第47話 旅館ではお静かに
ゴルドは窮地に立たされていた。
家族風呂に、ミハエルを誘って入って、親睦を深めようとしていたが、のぼせたミハエルをお姫様抱っこの様に抱えて、胸元が露わになり、衝撃の事実に気付く。
そして、ミハエルを慌てて湯船に戻す。
「はっ!いやダメだろ。のぼせているのにお湯につけたら!」
セルフでツッコミ、ゴルドは致し方なしと、できる限りミハエルの体を見ない様に、もう一度抱きかかえて、脱衣室へ向かう。
ミハエルを脱衣室の床に寝かせて、受付で聞いていた、バスタオルと呼ばれる厚めの布生地を被せる。
そこでようやくゴルドは、呼吸をすることができた。
エルフの魅力とは、こんなにも恐ろしいものなのか・・・。
「って、違う違う!ヤベーじゃんオレ!ミツキ殿たちには偉そうに、風呂場で女は侍らせないとか言ってたけど!これ侍らせてるじゃん!オレ変態貴族じゃねぇか!」
ゴルドは自己嫌悪する。
だが、もっと己のやってしまった重大な失態に気付く。
(やべぇ・・・ミハエル殿を男と思っていた・・・これは、最低すぎる)
いやでも、髪の毛短いし、男っぽい話し方してたし、オレ以外の奴らだって、男として接していたよね?
オレだけが勘違いしてたわけじゃないよね?とウロウロしてあたふたする。
「いやいや落ち着け、まずはミハエル殿の介抱だ。水とか飲ませないと」
ゴルドはミハエルをもう一度抱きかかえようとして、気付く。
(き、着替え・・・どうしよう)
当たり前だが、バスタオルに包まれただけのミハエルを外に連れ出すのは論外だ。
では、ミハエルをここに置いて、水を持ってくるか?
だが、誰も見ていないのは大丈夫だろうか・・・。
ゴルドは焦り、脱衣室を3周ほど見渡すが、何の解決にもならないので、覚悟を決めた。
「速攻で着替えさせよう。すまないミハエル殿。変なことは誓ってしないからな」
ゴルドは心を無にして、ミハエルを着替えさせる。
(・・・オレ、何やっているんだ??)
無心でミハエルを着替えさせるゴルドは、ふと心の中で、己の今の状況を客観視した。
どうしてこうなったのか、答えは見つからない。
温泉すげえなと思って、気付いたらエルフの女性と温泉に入っていて、今、その女性を着替えさせている。
ん?オレ捕まらないよね?捕まる?
動けないミハエルを、文字通り全身全霊で何とか着替えさせたゴルドは、憔悴しきっていた。
男の生理的欲望を、否定し滅することに全力をかけた故に、精神がへばっている。
さくっと自分も着替えたので、ミハエルをおんぶして、家族風呂の脱衣所から出た。
「おぉ、出られま・・した、か・・・」
ミハエルの側近が出待ちしていた。
ゴルドがミハエルをなぜかおんぶしている。
ミハエルのぐったりした様子と、ゴルドの疲れた様子を見て、一瞬何事かと思ってが、はっ!と気付く顔をする。
「やや子を仕込まれましたか!」
「お前、オレのことなんだと思っているのかな??」
真剣にそう叫ぶエルフ側近に、ゴルドは怒りを隠さず言う。
「頬が赤く、グッタリされたミハエル殿と、体力を消耗された様子のゴルド様。これはつまり!そう言うこと!」
「違う!断じて違う!それより水を用意してくれ」
ゴルドが、旅館内の備え付きであるソファーに、ミハエルを寝かせて、息を荒くして伝える。
「み、水ですね!わかりました」
側近はすぐに受付に走る。
ゴルドがミハエルに、大丈夫か?と声をかけるが、ミハエルはうーんと唸るだけで、まだ回復はできそうにない。
すると、偶然にもヒロがやって来た。
クローナとキャロットもいる。
「あれ?ゴッド様!温泉来ていたんですか?」
ヒロが無邪気に駆け寄ってくる。
ゴルドは、色々と疲れているし、後ろめたさもあるので、何とか流そうと平静を装うことにした。
「ん、あぁ。さっきまで温泉につかっていたんだよ」
「え?本当ですか?・・・でもゴッド様、男湯にいませんでしたよね?」
ヒロが首を傾げる。
どうやら、先ほどまでヒロは男湯に入っていたようだ。なので、ゴルドの姿を男湯では見ていないと、疑問を口にする。
「あー、それは、家族風呂に入っててだな」
「え?誰とですか?」
「み、ミハエル殿と・・・」
「へ?・・・ふ、2人でですか?」
ヒロが怪訝な顔をする。
そして、のぼせたミハエルを見て、何となく察する。
「あー、あれですか?エルフだから、他の人と入るのは恥ずかしかったのかな?」
「んー、まぁ、うん。そういう感じ的な、うん」
ゴルドは汗をタラタラ流して、目を泳がせながら答える。
「ゴッド様となら入るって、ミハエルさんも、なんだかんだ言ってゴッド様を信頼してますね!」
ふふんと自慢げにいうヒロに、クローナは、何でヒロが得意気なんだ?とツッコミをする。
「お水お待たせしました!」
そこへ、側近が帰ってきた。
ゴルドはお礼を言って水を受け取り、ミハエルに飲ませる。
「ふぅ・・・これで安静にしていれば大丈夫だろう」
ゴルドが一息つく。
「長風呂しちゃったのかな?」
ヒロが何げなく聞くと、ゴルドが答える前に、側近が割って入る。
「やや子を仕込んでました故に」
