第52話 不死身vsウサギ
「対戦カードは、準々決勝からシャッフルされます!機械によるランダム選定で!まずは2名選出されます!」
ワカバがマイク越しに楽しそうに盛り上げる。
スクリーンの画面が8人の写真がパラパラとシャッフルされ、高速でめくられていくと、画面上に2人の写真が残る。
「出ました!まずは!キャロット選手とシルヴィ選手の対戦です!」
ワカバが宣言すると、歓声が一際高くなる。
クローナは、そのカードを見て、愕然とする。
想定していた、最も対戦したくないカードが、シルヴィであった。
獣人にとって、クローナとキャロットにとって、攻撃手段は打撃のみ。
相性というものにおいて、不死身相手とは絶望的な差を生んでいた。
「・・・んじゃ、行くとしますか」
キャロットは打ちひしがれるクローナを横目に、対戦フィールドへ足を向ける。
「・・・勝ってよ」
クローナは、絞り出す声で、キャロットに言う。
「アタイは、また!・・・ヒロとゴッド様と、キャロットのパーティで、行きたい・・・そのパーティこそが!・・・最高だと思ってる!」
クローナは、キャロットの励まされて、何とかここまで来た。
まだ小娘にすぎないクローナは、信じて疑っていない。
誰が何と言おうと、あの古の塔に入った、この4人のチームが1番なんだと。
キャロットは振りかえらず、クローナに言った。
「ーーー当たり前でしょ。待ってなさい、証明してくるから」
親指を立てて、キャロットは足を進めた。
「さぁ!熱い戦いが始まります!実況は私!ワカバが担当します!そして!お客様としてゴルド様にも来ていただいています!」
「え?なにこれ?あ、すごっ!マイクだ!声が聞こえる!?」
放送席にワカバとゴルドが並び、賑やかしをする。
ゴルドはすごーい、と感想を述べながら、放送席を見渡していた。
「さぁ!ゴルド様!熱い戦いが3回戦まで行われて、いよいよベスト8が出揃いました!ここまでの感想を!」
「え?え?あ、うん。み、みんな~、ケガはない?大丈夫?無理しないでね?」
ゴルドが心配する顔を見せるが、ワカバはため息をつく。
「ちょっとちょっと!ゴルド様!何ですかその気の抜けたコメントは!最強決定戦ですよ!もっと盛り上がるというか!やったれ!みたいな熱いコメントをですねぇ!」
「え?あ、はい。さーせん・・・まぁでも、残っているのが、ヒロにヴォルクにシルヴィ・・・あー、知ってるやつばっかりだな」
当たり前である。
ゴルドの領内の最強決定戦なのだから、知らない外部者がいたら困る。
「特にゴルド様が推す選手はいないんですか!?」
「え?それオレが言ったらダメなやつだろ。みんな強くて頼りになるよ。今からもシルヴィとキャロットだろ?あ!シルヴィー!死なないからって無茶するなよ!また説教だからな!」
ゴルドがシルヴィにコメントを送ると、シルヴィはフィールドがら、姫ー!好きー!と大声をあげていた。
「あと、キャロットは安心できる。獣人のリーダーだけあって、周り見てるし、すごい頭がいい。機転が効いて、そつなく何でもこなすんだよ」
キャロットが、褒められて恥ずかしそうに照れている。
「なるほど!では、お二人とも強いと言うことですね!」
「うん。オレが相手だったら、10秒ももたないね。オレがひき肉にされちゃうよ」
「それはゴルド様が弱すぎるからです」
ワカバが遠慮なくゴルドを貶す。
はたして大丈夫だろうか。
「さぁ!準備も整ったので、時間無制限!戦闘対戦、開始になります!」
ラッパの音が鳴り響き、開始の合図の太鼓が叩かれる。
「うーん、古の塔の時は、私もパーティメンバーだと思っているんだけどなぁ」
