第89話 そのボタンは押された
挙兵だ!挙兵せよ!
キリ侯爵1人が、狂ったようにそう繰り返す。
元々、鬱憤は溜まっていた。
そして、領の運営自体、かなり無理をさせていた。
知らず知らずのうちになのか、それとも知ってて破滅に進んでいたかは、もはや誰にもわからないが、キリ侯爵は虎視眈々と教皇の寝首をかくき満々だったので、神の使いと言われて、頭のネジが飛んだようだ。
ネジを飛ばす、最後のきっかけとなったロボットは、しばらく無言になる。
その間も、家臣達はもうどうにでもなれと、挙兵の通達を回し始めて、準備に入る。
そして、ゴルド達は慌てふためいていた。
「どうしよう!どうしよう!?」
ゴルド自身がテンパっている。
ヒロに美月も、信じられない顔をして、キリ侯爵のぶっ飛びぶりを見ていたが、ローガンとヴォルクは、苦々しい顔をしながらも、冷静でいた。
「ボス、慌てることはねぇ。計画は予定通りだ」
ヴォルクの一言に、ゴルドはえぇ!?と声をあげて驚く。
「いやっ、でも!このおっさん、挙兵したら、文句言ってきた領民晒し首にするとか言ってたぞ!?」
「それはそこの領の問題だ。こちらには関係ない」
ゴルドは、黙ってしまう。
口は閉じるが、目は、いいのか?と泳いだままだ。
ヴォルクは、用意していた言葉をゴルドに言う。
「いいんだ、ボス。これで。作戦通りだ・・・・・・今見えているあっちの領は、俺たちの・・・敵だ」
エリュシール国の、貴族。
ゴルドはさすがにそこまで馬鹿じゃないので、キリ侯爵を敵であったことを、忘れていたわけではない。
だが、頭と心は別であると、ヴォルクは分かっていた。
ゴルドが、つい心優先で動く領主なのも分かっていた。
だから、あえてヴォルクから言う。
これは作戦で、正しいのだと。
敵が、無理して敵を攻めて、潰し合う。
なにも、当初の作戦から、予定は変わっていない。
「いや、領民巻き込むのは予想外だよ」
ゴルドは慌てた様子を変える事なく、スパッと言った。
ヴォルクが不意を打たれたように、反応できず固まる。
ローガンは、予想していたようにため息をつく。
「え?え?だって、戦争は兵士同士でやるもんだろ?領民関係ないじゃん。武装していない民間人を狙うのはダメだろ?」
「・・・えぇ、そうですね。ゴルドさんの言う通りです」
美月が、ふと笑いながら同意した。
ヒロも、続けて頷く。
ワカバも、まー、そうですねとニコニコしながら言う。
「・・・いや、しかしだな・・・これでいちいち心乱していたら、戦争なんぞ到底・・・」
ヴォルクは、傭兵としての経験、常識から、ゴルドの考えや諸々は、ただのわがままでしかないと、頭では分かっていた。
だが、ローガンが、良いではないか、とヴォルクに言う。
「色々小難しいことは考えなくて良いだろう。今目の前で、我々兵士が傷付くわけでも、我らの領民がやられるわけでもない」
ローガンは、どことなく、こうなる気がしていたように言う。
さすが、ゴルドとの付き合いが長いだけある。
「ゴルド様、なさりたいように、してください」
ローガンがそう、ゴルドに伝えた。
ゴルドは、少し考えて、ワカバに声をかける。
「ワカバ、すまんが・・・ロボットは空を飛べるんだったな?」
「えぇ、はい。飛べますよ」
「よし、この指示をしてくれ」
ゴルドは、ワカバに細かく依頼した。
ロボットが喋り出したのは、キリ侯爵が、ギリス領の主要となる家臣全員を集めて演説し出した時だった。
キリ侯爵が気持ち良さそうに、挙兵して教皇を打ち破り、自身こそがトップになると宣言していた。
「キリ侯爵」
ロボットが、おもむろにキリ侯爵の名前を呼ぶ。
演説を邪魔されて、キリ侯爵は機嫌が悪くなる。
「黙ってろ!私が話をしているのだぞ!身の程を知れ!」
え?神の使いなんじゃないの?、という家臣達の心の中のツッコミがあるが、キリ侯爵は気にせず、ロボットの足を蹴る。
「ガチン」
「いって!!硬っ!くそっ!不敬だぞ!」
1人で痛がり、悪態をつくキリ侯爵を、ロボットは、両手を突き出して捕まえる。
「へ?」
キリ侯爵も、よえやく異変に気付く。
だが、もう遅い。
ロボットの足から火が吐き出し、宙に浮く。
「はっ!離せ!何をする!?おい!わっ!私は侯爵だぞ!教皇を打ち倒し!国の頂点に立つ男だぞ!」
ロボットから逃れようとするが、そんな事出来るわけがない。
ロボットの拘束に、文字通り手も足も出ない。
家臣達も、異様なロボットに、むしろ距離を取る。
そのまま、ロボットは、侯爵家の城の窓を突き破り、外へ出た。
高く、高く空へ向かう。
キリ侯爵が、そのスピードに、半狂乱になりながら、悪態を吐き続ける。
家臣達は、急な出来事で、呆気に取られながら、城の外に出て、空を眺める。
次の瞬間。
空に、爆発が起きた。
ワカバによって、自爆スイッチが押されたのだ。
キリ侯爵は、跡形もなく、ロボットと共に消えた。
家臣達は、領主が遠い空で消えたことに、理解が追いつかないでいたが、さすがに次第に理解していく。
「え?やばくない?」
「神の使いだったんじゃ?」
「え?閣下死んだ?」
「おい、まて、コレってもしかして・・・」
家臣の1人が、とある考えに行き着く。
「これ・・・教皇派による攻撃では?」
家臣全員の顔が、ハッ、と見合わせる。
「神の使いなんて怪しいと思ったんだよ!」
「しかもあんなよく分からぬ存在。教皇派が従えている転生者なるものに違いないぞ!」
「そうだそうだ!空飛ぶし爆発するし!超常の類に違いない!!」
家臣達は、これを教皇派による、ギリス領土への侵攻と、領主暗殺であると断定した。
そして、キリ侯爵のまだ幼い子息を急ぎ後継者として当主にし、周囲の貴族派に呼びかける。
貴族派トップを、教皇派が暗殺しにきた。
貴族派を潰すつもりだ。
次はお前らがやられる番だぞ、と。
後日、エリュシール国内に激震が走る。
貴族派達がこぞって挙兵し、教皇派と徹底抗戦の構えをとったからだ。
ちなみに、ギリス領は次期当主が幼いとして、積極的な挙兵に至らず、自領警戒のみに注力するため、領民への影響はなかった。
だが、ゴルド達はそんな事、知る由もない。
「あーあ、すまん、ワカバ。ロボット、ダメにしてしまった」
「大丈夫ですよ、ゴルド様。あれくらいのロボット、1日もあれば作れますから」
自爆と共に、ロボットもチリも残らず消えたので、ロボット越しに映像が見れず、あの後どうなったのか、知ることが出来なかったのだ。
ヒロや美月、ヴォルクたちも、暖かくゴルドに優しい声をかける。
貴族派と教皇派が戦うことになったのを彼らが知るのは、貴族派挙兵以降である。




