第88話 貴族派との接触
ーーーエリュシール国東部
=ギリス侯爵家=
エリュシール国内の、最大貴族派閥のトップである男が、執務室で教皇からの文に目を通して、苦々しい顔をしていた。
「侵略を一時撤退して、国内平定に力を注ぐ、だと?」
ロマンスグレーの髪色に、整えられた髭が、嫌味なほど、高貴な貴族であると主張する男は、次第にプルプルと震え出した。
「きぇぇええーーーー!!!」
キリ・ギリス侯爵当主は、奇声をあげて書をビリビリに破いた。
「クソがっ!日和よってからに!無能の教皇が!!人妻趣味の変態野郎め!」
散々怒り散らし、書を投げて、机も蹴飛ばす。
散々物に当たったのち、キリ侯爵は、中年らしく疲れた顔をして、イスにどっかりと座った。
「レジスタンスどもも、急に結託して食糧を強奪しよって。その補填にも我が家が身を切っているというのに・・・侵略による土地も手に入らないなら!こちらの丸損ではないかっ!!」
恨めしく、まだ怒りが冷めやらない様子のキリ侯爵。
彼に、教皇への敬意などない。
侯爵家以下、貴族派閥の気になるところは、自分達に利益があるかどうか。
その利益で金が手に入るかどうか。
さらに、その金で贅沢が出来るかどうか。
ここにしか頭は働かない。
「教皇派の金食い虫共も虫唾が走る!!大司祭かなんか知らんが!敬虔な教徒なら教会で大人しくしとれっ!贅沢と女ばかり無駄に要求するクソ坊主どもがぁあ!!」
溜まっていた愚痴が止まらない。
教皇派は、今の教皇が勝手に集めた、本当になんの能力もない、ただの強欲坊主ばかりである。
同じ強欲に塗れた貴族派でも、彼らは受け継いで来た地盤と金がある。
罵詈雑言の悪口を叩き終わったところで、本業となる金になる方法を思案する。
「・・・やはりレジスタンス共を奴隷として売り飛ばすのが手っ取り早いか」
頭のそろばんで、レジスタンス達をボコボコにして、奴隷化する事を考える。
教皇派は馬鹿ばかりなので、そこから適当な女子供を当てがえば、喜んで腰を振り満足する。
だが、教皇自身はめんどくさい。
人妻かどうか、婚約者がいるかどうかをいちいち気にする。
それを隠して適当な女を送った貴族は、取り潰しになった。
そんな理由で取り潰してくるなど、正気の沙汰ではない。
「いつかあの教皇を倒して、私こそがこの国を牛耳ってみせる・・・私なら、もっと上手く侵略できる。世界を手に入れてみせる!」
先程までの怒りはどこへやら。
気持ち悪い笑みを浮かべて、ニタニタと将来を妄想して、嬉しそうにしていた。
そこへ、転送魔法が発動し、デカいロボットが、キリ侯爵の目の前に出現する。
それは、鉄の鎧を身につけていた。
分厚く、槍や剣など、到底効きそうになかった。
頭部に、不気味な目と口を付けている。
その目が、ギュルギュル動いて、侯爵を探し、見つけたのか、睨んでくる。
キリ侯爵は目の前に現れた謎の存在に、目を見開き、口からは文字では表せない、驚いて引き攣る声を出す。
そして、腰を抜かしたのか、そのまま後ろにゆっくりとへたり込み、逃げようと必死に手を伸ばす。
「て、ててて、敵襲っ、敵襲っっ」
掠れた声で必死に助けを呼ぼうとするが、情けなく声が出ない。
ロボットを通じて、映像を見ているゴルド達は、なんだか申し訳なくなってきた。
「あー、こちらに敵意はない。話をしよう」
マイク越しに、ゴルドが声を入れるが、ロボットから出るのは機械音の無機質な音で、言葉にはなっているが、感情が一切入っていない。
口を金魚のようにパクパクさせるキリ侯爵の様子からして、話をする気は全くないようだ。
「おーい、とりあえず、お前はエリュシール国の貴族派トップでいいな?」
「ひゃ、ひゃいっ」
かろうじて返事をするキリ侯爵。
ゴルドは、やっぱ無理かな?この作戦、と自信を無くしてきたが、とりあえず話を続ける。
「教皇派を、今なら打ち倒せるが、興味ないか?」
少し、キリ侯爵が顔の表情を、恐怖から驚きに変わる。
「手助けをしてやろう」
無機質な、抑揚のない声が、キリ侯爵の目の色を変える。
「ど、どういう・・・事で?」
「私は、神からの使いだ」
ゴルドは、堂々と嘘をついた。
この、ロボットはどこからの差金にする?という議論は、ゴルドおよび、ヒロ、美月、ヴォルク、ローガンとさんざん話し合った。