開始と同時に、シルヴィはいつもの微笑みを浮かべながら、剣を構えた。
「まぁ、最後はね。いいメンバーだったけど、始まりは私たち4人だったから」
キャロットは体制を低く屈んで、両手を地面につける。
あえて、四足歩行に近い体制を取るが、瞬間的な飛び込みや、急な動きを取るには、理にかなった、野生的な構えだ。
(対人戦闘ではなく、野生の戦い方で行くか・・・冷静だねぇ)
シルヴィはキャロットを見て、剣を構えつつ、炎を剣に付与する。
ジリジリと互いの間合いを保ちながら、シルヴィとキャロットは円を描くように回る。
「ゴルド様!お二人の戦闘スタイルを振り返りましょう!」
「え?え?何て?」
ワカバがそう言うと、一部のスクリーンが3回戦までのハイライトを流す。
「うわっ!すげっ!さっきまでの戦いを振り返れるのかこれ!?どうなっていふんだ??」
「こんなの、昔からある編集技術ですよ~。さて!シルヴィ選手は、今大会のジョーカーと言いますか、まさに、究極のスキル、不死身であります!」
ハイライトで映されるシルヴィは、スプラッターよろしく、血まみれになりながら、笑顔で勝利していく。
もちろん、ただ、やられているわけではない。
経験と練度も高いシルヴィの剣技は、ただそれだけでもレベルが高い。
だが、そこへ、不死身ということで、人として踏み込めないもう一歩が踏み込めるのだ。
相手の攻撃が当たる間合い。
痛み、恐怖、それらが反射的に、二の足を踏ませるところ、シルヴィはない。
当たったとしても、痛いだけ。
死にはしないというアドバンテージが、人としてあり得ない、懐への踏み込みを可能にしていた。
そんな解説を、ワカバがノリノリでしていると、シルヴィから仕掛けた。
ゆらめく炎を置き去りにするかのような、一直線の突貫が、キャロットにまっすぐ向かう。
だが、ウサギの危機察知能力を舐めてはいけない。
跳躍し、距離を取るキャロット。
その聴覚と、足のバネは、ウサギの特筆すべき能力である。
シルヴィが次なる攻撃に転じようとするが、それは叶わない。
キャロットがジグザグに跳躍し、狙いを定めさせない。
「おぉーっと!何という人外の動き!?まさにウサギのように、飛び跳ねています!」
キャロットの体格は、身の丈2メートルの、筋骨隆々である。
しかし、硬そうな筋肉はその実、かなりしなやかで、柔らかい。
いわゆる、瞬間的な運動に適したその肉体は、自前の筋肉のみで、瞬間移動を実現させるほどの、クイックモーションに長けている。
まさに飛び回るウサギが、シルヴィの死角から、強烈な蹴りを浴びせる。
膝蹴りがもろにシルヴィの右側頭部こめかみに入る。
常人であれば、良くて失神。
だが、跳躍により助走がついたこの蹴りは、シルヴィの体を3回転させて、地面に頭部から叩きつけられる。
「うぇぇぇえええ!!痛そおおおお!!!」
ゴルドが目玉が飛び出るのではないかというくらい、驚きの声とリアクションをする。
「いやぁ、痛そうというか、普通は致命傷でしょ」
ワカバが冷静にそう分析するが、シルヴィは、なんて事のないように、起き上がる。
尤も、頭部より出血しており、見た目はショッキングな映像である。
「く~・・・効いた効いた。今の衝撃、1トンはあったんじゃないかな?こめかみの骨が陥没したよ。まぁ再生したけど」
「・・・シルヴィさん、ヤバイヤバイとは分かっていたけど・・・本当、不死身って恐ろしいわね」
キャロットが薄ら笑いを浮かべる。
シルヴィの不死身の度合いについて、詳しく知る者はほぼいないが、キャロットは初対面の時に、ミイラになっていたシルヴィを見ている。
命が続く限りは、ダメージは蓄積されるのでは?
