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第56話 騎士団の雄vs宇宙の功夫少女



ヴォルクが選手控え室に戻り、一息つく。



だいぶ、見せたくない手の内を見せてしまい、正直焦っていた。



特に、火薬と地雷。



当たり前だが、試合開始の時に、ヴォルクはそれらの武器は所持していなかった。




ヴォルクは控え室に用意されている水を飲む。



(武器召喚スキル・・・今日の分のコストは、まだいけるか)



ミハエル達、エルフがやってきた時に、奴隷商人の子飼いである傭兵とやりあった。


その後だ、この奇妙なスキルが生まれたのは。



ヴォルク自身が知っている、数々の武器兵器。

それらは当たり前だが、この世界にとってはオーバーテクノロジーの産物である。



ワカバ達でも、再現は・・・。



「・・・いや、出来そうかもしれんな」



ヴォルクがそこだけ否定するが、ともかく、普通はこの世界にない。

元々持っていた武器も、弾の残数を気にしていたが、その心配も無くなった。



このスキルの特徴は、24時間で回復する召喚コスト制である事。

また、召喚できる武器は、ヴォルクが知識として持っているもの。

そして、その武器の強力度合いによって、コストが上下する事である。



火薬は最低コストで用意できるもので、地雷も低コストの武器である。


しかも、召喚方法もなかなかにチートで、手元に現れるだけでなく、思考によるイメージで、設置までをオートで行ってくれる。



(ぶっ壊れスキルだな・・・コスト制限があるのが、唯一の弱点だが)



さて、森なんてものを生み出されたので、仕方なしで勝利する為に、サリー達傭兵メンバーにしか伝えてないスキルだが・・・何人かにはバレたかもしれない。



「一筋縄では、優勝とはいかねぇか」



ヴォルクはそうつぶやいて、椅子に座り、体力の回復に努めた。









「さぁ!ベスト8の半分が終わりました!次で一気に残り4名の対戦カードが決まりますよぉ!」



ワカバのマイクパフォーマンスに、会場の熱気は冷めやらぬ。


モニターが今度は、4人の顔写真がパラパラと高速で入れ替わり、対戦カードをシャッフルする。



「うわ~、すげぇな。こんな仕様にも出来るのか」


ゴルドが感心してモニターを見る。



「イチゴイチゴイチゴイチゴイチゴ」


クローナはもはや、呪詛のように、ブツブツと唱えながらモニターを凝視する。



誰もが、モニターを食い入るように見つめる中、とうとう、対戦カードが決まる。






「出ましたああああ!ビィンセント選手対・・・イチゴ選手!!」



クローナが絶望の表情になる。

口を開けて、頬に手を当てて、さながらムンクの叫びのようなリアクションである。



「そしてぇぇええ!ベスト8最後の対戦は!ヒロ選手対クローナ選手でーーーーす!!!」




最後の宣告が、ワカバからされて、クローナはガックリとうなだれて、その場に座る。



ヒロも、近くにいるが、声のかけようがない。


困り顔で、クローナをどうしようかと見ていると、座っていたクローナが急に立ち上がる。



「く、クローナ?」


ヒロが声をかけると、クローナはプルプル震えて、これまた急に走り出した。


ヒロが追いかけようとすると、誰かがそれを止める。



ミハエルだった。



「あー、流れは見ていた。ヒロが追いかけるのは酷だろう。私に任せておけ」


「え?で、でも・・・」


「女にしか分からん事もある」


ミハエルがサラリとそう言って、クローナを代わりに追いかけた。



ヒロは、仕方なく会場に残る。




そうこうしているうちに、フィールドには、騎士団のベテラン団員、ビィンセントと、宇宙人組の中学生イチゴが、まさに大人と子供の構図で、相対して立っていた。






「ゴルド様!ビィンセント選手って、どんな選手ですか?」


ワカバがマイク越しに、ほぼ解説と化しているゴルドに聞く。


「どんなって・・・騎士団のベテランで、ローガン団長の直弟子的な人だな。気さくなおっさんだよ。よく一緒にサボって川に魚釣り行ったり、隠れる術や追っ手を巻く方法を教えてくれる」


「え~・・・なんか、典型的ダメオヤジじゃないですか・・・てか、サボっちゃダメでしょ」


ワカバが素でツッコむ。


「あ、でも・・・数々の戦いを、最前線で経験はしてる」


「はぁ・・・まぁ、ベテランさんですからねぇ」


ワカバはいまいち、そのゴルドの言葉にピンときていなかった。


「おいおい、そんな簡単に片付けるなよ・・・まさに去年あった、怪物の山での戦いは、かなり熾烈を極めた・・・多くの団員が命を落とした」



ゴルドが声のトーンを下げて言う。

ワカバは、神妙な顔になり、ゴルドの話を聞く。


「その中で、ただ生き残っていたわけじゃない・・・ビィンセントは、生き残った団員を鼓舞して、時には負傷した仲間を助けて、果敢にモンスターを打ち破っていた・・・生き残った団員が皆、口を揃えて言うんだよ・・・」




