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第54話 世紀末傭兵vs森の戦士



ベルネシアによる治癒魔法で、キャロットの足にある傷を治す。



「はい。おしまいだけど、流れた血やら、筋肉疲労は残してるから。しっかり養生する事だね」



「残しているって・・・そこも回復できるならしてあげてよ~」


クローナが口を尖らせて文句を言うが、ベルネシアはなんて事のないように言う。



「それを回復させたら、キャロットの成長も消えるよ?体ってのは不思議でね。外傷は治さないと危ないけど、体にある疲れってのは、より強くするためのエネルギーでもあるんだ。このダメージより強くなろうって、体が働くのさ」


そう説明されて、クローナは、そうなのか、と納得する。



キャロットは、自分の足を見て、優しく撫でた。



「まだまだ、強くならなくちゃいけないからね」



そう、自分に言い聞かせるかのように、キャロットは言う。



「ありがとうございます。ベルネシアさん」


ヒロがお礼を言い、ベルネシアは気にするな、とだけ伝えて、部屋を出ていった。



競技場の内部にある救護室で、キャロットはベッドに横になる。



「あー、やり切ったけど、届かなかったか~」


キャロットが盛大にため息をついて、仰向けでそう言う。


クローナがどう言おうか迷いを見せる中、ヒロがキャロットを見て言う。






「カッコよかったよ。すごく」






キラキラした目で、本気でそう言っているであろうヒロを見て、キャロットは笑う。



「ヒロ様も、大概、ゴッド様と同じで、ちょっとズレているよね」


「アタイもそう思う」


「え?え?なんで?」


ヒロが狼狽えるが、キャロットは嬉しそうにしていた。



「ま、ヒロ様に認めてもらえているなら、頑張った甲斐あるかな。不死身相手にあそこまでやれば、健闘した方でしょ」


キャロットが布団をかぶって、クローナの方を見る。



「次は、クローナの番だよ。私の分まで、暴れてきな!」



クローナは、緊張の面持ちで、拳を握る。



残っているのは、どう見ても格上のヴォルク、胡散臭そうな騎士団員のビィンセント、そして、ヒロもいる・・・。



「イチゴかエルフの人来い、イチゴかエルフの人こい、イチゴか」


「おいっ!神頼みするなよぉ~!その2人だって、舐めてかかると足をすくわれるぞ!」



クローナのそんな姿に、キャロットは喝を入れる。



「やれやれ・・・吹っ切れてここまで上がったかと思えば・・・ヒロ様も幻滅するわよ?」


「そ!そうなのか!?ヒロ!」


「え?え?いや、そんな事はないよ」


ヒロが困ったように慌てて言う。

そして、クローナの方を見て、言葉を続けた。



「大丈夫。クローナは、やる時はやるもん。全力で!頑張ろう!」



笑顔でそう言うヒロに、クローナは、うん、とだけ答えた。



まだ、絶対的な覚悟は、決まっていないようだ。


だが、試合は進んでいく。

置いていかれるものを、待ってくれはしない。






画面に、次の対戦カードが表示された。




ヴォルクと、エルフの戦士、モルアナである。





「来ました!今大会の大本命!ヴォルク選手です!」


ワカバが勢いよくマイクに声を乗せる。


「ヴォルクも大概、ローガン並みの特殊枠扱いされそうなもんだが・・・しかし、相手がモルアナとは、意外と面白い対戦になるかもな」



ゴルドが意味深な発言をして、ワカバがそれを逃さず食いつく。



「何ですか!モルアナ選手をご存知なんですか!ゴルド様!」



「あ、あぁ。なんたってエルフの戦士の中で、最強の剣士だからって、ミハエルがよく自慢してる。モルアナ本人は、気のいい兄貴分って感じだな」


「さすがゴルド様!人と仲良くなるのが早いですし、交友が広い!」


