスタンスの兵士が本気で困り顔になる。



「あー、くそ。これがヒロとかノイルなら、ド派手に壁を攻撃できるんだがなぁ」



ビィンセントは面倒だと言わんばかりに、頭をかく。




「仕方ねぇ、壁登るか」



ビィンセントが鉤爪のついたロープをレジスタンスから借りて、さっさと壁を登る。




ここでも、攻撃があると思ったが、全く無い。




「なんだ?舐めすぎじゃねぇか?」



ビィンセントが壁を登り切り、兵士の通る道に足をつけると、下に死体があった。



ベテラン兵士の死体だ。




「あー・・・おどしの矢で見張り死んだのか?運の悪いやつだ」




だから迎撃の兵もなく、入れているのか、と勝手に勘違いするビィンセント。



敵兵の持っていた梯子を、壁に下ろして、レジスタンス達を迎える。




「まだちょっと敵さん、気付いてないっぽいから、もっと派手にいくぞ」




煙が上がっている周囲を無視して、ビィンセント達はさらに奥へ入っていくことにした。











「だああああっっっしゃぁぁああああ!!!!!」




ノイルが叫び、壁をなぎ倒す。





「あーあー、もう何でもありだよぉ~」




キャロットがため息をついて、ルノアと一緒に見守る。


レジスタンス達は引いている。




「フリなんだから派手にいかねぇとなぁ!」


「フリ・・・なのか?壁壊れているけど」


「フリって、なんだっけ?」




レジスタンス達の素朴な疑問は、ノイルの前では無意味だった。




ノイル達は3人もアイハンド戦力を付けている。


これには当然理由がある。



決して、ノイルがルノアとは離れられないシスコンだからだけでは無いのだ。




ノイル達の方面は、兵宿舎がある。



要するに最も兵士が集まる場所である。



さらには、守備についている転生者がいるはずだ。




だから、ノイル達は3人いる。




「オラァァアアアア!!!出てこいやぁ!つえぇやつーー!!!」




ノイルが手当たり次第に破壊しまくる。




「はい、私たちは計画通り、火付と流言ね。貴族派が来たぞ~って言いふらしてください」




キャロットが冷静にレジスタンスと協同する。



ルノアはノイルが無理しないように見守っていた。







「派手にしてくれてますねぇ」





そこに、ルノアの背後に何者かが現れる。



ナイフを手に持ち、ルノアの首に当てている。





「る!ルノア!?」



「え?ヤバっ!気づけなかった!?」




キャロットが驚く。



自分の耳で聞こえない敵が現れるとは。

気配に全く気付けなかったのだ。



ノイルを脅している男は、メガネをかけた細身の男だった。



「攻撃をやめていただけますか?この女性の命が惜しければね」




ひひひ、とうすら笑いを浮かべる男は、暗殺を生業にしている転生者だ。


転生の際に、さらに異能が備わり、完全なる気配の排除と、姿を見えなくする能力を手に入れていた。




「さぁ、おとなしく投降していただけますか?」



「やめて!お兄ちゃん!いいからここは!」



ルノアが動こうとすると、暗殺者がその腕を握る。



「動かないでもらいますよ」



暗殺者がそう言うと、ルノアはニヤリと笑う。




「な、何を笑って・・」



次の瞬間、バシャッと、暗殺者はその姿を変えた。



服だけがヒラリとその場に落ちていった。




「・・・え?何が起きたでやんす?」



レジスタンスの兵が目をパチクリさせる。



「あー、彼女の能力でね。相手をどっかへ飛ばしちゃうんだ」



「ほへ~!服は送れないんでやんすね」



レジスタンス達はワハハと笑うが、キャロットは言えなかった。




服に隠れて見えないが、暗殺者は胎児よりもさらに前の状態にされている。



そんな状態で外に放り出されているのだ、絶命するより他ない。



時戻しの能力は、本当に凶悪だ。

触りさえすれば、相手からでも接触とみなされる。



「ルノア!大丈夫かっ!!」



大丈夫に決まっている。



「もー、お兄ちゃん心配しすぎ。ほら、お仕事するよ」



たくましい妹さんだな、と、レジスタンス達は思う。




キャロットは、多分ノイルより、その子の方が強いよ、とは思ったが、性格はルノアの方が良いので、あえて何も言わない。




「さぁ、やる事やるよ!そしてみんなで生きて帰るからね!」




キャロットがそう呼びかけて、各自が忙しなく動いていた。







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