第69話 領主帰領
昨日、投稿し損ねたので、早朝投稿です笑
研究所の大爆発を目の前にして、ヒロは一瞬、頭が真っ白になった。
まさか、自分の攻撃が激し過ぎたのか?
やり過ぎて、ゴルドたち諸共やってしまったのか?
ヒロは逃げ惑う敵兵を全て無視して、瓦礫とかし、未だ燃え盛る研究所の残骸の上を走る。
ゴルドたちが何処にいるのか、全く見当がつかない。
「ゴッド様!ゴッド様ぁぁああーー!!」
ヒロが泣き始めて、ウロウロ走り、もはやみる影もない研究所跡を、ゴルドたちの無事を祈り走り回る。
一際大きな瓦礫の中に、人の腕が出ている。
反射的に、ヒロは瓦礫をどける。
全然知らない敵兵の女だ。
かろうじて息があるので、一応優しく地面に寝かす。
そしてまた瓦礫をどかす。
見つかるのは、逃げ遅れたのか、敵兵ばかりだ。
どれくらい瓦礫をどかし続けたか、時間がわからないほどヒロは焦り、瓦礫をどける。
「うわーー!!ゴッド様!ゴッド様ーー!!!」
「ちょっ、ヒロ、声でかい!オレここにいるから!」
いつの間にか、後ろからゴルドたちが現れる。
北方向に逃げて、爆破から逃れたゴルド達は、どうやって仲間と合流するか思案した結果、ゴルドの「とりあえず戻る?」という提案で、戻ってきたのだ。
「うわぁーーん!!ゴッド様!よかったよおおおお!!」
ヒロがギャン泣きしてゴルドに抱きつく。
ゴルドが、いつものはっはっはと笑いながら、ふと、ヒロの周辺にいた瀕死間際の兵士たちを見る。
「・・・さて、治療だな」
ヒロが落ち着いたので、ゴルドは優しくヒロの頭をポンポンすると、敵兵達へ治癒魔法をかけた。
ビィンセントも、さすがに止めない。
アラクネたちも、何も言わずに見ている。
「けっ、散々殺しといて、何でここで助けるかね?」
ノイルもトコトコやってきた。
似たような服装をした、一見して仲間を連れているように見えるほど、人が増えている。
「おぉ、ノイル殿。無事だったか!よかったよかった。逃した皆を守ってくれていたんだな。ありがとう」
ゴルドが屈託のない笑みでそう言うと、ノイルは顔を赤くして喚く。
「別に守ってねぇよ!勝手にこいつらが来ただけだ!てか!爆発するとか聞いてねぇぞ!」
「それはオレも知らん。一歩遅れていたら、ヤバかったな」
ゴルドがそう言って、乾いた笑いをする。
ビィンセントは笑い事じゃねぇでさ、と心底疲れたように言う。
「運の良し悪しなんて、考えるだけ無駄と思ってますが・・・ゴルドの坊ちゃんは桁違いに良い。そうまざまざと見せられますぜ」
「運がいいわけねぇだろ、こんなのに巻き込まれてさ」
ゴルドがそう言うと、確かに否定しづらい。
「でも、貴方が来てくれたから、私たちは助かった」
アラクネの少女が、ピシャリと言った。
頷くように、オーガとケンタウロス、そしてノイルの後ろにいる逃げた者達も頷く。
ゴルドはヒロと顔を合わせて、ヘラっとお互いに笑った。
「さぁ、帰ろう。皆も、ちと苦しいと思うが、頑張って歩けば、オレの領は安全だ。来てくれるかな」
ゴルドの呼びかけに、全員が頷く。
「敵兵は置いていくの?」
ヒロが聞くと、ゴルドはそりゃそうだと答える。
「彼らだって帰る家があるだろう。逃げた兵達と同じく、逃すさ」
ゴルドは温情でそう言うが、助けた敵兵達は、困り顔で、なんなら、縋るようにヒロとゴルドを見る。
「私たちも・・・そちらに逃げていいですか?」
ヒロが最初に助けた、女の兵士が、震えるように言う。
そこに、愛国心や、国に帰りたいという空気は微塵も感じられず、他の兵士の面々も同じだった。
ゴルドは不憫に見えて、ビィンセントに目配せする。
だが、ビィンセントはさすがに難しい顔で返した。
「敵兵をさすがに連れていくのはちょいと・・・足がつきますし、密偵の可能性もありますぜ?」
ビィンセントの懸念も尤もだ。
ヒロは辛そうな顔をしつつ、この件については口出ししないと強く意志を持って、口をつぐんだ。
震えて、懇願する兵士の女を目にして、ゴルドは悩む。
すると、更に声がした。
「良いんじゃないか。むしろ、貴重な情報源だ」
ヴォルクである。
