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第72話 エドガー伯爵



髭を蓄えた、ロマンスグレーの髪色をした男が、客間にて座っていた。


引き連れている護衛の数は、ゴルドの3倍は多い。


しかも、全員、歴戦のベテランのようで、目の座り方が違う。



ゴルド側の首脳陣、家令、町長、ローガン騎士団長はもう揃っており、美月、ヴォルク、ミハエルもいる。


残すは、ゴルドだけがいない。




「ねぇ、逃げてないよね?ゴルド君、めんどくさいからって逃げてないよね?」



髭の男、威厳ある見た目と裏腹に、発した言葉は、どこか情けないセリフであった。



「ご安心ください、プライス伯爵閣下。間も無く来ます。お時間をお掛けしてしまい、誠に申し訳ございません」



家令が代わりに答える。


エドガー伯爵は、家令と町長、ローガンは知っているので、少し安心する。

彼等は逃げられたら、ゴルドを追いかけていますといつも答えるので、今回は大丈夫そうだ。


しかし、それよりも気になる。



新たな家臣だろうか。


メガネの女性。気品があり、凛々しい女性の印象だ。


そして、無骨な只者ではない男。あの目は、相当な修羅場を潜った目をした兵士の目だ。


そして、エルフ。

見かけること自体、稀な種族が、何故ここに・・・?



エドガー伯爵は、もうゴルドが新たに集めた部下を見るだけで、猛烈嫌な予感がしていた。



そして、美月達側も、目の前にいる伯爵という、この地域一帯の首領(ドン)を前に、めちゃくちゃ緊張していた。


家令たち3人は、慣れた様子だが、美月は元の世界はただのOL。

偉い人にお茶を出してそそくさと退散するくらいの経験しかない。


ヴォルクが偉い人と会うとなったら、それは暗殺でしかない。


ミハエルも、隠れ住んでいたエルフとしては、人間の偉い人と会うなど経験はない。


むしろ、エルフの中では自分の父親が一番偉かったぐらいだ。



経験のない、プレッシャーの中、双方が沈黙に耐えている。


張り詰めた空気は、嫌な緊張を運んでいた。




「ガチャ」




「あ、エドガーおじさん。ごめん待った?お待たせ~」




ゴルドが、全く空気を読まない入場を果たした。



まるで、親戚のおじさんに挨拶をする子供みたいだが、まぁ、そう間違いでもないのが困るところだ。


伯爵側の護衛達は、しかし慣れた様子で、特に反応しない。


家令たちも、当然慣れている。


美月達だけが、いつものゴルドと分かっているが、滝のような汗を流して、いいの?合ってる??と自分たちの上司である、ゴルドを見ていた。






「ゴルドくぅぅううん!!もうなんか言いたいこといっぱいあるけど!とりあえず無事で良かったよぉぉぉおお!!」





髭面の伯爵が、ゴルドを見るなり、かけ寄り膝をついて、ゴルドの服の裾を掴みながら涙を噴水のように流している。



本気の涙だ。


笑ってはいけないが、本気の心配した涙なのである。



「君のことよろしく頼むって、君の父上に言われているんだからね!てかゴルド君しか跡取りいないのに!あの山に行くわ、変な研究所見つけるわ、隣国とのドンパチ始まりそうとか!勘弁してヨォぉおお」


