第66話 最奥の救出、そして剣
ゴルドとビィンセントが、軍服の女を前に、先へ進む。
しかも走って。
ヒロとヴォルクとノイルの陽動も、時間が経てば、物量にやられる。
この研究所の兵力がどれほどかは不明だが、一番面倒なのは、エリュシール本国から応援が来ることだ。
なので、時間との勝負である。
シルヴィとリンゼが子供達を逃すのも、実質戦えるのはシルヴィ1人。
とにかく早く、合流できるよう、ここの者達を逃す。
「おかしいな・・・山のスタンピートを気にしていたはずなのに・・・」
ゴルドは当初の予定が、すでに影も形もない事に気付くが、もうどうにもならない。
新たな牢屋が見える。
拘束具や個室に閉じ込められた、異形のモンスターにも見えた。
だが、共通する部分がある。
人の姿が残っている。
蜘蛛の胴体だが、上半身は少女だ。
筋骨隆々の男だが、下半身は馬だ。
そんな、人としての部分も有する者達が、複数いる。
そして、そのほとんどが、痛めつけられたのか、傷や鎖で繋がれ、モンスター部分に杭が埋め込まれている。
それは、痛々しい光景であった。
「解放するぞ」
「おっま!バカなの!?見てよ!こいつなんかアラクネよ!蜘蛛と人のモンスターだし!こっちはケンタウロスだし!ハーフオーガとか!危険な奴らがわんさかと!」
女がヒステリーに喚く。
「奴隷云々にこだわるバカは見たことあるけど!コイツらはモンスターだっての!?お前もモンスター倒すだろ!!」
「あぁ、倒すよ。向こうが攻めてくりゃな。で?コイツら、お前の国襲ったのか?てか、ここにいたのか?こんなモンスター知らんぞ?」
ゴルドの矢継ぎ早の質問に、女は詰まる。
黙る女を見て、ゴルドは鍵を開けようと扉に手をかける。
「あー!待て待て!居ねーよ!コイツらこの世界にいねぇよ!召喚魔法で呼び出したんだよ!これでいいか!」
何を勘違いしたのか、正直に言えばゴルドが止まると思って、女はゴルドの腕にしがみ付き、止めようとする。
「私コイツらが苦手だからここ来たくなかったんだよ!気持ち悪いし!怖いし!コイツら檻から出すとか無理!マジで無理!!生理的に無理!!キモい!」
ゴルドは女の顔面にアイアンクローをする。
力一杯、握力を持って女の顔面を握る。
「いだだだだだだ!!!」
「もう喋るな」
ゴルドだって、彼らを見るのは初めてだ。
半分人で、半分怪物の見た目。
なるほど、リアルで相対するのは、なかなかに度胸がいる。
だが、この研究所は異常だ。
そんな者達を閉じ込めて、動物園だの、生態系の研究をして、彼らとの共存共栄を目指しています、などという雰囲気は微塵も感じられない。
まぁ、それが良いのかどうかは、また別問題だが。
むしろここでは、ただ閉じ込めて、良いように使おうとしている。
彼らの能力だけを、実験で抜き出し、人に移植するぐらいのことはしそうだ。
そのための研究で、彼らがどれだけ傷付こうと、全く意に介することはない。
醜い怪物だなぁ、程度にしか、思っていない。
自分だけ良ければ、何をしてもいいというこの女に、ゴルドは吐き気がした。
ゴルドはちゃっちゃと女を黙らせ、扉を片っ端から開けた。
モゾモゾと、異形のもの達が動き出す。
ビィンセントも、さすがに経験のない相手に、ビビる様子を見せるが、ゴルドは毅然という。
「えー、私はゴルドです。この研究所がなんなのかよく分かりませんが、皆さんが捕まっているということだけは見てわかったので、とりあえず逃します!逃げてください!では!」
ゴルドは杭が刺さった奴の杭を抜き、治癒魔法をかける。
鎖をちゃっちゃと解いて、ビィンセントに拘束具を切らせる。
「バカだ!こいつマジもんのバカだ!イカれてやがる!!」
女はそう言いつつ、チャンスだと今更ながら気づき、逃げようと這いつくばってもと来た道を行こうとした。
「・・・どこ行くの、ヒルイザ少佐」
蜘蛛の少女、アラクネが、解放されて真っ先にその女を、蜘蛛の足で踏む。
「ぎやーーー!!一番嫌なやつが来た!いやーー!!来るなぁぁ!!!」
