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第62話 一飯の恩




「ところで少年。君はどこの村出身かな?」



シチューとパンを頬張る少年を前に、ゴルドは緊張した面持ちで問う。



ゴルドが真剣な顔をしたので、ヴォルク達も、何か深い意味があるのかと、同じく緊張感を持って事の成り行きを見守る。




「・・・名もない村だ」



ぶっきらぼうに答える少年。



ゴルドは、ふぅ~、と目に見えて安心したように息を吐いた。




(よ~しよしよし。うちに名前のない村はないから、我が領じゃないな!セーフセーフ)



少年が本当のことを言っているのか、ゴルドの領にそもそも移民による隠れ村があったりしたら、と可能性はなくも無いのだが、ゴルドはそこを疑う能がないので、心底安心した。




「さて、少年よ。私の名はゴルド。ゴルド・アイハンドだ。アイハンド領にて領主をしている」



「・・・え?お前、偉い人なの?」



少年が、変わらない表情から、初めて驚きの顔に変わった。



彼すら驚くことを、ゴルドはしているということだが、肝心のゴルド本人はなんとも思っていない。



「まー、偉いといえばそうかも知れないが、別に私は特別でもなんでもないからな」



ふっ、と自虐的に笑うゴルドを見て、少年がまた、顔を曇らせる。


シチューもパンもまだあるのに、何故か食べるのをやめる。



「ん?どした?」



ゴルドが気になって声をかけると、少年はおずおずと言い出す。




「・・・お、お前。領主クビになって、追い出されたんだろ?」




「・・・え?」





少年が、可哀想なものを見るような目で、ゴルドを見ていた。




「だって、領主がこんな少人数で、こんな山奥にいるわけないじゃん。テントだって、貧相なヤツだし・・・」



ビィンセントが、頭を抱える。


だから出発前に言ったのだ、ちゃんとしたテントを用意しようと。


それを、重いし邪魔だから、普通のテントにしようとゴルドが言って聞かなかった。



見ず知らずの孤児すら憐れむほど、領主っぽくないのだ、ゴルドは。




「大事な食糧だろ・・・悪いよ」




「・・・君、いいヤツだね」



ヒロがポロリと、そう自然に言葉がこぼれた。



少年は急に顔を赤くして、らしくないことをしたと思ったのか、少し怒り出す。




「う!うるせぇな!そもそも同情してきたんだから、てっきり余裕のある人間だと思ったんだよ!それが領主とか、ありえないこと言い出すもんだから、嘘つくなっていうか、見栄張んなって言ってんだよ!」



「嘘じゃねぇし!オレ領主だし!」



ゴルドも、さすがに領主って嘘でしょ?みたいに言われると、傷付くのか、必死に領主アピールをする。




「嘘つけ!あの研究所で会った領主とかいうオッサンは!もっと太ってて嫌味な感じだったぞ!どうせそいつに領主の座を奪われて追い出されたんだろ!」



「・・・研究所??」




ゴルドが、急に気になる単語が出てきて、面食らう。



「ほら、この山お前の領だって言うなら、知ってるはずだろ?それなのに、その反応じゃあ、マジで知らねぇじゃん。怪物作り出すために、モンスターやら人間やら捕まえて、実験してるとこだよ。まぁ、最近はオレみたいに転生させた人間も使い始めてるみたいだけどよ」





