表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

58/60

第55話 希望を照らす存在



———過去



鬱蒼(うっそう)とした森の中。



その入り組んだ樹々の上に、エルフ達は隠れる様に住んでいた。



「ねーお父さん!今日は私の誕生日だよ?外で遊びたい!」


幼いエルフの少女が、モルアナにしがみ付きながら、わがままを言っていた。


「最近はずっとそう!外は危ないからって、お友達とも遊べない!お外で走りたい!」


「すまないエマ・・・最近、人間の姿が目撃されている。外は危ないから、家で遊んでくれ」


だが、モルアナは渋い回答をする。



ここは、ミハエルたち、転生エルフが、ゴルドに召喚される前の世界である。



彼等は、森の奥、人間から逃れる為、とにかく隠れて生活をしていた。



モルアナの娘は、顔をうつむかせながら、はーい、と落胆の声で、返事をした。




モルアナの心に、罪悪感が渦巻く。



目の前の、遊び盛りな娘に、窮屈な思いをさせている。


不甲斐ない無力感に、モルアナは、それを振り切る様に、娘を優しく抱きしめる。



「・・・すまんな」


「・・・ううん。お父さんは悪くないもん・・・ワガママ言って、ごめんなさい」



娘は、優しく、家族思いの、とても出来た娘であった。




モルアナは、新たな住処探しに向かう。



森の安全な場所を探して、次なる隠れ家を見つけなければ。

エルフの戦士仲間と、共同で、隠密しながら樹々を渡り歩く。




「この奥なら、子供でも進めるな」



森の更に奥で、モルアナ達は、集落の仲間が来れる場所を見つける。


あとは、また引越しをするだけだ。





集落に戻ったモルアナは、いつもと違う匂いに、身体に電気が走った。



仲間も同じである。



人間の匂いだ。




樹々に隠れながら、剣を、弓を構えるモルアナ達の前に、集団の人間が、エルフ達を網で捕まえ、縄で縛っていた。



激しく抵抗する仲間を、人間が殴って静かにさせる。


「おい!殺すなよ!価値がなくなる!」


「えへ、えへっ、可愛いなぁ・・・オレ、エルフ生で見るの初めてだよ」


下品な笑みを浮かべる髭面の男が、モルアナの妻と、娘のエマを縛ろうと、近づく。



2人は、恐怖で震えて、妻は娘を庇う様に、抱きしめていた。


「子供、子供なら抱いてもいいか?なぁ親方!オレ達も、売る前なら、ちょっとくらいいいんだよな!」


男が興奮して、娘のエマを下卑た目で見ている。


エマは恐怖のあまり、涙を流して泣き叫んでいる。






モルアナの、怒りが頂点に達した———







数刻後




そこに、人間だった亡骸が並ぶ。




モルアナが、血に塗れた状態で、息荒く立っていた。




「・・・お、おとう、さん」





娘は・・・エマは、無事だった。


涙をいっぱい溜めて、震えながら、妻にしがみついている。




集落の者は、皆無事だった。





だが・・・・。





「・・・こわかったよぉ・・・お父さん・・・私たち、いつまで・・・こんな生活するの?・・・・私たち・・・」





エマが、涙ながらに、苦しむ様に、言った。





「私たち、ずっと・・・一生、このままなのかな?」






その、絶望の台詞は、妻にも聞こえ、妻は押し殺す様に嗚咽して泣く。



モルアナは、何も言えなかった。




最愛の家族に、モルアナは、希望を見せる事が、出来なかった。









———現在、デジマ競技場





モルアナは、精霊魔法を使い、フィールドに木々を生み出す。



「ええーー!!ちょ!木が生えてきて!?えぇ!?こんなのありえない!科学じゃ無理!」


ワカバが錯乱するように実況する。


「あー、モルアナの得意とする密林の中での戦いに、強引に持っていく感じだな。ありゃモルアナ本気だぞ」


ゴルドは冷静に実況した。



ヴォルクは、なす術もなく、自分も密林に囲まれて、あっという間にジャングルの中に入った。



(視界が最悪の中、隠れる場所も増えて、相手が得意とする土俵に乗せられたな)



ヴォルクは動き出す。


密林の中で、じっとする事こそが命取りと、経験で分かっていた。



自分もどこに相手がいるかすぐに分からないが、それは相手も同じ条件である。



「山でのゲリラ戦か・・・懐かしくて震えそうだよ」



ヴォルクは軽口を叩いた。





モルアナは、木の上を渡り歩く。



ヴォルクの姿を探して、まるで普通に走っているかの様に、木々へ飛び移るその様は、なるほど忍者である。



(ゴルド様は、私には出来なかった、娘へ・・・私の家族に、希望を与えてくださった方だ)