泣き喚く女は、過呼吸でも起きているのかと思うほど、息荒く震えている。
「忘れない・・・貴方、私の見た目が気に入らないから、硫酸かけてきたの、忘れてないから・・・」
怒りのこもった目に、相当な恨みが垣間見える。
この少女たけじゃない、異形の者達が、女を囲む。
女は喚き、嗚咽と涙に鼻水、そして失禁し、最後には泡を吹いた。
ゴルドとビィンセントは、自業自得で助ける理由もないと、その女を捨て置き、先へ進もうとした。
だが、異形たちは女には何もせず、ゴルド達に顔を向ける。
ケンタウロスの男が、先に口を開く。
「もし、先を急ぐ恩人らよ。急ぎなら、我が背に乗らぬか?」
思いもよらぬ申し出に、ゴルドとビィンセントは驚く。
「・・・そなた、良い声だな」
ゴルドが真っ先に思った事を口にする。
何名か異形が笑った。当の本人である、ケンタウロスは少し顔を赤くして恥ずかしがるが、咳払いしてごまかす。
「お褒めいただき恐縮だが、そんな事よりも、助太刀いたすが?」
「ありがとう!助かる!」
ケンタウロスはゴルドとビィンセントを背に乗せ、颯爽と走る。
それに、アラクネとオーガが付いてきた。
「他の者達は、もし良かったら鉄の扉の先に、シルヴィとリンゼという女2人が、子供の奴隷を30人ほど連れて先に逃げている!それを助けてくれるとありがたい!」
ベビのような下半身の女と、鳥のような腕に翼が付いた鳥人間、蠍の下半身の男、ブヨブヨな液体のような者、花が体に咲き乱れた女が、ゴルドのその言葉に反応して、鉄の扉の方へ向かった。
こういう時、自然と指示ができ、言われた者達が素直に従う辺り、ゴルドは、やはり上に立つ者としての何かがあるのだろうか。
もっとも、それに一番気付いていないのは、当人のゴルドであるのだが、今は重要ではないので触れないとする。
泡を吹いて痙攣している女は、全員に放っておかれて、その場でのびていた。
ケンタウロスにより、足早に進んだゴルド一行は、とにかく檻を開けまくる。
人はもちろん、動物にしか見えないモノも関係なく、とにかく開ける。
開けて、逃げろとだけ言って去る。
奥へ行く度にそうすると、遂に最奥らしき扉に辿り着く。
しかし、その扉は鍵がしてあった。
「んだよ!あのクソアマ!鍵かかってるじゃねぇか!」
ゴルドがシャウトして、捨ててきたあの女に恨み言をぶつける。
だが、仕方ない。
とりあえず開錠できないかガチャガチャ触ってみる。
ドアノブ型の扉で、重い鉄製。
入り口の扉を彷彿とさせるが、あの金庫のダイヤル錠と違い、こちらはそのような番号のついたものは無い。
「アテがやろうか?」
オーガの女が力を込めて扉のノブを押したり引いたりするが、全く歯が立たない。
「くそ・・・中も見れないし、そもそも捕まっているかも分かりやせんぜ?坊ちゃんどうします?」
「どうしますも何も・・・」
ビィンセントが、言葉に出さずとも、暗に戻る選択肢をチラつかせる。
十分、捕まったもの達の解放は出来たはず。
これ以上は時間がかかっており、危険だと、ビィンセントの目が告げる。
「むぅ・・・中に捕まっているやつが居るかどうかが分かればな・・・てか、普通飯なりなんなり出すためにも、穴とか小窓みたいなヤツ、付いてるはずだろ?なんでそれらが付いてないんだよこの扉!」
ゴルドがイラつき、扉を蹴る。
すると、蹴った右下の扉部分だけ、ガコッと開く。
「え?え?なにこれ?」
蹴った本人のゴルドが驚く。
彼には知る由もないが、薄暗い廊下で、黒い扉だったため、よく見えなかったが、扉の右下に、消火部隊用のホースくぐり戸があったのだが、そんな近代の物を知らないゴルド達からすれば、謎の小扉にすぎない。
「小さな扉だな、ご飯これで渡せるか??」
「坊ちゃん、とりあえず覗いてみまさぁ」
ビィンセントがその場に伏せて、小窓から覗く。
すると、扉の向こうには、魔法陣の中央で犬が寝ていた。
「・・・犬っころしかいやせんね」
なんで最奥にいるのが犬なんだ?