ワカバが割と思っているゴルドの凄いところをマイク越しに言う。

ゴルドはやめろ、恥ずかしいと止めに入るが、止まるわけがない。



「さぁ!傭兵対エルフ!戦闘のエキスパートと森のエキスパートは、どちらが強いのかぁあああ!試合準備に入ります!」



2人が呼ばれ、フィールドに立つ。




「ヴォルク殿と戦えるとは、恐悦至極。存分に、勉強させていただきます」


堅い喋りのエルフ。

線の細い、柔な体格のエルフがほとんどの中、モルアナは比較的がっしりとした体型をしている。


だが、ヴォルクと比べれば、体の線は細めと表現されてしまう程度だ。




「すまんな。オレは人付き合いは苦手で、お前のことは全く知らない」



ヴォルクはモルアナと対照的に、挑発するかのようにそう不躾に言う。



「それは当然のことです。私はエルフの剣士たちの中だけで多少強かった程度、井の中の蛙に過ぎませぬ」


ミハエルが聞いていれば、何を言うか!と突っかかること間違いなしのヴォルクの言葉に、モルアナは、まるで枝垂れ柳の様に、透かして受け取る。



「ましてや、私たちエルフが、そもそも人付き合いはいたしませぬ。種族からして引きこもりですので」



頭に手を置いて、照れた表情を浮かべる。



ヴォルクは、そこに何の演技もないことに、むしろ薄気味悪さすら覚えた。



「ミハエルと違い過ぎて、同じ種族に見えんな。高貴でプライドが高いのが、エルフだと思っていたが」


ヴォルクは素直に感想を述べる。

それに対して、モルアナはアハハと軽い愛想笑いで、困った顔をする。



「性格はその者によって様々ですよ。エルフだからといって、皆一様の性格ではありませぬ。そこは、人と何ら変わりませんよ」


至極真っ当なことを言う。



ヴォルクは、ある程度ここまで残る戦士達なら、先ほどのビィンセントのように、隠しきれない闘志があると思っていた。


先の試合の、キャロットなんかがそうだ。


あの野生の闘志は、鋭く、熱く、戦う者同士を震わせる意思があった。



彼はどうだ?



自然体、そのもの。



モルアナの肩に、力は入っておらず、森の戦士というよりは、森の木こり程度にしか感じられない。




「そうか・・・そうだな。オレの決めつけだった。すまない」



「謝る必要などございません。どうか、お気になさらず」



ヴォルクは調子が狂う。


元いた世界が、騙し合い、殺し合いが前提の世界だった為か、ゴルドを筆頭に、優しくされるというのに、慣れていない。


他者の善意というものが、罠にしか見えないので、素直に受け取れない。




ーーまぁ、だが、関係ないことだ。




ヴォルクは、この領内の最強決定戦という、ある一面から見たら馬鹿馬鹿しく思える催しに、本気で取り組む心意気だった。



諜報部としては、手の内を晒すのはいかがなものかという意見もあるが、まだ出来たばかりの今は、とにかく仲間に力を見せる事が重要と思っていた。



最強の諜報部がいる。



この領内に知らしめる事で、安心が行き渡る。



(ボスほどのお人好しが上に立つなら、その影となる諜報部は、正真正銘の最強でなければならない)


誰もが恐れ、誰もが負ける姿を想像できない存在でなければならない。





(優しさだけでは、正しさは守れない


ーーー力だけでは、正しくなれないーー


ボスがいるからこそ、オレ達"力"は、正しくあれるんだ)





「さぁーー!準備が整いました!」



ワカバのマイク越しの声が聞こえる。


ヴォルクも、モルアナも、相対して、互いを見合う。



「それでは!試合開始!」


また、ラッパの音が鳴り、開始の合図となる太鼓が響いた。





ヴォルクはサバイバルナイフを抜き、構える。


モルアナは、片手剣を持ち、もう片手を道具袋に入れた。



何かを握ったかと思ったら、走り出し、ヴォルクに接近する。



飛び道具か?