木々を渡り歩くことで、前の世界を思い出したのか、モルアナは目の前の戦いに集中しつつ、今一度、覚悟の気持ちを、改めて胸に刻んでいた。




平穏な暮らしを約束してくれる、それがどれほど偉大なことであるか。




エマは今、森の中での逃亡生活が嘘の様に、明るい太陽の下、エルフの子供達と、それだけでなく、ワカバ達の宇宙人組とも遊んでいる。



この未来を、希望を、私は果たして1人で、与えることが出来ただろうか。



戦うしか能がない私では、血に汚れ、殺し殺される解決しか出来なかった。



家族を守ることが、私の使命であり、最も大切なこと。



その家族に希望を与えてくださったゴルド様に、私が最大限できる、戦うという役目を持って報いること。



(これほどの、これ以上の戦う理由など、ありません。私にとっては、ね)




ヴォルクは見抜けなかった。


モルアナの、穏やかな性格の中にあった、守る為なら、何でもやるという覚悟を。


優しい木こりのようなモルアナは、いざとなれば、その平穏を守る為、斧を振り回す戦士なのだ。





(毒の粉。幻覚作用と嘔吐、それと痺れを起こす、特別調合の物。問題は、どう浴びせるか、吸わせるか・・・燻した煙に混ぜたいですが、さすがに観客席に影響を出すのは、顰蹙(ひんしゅく)を買いますね)



手段は限りなく選ばない。


ここが何でもありの場所であれば、モルアナは、森に火を放つことすら厭わない。



それほどの、覚悟と徹底ぶりが、彼の一段階上へと戦士としての格を上げていた。




木々から一通りフィールドを回り、違和感を覚えるモルアナ。



(おかしい。そろそろ姿を見つけてもいい頃合い。痕跡すら見当たらない。フィールドは、試合会場としては広くとも、森としては限りなく狭い・・・隠れましたか)



モルアナは、木々の影か、フィールドに穴を掘って、ヴォルクが隠れていると踏んだ。



(傭兵としての経験、徹底ぶりは、私よりも数段上でしょう。油断など出来るわけがない)


モルアナの、観察眼が鋭くなる。


木々の影を、根本を、フィールドの盛り上がった土の場所を、注意深く、時には吹き矢を吹いて、攻撃をしてみる。


見当たらない。


モルアナは焦りつつも、木々の上からは降りない。




「うーん、こう着状態ですね」


ワカバがモニター越しにつぶやく。


見栄えとしては、地味な絵が続くことに、不満を声色に乗せるが、ゴルドは真剣にモニターを見ている。



「ヴォルクのやつ・・・やり過ぎなきゃ良いけどな・・・」



独り言の様に、ボソリと、自分だけに聞こえるように、ゴルドはつぶやいた。





モルアナが、木々を飛び移った時、視界に違和感を捉える。



木の皮が、剥がされている。


(即席の隠れ蓑ですか。やはり侮れない。しかし、木々の影に隠れて・・)


モルアナが、そこまで考えた時、閃光と熱、更に地響きと、足元が崩壊する感触を覚えた。






「ばっ!爆発!?」



フィールドに爆音と、目をつむるほどの激しい光、炎があがり、観客から悲鳴があがる。


ワカバが慌ててマイク越しに、何が起きたかを言うが、まだ観客の中には耳がキーンとしている者もいる。




「ヴォルク、やりやがったな」



耳を押さえながら、ゴルドがやれやれという顔で言う。





立っていた木だけでなく、爆弾が効率よくフィールドの森を焼けるように、計算されて仕掛けられていた様だ。



モルアナは、さすがに爆風を受け、木から落下したので、無傷とはいかない怪我を負う。


冷静に身体を観察して、左肩脱臼、左脚大腿骨骨折疑い、骨盤もヒビくらいは入ったか、打撲、捻挫が各所で見られるが、精霊魔法の最低限の治癒で、応急処置だけして立ち上がる。





「よーやく引きずり出してやったぞ、森のゲリラ戦士」





ヴォルクが木の皮で作られた服を身にまとい、燃え盛る森を背にして現れる。

手には何故か、太めの枝を持っている。



「火薬をお持ちとは、思っていましたが・・・この小さいとはいえ、森を燃やせるほどとは、見抜けませんでした」



モルアナが、剣を構えて言う。


ちゃっかり、この剣に、先ほどの奥の手である毒も塗ってある。



「そこは、機密事項だ。オレの切り札か何かだと思ってくれ」


「それを切らせただけの、手強さが私にあったということですかね」


ヴォルクはそうモルアナに言われ、柄にもなく吹き出して笑う。



「そうだな。その通りすぎて笑っちまうよ・・・お前とは2度とやり合いたくないな。特に、何でもありにされると、骨が折れてかなわん」



その言い方に、モルアナは光栄だとしつつも、言い返そうと口を開く。



「その評価は嬉しいですが、まだ、試合は終わっていません。私は、まだ負けていない」





「いやーーーもう動けんよ」





ヴォルクは、何か確信がある様に言う。



モルアナは、爆風を受けたが、治癒魔法で最低限動けはする。


何をもって、動けないと言うのか?


