第60話 山の歴史
怪物の山は、入り口だけを見れば、なんて事のない山であった。
木々が生い茂る。
少し暗い為、奥まで見通せない。
「薄気味悪いな・・・」
ゴルドは素直な感想をこぼす。
ビィンセントが先行して、ヒロ、リンゼ、ゴルドと続き、シルヴィとヴォルクが最後尾につく。
最強決定戦から1週間で、下見計画から実行まで進めたのは、ヴォルクとビィンセントの実務能力の高さも要因の一つだ。
書類と交渉、事前準備がとにかく早い。
ローガンや家令相手に、ぐうの音も出ない計画を説明して、早々に実行へ移した。
ヒロはそれを見て、理解が追いつかずとも、覚えようとメモを取ったり、書類をみる。
なお、シルヴィは何もせず、のほほんと過ごしていた。
まぁ、初代最強の称号を持っているので良しとしよう。
「ここで休憩しよう」
ビィンセントが川の近くでそう言う。
「ふぅ~、疲れた~」
ゴルドがデカデカと息をついて、石に腰掛ける。
「ほら、リンゼも座れよ。さすがに疲れたろ」
ゴルドが呼びかけると、リンゼはいつもの無表情だが、素直に座る。
誰もが分かっていた。
1番余裕がないのはリンゼであることに。
むしろ、なんだかんだ言ってついて来れているし、今みたいに疲れたと口にしているが、さり気なくリンゼを気遣えている辺り、ゴルドは異常である。
リンゼはいつものメイド服ではなく、きちんと山登り用で、動きやすく、また防御力も考えられた防具服である。
だが、それにより重さもあるので、ただの布服とはいえ、疲れがたまっていたようだ。
携帯用食事を用意して、各自で栄養補給する。
「この山じゃあ、食べれる物ないのか?」
ゴルドが干し肉をもぐもぐ食べながらビィンセントに聞いている。
「まぁ、食べれないこともないですが・・・基本、怪物の山って名前なんでね。誰も積極的にゃあ食おうと思わんのですよ」
ビィンセントの言うことも尤もである。
「植生は豊富。自然の山菜やキノコもありますが、よほどヤバい時以外は食いませんね。まぁ、前回の逃走時は、あっしも食いましたけど」
サラリと闇を見せつつ、ビィンセントは軽い調子で答えた。
「なら問題はないな。毒やモンスターによる汚染を心配してが、そういうのは無さそうだ」
ヴォルクは食事をしながらも、周囲の草や土をいじる。
「サンプルとして持ち帰ろう。あまり、科学的な視点での調査はなされていないんだろ?」
ビィンセントにそう聞くヴォルク。
「してないな。というか、勘弁してくれよ。科学とやらは転生者のお前たちが持ってる技術で、この世界には無いんだよ」
ビィンセントが水筒から水をあおり言った。
「ねーねー姫。この山の所有権は、姫の領土になるのかい?」
「んー?」
シルヴィがゴルドに話しかける。
ゴルドは考えながら答える。
「若干、空白地帯だが・・・まぁ、ウチが管理と言われればそうかもな」
「歯切れの悪い回答だねぇ。なにか歴史的にあるのかい?」
シルヴィが簡易の机に頬杖をつく。
ゴルドは自分の中でも整理するため、怪物の山の歴史を辿り出す。
「そもそも、オレの家である、アイハンド家ってのは、この山からの侵略を抑えたことで、男爵家に成り上がった武家なんだよ。だから、代々この土地を治めている」
「そういえば、最初はドラゴンを退けたとか・・・」
ヒロが思い出すように言う。
「あー、らしいな。まぁ、嘘か本当かもはや分からん歴史の話だが、うちの国も古さだけなら古いからな。他所の国はコロコロ変わるが、うちだけひっそり生き残っているし、その中で、王家から指示受けてここをずっと守っているのが、我がアイハンド男爵家なんだよ」
その前提を話しつつ、ゴルドは怪物の山の所有権について話す。
「時代によって、この山を占拠した他国もいる。まぁ、滅んだけど」
「え?怖っ!」
シルヴィが、ゴルドのあっさりした宣告にツッコミつつ驚く。
「ていうかな、別にこの山、マジなんでもない山なのよ。別に鉱山とか実りのある山でもないし、材木っても、質がそんなに良くないというか、生えてる木が丈夫じゃないしな」