「へ?」
「うぉおおおおおい!お前何言い出してんだよ!?」
ゴルドが飛び上がって叫ぶ。
クローナとキャロットは顔を赤くして、ヒロはゴルドを驚く目で見る。
「違う!断じて違う!そんなことはしていない!!誓ってしていないぞ!」
ゴルドは慌てふためき、側近の肩を持って揺さぶる。
「なんでそれに結びつける!?なぜだ!言え!」
「既成事実を生み出そうと!」
「正直に言えば何でも許されると思うなよおおお!!!」
ゴルドがヒロの方を向いて、息を荒くして迫る。
「誤解だ、ヒロ。分かってくれるな?私は無実だ」
決して、ミハエルを女性と分かって風呂に連れ込んだわけではない、とゴルドは弁明をしたかった。
「わ、分かってますよ。ゴッド様・・・異世界のエルフは、男性でも子供が作れるんですね」
「違う!全然違う!ものすごい方向に話がおかしくなっている!」
ヒロは顔を逸らして、顔を赤くする。
「ゴッド様。この前のダンジョンの時も思いましたけど・・・たぶん、ゴルド様は『受け』です」
「うん。まって、何の話かな?」
ヒロは真剣な顔でゴルドに言う。
「シルヴィさんからも好かれてましたし、ミハエルさんもゴッド様となら2人でお風呂に入るということは・・・つまりそういうことです。ゴッド様の魅力は、女性のみならず、男性も虜にするってことです」
話が明後日の方向にエンジンブーストをかけて飛び出して行き始めた。
「いや、あの、待ってくれヒロ。まず、まずだが、性別の誤解から解かねばならない」
ゴルドは頭を抱えて、一つずつ解決しようとする。
だが、そんな彼を追い討ちをかける様に神は試練を与える。
「あ、ゴルドさん出ました?」
「ゴルド様?どうかされましたか?」
「あれー?ミハエルさん寝てる?」
美月にリンゼにワカバが、温泉から出て来て合流した。
「おう、ボス。温泉入ってたのか?」
「ボス!これから入ろうと思っていたんですけど、まだなら家族風呂に一緒に入りませんか!」
ヴォルクとサリー含めた傭兵チームもやって来る。
そしてサリーは何を言い出すんだ?という発言もぶち込む。
「姫~!温泉一緒に入りましょうよ!」
「ちょっとシルヴィ、私達はどうするのよ」
「入るなら男湯に入ってね」
「ゴルド様だけなら、女湯でもいいけど、なーんてね」
シルヴィたち冒険者パーティも来る。
急にわちゃわちゃしだして、ゴルドはさらに焦る。
「お、おう、なんでみんな急にここに?」
「いや、温泉ができたって聞いたから、デジマなんてまだまだ娯楽少ないし・・・」
ヴォルクが代表して言う。
そして、のぼせたミハエルを見つける。
「なんだ?優男のやつのぼせたのか?」
「いえ!ゴルド様とムググッ!」
側近の暴走を、ゴルドが止める。
だが、止めるべきは側近だけではなかった。
「ミハエルさんはゴッド様と家族風呂に入っていたんだって」
ヒロがゴルドの背を突き刺す。
ゴルドはヒロ!何故だぁああ!と心の中で叫ぶ。
「はぁ?・・・2人きりでか?」
ヴォルクがそう言って、次にニヤニヤしながらゴルドに声をかけた。
「ボス大丈夫だったか?男とはいえ、美人エルフを前に、理性ぶっ飛んで手を出してないだろうな?」
冗談のつもりだったのだろうが、ゴルドにそう言うヴォルク。
ゴルドは渾身のドロップキックをヴォルクにお見舞いした。
「変なことを言うなおっさんがぁ!あとミハエルに失礼だろう!謝れ!」
「や、やるじゃねぇかボス・・・だが、手を出す相手を間違えたな」
ヴォルクは普通にキレて、ゴルドにコブラツイストをお見舞いする。
痛みで叫ぶゴルドに、周囲は何となく邪推し始める。
「え?ゴルドさん・・・もしかして、本当にミハエルさんと何かあったの!?詳しく教えて!」
美月が興奮して聞き出そうとする。
おそらく腐女子魂が震えているようだ。
「待ってよ!姫!どういうこと!私というものがありながら!男に手を出したのかい!?」
シルヴィがよくわからないノリ方をする。
お前はそもそも女だろうが!いや、ミハエルも女だけど!、とゴルドはツッコミたかったが、ヴォルクの攻撃により、喋ることが出来なかった。
「私も私も!家族風呂に一緒に入りたいです!」
サリーはそれだけを必死に訴えている。
ワカバは遠目に見ながら、平和ですねぇと目を細める。
ゴルドは痛感した。
自分なんて、まだまだ非力だな。
この状況すら、なんとかする事が出来ないなんて・・・。
領主には、やっぱり向いていないと、改めて感じた。
そんな状況を、ちゃっかりミハエルは、薄目を開けながら見ていた。
のぼせていたものの、もう既に起き上がれるくらいには回復していたが、今起きたらややこしい事になると察していたので、まだ、回復していないフリをすることにした。
ミハエルは、ゴルドの言っていた事を、繰り返し思い出す。
確かに、今ここにいる人間たちは、異世界から来た者たちばかりだが・・・。
ーーー信じてもいい、仲間になっているなーーー
(・・・まぁ、お前とは、仲間以上の関係に、なりたい・・・けどな)
ミハエルは、まだ顔の赤さが引かないようだった。




