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第61話 闇の少年



山の中に入って3日間。


リンゼが野営キャンプに慣れてきたのか、料理を手伝い、ヒロの出す食材で温かい夕飯を作る。



「うひょ~。やっぱリンゼのメシは元気出るねぇ~。ここ最近山歩きばっかでマジしんどかったよ~」


「ご迷惑おかけしました。付いてきたいと自分で言っておきながら、足手まといになってしまい」


ゴルドが嬉しそうに飯をかき込む。


リンゼはヴォルクやビィンセントたち一人一人に頭を下げるが、別に気にするものはいない。


というか、移動の際はゴルドが限界のきたリンゼを背負っていた。


シルヴィは頭を下げにきたリンゼに、頬を膨らませながら言う。


「今度は私が背負ってもらう」


「おい。流石のオレも、自分より背の高いやつはしんどいぞ」


ゴルドがスパッと断りを入れるが、出来ないわけではない言い方に、ヒロが気になって聞く。



「この世界の領主様って、武闘派というか、結構強い人ばかりなんですね。ゴッド様はご自身で非力とか謙遜しますけど、僕の世界の常識からすれば、十分体力とかありますよ」



「ヒロ殿、その認識で間違いねぇからな。ゴルド様を基準になんてするなよ?よその領主なんて、山歩きしねぇからな。ましてや、女とはいえ、担いで歩き回れるかよ」


ビィンセントがやれやれとため息をつきながら言った。


「あ、やっぱり強いんですね!ゴッド様」


ヒロが良かったー、と安心するように言う。まぁ、何が安心なんだ?という話だが。



「まぁ、次兄にしごかれたお陰だよ」


あくまでも普通に、笑顔で返すゴルド。

その自然な様に、リンゼだけが、気にするようにゴルドの顔を見る。


「ん?どうしたリンゼ?お代わりくれるのか?」


「・・・はい。ご用意します。ゴルド様」



シチューをよそうリンゼ。

ゴルドは嬉しそうにそれを見ていた。



「私も、料理を覚えようかな」


シルヴィがリンゼのシチューを食べながら、そう言葉をこぼした。



「冒険者なら料理の一つなりとも出来るんじゃないのか?」


ヴォルクが独り言に返してあげる。


「焼いて塩かける料理しか知らなくてね」


「・・・そうか」


ヴォルクは憐れむ目を向けてしまう。

ビィンセントとヒロも同様の目を向ける。


シルヴィはゴルドに泣きついた。


「お前ら、いじめてやるなよ」


「えっ!ちがっ!いじめてないですよ!ゴッド様!本当に心配しただけです!」


ヒロがトドメを刺すようなことを言って、ヴォルクとビィンセントが吹き出す。


シルヴィは2人をしばく事にした。



「負けたくせに!私に負けた雑魚のくせに!」


「あ!それ言う?それ言っちゃう!?」


「あっしはこの性格ひん曲がりの性悪根性おじさんとは違いますんでね」


騒がしくメシを食べている時、茂みから音がする。


たまたまその音が聞こえたのは、ゴルドだけのようだ。



ガサガサと、隠れるわけでもない物音に、小動物か何かだと思ったゴルドが、覗きに行く。


リンゼが、虫や野生動物が苦手なのだ。

なので、早々に追い払ってあげてやろうという、優しさからの行動だった。




ひょっこり茂みを上から覗くと、予想に反して、動物はいなかった。


「んー?気のせいか・・・」


ゴルドがそう言って離れようとした時、よくよく見ると、茂みに息を潜めた、何者かがいると事に気づく。




子供だった。


いやまぁ、ヒロと同じくらいか?


だが、ヒロより痩せているからか、小さく思えた。



目玉がギョロリと浮かんでおり、目の下にクマがある。


明らかに不健康そうである。


ゴルドは、一瞬驚き、声をあげそうになるが、ふと考えがよぎる。



(待て・・・聞いたことがあるぞ・・・他国には、極貧村などが、食うに困り、子供を山に捨てると聞く。この怪物の山なんかは、特に捨てれば、モンスターが食べてしまい、後腐れもないとか・・・)