「うん、エドガーおじさん、ごめん。でも信じて欲しい、オレも勘弁してと思ってる」



おいおい泣く伯爵とは違い、感情に差はあるが、ゴルドは親戚のおじさんに申し訳ないと謝る。




気を取り直して、エドガー伯爵とゴルドは席についた。



リンゼもちゃっかりゴルドの側に立っているので、これで全員揃う。



話のあらましは、魔法電報で箇条書きしており、またこの客間に来た時点で、伯爵自身及び、伯爵の側近にも書類を渡して読んでもらった。



「とりあえず・・・どうしたらいいかなエドガーおじさん」


ゴルドがいつもの全振りよろしくな直球を伯爵に投げつけた。



「どうしたらって・・・僕が教えて欲しいくらいだよ。とりあえず、僕も王様に投げるっきゃねぇって思ってるから」



エドガー伯爵も大概な性格だった。


しかし、それよりもゴルドは真剣な顔をして、伝えねばならないことがある。

ゴルド自身、一息ついて、空気を変えた。



「エドガーおじさん・・・」


「な、なんだい?改まって・・・」


明らかに真剣な顔と声色になったゴルドを見て、エドガー伯爵は嫌な予感がする。




「超特大の秘密を知ってしまうのと、まぁ、これくらいなら、の秘密で済ませるの・・・どっちがいい?」



「後者でお願いね」



ゴルドの問いかけに、エドガー伯爵は1秒の壁を超えて、音速で返事をする。



「閣下、よろしいのですか?」


さすがに側近の家臣が、エドガー伯爵に物を申す。


だが、エドガー伯爵はむしろその家臣を見て信じられない、という顔をした。



「お前はゴルド君を舐めている。隣国の戦争の火種とか、違法な人体実験とか、なんか転生とか訳のわからない情報を、余すことなくもう伝えてきているんだよ?これを超える秘密だよ?やだよ!知りたくないよ!」