ゴルドの愚痴にもなっているようだが、この山があまり価値のない山であることを、ヒロたちも理解する。
「で、スタンピートあるだろ?あれ当たり前だけど、うちの領だけにモンスター来るわけじゃないから。全方位に放たれるから、向こう側の国、何度かそれで滅んでいるし」
ゴルドがため息をつきながら言って、疫病神を見るように、周囲を見渡した。
シルヴィも、そりゃ大変だね・・・と言いつつも、疑問が残る。
「あの・・・なんで、姫の領土だけ、毎度無事なの?」
つい、気になって聞いてしまう。
「そこだよなぁ・・・いやまぁ、結論から言えば、毎度ギリギリの戦いなのよ。前回だって、当主及びオレ以外の一族がやられて、騎士団も壊滅。そこから、スタンピートが静かになるから、必死に回復して、また次ギリの戦いをするわけよ。歴史書みたら、マジでそんな感じ」
ゴルドの、身も蓋もない話に、全員が顔を見合わせる。
まぁ、小説のような何かを期待する方が間違いなのか、現実はこんなものなのか。
「その・・・よく姫の家、断絶しなかったね」
「それな」
ゴルドが両手で指をさして、お茶目に答えるが、他の人間はお茶目に受け取れない。
それぞれが、マジかよ・・・という顔をしたまま固まっていた。
「さぁ、行きましょう。次のポイントへ」
リンゼが、空気を変えるように、声をかけた。
ゴルドも、行けるかい?リンゼ~、といつもの軽い調子で返す。
ビィンセントはまた先行し、パーティの形を守ったまま、一行は進む。
「ハァッ!・・・ハァッ!・・・ハァッ!」
黒髪の少年が、ボロ布を纏ったまま、山の中を走る。
1人で逃げるように走る彼を、追いかける影が複数。
それは、オークだった。
手に槍を持って、鳴き声をあげて追い立てる。
「来るなっ!来るなよっ!!殺すぞ!」
少年の目は、血走ってる。
怒り、憎悪、不快。
それらが混じり合った、絶望の眼であった。
オークに向けて、無造作に手の平を向ける。
すると、次の瞬間、オークはズタズタに引き裂かれ、絶命する。
他のオークが、咆哮する。
まるで、怒るかのように。
「お!お前らが悪いんだ!来るなっ!来るなよ!」
少年は、怒鳴るように、懇願するように、そう吐き捨てて、走り続ける。
その様子を、遠隔魔法で見る者がいた。
ローブを身につけた、中年の男。
側には、若い女の軍服を着た人物もいる。
「早く捕まえて下さいよ。召喚してから
ずっと逃げられてますよ?」
女がイラつくように中年へ指示をする。
「無理だろ。近付けばあの豚のようにミンチだぞ?だからさっさと洗脳魔法掛けとけって言ったろうが」
舌打ちして答える中年。
女はため息をついて返す。
「洗脳魔法かけようとして、術者がミンチになったんですよ。そのまま逃げられてこのザマ。あーあ、私は悪くないのになー」
女がわざとらしく声高らかにそう言うので、男はもう一度舌打ちする。
「あー!2回も舌打ちして!上官への態度じゃないぞー」
「うるせぇ。もう廃棄処分でいいな。さっさと潰すぞ」
中年が何やら指示を飛ばそうとするが、女は待てをかける。
「バカ!召喚でコストかかってんだよ?術者10人の魂と引き換え!高かったんだから~。役に立ってくれないと、損じゃん!」
「しらねぇよ、雑魚が何人死のうがよぉ」
2人のやり取りが激化していく。
コストの回収を求める上官の女と、出来ないと断言する男側。
そのうち、言い合いに夢中になって、少年を見失う。
「チィっ!もういい!帰ろうぜ。どうせ食いもんもろくにねぇし、餓死するだろうよ」
「そう気楽に考えれて羨ましいよ。全く、コストの回収指示はまだ撤回されていない。捜索したまえ」
「このクソが!まだ探すのかよ、無駄なことを!」
中年は文句をはっきりと女に言う。
だが、結局は逆らえないからか、山の中での捜索を続ける。
少年は、ただひたすらに、逃げ続けていた。