ゴルドは、少年と目が合う。




その目は、ひどく怯えており、薄気味悪さもあった。


少年が、手のひらを前に突き出す。




ゴルドに向けて、それは、攻撃の証。




その刹那の殺気に、ゴルド以外が氷水を浴びせられたように、存在に気付いた。



ヒロが、ヴォルクが、ビィンセントが、シルヴィが、それぞれ戦闘態勢と、ゴルドと謎の少年の間に立とうと立ち上がる。




それよりも、ゴルドの手の方が早かった。



少年の前に突き出した手を握り、ゴルドが言う。






「少年・・・メシを食おう!」





ゴルドは、少年の手を引き、焚き火の近くに引っ張る。


「・・・???」



少年は、とっさに硬直し、攻撃を忘れていた。


焚き火の明かりに照らされると、少年が、裸足だし、ボロ布だけを纏っているし、ひどく汚れて、黒い髪の毛も、ぐしゃぐしゃである事が見てわかった。



「あ、あの・・・ゴッド様?」



ヒロが、一瞬感じた冷たい殺気が、その子から出ていた事を知っている。


危険か、安全か、まだ判断できなかった。




「ヒロ、パン出してくれないか?」


「へ?あ、あ、はい」


ヒロがパンを出す。



それと、リンゼにシチューをよそってもらい、ゴルドは水を木製のコップに入れた。



「ほら・・・気にせず飲んでくれ」



ゴルドがコップを差し出すと、少年は怯えた顔をする。


いや、信じられない、という顔だろうか。

今まで、こういった扱いを受けた事がないのか、顔が強張っている。



「・・・な、なに、を」



「みなまで言うな!・・・もういい、何も考えず、とりあえず食え!」



ゴルドは、くっ、と涙を堪えるように眉間に手を当てる。


ビィンセントも、ヴォルクも、シルヴィも、ふざけている場合ではないと言いたかったが、謎の少年の挙動に、目を離せなかった。



この少年は得体が知れない。



この少年は、自分達を一瞬で倒せる何かを持っている。



ヒロは、まだ甘かった。


危険か安全かを計る時点で遅い。




(どこからこんな奴が現れたんだ!?なぜ今も!目の前にいるはずなのに!!何も感じられないんだ!?)


(全く・・・読めやしねぇ・・・こいつの底が!!)


(恐ろしいよ・・・この子の目・・・深い絶望?復讐に駆られた目?いいや・・・そんな分かりやすい目じゃない・・・殺す事でしか、生きられない目だ!)





三者三様の、目前の少年に対し、畏怖していた。

強者だからこそ、伝わる異常性に、人生で遭遇したことのない人種を目の当たりにしていた。






「・・・憐れみ、か?・・・安っぽい同情か?」



少年は、コップを受け取らない。



睨むように、ゴルドを見ている。




「え?・・・安いかどうかは分からんが、そりゃ、可哀想だと思うよ。同情もするに決まってるだろ」



ゴルドが何を当たり前な事を?と首を傾げる。



「・・・嫌いだ・・・幸せそうな奴が嫌いだ・・・なんで、なんで今更、優しくしたって遅いだろ・・・もう、もう、僕は取り返しのつかない所まで・・・」



少年の体からドス黒いオーラが湧き出る。



ヴォルクが、もう無理だと武器を手に取ろうとするが、ゴルドが少年の頭を掴む。





「よく分からんが!我慢すんな!」




ワシワシと、頭を撫でてやる。



無造作に、荒々しく、だが、なんの悪意もない、純粋なアプローチだった。




「・・・・」




少年が固まる。



ヴォルクやビィンセント、シルヴィは冷や汗をかいている。


全く読めない相手に、何の遠慮もなくぐいぐい手を出す最重要警護対象のゴルド。



いわば、彼らから見れば、獅子によーしよしいい子だねぇ、と撫で回すような行為だし、地雷原の荒野に立って、無邪気に走り回るようなものである。



ゴルドは、一切の恐怖も何も感じていなかった。



ただ、目の前の少年、ありのままを見ていた。




「ん、ほら。水だ。大丈夫、変なモノは入ってない。飲んでみせようか?」


ゴルドが一口飲み、コップを渡す。


ほら、平気だろ、と笑ってやり、少年はコップを受け取った。



一気に水を飲む。



喉が渇いていた。



それは、純粋な渇望。



それすら、忘れているほどの、感情の沼があった。



誰かを信じる事。


信じて、差し出された水を受け取る事さえ、素直に出来なかった。






それほどまでの、闇が、この少年にはあった。




「おうおう。水、お代わりいるか?シチューとパンは食えるか?無理せずな。ゆっくり食べなよ」




それを、全く気付いていないのは、間違いなく、このノーテンキな領主だけだろう。





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