第50話 怪物の山
「なぁヒロ。ちょっと山に行って欲しいんだが」
「へ?」
それは、ヴォルクからの唐突な依頼だった。
ゴルドが異世界へダンジョンしに行きつつ、その異世界から客も呼ぼう、と提案して、デジマは更に忙しくなっていた。
頭脳労働タイプは、異世界とのやり取りのための取り決めやらシステム構築のため書類を作りまくり、建築物はベルネシアが、数名の大工知識のある冒険者と作っていく。
少し前まで、この建築チームの柱だったヒロだが、ある程度必要な資材を多めに出した後は、忙しさが嘘のように、クローナとキャロットで、暇を持て余していた。
競技場の運営と、周囲のショッピングモール化は、構想が出来ているものの、さすがに働いてくれる人や、お店をやる人がいないと、絵に描いた餅に過ぎないので、今は温泉施設優先で、待ったをかけられている。
なので、仕事がもらえるというのは、ヒロにとっても、願ったり叶ったりだった。
「場所は、通称【怪物の山】・・・まぁ、安直な名前だが、アイハンド家の歴史書や、ローガン達の騎士団資料にもよると、だいぶ厄介な所みたいだ」
ヴォルクが簡単にまとめた資料をヒロに渡す。
クローナとキャロットと一緒に読むが、目につくのは、「スタンピート」という単語。
いつか、ゴルドが言いづらそうにしていた、山からのモンスター襲来の件だと、すぐにヒロは気付いた。
「ダンジョンじゃないの?これだけ定期的にモンスターが湧いてくるって、まさにダンジョンみたいだけど・・・」
「そこが、この山の奇妙な所だ」
ヴォルクは年表を見てくれと、資料のページを指定した。
「んー・・・何というか、バラバラだね。発生している年」
ヒロは年表を見て、素直な感想を述べる。
短いと5年スパン。長いと50年はスタンピートがない時代もある。
「不定期過ぎてな、予測しきれん。だが、やって来る魔物の数と強さも、全く法則性がない」
スタンピートでやって来た魔物の種類をまとめたページを見る。
「1番古いのは・・・あの、ドラゴンって書いてるけど、本当か?」
クローナがたまらずツッコむ。
ドラゴンといえば、モンスター界のボスである。
それが、スタンピートで押し寄せたとあるが、それが1番初めのスタンピートだとしたら、この国はよく滅ばなかったな、というレベルだ。
「確認はできん。あくまでも歴史書に記載されていたってだけだ。続きを見てみろ」
促されて、続きを読む3人。
「サルやクマ、狼などの動物系モンスターの年・・・蛇や虫などのモンスターの年・・・鳥系モンスターの年、なんかバラバラだけど、概ねこの自然系モンスターが多いね・・・あれ?」
ヒロが読み進めて、ある年から違和感を覚えた。
「・・・ずっと山にいても違和感のないモンスターだったのに、最近のスタンピート、悪魔系モンスター?・・・なんでだろう?」
最近のスタンピート・・・。
それは、ゴルドが領主に成らざるを得なくなった原因のスタンピートである。
「まぁでも、去年の出来事なんだね」
ヒロはあえて詳しく聞かず、情報のみを受け取る。
「なら、向こう5年は安泰ですね」
キャロットがそう言うと、ヴォルクが鋭く指摘して来た。
「本当にそう思うか?」
ヴォルクの声が、3人に重くのしかかる。
「去年だけ、山に普段はいない悪魔系のスタンピート。いつも不定期で、法則性がないが、唯一あった山にいそうなモンスターというくくりが、無くなったんだ・・・原因が不明なら、楽観視は危険だ」
「・・そう、だね」
ヒロが同意する。
「更に、この山が奇妙な点は、普段はいっても、そこまで危険な山じゃないって所だ」
ヴォルクは続けて言う。
「騎士団にとっても、当然因縁のある山でな。スタンピートが起きてからは、しばらく行かないそうだが、一年くらいでまた定期的に様子見をするそうだ。それを続けて、ある日山のモンスターが異常発生した時、スタンピートの予兆として、騎士団総出で迎え討つ」
これが、アイハンド家が繰り返してきた、この領地での使命だろう、とヴォルクは言う。
「使命?」
クローナが聞き返すと、ヴォルクは考察を語る。
「この辺境の地に、長々と続いている男爵家。スタンピートがある度に、アイハンド家がそれらを抑えて来た。ここまで聞けば、何となく察せれるさ。この厄介な山から国を守るのが、ボスの家の使命なんだろうよ」
「そうだったんだ・・・」
ヒロが妙に納得して、資料に目を落とす。