ゴルドはもちろん、他のケンタウロスにアラクネにオーガも、顔をポカンとする。
「ええい、子犬なら最悪この小窓?小扉?通れるんじゃないか?なんとか呼び寄せよう」
ゴルドも地面に伏せて、小扉から呼びかける。
「あらー!ワンちゃん!こんにちはー!こっちおいでー!おー!よしよしー!」
この非常時に、ゴルドは全力でワンちゃんを呼ぶ。
仲間が外で戦闘している中、ゴルドは全身全霊で、床に身を伏せながら、犬を呼んでいた。
「だ、ダメだ・・・あの子犬、爆睡してる」
ゴルドの呼びかけも虚しく、子犬は起きない。
「私の糸で、引っ張ってみる」
アラクネが、ゴルドに変わり、身を屈めて糸を出す。
それは、子犬にしっかりとくっ付き、ズルズル引きずる。
小扉まで引きずり、少し小扉の方が小さく感じたが、動物特有の柔らかい体で、何とか通った。
「おぉ!素晴らしい!助かったよ!」
最後の救出、子犬をゴルドが抱き寄せ、さぁ逃げようと全員に呼びかける。
子犬はまだ眠っていた。
黒い毛の、耳が尖った子犬は、幸せそうに眠っている。
ケンタウロスがまた颯爽と走り、ゴルドとビィンセントは、あっという間に入り口だった鉄の扉まで辿り着く。
「ん?・・・あの女いたか?」
「見てませんね。どうせ逃げたでしょ」
ゴルドが覚えた違和感を、ビィンセントに聞いて、まぁそうだよなという答えが返る。
「なぁ恩人!どうせならこの研究所の宝物庫も見ていくと良い。すぐ近くだ」
オーガの女がニシシと笑いながら案内しようとする。
「え?いや、それより早く逃げた方が・・・」
「武器やら物騒なものもあったし、この研究所な奴らが持ってたら厄介だぜ」
オーガの言葉に、ビィンセントが反応する。
「坊ちゃん。それは一理ありますぜ。このややこしい研究所が、普通の武器やら物を溜め込んでいる訳ありやせん。面倒な物抱えているなら、奪い取った方がいい」
ゴルドもそう言われるとそうかと思い、彼らとその宝物庫を目指す。
まぁ、目指すというか、本当にすぐ近くだった。
そして、不用心にも普通に扉は開く。
その中には、雑多に剣や鎧の部類と、よく分からない本の類と、銃火器やら爆弾の類があり、パッと見て分からないものの方が多かった。
「ややこしいな・・・なんか適当に幾つかだけ持っていくか・・・」
「旦那!良いものがあるぜ!」
オーガは目端が効くのか、ショーケースに入った、妙に作りの良い鞄を指さす。
そして、おもむろにショーケースを素手でぶち破り、鞄を手にして、そこにあった槍を掴むと、鞄に入れようとした。
「いや、さすがにそれは入らな・・・」
ゴルドがそう言いながら見ていると、あっさり長い槍は鞄に吸い込まれていった。
開いた口が塞がらないゴルド。
ビィンセントが、もしやと思いつく。
「マジックアイテムか?」
「おうよ!アイテムボックスよ。研究員が自慢げに雑談で話してたのを覚えててね」
オーガがニシシと愉快そうに笑う。
気を取り直して、どんどんそこらのものを詰めていく。
正直価値はわからない。
分からないが、ここの奴らが集めたので、碌でもないものと思われる。
ふと、ゴルドはとある剣が目に入り、体が固まる。
「どうしました?坊ちゃん・・・!!・・・」
ビィンセントもその剣が目に入り、同じく驚愕する。
その剣には、家紋が刻まれていた。
見覚えがあって当然である。
ゴルドの家・・・アイハンド家の家紋である。
そして、2人にとっては、その剣の形、そのものに記憶がある。
「長兄・・・ウィルド兄さんの剣だ・・・」
ゴルドは、ポツリとそうこぼした。