ゴルドが、ヒロが、ここにいるメンバーが全員、固まる。




少年が、あまりに驚くゴルド達を見て、逆に面食らうほどだった。



ヴォルクにビィンセントは、顔を互いに見て、作戦の練り直しか、この少年のいう情報の裏どりが必要だと、即座に考える。




「・・・少年・・・君の名前は?」



ゴルドは、静かに聞く。



少年は、よく分からない、という顔のまま、聞かれたので返す事にした。




「・・・ノイル」




「よし。じゃあ、ノイル!・・・ちょっとその話詳しく教えてくれる?」




ゴルドは水のお代わりを用意しつつ、ノイルにそう言った。





詳しくっつっても、オレもそこまで知らねーからな、と、ノイルは前置きしつつ、話出す。


「オレは、この世界の人間じゃねぇ・・・信じられねぇかもだけど、別の世界から、転生してきた」



「うむうむ、そうか」


「僕も転生してきたから一緒だね」


「あー、まぁ、あとオレもだ」


「私も私も」


「あっしは違いますからね」



ゴルド、ヒロ、ヴォルクにシルヴィ、ビィンセントが流れるようにサラリと言う。



ノイルが逆に驚く顔をして、何も言わないリンゼに顔を向ける。




「も、もしかしてあんたも転生者か?」


「いえ。私は現地人のメイドです。そんな事より、話を進めましょう」



リンゼが話を軌道修正する。



「前の世界は・・・まぁ、どうでも良いから捨て置く。オレはこの世界に無理やり召喚されて、この山にある研究所に拘束されそうになっていた」



ノイルは、思い出したくないのか、前の世界の話はしない。



「研究所て・・・ワカバ達みたいなのが他にいたら困るんだが・・・」



ゴルドは焦りを見せるが、考えても仕方がないので、話の続きを聞く。



「・・・研究所も、まぁ、まともなとこじゃなかった。奴隷なのか、孤児なのか、あるいは・・・攫われたのか・・・人間が結構いて、当たり前だけど、ガキか若い奴しかいない・・・ついでに、動物やモンスターも、檻に入れられていた」




そこで、召喚されたノイルは、厳重に拘束された。

しかし、洗脳魔法をかける為、扉が開いて術師が入った瞬間、そいつらをひき肉にして逃げ出す。


その逃走時にだけ、研究所の内部を見たが、人間も動物もモンスターも、等しく実験台にされていた。



「・・・研究者や兵士みたいな奴らが働いていたが、まともな奴なんて1人もいなかった。エリュシール万歳ってのが、合言葉みたいに狂って言ってたな」





「・・・それ、隣国じゃん」




ゴルドが手で顔を覆う。

やばい隣人だった事に気づき、慄く。



「どんな国なんですか?」


ヒロがゴルドに聞く。


「いや・・・ぶっちゃけ詳しくは知らない。親父の代で起った国らしい」


「めちゃくちゃ新しい国じゃないですか」


ヒロが驚きの声を上げる。

あまりにもおざなりな説明すぎたので、ビィンセントが解説をいれる。



「先代の時とはいえ、先代も生まれて間もない5歳頃の建国でさぁ。だから45年は経ってますよ。まぁ、それでも国としちゃ、新米でさぁね」


ヴォルクも、ある程度調べた情報を思い出す。


「新興国とは言うが、前の国を宗教で乗っ取った国だ。元々の王族も残っているし、その上に教皇が座っている、宗教国家だな」


ヒロもシルヴィも、嫌な顔をする。

宗教が絡むと、途端に胡散臭くなるのは何故だろうか。



「まぁ、国の起こりはともかく・・・怪物の山を間にしつつ、関係こそないが、そんなに存在感もない国だったのになぁ」






「ボス、そりゃ逆だ。ボスの領地、ひいてはボスのいる国が、存在感無さすぎてどこからも見向きされて無いんだよ」





「え?そうなの?」


ゴルドが間抜けな声を出して驚くが、事実である。


国同士の付き合いというのは、メリットがあってこそ。


山を越えてまでも、ゴルド達の領土と取引をするメリットはない為、友好も敵対もしていないだけにすぎない。



「エリュシール教国つったら、女神の教えが何たらで難癖つけて、色んな国にちょっかい出しては、戦争して領土拡大しているヤバい国ですよ」


ビィンセントが簡潔に説明し、ゴルドは今更ながら、そんな国が隣だったとは、とショックを受ける。





「なぁ、話していいか?」



ノイルが真っ白になるゴルドに言う。


「あ、あぁ、すまない。続けてくれ」


「いや、オレもエリュシールって国、知らなかったから。丁度よかったよ」


ノイルはそう言ってから、続きを話す。



「たぶん転生者はオレだけだと思う。偉そうな奴が、女神の奇跡だなんだと、興奮して喜んでいたからな。他にも居た様子はない」


「そりゃ良かったよ」



シルヴィがわりかし本気で安心する。

目の前の少年のような超越した存在は、不死身といえど勘弁して欲しいようだ。




「良いかどうかは、わかんねぇぞ?・・・オレを召喚できたって喜んでいたけど、その軍服女の周りに、物々しい儀式道具と地面に魔法陣があって、ついでに死体もあった・・・」



