幕間 村長の大皿
村の長老が、縁側でお茶をすすり、緩やかな朝のひと時を満喫している。
長閑な村は、畑仕事をする音だけがして、子供達の無邪気な遊ぶ声だけが、一際聞こえてくる。
「長老、聞きましたか?ゴルド様が温泉なるものを造ったとか」
「ん?なんじゃそれは?」
村役の男が、またゴルド様の偉業を嬉しそうに伝えにくる。
英雄の召喚の時が、1番大盛り上がりの話題を持って来たが、それよりも前から、この村役は何かとゴルド様の活躍を周りに伝えたがる。
まぁ、なんて事のない、よくある村人の行動である。
「ほー、天然の湯につかるとな」
「それはもう!大層気持ちがええそうじゃと!」
「デジマまではまぁ、行けんこともないが・・・家の風呂と何が違うんじゃ?」
「ただのお湯と一緒にしたらいかん。いわゆる効能と呼ばれる、その温泉につかる事で回復とご利益があるらしくてな・・」
村役の男が熱く語り始めたところで、村長の部屋から、何かが落ちる音がする。
2人が振り返ると、村長が大事にしていた、大皿の飾りが、真っ二つに割れていた。
「な!な!なな!なんとぉおお!!これは先代の御領主様から賜った、大事な記念皿!おぉ・・・おぉ・・・先代御領主様の形見の品がぁ~」
村長は大皿に駆け寄り、涙を流して嘆く。
「あちゃー、先の山のスタンピートからも、これだけは守るって、村長担いで逃げてたのに・・・いや、普通に考えたら、その時担いで逃げたから、ヒビ入ってたんじゃないか?」
「たわけ!この大皿はアマダンタイト製じゃぞ!どんな衝撃にも耐えうる大皿で!先代様の若かりし頃、ワシと山に登り、巨躯の山神を調伏させ、その年のスタンピートを止めた褒賞に賜ったものじゃぞ!」
「それ、いつも聞くけど、なんで村長が先代の御領主様と山登るんだよ?しかも、体のでかい山神を調伏って、どうやって??」
「じゃから、それは2人だけで無くて、不思議な力により、眩い光から勇者を呼んでだな・・・」
村役の男は、また始まったと苦笑いする。
この村名物の、村長の過去自慢だが、あまりに荒唐無稽で、村長自身も、当時は身の丈2メートルを超える大男だったとか言うが、もう当時を知るものはボケているか、寿命で天に召されているので、真実がわからない。
尤も、目の前の好々爺が、元々2メートルもある大男だったとか、そんな恐ろしい存在なわけがないと、誰もが信じていなかった。
「ほら、村長。泣いてないで、この皿片付ける・・・おもっ!何これおもっ!!」
村役の男は、大皿の欠けた半分を持とうとして、その重さに驚く。
まだ齢40なので、体力的に耄碌しているつもりがないのに、この多少デカいだけの皿の破片が、鉛のように重く感じた。
「触るでない!ワシの皿じゃぞ!あと、言ったじゃろうが、これはアマダンタイト製じゃと。下手に触るとケガをするぞ!ほら帰った帰った!」
村長はひょいひょいと皿のかけらを集めて、奥の部屋に行ってしまった。
「あ~、ありゃへそ曲げちまったな・・・まぁ、大事にしていたもんなぁ。皆んな着の身着のままで走って逃げてたあの時も、爺さんのくせに、走り回って避難の呼びかけしていたもんなぁ・・・しかも、あんな重い皿背負って・・・火事場の馬鹿力は恐ろしい」
村役の男はそう言って、畑仕事に戻る。
不吉な予兆は、少しずつ、見えない形で現れていた。




