第82話 恐るるに足りぬ
食事を終えて、美月、ヴォルクも左右の側に控えたところで、いよいよ本題となる話に入る。
ゴルドは台本のカンペとなる紙をこっそり見てから、話しはじめる。
「エリュシール国を、私は打ち破る」
まずは、どでかくかます。
レジスタンスリーダー達は、まずその宣言を聞き、誰もが目をゴルドに向ける。
ーーー本気なのか?、と。
「まず、何故隣国の、男爵家にすぎない私が、エリュシール国を敵視しているのか。ここから話そう」
ゴルドは研究の顛末を要点だけまとめ伝える。
そこに、アイハンド領侵入と、違法な人体実験。そして、山のスタンピートを意図的に起こし、我が父と兄達が亡くなる要因となった事を、高らかに演説する。
ちなみに、本当にスタンピートがエリュシール国によるものとは思っていない。
何故なら、エリュシール国が出来る前から、スタンピートはあるのだから。
しかし、ヴォルクやビィンセントは、少なからず、前回からの異質なスタンピートに、エリュシールが関わっているとは睨んでいる。
まぁ、真偽は不明だが。
もっとも、そういった事は、捕まえてから調べれば良い。
この場に置いて、親兄弟の仇であるという理由は、確固たるゴルドにとっての理由となるのだ。
聞き入るリーダー達を見て、ヴォルクは上手くいっていると心の中でほくそ笑む。
理由を熱く語ったところで、今度は肝心なこの先の構想についてだ。
ゴルドは、ナギにまず問う。
「ナギ殿、なにか計画していたものはあるだろうか?」
「いや・・・正直にいうと、特にない。」
ナギはどこか恥ずかしがるように、目を伏せて言う。
何の策も持ち合わせていないことを、恥に感じているようだ。
「ならば、まずは情報が欲しい。エリュシール国の強さの秘密。なぜ、こうも国々を侵略できているのか」
ゴルドはリーダー達へ話を振った。
1人が手を挙げて答える。
ナギより年上の女性だ。
なんなら、ゴルドより上かもしれない。
だが、漂わせる妙年の女性の色香は、魅惑の雰囲気を纏わせる。
「妾の夫である大王は、エリュシールの不死身の軍隊を最も恐れておった」
「・・・ふ、不死身?」
ゴルドはその単語を聞き、シルヴィを想像する。
その軍隊となると、かなり骨が折れそうだと覚悟する。
「いわく、堅牢な車に乗っており、こちらの弓矢や剣はほぼ効かぬ。魔法を何度も打ち込み、ようやく仕留めれた。あれは・・・恐ろしい不死身の軍隊よ」
他のレジスタンスリーダーも、覚えがあるのか、悔しさを滲ませた声を漏らしたり、怯える顔を見せる。
ゴルドは、ん?、と首を捻っていた。
「・・・敵兵も、不死身なのか?」
「敵兵、ですか?・・・まぁ、その車に乗っていれば、手出しできないので、その間は不死身かと・・・」
「死なないのか?火に焼かれても、潰されても、心臓を貫かれても?」
「いや、それは死にますけど」
女性のレジスタンスリーダーは、ゴルドに引きつった顔を見せる。
おそらく、相当な戦闘狂か、脳筋に思われていることだろう。
だが、ゴルドはシルヴィのようなモノホンの不死身でないと悟り、あっそう、と軽く流した。
(あ、あの、鉄の不死身の軍隊を・・・あっそうで、流すのか!?)
女性リーダーは、こやつ、底知れない、と勝手にゴルドをビビり始めるが、ゴルドは別の者に話を振る。
「他には?」
「あ、あの・・・敵は、転生者なる、一騎当千の強者を従えています」
幼い少年が、控えめに手を挙げながら言う。
ゴルドも、何となくその存在はいるだろうと覚悟していたので、ヒロやヴォルク、美月、ノイル等々の能力を想像する。
「ど、どんな力を使うのだ?その転生者は・・・」
ゴルドはゴクリと、喉を鳴らして、恐る恐る聞く。
「わ、分かっているだけでも・・・好戦的な、炎の使い手や、風の使い手、土の使い手がいます」
「・・・ど、どんな能力なんだ?」
ゴルドは、いまいち凄さが分からず、詳しく説明を求める。
「え?そりゃ、炎の使い手は、燃え盛る炎を自由に操り、風の使い手も、切れるような風刃を繰り出して、土は、高い壁や堅牢な囲いを・・・」
「あ、うん。ありがとう。文字通りって事ね」
その恐ろしさを語ろうとする少年に、ゴルドは、皆まで言うなと制止した。
そして、安心するように、ふぅ、とため息をつく。
(ヒロが1人でできる事を、三分割している感じか。まぁ、厄介だろうけど、ウチほどじゃないな)
そのゴルドの様子は、リーダー達からこう見えていた。
ーー期待外れの敵だな。恐るるに足りぬ、と。
この男爵は、一体何者なのだ。
誰もが、想像を大きく膨らませていく。
このとんでもない男爵は、王家に近しい存在なのか?
当たり前だが、このレジスタンスリーダー達は、グラン王国の権威を頼ろうという下心があった。
当然、男爵家というのは、グラン王家の窓口でしかない・・・はずなのだが。
この男、なぜ自分で全て判断しているのだろう?
普通、王家に確認するとか、持ち帰って検討があるはずだ。
その憶測は全て、1つの結論につながる。
(このアイハンド卿、王家より全権を委任されている!?)
紆余曲折はあるものの、リーダー達は、その真実に辿り着いた。
確かに、王家より、ゴルドはエリュシール国の対応を全て委任された。
うん、間違いではない。
「さて、じゃあサクッと、いつごろクーデターするか、その準備について足りないものないか、諸々詰めていこうか」
ゴルドは、ここからはバトン交代だと言わんばかりに、美月とヴォルクに任せようと話を進めていく。
「お!お待ち下さい!」
そこで、ナギが手を挙げた。
「アイハンド卿、此度のエリュシール打倒を叶えた暁には、我ら悲願となる、帝国の復活を求めます」
「ん?良いんじゃない?土地取り戻すわけだし」
軽い、軽すぎる。
ナギは「いいのか?」と面食らいながらも、ゴルドの言葉だけではさすがに不安なので、もう一歩踏み込む。
「グラン王家の血を欲しいとは、夢にも思いませぬ。ただ、せめて!アイハンド卿!そなたの血を分けてはくれまいか?」
ゴルドは頭にハテナを立てる。
血を分けるって、なんだ??
よく分かっていないゴルドの様子を見て、ナギは悟る。
この人、所々抜けているなと。
もう一度、今度は比較的はっきりとした表現でナギ言った。
「女帝の血筋は私しかもういない。だから、そなたの子種を貰いたい」
ゴルドは固まる。
あ、そこはさすがにいいよと軽くは言わないんだなと、ナギは少し面白く感じた。
そよ風が、心地よく吹いて、天幕を揺らした。
美月「・・・へぇ?」
ヴォルク「ん、なんか寒いな?」




