第90話 好機の訪れ
ゴルド「え?貴族派が教皇派に反乱・・・なんで??」
レジスタンスとの会合が、急遽アイハンド領で行われた。
理由は明白で、エリュシール国内の貴族派がこぞって反旗を翻したからだ。
まだ、他国へ侵攻中の主要部隊が帰ってきてすらいない中での、まさにエリュシールにとっては寝耳に水の出来事、いや、青天の霹靂とも言おうか。
ナギは、ジト目でゴルドを見ている。
ゴルドは冷や汗をかき垂らしながら、謝罪会見のように、針のむしろの様な視線を受ける。
「えっと、なんと言いますか・・・予報外の出来事が起きちゃいましたね・・・」
「此度の件、アイハンド卿とは関係なく、貴族派が勝手に離反したのですか?」
ナギの鋭い指摘に、ゴルドは目線を下にずらしながら、そっすね~、と答えを渋る。
「貴族派のトップ、ギリス侯爵が教皇によって暗殺されました」
「へ、へ~~・・・そうなんだぁ」
ゴルドはわざとらしく答えるが、知ってる。
ただ、なぜ殺っちゃったのは自分達のはずなのに、そう誤解されている理由は知らない。
本気で分からないので、ゴルドも答えようがない。
「教皇派も馬鹿ではありません。わざわざ前線から転生者を呼び戻し、我らレジスタンスと戦うと決めた癖に、一応は仲間である貴族派と戦うことを選ぶなど、愚の骨頂」
「うん、それは間違いない。ヤバいよね」
ナギの解説に、ゴルドは真剣に頷く。
ナギは、ゴルドが黒幕で、今回の件、後ろで糸を引いていたと推察しているが、全くゴルドからそういった雰囲気が微塵も感じられないため、違うかもしれないと自信をなくす。
他のレジスタンスリーダー達は、そもそもゴルドを疑っていなかった。
まぁ、会合開いた時から、焦りと、なんでこうなった?と本気で驚く様子を見せているのだ。
まぁ、アイハンド卿も驚くよね、ぐらいにしか思っていない。
正直、自分たちにとって都合が良すぎる故に、ナギは深読みしているに過ぎない。
ナギはふぅ、と息を吐いて、頭を下げた。
「アイハンド卿。疑う様な真似をしてしまい、申し訳ありません。私の考えすぎでした」
「え?あ、そんな、まぁ、気にスンナッテ」
最後の方、ゴルドは固くなってぎこちない答えをする。
ナギの追求をかわせて、ゴルドの左右に座るヴォルクと美月は、しれっとした顔をしながらも、心の中でセーフと安堵する。
結果だけ見れば、追い風になったから良かったものの、本来はレジスタンスの彼らに話を通しておくべきだった。
いや、まぁ、あんなとんとん拍子で話が進むとも思わなかったし、そもそもなぜ教皇派の暗殺にすり替わっているのか、謎ではあるが、そこはどうでもいい。
「攻める絶好のチャンスだと思います!」
ナギ以外の、女性当主のレジスタンスが言う。
それは間違いない。
好機以外の何ものでもないだろう。
貴族派が別に仲間になったわけではないが、敵同士潰し合っている中で、漁夫の利を狙うのは、定石である。
「いや、慌てるのは下策です」
そこで待ったをかけるのは、ヴォルクだ。
「現在、貴族派は、教皇派の領土へ侵攻し、小競り合いをしているのみ。対局を決するものにはなりません」
ヴォルクの声はよく通り、レジスタンスリーダー達は聞き入る。
「その証拠に、誰も教皇のいる首都に攻めておりませぬ」
その情報は、レジスタンス達にもしっかり伝わっていた。
教皇のいる首都は襲わず、自分の周囲の教皇派に奇襲を仕掛けてなぶっているに過ぎない。
「では・・・相手の疲弊を待ちますか?」
幼い少年リーダーが、質問する様に聞く。
だが、それにもヴォルクは首を振る。
