第74話 褒美、からの、驚愕
「さて、ここからは褒美の話をしよう」
王が改まって言う。
エドガー伯爵はもう先のエリュシール国対応をゴルドに全任せされた発言のことで、特に頭が回っておらず、ゴルドが、とりあえず、ははっ!と威勢よく応える。
「隣国との最悪戦争となれば、先立つものも必要となろう。とりあえずの資金を用立てるが、足りなくなれば追加も申し入れれば用意する」
「なんと!もったいなきお言葉!」
言葉ではなく金銭をくれるのだが、まぁゴルドにとってはラッキーという程度のものだ。
ありがたく受け取る。
「それと、此度の研究所破壊、人命の救助、隣国の闇を見つけ出したこと、これらに報いたい」
そこで王は言葉を区切り、ゴルドを見据える。
ゴルドは、あれ?お金が褒賞では?と不思議に思うが、王の言葉を待つ。
「しかし、この後、隣国との戦争を任せるとなると、より大きな成果となろう。今の分で渡すのは、かえって褒美が矮小なものになってしまう」
王は再度ニヤリと笑って、宣言した。
「隣国を見事打ち破れば、アイハンド男爵よ、陞爵として、子爵を与える」
「え、それはちょっと・・・」
ゴルドが素で返しそうになったので、エドガー伯爵は正気を取り戻し、ゴルドに覆いかぶさる。
「おぉ!なんと!王君より子爵を頂けるなど!身に余りある光栄!我が親族のアイハンド男爵も、若輩ゆえ取り乱しましたが!嬉しさのあまり茫然自失しておりまする!」
さすが伯爵をするだけあって、王の目前で、堂々と誤魔化す。
王もうんうん、と満足そうに頷く。
これにて、王との謁見は無事終わった。
ゴルドは勝たねばならない戦を前にして、勝ったら責任が重くなる罰ゲームを自覚しながら、前に進まねばならなくなった。
家令、町長、ローガン、美月と内政面々が集まり、エドガー伯爵とゴルドから、王との謁見内容を伝える。
「え?子爵?よくゴルドさん受けましたね?」
「いや!受けて当たり前だから!昇爵断るとかあり得ないから!」
美月がゴルドの性格からして、断ると思ったのに、すんなり受けたことに、つい言葉を漏らす。
エドガー伯爵はそれに丁寧に突っ込む。
「まぁ、今すぐではなく、隣国を打ち破ってから・・・この最中で、このご報告は心苦しいのですが・・・」
ゴルド達が、どうするよ?とエリュシール国の事で頭がいっぱいの中、ローガンが申し訳なさそうに挙手をする。
「どうしたんだローガン?」
ゴルドが珍しいとばかりに聞く。
各位が、思い当たる報告にピンと来ず、首を傾げるなか、ローガンはためらいながらも話を進める。
「ビィンセント、我が騎士団の部下より、怪物の山の気配が不穏であったと報告があった」
ゴルドの顔に緊張が走り、家令も町長も強張る。
美月だけ、まだそれだけではなんとも、と言いたげな顔だが、エドガー伯爵も同じようだ。
「ま、まってくれ。スタンピートの事かもしかして?アレは一年も経ったかぐらいで、早すぎないか?」
エドガー伯爵の狼狽えぶりからも、信じられないという口ぶりが伝わる。
「ビィンセントは知っている。実際にスタンピートに従軍しておったからな・・・とはいえ、おっしゃる通り、騎士1人の気配では、断定できないだろう・・・そこで、転移魔法使いで山の各ポイントを確認した」
ローガンはしれっとそう言うが、実際は少し違う。
ワカバ達の遠隔操作カメラ、を複数台稼働させて、山の様子を隅々まで確認したのだ。
そこで、目撃してしまった。
「モンスターの・・・スタンピートの出所が分かった」
ローガンの重い口が開く。
ゴルドは目を見開き、先ほどから喋らない。
家令は察する。
ゴルドにとっては、家族を奪ったスタンピートだ。
その胸中は、想像できる。
町長は、静かに口を開いた。
「出所、というのは・・・過去長い歴史で、掴むことのできなかった、スタンピートの原因、ということか?」
「そう、捉えてくれて構わない」
ローガンの低音の声が響き、誰もが驚愕する。
ローガンに注がれる視線と、時間が止まったかのような冷たい空間が、少し震える。
「怪物の山の奥地で・・・次々とモンスターが出てくる洞窟があった・・・そのすぐそばに、研究所とよく似た造りの、小さな建物もあった・・・中にはもう誰もおらんようだがな」
しばらく、全員が黙る。
色々と、本当に色々と考えが巡っているのだろう。
モンスターの今の数は?
似たような洞窟は他にないのか?
なぜ洞窟からモンスターが?
近くにエリュシール国の研究所に似た建物があったとは、どう言うことか?
スタンピートの歴史より浅い隣国が、何か関係あるのか?
誰もが思考の泥にハマった中、ゴルドが立ち上がった。
勢いよく立ち上がったから、イスが後ろに倒れる。
全員が、一斉にゴルドを見た。
「スタンピートを迎え討つ。準備にすぐにかかろう。避難計画と、戦闘準備を」
ゴルドの声は、穏やかだった。
全員がすぐさま返事をして、立ち上がる。
美月は、頭を切り替えて全員に呼びかける。
「町長とフィオは町と村の領民避難計画を。家令と私で、戦闘準備に向けた食糧、軍備の計算と用意を。騎士団長はヴォルクさんと合流して、騎士団準備と、デジマから戦闘に参加してくれる人を集めてください」
素早い指示の振り分けに、エドガー伯爵は驚く。
なんと、堂々とした采配か。
ゴルドは続いて、ヒロを呼ぶよう、リンゼに頼む。
「エドガーおじさん。悪いけど、ウチの王様にも話していない部分、見てもらうから。いいかい?」
エドガー伯爵はまた驚く。
ゴルドの、彼のその毅然とした態度を見たことがなかったからだ。
だが、多くは語るまい。
「分かった。行こう」
エドガー伯爵は、すぐに頷いた。
親戚の子供だと思っていたが、そりゃそうだ、彼はこの地の領主だ。
親戚のおじさんらしく、力になろう。
そうエドガー伯爵は心の中でだけ思い、ゴルドの後に続いた。




