第81話 ハンバーガー
長閑なお昼時。
ちょうどいい日差しが、暑くもなく寒くもなく、気持ちの良い温度を届けてくれている。
ゴルドはズラリと並んだレジスタンスのリーダー達を見て、想像していたイメージと違う人が多いなぁ~、とのんびり思っていた。
ゴルドが想像していてのは、やはりヴォルクのようなゴリゴリの男である。
戦場で泥に塗れても生きて帰ってきそうな傭兵感が、レジスタンスのイメージだったが。
5人いるリーダーに、まず屈強な男がいない。
3人は女性で、残り2人はゴルドより年下の少年2人だ。
(なんでこんな女子供ばかりで、レジスタンスのリーダーやっているんだ??大変だなぁ・・・)
ゴルドはやはりこの辺り、勘が鈍いというか、考えが至らない。
ここにいるのは亡国の王族貴族の生き残りである。
いい歳した男は、戦死か打首にされたのだ。
そんな事はつゆ知らず、ゴルドはほんわかとした雰囲気でピクニックを始めた。
リンゼに頼んで、食事を運ばせる。
運ばれてきたのは、パンに肉が挟まった、何やら珍妙な料理だった。
ナギたち、リーダーは固まる。
(((((なにこれ??)))))
「えー、こちら、ナイフやフォークとかは、暗殺とか色々気を使うだろうという事で、素手で食べれる物を用意しました。ハンバーガーといいます。従者並びに、毒味役の方のもあるので、遠慮せず確認して、安全かどうか見てからお召し上がりください」
ゴルドは台本を思い出しながら言う。
その所為で、なんとも感情の乗っていない、機械のような台詞になっていた。
(のほほんとした雰囲気の割に、そういう所はキチンとしているなぁ)
ナギの従者が、若干無礼な考えをゴルドにこっそり思っていたが、口にはしない。
それぞれ、毒味役が、自身らの持っている匙で、ハンバーガーのバンズを外して、中身を確認する。
その時も、その料理のあまりの簡単さに驚く。
新鮮な野菜やチーズを挟んで、パンの大きさに合わせて肉を焼いている。
見たことないソースがあるが、舐めてみると美味かった。
そして、簡単に元に戻せた。
(も、もしや!ここまで計算尽くか!?)
従者達は衝撃が走る。
この手の毒味の所為で、食事会とは言いつつも、料理は冷めたり、毒味によって、料理の形も損なわれたりで、あまり食事は楽しめるものではない。
だが、このハンバーガーという料理は、珍しく、しかも素手という食事方法に加え、料理内部が分かりやすく、食事する側からすると、まさに安心して食せる。
だが、味はどうだ?
これほど簡素な作りのメシでは、亡国とはいえ、名だたる王族貴族の生き残りである、舌の肥えた者たちに通用するかどうか。
従者達は、互いの主人であるリーダーを見渡す。
やはり、躊躇している模様。
当たり前だ、そもそも素手での食事など想定していない。
だが、そこでこの男が動く。
「じゃ!いっただきまーす」
ゴルドは両手でハンバーガーを持ち、かぶりついた。
なんと下品な食べ方か。
まるで、下々のものがパンを頬張るような。
従者達に緊張が走る。
(この政治的な場面、どう捉える?)
(お前達は、もう王族貴族ではないだろう、という嘲笑か?)
(アイハンド家のルールに従えという、暗黙の服従を突きつけているのか!?)
(それとも、此奴、何も考えていないのか!?)
それぞれが困惑と、焦りに、誰も手が動かない。
ゴルドはもぐもぐさせながら、エドガーおじさんに、それはまずくね?素手でかぶりつくとか、というアドバイスを思い出す。
(これ美味いのになぁ。それに、秘密の会合なら、いつものうるさいマナーやら何やら気にせず、食べたらいいのに)
誰も食べない様子を見て、ゴルドはさすがに居心地が悪いので、一度口の中の物を飲み込むと、喋り出す。
「いやぁ、皆様にとってはあまり食べ慣れない食べ方ですが、ここだけですから。今しか出来ませんよ?こういう食べ方は」
ゴルドはこの会合は暗に、秘密会議だし、ここだけですよ、と言ったつもりだった。
そして、付け加える。
「ーーーすべて終われば、元の食事に戻りますからね」
従者達と、リーダーにも、雷に打たれたかのような衝撃が走った。
誰もが、ゴルドを信じられないような目で見る。
だが、その目は、否定的な物ではない。
(すべて、終われば、元の食事に戻る・・・)
(こ、これは!暗に!全て元に戻してやるという揶揄!?)
(エリュシール国に滅ぼされた我らの祖国を、もう一度立て直し!)
(王族貴族らしい、食事に戻ろうという事か!!な!なんて御人だ!?)
従者達が打ち震えている間に、ゴルドはまたムシャムシャとハンバーガーを食べる。
ナギは、ハンバーガーをその手に取った。
(そもそも、元王族の私は、今や位無きもの。何者でもない私が、素手で物を食らうことなど、造作もない・・・)
チラリと、ナギはゴルドを見る。
(・・・だが!アイハンド卿は、まごう事なき貴族!その方が!我らに合わせて同じ食事をとっているのだ!)
ナギは、かぶりついた。
そして、普通に、その美味さに感動する。
食べたことのない、野菜と肉の、ガツンとした素材の本来の旨み。
そして、味の濃いソースが、チーズが、肉がと、お淑やかな貴族料理をバカにして、繊細だった舌を蹂躙するように、美味ければよかろうなのだぁぁああ!と言わんばかりに暴れ回る。
ナギが夢中になって食べ出したのを皮切りに、各リーダーも食べ出す。
ゴルドの器のデカさに、誰もが心打たれ、口々に、美味しいと、驚きの声もあげていた。
ゴルドはふと、従者が誰も口にしていないことに気付く。
ゴルドの側使えのリンゼは、デザートの準備で離れているが、すぐそばにいるヒロはしっかり食べている。
「従者の皆さんもよかったら。主従揃って食べるのも良いもんですよ?一蓮托生。同じ運命を共にするわけですから」
従者達は、主人をそれぞれ立てて、さすがに断わり難色を示すが、ナギが割って入る。
「構わぬ。運命共同体なのは事実。この場で最も上の方がお許しくださっているのだ。共に!喰らおう!」
ナギの従者は、本日何度目かの驚愕の顔をする。
ナギの従者は女性である。
そこからも分かるように、ナギの帝国の風習、女尊男卑の精神は未だ受け継がれている。
そのナギが、ゴルドを認めた。
無論、帝国時代より、他国との交易の際は、相手国を敬う事はしてきた。
だが、あくまでも対等。
決して、女帝は男性王族を相手にしても、自らも上とはしなかったが、逆に相手を上ともしなかった。
古来より、女というだけで見下げられている世界の共通認識から、反逆をしてきた帝国の、その考えは、ナギにきちんとある。
その上で、ナギは生まれて初めて完敗した。
「アイハンド卿・・・貴方には、そこ知れぬ魅力がありますね」
ボソリとつぶやくナギの言葉は、誰も聞こえなかった。
従者達も、恐る恐るハンバーガーを食し、その美味さにもう一度驚く。
ゴルドは満足そうに、笑顔を浮かべていた。
ゴルド(やっぱ、ハンバーガーうまいっしょ)
全員(こいつ、ただもんじゃねぇ!)