「おそらく、ただ見ているだけでは、貴族派は早々に潰れて終わるだけでしょう。ここは、我々の利になるよう立ち回るべきです」
ヴォルクがそう言って、一つ策を打ち出す。
「敵の首都に、ちょっかいを出します」
レジスタンスリーダー達が固まる。
ナギも素の顔になる。
ゴルドも、よく分からず「なんで?」って顔をする。
ヴォルクは、慌てる様子なく、流暢に作戦の意図を話し出した。
「首都を誰も攻めないのですが、その理由は明白。エリュシール守備隊の最強部隊が、教皇護衛についているから」
うんうん、と頷くリーダー達。
「なので、このまま放っておけば、前線からの帰還部隊は、謀反を起こした貴族派を断罪にまわる余裕が出てしまいます。これでは我々に旨みがない」
ゴルドも、ここまではふむふむと理解する。
「そこで、貴族派のフリをして、首都を攻めます。でも、当たってすぐ下がるで良い。どうせ守備隊は、攻めに打って出る事はできません」
確かに、とナギは思う。
そして、ヴォルクの意図が少しづつ分かってきた。
「首都にも攻撃を受けていると分かったなら、前線の帰還部隊は、首都に帰らざるを得ない。貴族派の横行は止まらない」
ヴォルクは、鋭い視線で、最後にこう締めくくる。
「ーーー敵は、ここから、分散を余儀なくされる」
リーダー達は、ヴォルクの不敵な笑みに、背筋が凍る。
この男、敵でなくて良かった、と。
ナギも目線を、ヴォルクから外せない。
そんな中、ゴルドが、真剣な顔でヴォルクに向かって手を挙げる合図をする。
ヴォルクが目で反応すると、ゴルドは静かに口を開いた。
「ーーーなんで分散するんだ?」
真剣な表情で、ゴルドは聞く。
ヴォルクは、固まりながら、小さい声で、あとで説明するから、とゴルドに耳打ちした。
リーダー達が、少し笑い、和やかな雰囲気が現れる。
そしてナギは、ゴルドに対して思う。
(やはり、私の考えすぎか・・・アイハンド卿は、後ろで暗躍するお人ではない)
ナギが優しい笑みを浮かべて、ゴルドを見つめていた。
(ーーーさーて、みんな、ゴルドさんの術中にハマったかな)
美月は静かに成り行きを見ていた。
そして、ここが切り出し時だと、発言をする。
「それでは、この作戦に同意し、戦力をお貸しいただける方は、どうか挙手にて表明ください」
美月の間髪を入れず採決と、兵力の捻出を問う質問に、レジスタンスのリーダー達は、全員手を挙げた。
「ご賛同いただき、感謝いたします」
美月は恭しく頭を下げるが、内心はほくそ笑む。
首都に攻める、例えそのフリだと言われても、二の足を踏むし、戦力を出すともなれば、余計渋る。
ましてや、ヴォルクの様なキレ者がいると、上に立つものは疑心暗鬼になる。
こいつを、信じても大丈夫なのか?と。
優秀すぎる人間は、恐れられて、信頼されなくなる。
だが、リーダー達は信頼した、何故か。
このヴォルクを制している男が、ゴルドだからだ。
ゴルドの言動は、人に安心感を与える。
少し抜けている様子や、誰がどう見てもお人好しの雰囲気が、警戒心を麻痺させ、消してしまう。
ゴルドがいるからこそ、レジスタンス達との信頼が、形成されているのだ。
(まぁ、当の本人はというと・・・)
美月はゴルドをチラリと見る。
「みんな、ありがとね。フリだからね、攻めるフリ。無理しないでね」
(そんな意図は全く無いし、そもそも気付いていないっていうのがね・・・)
美月は少し、周りに見えないように笑った。
ゴルド「攻めるフリって、何すんのかな?・・・石でも投げるのかな?」




