第78話 亡国の女帝の娘
ーエリュシール国 某所ー
エリュシール国の、スラム街の奥に、レジスタンスのアジトがある。
元々、隣接していた国の土地のためか、エリュシール国と名前はなったものの、この辺りまでは、勢力が伸びていない。
そこで、日陰に隠れながら、爪を研ぎ、息を潜めるレジスタンスのリーダーが、亡国の女帝の娘、ナギである。
その通称は、かつて、ナギの母親が、女帝として国を治めていたことからきている。
周辺国家から珍しいとされる、女尊男卑の風習が、エリュシール国から異教であると難癖をつけ始められ、激しい戦争へと激化した。
戦闘では、エリュシール国を退ける手腕を見せたものの、甘言に惑わされた男性部下による裏切りで、状況は一変した。
男こそ、上に立つべきである、とそそのかされた部下は、女帝の首をエリュシールに献上すると、即刻打首にされていた。
命からがら逃亡した、末娘のナギは、こうして、自国のスラムに隠れて機をうかがっている。
長らく、エリュシールによる変わらない侵略が続いたが、ここ最近、エリュシールが躍起になってレジスタンス狩りと、反教皇派の貴族を難癖つけて取りつぶしをしている。
ナギの所まで影響はないが、国内の微妙な力関係が、自滅ルートへの道に差し掛かっている機微は感じた。
広すぎる侵略した国々の、最低限の自治を認めていたのに、それを自らまた壊しているのだ。
恨み、辛みが積み重なった先に、過去の滅ぼした亡霊たちが一挙に攻め立てる計画が、少しずつ、現実味を帯びてくる。
だが、懸念が全くないわけではない。
まず、エリュシール国が何をどうしたのか、強化兵士なる厄介な集団がいる。
これは中々に手強い。
というより、まず勝てない。
身体能力に加え、それぞれが厄介な特殊能力を持っているので、未だ倒されたことがないエリュシールの最強の矛である。
それと、謎に包まれた研究所。
そこで、日々強力な武器や、自分達で洗脳し操れるモンスターを増やしているらしい。
要するに、武力が圧倒的なのだ。
まだ、ナギの母親が戦っていた頃は、そこまで飛び出た武力では無かったのに、ここ数年で見事に変わってしまった。
この武力を打ち破る、我々も力がないと・・・。
そう、考えに耽っていたナギは、クリーム色の髪を、癖なのか、指でクルクル回しながら、机に向かって座っていた。
そこへ、目の前にベルネシアとサリーが、突如転移魔法で現れる。
固まるナギ。
サリーは周囲の索敵と安全を確認した上で、ナギを見て、静かに語る。
「失礼。こちらエリュシール国に対するレジスタンスの本拠地でよろしかったですか?」
突然現れて、反抗勢力ですか?と聞く、見目麗しいがデカい女に、ナギは終わったと悟る。
エリュシール国の最近の強行は、ここまでやれる力が手に入ったからだと思ったナギは、こうなれば自決の他ないと、隠し持っていたナイフを自分の喉元へ突き刺そうとした。
ーーーが、サリーが流れる様にナイフを奪い、自決を阻止される。
「急な話で、信じられないかもしれませんが、こちらのお話を聞いて欲しい。貴方は、レジスタンスの一員、もしくは指揮する立場にありますか?はいかいいえで結構です。お答え願いたい」
サリーの丁寧な物言いに、ナギは少し面食らう。
ここまで執拗に確認するということは、コイツらは確証がないということか?
それならばと、ナギは一か八か、答える。
「・・・違う。私はレジスタンスの長などではない」
「嘘の反応よ。当たりのようね」
ナギは泣きそうになる。
横にいた魔女風の女が、間髪入れずに嘘と見破った。
よく考えれば、魔法使いがいるなら、その看破魔法を考慮しておくべきだった。
今度こそ終わったと目をつぶるナギに、サリーとベルネシアはひざまづいて、書を差し出す。
「グラン王国北部辺境アイハンド領領主、ゴルド・アイハンド男爵より、書状のお渡しに参りました」
ナギは固まる。
だが、その書状の家紋を見てすぐにピンとくる。
かつて、母親より教わった帝王学の一環で、周辺国家の家紋をある程度教わった。
その中に、母親が覚えておけといった隣接しない国の家紋があった。
しかも、王族でもない、男爵家のもの。
理由を、母親はこう語っていた。
「ーーーこの王国は不気味でな、数多ある国々は、出来ては滅んでを繰り返す中、歴史上、最も長く続いている国が、この、グラン王国だ。そして、このアイハンド家は、グラン王国建国以来、ずっと変わらず北側の玄関口をしている、これまた歴史の古い家だーーー」
女帝は、どこか面白いと言わんばかりの、愉快そうな顔で、娘のナギに言う。
ーーー癪だが、我が国より歴史がある男爵家だからな、覚えておけ。世界広しといえど、我らの先達となる男爵家はここしかない。
ナギは、風が吹いたかの様に、その思い出が巡った。
自分の国が無くなってから、母親との、悲壮感に塗れた思い出以外を思い出すのは、いつ以来だろう。
アイハンド男爵の家紋は、それを思い出させてくれた。
ナギは、泣くことを自身で禁じていた。
悲願となる、仇討ち、祖国復活。
それらを成すまでは、涙は不要と、自身の中で推し堪えた。
それが、何故だろうか。
こんな何でもない、取るに足らない思い出如きで、と、ナギは感情の昂りに、自身で焦る。
泣くな、泣くな、泣くな。
そう、強く自身に念じて、書を受け取るナギの手に、水が付いていた。
頬を伝って、溢れた水があるようだ。
それに、ナギはあえて、気付かないふりをする。
「我が領主、ゴルド様より、共闘の伺いです」
「・・・貴族であらせられる、やんごとなき方が・・・位無き、無名の、反抗組織と、手を組むと?」
サリーの申し出に、ナギは驚く。
助力しようであったり、手を結べ、という申し出なら分かる。
共闘という言葉が、およそ貴族が、元位ある立場だとはいえ、今はもうそれが無いナギに対して、使うものではない。
「ゴルド様のご意志です。打ち倒しましょう。共に、エリュシール国を」
サリーの力強い言葉に、ナギは震えた。
ゴルド「レジスタンスのリーダー女の子?じゃあ、サリーお願いできる?女の子同士だし」
サリー「もちろんです!」
ヴォルク(いや・・・結構威圧感はあるけど、まぁいいか)