そもそも、確かにモルアナの目の前に姿を現すこと自体、不思議といえば不思議だ。


燃える森の中から、更なる奇襲がまだ出来たはず。



モルアナが読み切れず、とりあえず動こうとしたところ、ヴォルクが手を前に出し、制止のサインをする。





「地雷って知ってるか?ーーー地面に爆弾をセットした。この周辺に、いくつかな」




ヴォルクは、手に持っていた太い枝を、下手投げで近くの地面に放り投げる。



それが地面についた瞬間、小さいとはいえ、爆発が起きた。



モルアナはそれを見て、冷や汗をかく。




「本来の地雷は、もっと凶悪でな。釘やら鉄の破片やらが詰まって、踏んだやつをズタズタにする。今回のは爆破のみだ・・・まぁ、のみっつっても、足は確実に持ってかれるわな」



涼しく言うヴォルクだが、モルアナはさすがに信じられなかった。



「その切り札とやら、あまりにも好都合すぎますね。地面の中に爆弾・・・今の爆発は本物ですが・・・他にも埋めているかどうかは、ブラフの可能性がありますね」




モルアナの言う事は尤もだ。



試合開始の時に、ヴォルクの姿は見ているが、傭兵服に武器をいくつか仕込めたとして、さすがにここまで大量の火薬は持っていないはず。



どの様にして、森を焼くほどの火薬と、今の地雷を用意したかは不明だが、これ以上あるという事実も、確証が得られない。




「おすすめはしねぇぞ。ベルネシアに聞いたが、四肢の欠損は治せるが、その痛み、喪失感から来る、PTSD・・・あー、トラウマっていうやつだが、それの克服は難しい」



ヴォルクは、なんて事のない様に言う。



モルアナは、地面に目を凝らす。


きれいに生えた芝生は、土を掴んで生えているだろうから、その下にあるとすると、土の掘り返しが見えない分、目視では分からない。




だが、モルアナも蛮勇というわけではない。



ここで、ただ信じないという選択肢だけを選んで、足を進めるのはリスクがある。



すでに、方法は不明だが、ヴォルクは火薬を大量に生み出す切り札を持っている。


そのカラクリを解かない限り、不用意に動けはしない。


モルアナは、次なる手を考えていた。






実況席では、耳への影響がようやく治まり、ヴォルクの地雷発言に、ワカバが驚きのリアクション芸をマイク越しに見せていた。



「しかし!不思議なのはどうやって用意したのか!?ヴォルク選手の体はもしかして、火薬で出来ているんですか!?」


「んなわけないだろう」


ゴルドが冷静にツッコミをする。


「という事は、さすがにもう地雷はないでしょうか?実は一個だけでした~、みたいな?」


ワカバがそう聞くが、ゴルドが答えられるわけがない。


「オレにもさっぱり分からんよ。だが・・・まぁ、オレの印象だが、ヴォルクはハッタリだけで、姿を現すタイプではないと思う・・・」



ゴルドの指摘は、はたして合っているのかどうか・・・。






モルアナは、精霊魔法に使う、魔力量を計算する。



こういった魔法は、体力と同じで、無尽蔵に発動できるわけではない。


先ほどの森を出現させるのに、ほとんど使い、治癒もしたので、もう残り少ない。




なので、どう使うか、頭の中で計画を立てた。


(最後まで、どう転ぶかは分かりませんよ?ヴォルク殿・・・)




ヴォルクは、相対するモルアナを見て、確信している。




(こいつ・・・まだ諦めた目をしてねぇな)