火薬や土埃に塗れて、すっかり汚れている。
シルヴィにリンゼもいて、子供達と、後々合流したラミア達も居た。
シルヴィとリンゼは、小さいが傷があったり、汚れがこれまたひどい。
ゴルドはすぐにリンゼにかけ寄り、無事かとリンゼの肩を寄せる。
「無事でございます。ゴルド様にあっても、無事で何よりです」
「・・・すまんな。無理をさせた」
「いいえ。この程度、なんて事もございません」
リンゼがいつもの無表情の中に、誇らし気な、やり切ったという自信を見せた。
ゴルドはそれを感じて、優しく笑う。
「ここにいるざっと見て6人なら、面倒見れる。なんなら、途中で反逆しても、オレ1人でやれる。まぁ、どうせ捨てられて爆破に巻き込まれていた連中だ。そんな事をする国に、忠誠なんざ残ってねぇだろう」
ヴォルクのひと押しで、ゴルドは分かったと言い、ついて来たい者は拒まないと宣言した。
こうして、最初はたった6人だったゴルド一行は、もはや人数だけなら70名近い、集団で帰ることになる。
まぁ、人ならざら者も混ざってはいるが、ゴルドからすれば些細な違いである。
研究所からはさすがに離れようと、夜道を歩くゴルドたちの、最後尾でビィンセントは振り返る。
嫌な、雰囲気を「山」に感じた。
獣の叫び、木々のざわめき、急な冷たい風。
刺すような危機感が、嫌な事を思い出させる。
「・・・あの時みたいな、雰囲気出しやがって」
忘れもしない、あの悲劇のスタンピート。
それを彷彿とさせる予兆に、ビィンセントは嫌な胸騒ぎを覚えた。
大人による夜通しの見張りで、野宿を過ごして、行きより時間がかかったが、無事領に帰ってきた。
先頭がヒロとゴルドなので、デジマの入り口にいた騎士団員は喜んで手を振ったが、後々の子供たちはまだしも、アラクネ、ケンタウロス、オーガ、ラミア、蠍男、スライム、ハーピィ、アルラウネと続いた時は、さすがに硬直していた。
美月とフィオが驚いた顔で迎える。
いや、驚くというか、何と言えば良いのかわからない、という表情だ。
まぁ、ゴルドだから、何かはするかも、と思っていたが、やはり予想は外れるものである。
ローガン騎士団長に、デジマ町長のベルネシアも同席して、とりあえず新たに連れてきた彼らの対応を考える会議が始まる。
家令とフィオの父である町長は、大勢きた彼らの受け入れ対応に回ってもらった。
「さて、話すことは多いのだが、どれから話す?」
ゴルドがてへっ、と舌を出しながら言う。
美月は終わらない書類が追加されていくのを想像しながら、とりあえず無事に帰ってきた事を労う。
「それで・・・隣国の研究所ですか・・・なんで領主自らがこんなクソ危険な潜入を??」
美月が素で驚く。
ローガンはもちろんブチギレたあとである。
だがまぁ、致し方なしに巻き込まれた部分もあり、情状酌量はしている。
なので、代表してゴルドとヴォルクが拳骨を喰らった。
「すまんな、ヴォルク」
「いや、いいさボス。悔いはねぇ」
「本当なら、あっしが提案して押したんで、あっしも拳骨受けるべきなんですがね・・・」
ゴルドたちが拳同士を突き合わせて、気にするなと男同士で熱く語る。
ローガンも、それ以上は特にとやかく言う気はないようだ。
「とりあえず、隣国、エリュシール国は、最重要敵国として想定するわよ」
美月は険しい顔でそうゴルドに意見する。
「あぁ、それで頼む。遠からず、向こうから宣戦布告なり来るだろう」
ゴルドも覚悟を決めた顔をする。
だが、残念ながら来ないのだ。
しかし、今ここだけの情報では、それに気付けるものはいない。
ビィンセントも、死んだ領主は自国内からの刺客と思っていたと報告はしているが、その大司祭領主が生きて報告してるならまだしも、死んでいるので意味がないと判断された。
「次に、救出した者たちの処遇、対応についてですわね」
フィオがリストに目を通す。
子供30人は、隣国で集められた孤児ばかりで、そこは特に問題がない。
それ以外は、中々に頭を悩ませる。
「まずは簡単に判断できそうなのは、捕虜の敵兵6人かしら」
フィオがローガンの方を見る。