ヴォルクはそう思い、モルアナの手を止めようと、迎え撃つため接近を許した。




モルアナは、急に停止し、拳を振り上げ、何かを投げた。



粉状の粉塵が、ヴォルクに降りかかる。



(ちっ!?目潰しの粉か!?)




油断した。



相手を侮っていた。




元の世界なら、今ので死んでいた。



ヴォルクは前転で粉を可能な限り避け、呼吸を止めた。風上に距離を取り、身体の異常を確認する。



(目のかすみ・・・皮膚にはかゆみ、ギリ呼吸器官には入ってないな、まだマシだ)



ふと投げる音がする。ヴォルクは嫌な予感がして、飛び上がって後ろに2回下がる。



液体の入った薬玉が投げられていた。


全て避けて、地面に液体が散る。



「え!え!何ですかこの怒涛の手数は!?」



ワカバは実況が追いつかず、ヴォルク同様後手に回っている。



「毒の粉!開始すぐにモルアナ選手の隠し手が決まりヴォルク選手に目潰しでしょうか!更に、後手に回るヴォルク選手へ追い討ちの液体の入った玉?を投げました!辛うじて避けるヴォルク選手!防戦一方です!」


ワカバが、スローモーションの映像を確認して、慌てて実況をする。


ゴルドもそれを見て、うわ、ゆっくりだすげ〜、と感動していた。


「し、しかし、何というか、騙し討ち的な戦法ですね」


ワカバが率直に感じた思いを述べるが、ゴルドがいやいやと割って入る。


「立派な戦術だろ。剣で斬りかかるのも、毒の粉浴びせるのも、攻撃として同じだ。そこに、剣とか拳じゃないと、戦いじゃないってのは、見当違いもいいとこだろ」


ワカバが、なるほど、おっしゃる通りです、とマイクに言う。


続けて、ゴルドは思い出す様に言う。


「あー、モルアナ殿みたいな戦い方をねぇ、ヒロの世界でいうと、何て言ったっけなぁ・・・ニンジャみたいな戦士らしい」



「な!なるほど!忍者ですか!」



ワカバの世界でも、忍者は通じる様だ。

宇宙には流石にいないと思うが。




だが、言い得て妙。


道具を駆使して、相手を追い詰める。

派手な攻撃ではない、実用的な戦闘という、この徹底ぶりは、忍者を確かに彷彿とさせた。



ヴォルクは霞む目をそのままに、音とボヤける視界で、モルアナの位置を把握する。



(言い訳の一つもできねぇな。油断して、こういった手は使わない相手だと、無意識で思い込んでいた・・・笑えるな、ここまで油断して、ピンチになるのは、若い頃以来だ)




ヴォルクは笑う。




自分の不甲斐なさ、ミス、取り繕えない失態に、焦りはない。




(生きてる、視覚も陰影は分かる、心肺機能は正常・・・十分だ)




ヴォルクは、もっと絶望的な状況を、生き残ってきた。



この程度のピンチなら、生き抜いた経験がある。




モルアナが、道具袋から小型の吹き矢を用意して、ヴォルクに狙いを定める。



(粉は、目だけですか。さすがに反応が早い・・・ですが、視界が奪えれば、いかようにも攻め手はある)



モルアナは距離を取り、吹き矢で眠らせようとした矢先、、殺気を浴びた。




ナイフがモルアナの顔面に向かってきている。


紙一重で避けた際に、吹き矢がナイフで斬られる。



モルアナは冷や汗をかく。



(やはり、侮れない・・・視覚を奪い、距離を取り、視認性の悪い吹き矢という武器を使ってなお、反撃ができる・・・)




「———さすがです、ヴォルク殿」




モルアナは、実直にヴォルクへ敬意を表した。




「———だからこそ、超える価値がある」




その目は、木こりなどという、森の優しい働き者の眼ではなかった。




森にいる、ゲリラ戦士の、闘う眼であった。







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