去年のスタンピートは、資料が新しいだけに、より詳しく残っているが、かなり熾烈な戦いになった模様だ。
戦死者が過去最も多く、アイハンド家の当主、次期当主、次兄がそれぞれ亡くなっているのは、過去の資料を見ても、類がない。
「騎士団は、ああ見えてまだ再建中だ」
ヴォルクが重く口を開く。
ヒロは、全く気が付かなかった。
ローガン達騎士団は、まだ再建の身だったことに。
「本来の騎士団員数に、遠く及ばない・・・それだけ、多くの者が亡くなった、激しい戦いだろう」
「・・・」
クローナもキャロットも閉口する。
重い雰囲気が、流れた。
「山を見にいくこともままならない。でも、捨て置くには、気になるね・・・うん、行こう!」
ヒロが、承諾した。
クローナは、もうちょい考えてよヒロ~、と恨み節を言うが、心は覚悟していた。
「助かる。ボスにはこれから説明だ」
ヴォルクは早速資料を持って、決裁のために、ヒロとゴルドの元へ向かう。
ゴルドの執務室で、同じ説明をする。
ゴルドは、難しい顔をしながらも、説明を聞き終えて、頷いた。
「うん。まずはありがとう。危ない任務かもしれないから、十分気をつけてな」
ゴルドはサインをして、ヴォルクに書類を渡す。
「でさ、ものは相談なんだが、オレも行っていい?」
良いわけありません、とリンゼが割と本気でゴルドの頭をチョップする。
「いや!危険なのは承知よ!だけど・・・だけどなんだよねぇ~・・・」
ゴルドはうーん、と渋りながら、しかし諦める様子はない。
「ボス、せめて安全が確認できてからじゃダメか?」
ヴォルクが代替案を提示する。
ゴルドは、更に唸って、困る様子を見せる。
「ダメです。安全確認なんてしても、そもそも危険な山に行く理由がありません。ヴォルク様、不用意な提案はお気をつけ下さい」
リンゼが、滅多に見せない怒気をあらわす。
ヴォルクは、分かった、今の提案は無しだ、と手を挙げて言うが、ゴルドがすかさず訂正する。
「いや、すまない。オレのわがままが悪い。理由は個人的なものだ・・・兄達の遺品があればって、思っただけだ」
ゴルドの言葉に、全員が沈黙する。
リンゼもヴォルクも、目を逸らして、気まずい雰囲気に呑まれる。
ゴルドがもう一度謝って、ヒロに言う。
「悪い。もう時間も経ってるし、今のは忘れてくれ」
「ゴッド様・・・」
ヒロは、寂しい笑みを浮かべるゴルドを見る。
そして、息を吸って、覚悟を決めた。
「いや、行きましょう」
ヒロが、まるで宣言するかのように言う。
リンゼが、無表情で睨んでくる。
「ヒロ様。どうかお考え直しを」
「うん。まぁ、良くないこととは重々承知の上です」
ーーでも、チャンスという意味では、今しかないですよ。
ヒロは資料をしっかり見ていた。
スタンピート後は、山は最も安全になるということも、歴史書は示していた。
「前に進み出したゴッド様の為にも、今こそ、すべき事かと思います」
過去は、変えられないし、どうすることもできない。
それは、ヒロも痛いほどわかっている。
でも、切っても切れない過去に対して、心残りがあるなら、それを解決することは、前に進む事になるはず。
ヒロは、リンゼを見て、もう一度言う。
「僕がいます。ゴッド様を、絶対に守ります」
リンゼは、目を閉じて、次にゴルドを見る。
ゴルドは、ヒロの宣言に、真剣な眼差しで見ていた。
そこにあるのは、頼もしさからの感謝か、友への親愛か。
リンゼは、一つ条件があります、とだけ付け加える。
「私も同行します。いいですね?」
リンゼの提案に、ヒロはもちろん、と答えた。
ゴルドは、ちゃっと涙ぐみながら、あらがとうとお礼を言う。
「なら、本気の人選で行くぞ」
ヴォルクがそう言う。
え?とゴルドが言うと、リンゼも当然です、と答える。
「なになに?え?ヒロ達と行く感じじゃないの?」
「ヒロはまだ良いとして、クローナやキャロットは力不足かもしれん」
「「ええー!!」」
2人が流れ弾に驚いて声を上げる。
「まだ出発日は決まっていない。今のうちに、腕に覚えのある奴らに周知して、ボスとリンゼの嬢ちゃんを絶対に守れる、この領内最強のパーティメンバーを、戦闘式で選出する」
「いや!本気すぎない!?ていうか、山は一応安全な時期なんだよね!?」
ゴルドの叫び虚しく、ヒロやヴォルクはやる気満々だ。
「負けないよ!」
「オレも体が鈍ってきたところだ。軽く揉んでやるぜ」
まさに今、アイハンド家領内、最強トーナメントが、開催しようとしていた。