だが、他国やらレジスタンスからの使い、というのは、どうしても情報漏洩の恐れがあったので、この際、突拍子もない神からの使いになった。
「貴様のことはこちらも見通している。キリ・ギリス侯爵。神の力の一端を、貴様に貸し与えよう」
名前もお見通しだと、スピーカー越しに伝える。
エリュシール国の捕虜達から確認したので、間違いはない。
さぁ、これくらいで信じてくれるだろうか、と、ゴルドと同じく不安を抱いていたヴォルクたち。
だが、先程までビビり散らかしていた男が、急に壊れたように笑い出すのを見て、あ、上手く行ったみたい、と安堵した。
「好機っっ!!やはり!神に選ばれるべきはこの私だったのだ!!」
こんな胡散臭いロボットを前に、自己陶酔に入る侯爵を見て、改めてやべー奴だな、とゴルド達は思ったが、まぁ別にいいやと話を進める。
「おい!神からの使いだ!丁重にもてなせ!」
キリ侯爵がすっかり復活して、家臣を呼び、上機嫌に対応する。
「キリ侯爵よ。今すぐ挙兵し、神の名を仇なす教皇を打ち倒して欲しい」
ゴルドはさっさとやって欲しいことを伝える。
家臣達が数名やってきて、キリ侯爵から話を聞き、見たこともない造形のロボットを前に、平伏して花びらと高価なローブをロボットにかける。
「いや、そういうのは要らないから、挙兵して」
「勿論ですとも!今すぐ準備に取り掛かりまする!」
キリ侯爵が、意気揚々と言う。
その目は、明らかにキマっていた。
だが、家臣達は慌てた様子を見せる。
「お、お待ちください閣下!」
「神の使い様もお疲れの様子、どうかまずは歓迎の宴を」
「挙兵の準備は進めておきます故・・・」
何だか、露骨に挙兵をしたがらない。
ロボット越しに、ゴルド達も困り顔をする。
「何だろう?何かあったのかな?」
「当主の侯爵は、やる気満々だが・・・」
ゴルドとローガンが、不思議そうにモニターを見ながら言う。
だが、この状況に、とある男がキレてしまった。
キリ侯爵が、おもむろに剣を取り出して、家臣達に向ける。
「貴様ら・・・謀反か?」
家臣達は震え上がり、滅相もございませんと土下座をする。
ゴルド達も吹き出す。
そして、家臣達は必死な形相で伝える。
「閣下!先の不足物資の輸送で、もう蓄えがありませぬ!」
「このままでは領民は飢え、領地が滅びまする!」
「どうか!どうかお考え直しを!」
その懇願ぶりから、そうとう余裕がないことが手に取るように見える。
だが、キリ侯爵は、もう止まる様子はなかった。
家臣の1人を、剣で突き刺す。
突き刺された家臣は、断末魔と共に、血飛沫をあげる。
残りの家臣は、真っ青になり、唇を震わす。
「挙兵せよ」
その目は、瞳孔も開いて、もうそれしか頭にないようだ。
ゴルド達もビビる。
こいつ、ヤバい奴だと。
「き、キリ侯爵よ。無理ならそこまでせずとも。というか、そこの家臣助けないか?」
ロボットを操作して、ゴルドは斬られた家臣に近づく。
「くそ、ロボット越しだと、治癒魔法が出来ない・・・」
「あ、オートモードで治療指示すれば勝手にやってくれますよ」
ワカバがサクッとオートモードに切り替える。
すると、ロボットから複数のアームが出てきて、ものすごい速さで家臣の傷を縫合する。
そして、カメラを通して診療診断までする。
「なっ!なんと!」
「まさに、神の御技!!」
「ふはははは!!!見たか!これが私の手に入れた!神の力だあああ!!」
家臣達は驚き、キリ侯爵は狂ったように笑う。
「やべーな。この侯爵頭いっちゃってるよ」
「どうする?挙兵も無理そうだし、しばらくスパイ活動で情報だけ抜くか?」
ゴルドの感想に、ヴォルクも何も言わず肯定して、さっさと次の方針に切り替える。
だが、ゴルド達は甘く見ていた。
このイカれた侯爵のことを。
「さぁ!挙兵だ!領民のことなど知るか!また文句を言ってきたら、前回のようにその無礼者の首は晒し首にしろ!」
そのセリフに、ゴルドは固まった。
狂気の侯爵の笑い声だけが、その場に響いていた。
ゴルド「治療までできるとは、このロボットすごいな」
ワカバ「あと、空飛べます」
ヒロ「自爆スイッチの説明より、先にその説明が聞きたかったな・・・」




