閑話 前夜祭
クリーチャーズに、ありがとう。
彼らにも帰る場所がある。
「おぉ・・・蜘蛛、だな」
「蜘蛛ですよ?」
クローナがアラクネを見て一言いう。
アラクネも何を当たり前な事を、と当然のように返す。
牧場の納屋にて、アラクネ、ラミア、ケンタウロスらと、あの研究所からきた人外メンバーが揃っていた。
理由は単純で、最初は客室を用意していたが、当然、人のための造りをしたところでは休まらず、ゴルド自らどこが良いか一緒に見て周り、この納屋に落ち着いた。
さすがのゴルドも気が引けたが、建てられて間もない新築で、広く手入れも行き届いた納屋は、彼らにとってかなり良い場所のようで、のびのびくつろいでいた。
クローナとキャロットは初めて彼らに会う。
異世界の賓客ということで、興味があったからだが、話すうちに打ち解け始めている。
「獣人はいるのに、ハーピィいないんだ?」
「鳥人間ならいるよ。首から下は人間で、頭だけ鳥の」
ハーピィの質問に、キャロットは答える。
ハーピィはなんだその生き物は?と顔をしかめた。
女性同士で、話が盛り上がるのだろうか、オーガやラミア、アルラウネ達は楽しそうに話すが、ケンタウロス、蠍男、スライムは端っこで大人しくしている。
「お前達も話に入れよ~。しばらくしたら、故郷に帰るんだろ?」
クローナが誘うと、蠍男は苦笑いして、遠慮すると言った。
「オレは故郷に許嫁がいる。不義理なマネはできない」
「硬派だなオイ。てか!話すだけだよ!」
「ウチの許嫁は嫉妬深い。話すだけでも怒る」
あ、なんか蠍っぽい。
そう全員が思っていた。
そこから、蠍男の故郷の話やら、許嫁との話で、どちらかといえば蠍男がいじられて話が進む。
それを、ケンタウロスとスライムは、静かに見ていた。
「・・・生きていたんだな」
ポツリと、ケンタウロスは、クローナを見て言う。
その声は、スライムにしか聞こえない大きさだ。
「見た時、驚いたよ・・・967番だなって・・・」
スライムも、表情こそないが、どこか、ホッとするような、微笑ましいよえな雰囲気を醸しだす。
それぞれ、一気に呼び出されたのではなく、順番に召喚されている。
最も最初に呼び出されたのは、このスライムである。
それに次いで、ケンタウロスが来た。
それ以降は、呼ばれ、屠殺されが続き、今いるアラクネ達は、まだ呼ばれて半年ほどだ。
ケンタウロスは、唯一記憶を共有しているスライムにだけ、ポツリと言ったきり、クローナの件には触れない。
別に、触れる必要もないと判断したようだ。
クローナは逆に、全くこちら側に記憶がない。
それでいい、そう言わんばかりに、2人はただクローナと語り合う人外達を見ていた。
ふと、クローナが今度はこちらに照準を合わせる。
「ケンタウロスのおっちゃんは何かないの!?」
自然と、クローナはそう呼び、ふと、自分で不思議な顔をする。
さっきまで饒舌に喋っていたクローナが固まり、キャロットは顔を覗き込む。
「クローナ?とうしたの?」
「・・・なんか、前にも、こう呼んでいたような?」
クローナが難しい顔をしてケンタウロスを見るので、ケンタウロスは涼しい顔で、とぼけながら言った。
「さて、君とは会った事ないけど・・・」
「・・・そ、そうだよね?」
クローナが不思議がりながら、思い出せないので、まぁいいかと話を進める。
スライムは、顔がなくて良かったと安堵した。
懐かしい、呼び方に、昔を思い出す。
研究所の閉鎖空間に、絶望的な囚われの檻の中で、唯一、子供だった彼女は、不思議と他の者達の癒しとなっていた。
「ふと思うよ」
スライムが、今度はケンタウロスに、何気なく語る。
「ここの領主様は、何かを引きつける不思議な力があるんじゃなかろうか、ってね」
そう、思いたくなるのも無理はないと、ケンタウロスは笑う。
彼女の出生は、語らないでおこう。
ここで生きるのに、その話は必要ない。
そう判断した。
「明日には、みんな帰るんだよね?」
クローナが、明日に控えた転生魔法による、彼等を帰る儀式を言う。
「本当は、まだ隣国との戦いがあるから、残ると進言したんだがねぇ」
オーガはニシシと悪い笑みを浮かべるが、ゴルドがこれに一喝した。
『巻き込まれた君らを、これ以上巻き込めば、オレもエリュシールと同類だ。断る』
実に、キッパリとした断りだった。
清々しく、そして、ゴルドらしい。
「まぁ、ゴッド様の言う通りだよ。巻き込まれたんだし、故郷から無理やり離されていたんだからさ」
キャロットが、頷きながらそう言う。
「で!今夜は貴方達への、研究所脱出を功績とした、感謝祭パーティ!飲めや食えやの野外宴だよ!」
クローナは楽しみなのか、耳をピンとさせ、尻尾を振る。
人外を主役に、パーティとは。
つくづく、ケンタウロスはゴルドを、計り知れないお方だと思う。
「異世界とは広いな。我らを研究対象にしか見ない者もいれば、仲間と遜色ない扱いをする者もいる」
ケンタウロスの、しんみりとした感想は、どこか、ここを離れる寂しさを感じさせた。
「彼の為なら、戦っても良いと思っているのだが。恩は返してもらったと、言って聞かぬからな」
ケンタウロスのつぶやきに、同意するものは多いのだろう。
アラクネ、ラミア、オーガ、蠍男、ハーピィ、アルラウネ、そしてスライム。
全員が、そんな顔をしていた。
「さっ!そろそろ会場に行こっ!」
クローナの呼びかけに、全員が納屋から出る。
その日の、彼等が帰る前夜祭は、大層盛り上がった。
兵士が、助けられた子供が、分け隔てなく彼等に声をかけて、宴を楽しむ。
ゴルドから、1人1人、話をする。
そして、感謝の印として、アイハンド家刻印の入った、勲章を渡す。
彼らの活躍と名は、アイハンド家の歴史書に刻まれる。
「はい!じゃあ皆さん!ピースピース!」
ワカバが、カメラを向けた。
ゴルドが中央ではしゃぎながら、彼ら全員との一枚の写真を撮った。
翌日、彼らは、アイハにより、丁重に故郷の世界へと帰っていった。
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