苦々しい顔をして、ノイルは言う。



「あいつら、多分また呼ぶのを躊躇(ちゅうちょ)しねぇぞ」



ゴルドが、険しい顔をする。




「・・・ま、殺しに関しちゃ、オレも人のこと言えねぇけどな」



ノイルは自虐のようにそう吐いて、メシを食べ終わった。



「お代わりいるか?」


「いや・・・もう食えねぇよ」



ゴルドが即座に皿を掴もうとするので、ノイルは止める。




「・・・ありがとな」



ノイルは、か細い、小さな声で、ボソッとつぶやく。



「気にするな。メシぐらい用意できる。オレ、領主だから。まじ、領主だから」



「うっせーな!わかった!分かったよ!」



ノイルはそう言って立ち去ろうとする。



「え?どこ行くの?」



ヒロが普通に呼び止める。

ノイルは、何言ってるんだ?という顔で振り返る。



「いや、この山降りるんだよ。あの研究所やべー奴らの集まりだし。少しでも逃げねぇと」


「行くと来ないんだろ?ウチ来いよ」


ゴルドがすかさずスカウトする。



「は?やだよ」



秒で断られた。



ゴルドはショックのあまり、その場で膝をつく。



「な、なぜだノイル殿。飯美味くなかったか?リンゼの作った飯だぞ?」



「お前、飯しかねぇのか?言う事が・・・ていうか、なんでお前の言う事聞く必要があるんだよ」



ノイルはゴルド達を睨みつけるように言う。



「嘘が本当かわかんねぇけど、お前領主なら、オレは信用できねぇ」



「いや、だから本当に領主何だって。治癒魔法使えるぞ?我、治癒魔法できるぞ?」



それが何だ?というノイルに、ゴルドは何も言えなかった。


ノイルはため息をついて、らしくない事をしていると自身で思いながら、ゴルドがしつこく見てくるので言う。



「あのなぁ。お前の護衛らしき、そこの男どもが、ずっとオレを警戒しているんだよ。まぁ、すぐに殺せる間合いにいるから、そっちが正しいんだけどな」



男ども、と指を刺して、ヴォルクとビィンセントとシルヴィを指すノイル。


ヒロとリンゼは全然違う位置にいた。



「え、ちょ、私は違う」


シルヴィが訂正する。



「嘘つけ!オレの挙動を逐一見てるだろ!警戒心バリバリだろうが!」


ノイルが凄みながら、シルヴィに言う。

そこには、有無を言わせない圧があった。






「それは否定しねぇよ。()()()って言ったことを訂正しろ」






シルヴィが、剣を構えて殺気を放つ。

その、いつ死んでも良い、むしろ差し違えてでもぶち殺す、という殺意の波動をぶつける。


ノイルは、何のことか一瞬わからなかったが、ヒロがこっそり、シルヴィさんは女性だよ、と耳打ちをした。



「あ、そうなの?・・・わりぃ」


「あぁん!?わりぃ??」


「ご、ごめんなさい」


シルヴィの怒りの般若面に、ノイルは言葉を変えて謝る。




「姫~、私傷ついたよ~。癒してほし~よ~」



「治癒魔法かけてやるよ」


「あん!いけず!」


シルヴィとゴルドの茶番を見て、ノイルは調子を狂わされる。



「と、とにかくだなぁ。オレはお前らを信用できないし、お前らもオレがどうせ怖いだろ。ここで別れた方が互いのためだ、飯のお礼とでも思っておいてくれ」






「メシのお礼も何も、何も返してもらっていませんが?」




ノイルは去ろうとして、今度はリンゼに止められる。


「う、うっせーな!お前んとこの男が勝手にメシ出してきたんだよ!」


「勝手でもなんでも、恩義に報いる思想をご存知なら、何故そうしないのですか?」


リンゼが無表情で正論をぶつける。


「信用できないとおっしゃいますが、ゴルド様は正真正銘、我らが主人(あるじ)です。私どもの生殺与奪も握っています」


そんな事ないよ!?とゴルドがすかさず言って、自分達はそんな殺伐とした関係ではないと擁護する。


だが、リンゼは一切引かない。





「貴方が他人を信じられないことに関して、私はとやかく言えません。ですが・・・我らが主人は、信ずるに値します」



「・・・いや、そんな急に言われても・・・」



ノイルが普通に困惑した様子で返す。

だが、リンゼは確信を持って言う。








「差し伸べた手を掴むことは、いつでも出来ますーーーでも、それは、貴方が掴もうとしなければ、永遠に掴めません」






ノイルは、息を止めて、リンゼを見た。


夜は更けて、山の気温は低く、ひどく寒く感じた。






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