2人の視線が交差し、モルアナが風の精霊魔法を発動させた。



飛び上がるモルアナは、放物線を描いて、ヴォルクに剣を振り上げる。



ヴォルクは、動かず、迎え撃つ。


モルアナの振り下ろした剣は、ヴォルクのナイフで受け止められ、モルアナがヴォルクの足元の付近で足を着地させる。



ヴォルクの立つところは、確かに安全だろう。


何せ他ならぬヴォルク自身が、安全な、地雷を設置していない場所を知っているのだから。




「さすがだな。まだ戦うことを選ぶか、森の戦士」


「当たり前ですよ。周り全てが危険で、敵に囲まれて生きる・・・貴方もその経験がおありでしょう?」


ヴォルクとモルアナは、剣とナイフで剣戟を繰り返し、モルアナは少しでも剣先をヴォルクの肌に当てようと、必死になる。



「唯一の違いは、私はその状況を、家族と共にいたという事ですかね。そういえば、ヴォルク殿はご結婚は?お子様などは?」



「いねぇよっ!」


ヴォルクが蹴りも駆使して、モルアナの猛攻をいなす。



「そうでしたか。失礼しました」



モルアナが素直に謝る。

それに対して、ヴォルクは、攻撃を休めないが、ヴォルクから投げかけをした。



「家族ができる余裕があるのは、羨ましいな」


「余裕ではありませんよ。むしろ・・・心に余裕がないからこそ、家族を求めるのです」



夫婦だけが家族ではないでしょう?

貴方の傭兵チームの仲間は、家族のようなものでしょう。



モルアナがそう剣を振り下ろしながら言うと、ヴォルクはナイフで受け止めて、溜めながら言う。



「家族とは違ぇよ。あいつらは、あいつらの人生を生きている。オレに責任はねぇ・・・似ているようで、お前とは違う・・・」


ヴォルクはナイフで切り上げて、モルアナを突き飛ばす。






「オレと、お前は違う」






ヴォルクが地面を蹴って、急に後ろに下がる。


モルアナは、ヴォルクを追って、前に進む。




「カチッ」




右足に、何かを踏んだ感触と、音がする。



本能的に、モルアナは止まる。



背中に冷たい汗と、何故?という疑問符が頭に広がる。




「さすがだ。これほど戦闘状態にあって、足元の繊細な機微を読み取れるか・・・」



ヴォルクは、本気で感心した。


それだけ、モルアナという男は、感情のコントロールが上手く、理性的な武人である証拠だ。




「足を浮かせば、ドカンだ。威力は弱いが、しばらくは足が使い物にならん」



「・・・ヴォルク殿の足元に、埋めていたのですか?・・・一歩間違えれば、貴方が踏んでいたかもしれませんよ?」





モルアナの、ヴォルクを見る目に、畏れの色が見える。


この男、正気か?


底知れない思考の狭間を、モルアナは垣間見る。





「オレはそこまで耄碌しちゃいない。お前ほどの相手なら、ここにも埋めた方がいいと判断したまでだ」




地雷の上で、本気の剣戟をして、自分は踏まずに相手にのみ踏ませる。





「家族を守るために、お前は自ら死ぬ選択は取らないだろう・・・当たり前だ、家族を守れるのは、お前しかいないからだ。だが、オレは違う・・・」




ヴォルクはナイフを腰にしまい、勝利の拳を突き上げる。




「オレは死を、天秤にかけられる・・・尤も、今まで、天秤にかけて、命を落とした事はないがな」





静かな競技場に、勝利が決まった事で、歓声が湧き上がる。



ワカバの、ヴォルク選手が勝利したという宣言を聞きながら、モルアナは、格の違いというものを身に染みて感じた。



「ほら、ジッとしてろ」



ヴォルクが、モルアナの足元に手を置き、慣れた様子で地雷を解除する。



「・・・分かっていましたが、私はまだまだですね」


「お前のその技量でまだまだとか、謙遜どころか嫌味でしかないな」


ヴォルクは吐き捨てるように言う。


モルアナは、負けた側として、何も言えない。




「・・・こんな試合じゃ、お前の真価は測れない」




ヴォルクが、腰を地面に下ろして、疲れたように言った。



「・・・慰めですか?ずいぶんとお優しい」


「ただの感想だ。お前、諜報部に入らないか?」


「・・・家族の為に、休日は申請できますか?」


モルアナの質問に、ヴォルクは頭を悩ませてから、答えた。




「・・・ボスがその方針だからな。オレには分からん条件だが、いいぞ」




「それはいい。では、よろしくお願いします」



ヴォルクは鼻で笑って、モルアナはフィールドから、帰る為に歩き出す。



観客席から、モルアナを呼ぶ声がする。



見ると、娘のエマと妻がいた。



モルアナが元気に手を振る様子を見て、娘が泣きながら父親を賞賛し、抱きつく。






「・・・・・」




ヴォルクは何も言わずに、だが、良い光景だと、心の中で満足そうにしていた。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