軍事畑の判断が欲しいので、ローガンは思案ののち答える。
「すぐさま解放はあり得ぬ。まずは情報の提供に協力してもらうため、騎士団詰め所で缶詰だな。その後、当人たちの一応の希望は聞くが、1年は騎士団で働いてもらう」
判断の難しいところだが、怪物の山はアイハンド家が管理している山だ。
侵略行為かつ、非人道的な研究所を作っていた側の兵士だ、1年の懲罰的監視下に置くのが妥当という事だろう。
まぁ、本当なら捕虜であれば返すのが正しいのだが、当の捕虜たちが帰りたくないと言っているので仕方ない。
「うむ。そうしてくれ」
ゴルドが承認する。
「次に、実験体にされていた人々・・・酷いですわね」
フィオが顔を背ける。
年齢は子供ではないものの、若者ばかりで、ツノが生えていたり、動物に無理やりされているなど、おぞましい姿にされている。
「私たちに任せて」
ワカバが、毅然と手を上げて言う。
その横に、ベルネシアもいる。
「ワカバたちの先進医療と、私の医学魔法も併せて、まずは彼らの治療を行う。元に戻せるよう、努力しよう」
ベルネシアの真剣な面持ちに、並々ならぬ思いを感じとる。
きっと、元の体に戻すと言うのは、相当難しいものなのだろう。だが、2人の様子からして、全く希望のないものではないと感じ取り、ゴルドは実験体にされた人々の救済を2人に任せることにした。
「ありがとう。頼むよ」
ゴルドからの、真剣な眼差しと、しっかりとした声色に、2人も口を固く閉じて、強く頷く。
続いての対応が、アラクネ達だ。
彼女達は、この世界の存在ではない。
どのようにして召喚されたのかは不明だが、彼女達の願いは、ただ一つ。
「元の世界に戻りたい・・・そりゃ、そうだよね」
美月が報告書を読み、当たり前だと頷く。
この世界に、彼ら彼女らの居場所はない。
どんなに言い繕っても、ゴルドが馬鹿みたいにガバガバな境界線持ちだとしても、住む世界が違いすぎる。
何より、本当に彼女らはこの世界にそれぞれ1人しかいない。
元の世界には、仲間がいる。
「アイハ、どうだ?彼らを帰せるか?」
ゴルドはアイハをあらかじめ呼んでおり、手を組みながら、恐る恐る見解を聞く。
「え?当たり前だよ。元の世界に帰れるよ」
アイハはキョトンと、何を当たり前な?と言う顔で答える。
「さっすがウチのアイハたんだ!召喚魔法に関しちゃ右に出る者はいないぜ!」
ゴルドが喜び浮かれながら、アイハを1人で胴上げする。
喜んで胴上げされるアイハ。
だが、周囲は改めて、この規格外の妖精は、何がなんでもこの領から出してはいけないと心に誓っていた。
「あ、ついでに聞きたいんだが、彼らがなぜこっちに来れたとかは分かるか?」
ゴルドは思い出したように、アイハへ質問する。
だが、さすがにそれは難しいのか、アイハがうーん、と悩むようにしかめ面をする。
「転生魔法は、もちろん特別で難しい魔法だけど、私だけのものじゃないから。他の誰が使えてもおかしくないよ」
アイハが頑張って答えるのはそこまでで、あの研究所でどのような召喚がされていたかまでは、さすがに見通しはできなかった。
「まぁ!帰れるならとりあえずはそれで良い!きちんと元の世界はもちろん、仲間のところへ帰れるのか?」
「当たり前だよゴルちゃん!私をそこらの妖精と思わないでね!きちんと本人が知ってる座標にセットするもん!」
そこら辺の妖精程度に思っているのは、間違いなくゴルドだけである。
だが、とりあえずは、全ての救出者に、穏便な道を示すことができそうで、ゴルドはホッと胸を撫で下ろした。
「なぁ・・・オレも、帰れるのか?」
ふと、1人の少年の声がする。
今回の件で、研究所を知るきっかけとなった、重要参考人として会議に参加していた、ノイルだ。
「オレも、元の世界に帰れるのか?」
そう聞く彼の表情は、固く、険しいものであった。
まるで、戻ることが地獄のような・・・。
辛い、現実の世界に、目を覚まさなければならないような、そんな悲壮感を湛えていた。
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