という考察を持っていたキャロットは、こめかみを狙う事で、脳震盪や失神を狙っていたが、やり過ぎたようだ。
おそらく、一回死んだという事になって、ダメージがリセットされている。
(でも、中途半端な攻撃は怖いのよねぇ・・・少しでも意識あったら、攻撃されちゃうし)
キャロットはすぐに距離を取る。
若干、攻撃した足に痛みが走る。
当たり前だが、どんなに上手く力を流したとしても、物理的に反動は来る。
(マジで、相性悪いなぁ・・・攻撃するのもダメージ負うとか・・・)
キャロットはまた、低い4足姿勢で構えた。
変わって、シルヴィは炎をもう一つ強く纏わせる。
(キャロットさん、冷静だねぇ・・・うん、リーダーやるだけあって、やっぱり手強い)
シルヴィは、不死身を全面に押し出して、相手の戦意にダメージを負わせるのが、常套手段であったが、それが効かないキャロットを、強敵と見ている。
(気持ちってのは、理性や野生の勘とかよりも、1番大事なモノ・・・その気持ちが堅く、強いな・・・あと、純粋に動かれると、捕まえるのが難しいや)
シルヴィは炎をさらに強く、強く纏わせる。
「怖いわねぇ、それで私を焼く気かしら?」
キャロットが、仕方なく距離を取る。
だが、魔法剣は、通常の魔法と違い、発射ができないはず。
なぜ大火を作り出すのか、キャロットは分からなかった。
「いーや、火傷は私も嫌いでね。痛いし、見た目がよろしくない。キャロットさんの美しい顔に、火傷はさせたくないしね」
シルヴィが、キザな騎士のように、そう答える。
「あら、お上手だこと。ヒロ様にも、そういったキザなセリフを、指南をしてくださいませんか?」
キャロットがジリジリ下がりながら、シルヴィに返す。
ヒロがとばっちりを食らって赤面する。
「あぁ、優勝した時に、ヒロ殿にも教えてあげるさ」
熱く燃えたぎる剣を高くあげて、シルヴィは準備が整ったのか、ニヤリと笑った。
「一体何を?・・・」
キャロットが警戒し、ワカバとゴルドも、固唾を飲み見守る。
次の瞬間ーーーシルヴィの剣から白い煙が勢いよく噴き出され、たちまちシルヴィの姿を飲み込み、あっという間にキャロットも飲み込んだ。
「ーーーー水蒸気っ!?」
キャロットはすぐさまタネに気づいた。
「な!何ということでしょうか!煙幕です!白い煙の煙幕で!フィールドが見えません!?」
ワカバの驚く実況がとどろき、会場も騒然とする。
ゴルドは、じっと見ていながら、炎の剣に、シルヴィが氷をかぶせるのを、一瞬だけ見ていた。
「熱い熱した剣に、冷たい氷で、水蒸気を発生させたのか・・・」
「そ!そうなんですか!ゴルド様!」
「え?あ、いや、なんか見てたらそうかなーって」
期せずして、解説のような役をこなしてくれるゴルド。
「だが、視覚を奪うだけなら、キャロットにとってはそこまで脅威じゃないはず。彼女の真価は聴覚だ。目に頼らない音を聞くその察知能力は、侮れないが・・・」
「すごいです!ゴルド様!解説役みたいです!」
ワカバがもはや感想だけを述べる。
水蒸気の中、キャロットは無闇に動かず、体勢の低い構えのまま、耳に集中する。
ゴルドの読み通り、キャロットは慌てていない。
聴覚が潰されていないなら、水蒸気による視界を潰すこの手は、そこまでキャロットの痛手ではない。
(どこから来る?・・・まだ、動いていない)
目を閉じ、耳を澄ますキャロットは、シルヴィの攻撃を待ち受ける。
「ピキッ」
氷の音がする。
冷気が立ち上り、水蒸気の中で、冷たい風が吹いた。
シルヴィの足音がする。
普通なら、その位置、方向までは特定できないが、キャロットは正確に把握している。
距離が明確になって、キャロットが避ける動作に入ろうと、両足に力を入れて、足元に違和感を持った。
だが、もう遅い。
飛び出るシルヴィの剣から、逃れようと精一杯飛ぶが、足が滑った。
右足に、剣による裂傷が走る。
うめくキャロットは、すかさず、手で地面を弾いて、さらに距離を取る。
そこまで離れると、水蒸気から飛び出て、ようやく視界が晴れた。
観客席からは、キャロットの姿が見えたが、足に攻撃を受けたのは明白なほど、出血と、キャロットの苦悶の表情がうかがえる。
「あーっと!キャロット選手!攻撃を受けてしまった!これは手痛いダメージ!」
「なっ!・・・シルヴィの位置は把握できていたろうに・・・なぜ・・・って、うん?」
水蒸気が、自然と晴れていき、フィールドの地面が現れた時、答えはあった。
「凍らされている?」
滑りやすい氷上が、そこに出来上がっていた。
剣を構えるシルヴィは、ニヤリと笑う。
「魔法剣はどう?色々と使えるでしょ?」
シルヴィの不敵な笑みに、キャロットも同じく不敵に笑う。
クローナも、ヒロも、祈るような、懇願するような顔で、試合を見守っていた。