エドガー伯爵は迫真の表情で、文字通り怯えていた。

ワナワナと震え、目を閉じる。

もう見たくないと物理的に見るのをやめた。



「いや、ですが・・・もしかすると、そこに座す、新顔の情報かも知れませんよ?」


家臣も引き下がらない。


やはり、彼も気になるのか、美月にヴォルクにミハエルを見ている。



「じゃあお前が聞けよ!僕は聞かないからな!」


いや、それじゃあ意味がないのですが・・・と家臣は困り顔をするので、ゴルドがまぁまぁと間に入る。




「ご安心ください。こちらにいる私の新しい家臣達は、『これくらいならの秘密』のレベルですので、普通に紹介できますよ」



「ほらぁ~!お前が深追いするから、この目の前のとんでも人材よりもやばい秘密って事じゃん!超特大の秘密の一端知っちゃったじゃん!お前どうしてくれるのよ!」


「も、申し訳ありません」



家臣に、割とガチでキレ始めるエドガー伯爵に、ゴルドは、あれ?火に油注いだ?と首を傾げる。




「わかった。ゴルド君、これだけ教えて欲しい。その特大の秘密は、君の手中でどうにかなる物だろうか?」



ここで、さすがに家臣達の不安を取り除く必要もあると思ったエドガー伯爵が、ゴルドに尋ねる。



一応、ゴルドが伝えようとした特大の秘密とは、転生で呼んだ一部の者たちだ。



まずは宇宙組ワカバたち。

さすがに作り出す科学技術が、未来過ぎるから。


次に不死身のシルヴィ。

理由も不死身だから。

魔法のファンタジー世界だが、不死身はいない。


そしてベルネシア。

異世界では伝説の魔女だし、やれる事が神がかりになんでもありなので、露見するのはヤバい。


最後に、新人のノイル、ルノア兄妹。

兄ノイルはまぁ、ゴルドは破壊の力?程度にしか思っていないので、良いのでは?と思っていたが、ヴォルク達はそんな生やさしいものじゃないと却下。


ルノアの時戻しも、誰もまだ見ていないが、問答無用でヤバい能力なので、特大の秘密入りである。




ヒロはまぁ、規格外だが、自然物創造だけ隠しておけば、わりかしどこにでもいる英雄候補なので、グレーとしている。




以上の内容が特大の秘密なのだ。





「オレの責任のもと、外には漏れないように出来ると断言しよう」



ゴルドは自信を持って言った。


まぁ、全員要するに部下だし、大事にするよ、程度にしかゴルドは思っていない故の回答である。




「ならばヨシ!特大の秘密はそっちで抱えていてね!」


力強く答えるエドガー伯爵に、もう、側近は遠い目をして何も言わなかった。






「で?それよりマシな秘密って何?」



「あぁ、オレも転生魔法で異世界人呼んでいるんだ。彼等がその異世界人ね」



「ゴルド君!!本当にそれは特大の秘密じゃないのかい!?もうサラって言って良い情報じゃないよ!?」



エドガー伯爵が、立ち上がり両手で顔を押さえて天井を仰いでいたが、仕方がない。




転生魔法はもう伝えておかないと、敵も使用しているのだ。




ゴルドは、アイハンド家の先祖が残したものであると、入手経路と、実際の魔導書も見せた。



エドガー伯爵が、触っても良いかと聞く。


ゴルドが大丈夫だと答えると、エドガー伯爵はしばらく考えてから、口を開いた。



「マルク、君が触ってくれ」


「私ですか!?」


エドガー伯爵が、今度は家臣に命ずる。



「だって、触りたそうな顔したから」


「してません!そんな顔してませんよ!あ!さっき特大の秘密知りかけたからって、意趣返しですか!?」


「ち!ちげーし!なんか触るの怖いから、マルクなら大丈夫かなって」


「何ですかそれ!私なら大丈夫の意味がわかりませんよ!」


エドガー伯爵と家臣のコントが始まったので、ゴルドは、安全ですよ?と触ってみせる。


最終、家臣であるマルクが、エドガー伯爵により無理やり羽交締めにして触らせて、何もなかったのでこのやりとりは終わる。



体力を使ったためか、エドガー伯爵は、はぁはぁと息が上がっているものの、顔は真剣なものになり、語り始める。



「さて。本来なら、ゴルド君より、そこに居る転生者たちの話を聞きたいのも山々だが、本筋とは違うので割愛させてもらう。重要なのは、隣国の脅威と、そのしでかした悪事。こと、人体実験などと言う、非人道的な行為は、徹底的に糾弾すべきだ」



先ほどまでの家臣とのプロレスが無ければ、実に堂々とした上級貴族の振る舞いなのだが、美月は何処となく信用しきれない目でエドガー伯爵を見ていた。


なお、ヴォルク、ミハエルも同じ目をしている。



しかし、エドガー伯爵は気にする素振りもなく、話を進める。



「ゴルド君。王宮に登城しよう」


「え?エドガーおじさんだけでいいじゃん」



エドガー伯爵の言葉に、ゴルドは反射的に答える。


「いやいや、無理だよ。こんな無茶苦茶な話、本人からの方が絶対良いって」


「いやいやいや、オレ小童男爵家よ?恐れ多すぎて、王様と話す立場にないよ。おじさんが話さなきゃダメでしょ」


「こんな緊急事態、爵位なんか関係ないよ。しかも、ゴルド君が行ってないなら話は別だけど、行っちゃったんでしょ?研究所?見てきたんでしょ?もう当事者じゃん。話すしかないじゃん」


互いに王への説明を押し付け合う2人だが、最終、エドガー伯爵の家臣が間に入り、2人で報告がベターであるとして話はまとまった。



「領主不在は困るだろうから、まずはこっちで王宮に魔法電報を今から打つ。至急案件として、王家にご報告の時間を確保できたら、僕のお抱え魔術師で転移しよう。それが一番早いし、帰りもすぐだよ」


「悪いね~、エドガーおじさん」


まるで、親戚のおじさんに、まんま車を乗せてもらうノリで王宮行きが決まった。



ゴルドは、伯爵家のお迎えのため、食事を用意する。


そこで、カレーが振舞われて、またエドガー伯爵の度肝は抜かれるのだが、2人は楽しそうに、食事をした。


本当に、親戚のおじさんと、それに懐いている子供にしか見えない。



美月はそんな風に、ゴルドとエドガー伯爵を見ていた。





翌日、王宮からの魔法電報速達が来る。




即刻、登城せよとの、王命が下った。




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