ーーー彼こそが、騎士団の雄である。






フィールドでは、ビィンセントは頭をかきながら、困り顔をする。



「よりにもよって、一番お子様に当たるなんてなぁ・・・」


ビィンセントはデカいため息をつく。


イチゴは淡々と、その言葉に返す。


「そうやって、舐めてた冒険者や貴方と同じ騎士団員たちは、特に念入りにボコしてきたから」


イチゴは手のひらを縦に構えて、カンフーの構えを取る。



「あ~・・・ごめんごめん。怒っちゃったかな?おじさん、若い子と話が合わないからさ・・・それは、最近流行りの踊りか何か?」



「うるさい。始まったらボコボコにする」



ビィンセントは、短気だねぇ、お子様は、と付け加え、あくびをする。



イチゴは、クールな無気力系中学生なのだが、そんな彼女が、明らかに怒っている。




(なんで認めないの?私は、ここまで勝ち上がってきた・・・私には、戦う力がある)




()()()()、役に立つ。それを証明してみせる」



イチゴが殺気立って、開始の合図を待っていた。





実況席では、ワカバがビィンセントの話題ばかり振るので、ゴルドがふと口にする。


「イチゴはどうなの?いつも小さい機械を触って、色んなもの作ったりしてくれるけど、ここまで勝ち上がったって事は、何か対戦経験あるの?」



ゴルドが普通に気になってワカバに聞くが、ワカバは、ピタリと動きを止めてしまう。


ゴルドは、ん?どうした?と心配な顔をのぞかせる。



「・・・ないですよ。イチゴちゃんも、スケマツくんも。みんな、戦闘経験なんて・・・」



ワカバが、笑顔で答えるが、どこか辛そうな笑顔であった。



ゴルドが、何か言おうとするが、合図が来て、ワカバはマイクを掴む。



「さぁあああ!準備が整いました!ビィンセント選手対イチゴ選手!間も無く開始されます!!」



ワカバが先ほどまでのノリで、マイクに声をのせる。


ゴルドは、今はとりあえず、進行に身を任せていた。




「さぁ!試合開始です!」


ラッパの音と、太鼓が激しく打たれて響いた。




イチゴが勢いよく飛び出す。


小柄の少女は、ビィンセントに対して、拳を突き出し、手数を多く、蹴りも織り交ぜる。



その全てを、ビィンセントは涼しい顔をして、最低限の動きで避ける。



ビィンセントの武器は剣だが、まだ鞘からすら出していない。



身軽なイチゴに対して、ビィンセントは武器を装備して防具もつけている。


だが、そんなものを感じさせない、イチゴと同じか、むしろそれ以上に、なめらかに動いて避けている。





「なっ!なんで当たらないの!イチゴと戦った人たちは、こんなに速くは動けなかったのに!」


ワカバが実況・・・というには、ちょっと私情が挟まった感想を述べるが、ゴルドが冷静に返す。



「ビィンセントはスピードタイプの剣士だ。俊敏なのもあるけど、とにかく動きに無駄がない。最低限の動きと、相手に合わせる呼吸がうまい」


呼吸。それを読むというのは、つまり、攻撃の瞬間、または、手からなのか、足からなのか、相手が動きをする上で、無意識にする呼吸を読み、力みや意図を読む。


それを、ビィンセントは神がかりに読んでいる。


相手の動きが、まるで未来予知でもしているかのように分かり、合わせることができるのだ。



イチゴは焦らない。


ビィンセントに攻撃が当たらないが、隙をずっとうかがっている。



(まだ、まだ、もう少し・・・相手が私のこの動きに慣れてからが、勝負!)



見る側としては、息をつく暇もない連続攻撃で、目が回る者もいる。


ゴルドも、イチゴのその動きに度肝を抜かれる。



「あんなに動けるなんて、すごいな」


ゴルドの素直な感想に、ワカバは浮かない顔で、ポツリと答える。



「"誰でも武天カンフー学習装置" は、その名の通り、あの伝説のカンフーを誰でも覚えられる、睡眠式学習装置です」


「うーん。ツッコミどころ満載なんだが、とりあえずネーミングセンスはイチゴ弱いな」


ゴルドは思ったことを口にした。


「でも、誰でもノーリスクというわけじゃないんです。動きを強制的に頭に叩き込むので、私生活の動きに支障が出ます。コップを持とうとして、手刀で叩いたり、相手とハイタッチしようとして、地獄突きしたり」


「なんか、可哀想なトーンで話されてるけど、ちょくちょくおかしくて話が入ってこないのよ」


ゴルドの苦情にも近い指摘が入るが、ワカバは気にせず話をする。




「それらを、ずっと体に覚えさせて、私生活と戦闘モードを切り替えるように、イチゴは努力したんです・・・もう、捨てられたくないからって」



ゴルドは、そこで気付く。


ワカバがマイクを切っていることに。


そして、ワカバ達、宇宙人組がやってきた際の話も、思い出す。



若い面々ばかりだったのは、彼等が孤児(みなしご)で、元の世界の大人達に捨てられた存在であることを。




「私たちの、存在価値を、イチゴは証明しようとーーーあそこで、戦っているんです」



ワカバが、辛い顔をして、そうつぶやくように言った。




イチゴの必死の猛攻は続き、ビィンセントには、一向に届いていなかった。




ゴルドは、そんな姿が・・・子供が親に、必死に追いすがろうとして・・・もがいている姿に・・・一瞬だけ、見えてしまった。





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