第43話 アイハンド家諜報部
ヴォルクが先導して階段を降りていく。
「あの、ヴォルクさん。さっきのマスターとのやり取りは、合言葉的なやつですか?」
「おう。その通りだ」
「やっぱり。まんまゴッド様とリンゼさんの事ですもんね。まぁでも、他国の間者なら分からないか」
ヒロが納得いく顔をするが、ゴルドは変わらず、汗をダラダラかいている。
全く身に覚えのない承認をしており、ここが何なのか分からないまま歩くことに恐怖を感じていた。
階段を降り切って、扉の前に立つ。
ヴォルクがドアノブに手をかけて、しばらく握る。
すると、ガチャリと音がして、ようやくヴォルクはノブを回した。
「ん?ヴォルクさん。鍵開けました?」
「あぁ、指紋認証だ。ドアノブに手をかけるだけで読み取れるやつ。ワカバ達が作ってくれた」
「それあるなら、合言葉いります?」
ヒロはあまりの厳重ぶりに、ちょっと引いてしまうが、ヴォルクはなんて事のないように言う。
「諜報部だぞ?相手より上手にいないと。しかもこの世界は魔法なんてもんがあるんだ。これぐらいして、とんとんじゃねぇか?」
(ちょうほーぶ?・・・な、なにか薄っすらと思い出せるような・・・)
ゴルドは硬い表情のまま、部屋へ入っていく。
そこは、ヒロの世界的に言えば、現代風のオフィスであった。
席と机が整列されている中、唯一目を引くもので言えば、真っ白い壁に、モニター画面がいくつも設置されている。
もう中世ヨーロッパ風だと何度も言っているが、もはやモニター画面はあって当たり前レベルなので割愛する。
「これは監視モニターだ。文字通り、監視カメラの映像が見れるところだが、ワカバ達の技術は高すぎて、オレも理解するのに時間がかかった。その分、他の領土にはない監視体制ができて、そこは良かったがな」
理解できたの?あれを?という驚きをゴルドとヒロはするが、ヴォルクはなんて事のないように流す。
「住民達のプライバシーは守っている。安心してくれ」
「いや、まぁ、それは安心だが・・・ん?この映像、ハタテ村じゃね?」
ゴルドがモニターの一つを見て、ふと気付く。
あのヒロと行った領土の端にある村のはずだ。
「あんな遠いところまでカメラ付けに行ったのか?」
「カメラは勝手に動いてくれるから、俺たちは行ってないぞ」
勝手に動くカメラとは一体・・・。
ヒロはゴルドとヴォルクの会話を聞いて、末恐ろしくなるが、ゴルドはカメラ自体を、あのダンジョンの時に初めて知ったので、まぁ、なんて便利なもんなんだ、としか思っていなかった。
「紹介しよう。冒険者からスカウトした、メンバー達だ」
全員、同じ黒い格好をしている。
「あぁ、うん。みんな、ありがとうね。お仕事お疲れ様」
ゴルドが労いの言葉をかける。
「ありがとうございます。拾っていただいたこの身、この命を、ゴルド様へ捧げられますことに、感謝いたします!!」
代表して1人の男性が、すごいいい笑顔でそう言う。
ゴルドはそのあまりに自然な命かけます宣言に、目を白くする。
「え?ヴォルク殿?洗脳してる?大丈夫?」
「コイツらのマインドは勝手にそうなっているだけだ。オレは知らんぞ」
勝手になるものなのか?
ゴルドが困惑する。
ヴォルクは知らないふりをするものの、スカウトの際に、ゴルドへの忠誠心があり過ぎるくらいの人物をスカウトしていたのだが、まぁ、特にそれを言うつもりはないようだ。
「諜報部の主な任務は、周辺の情報収集と、領内のスパイ対策だ。今までは見向きもされてなかったかもだが、異世界人がここまで多くなってきたら、そうも言ってられないし、秘匿すべき情報も増えてきた。特にヒロやワカバ達は『超・特級保秘』レベルだ」
ヴォルクのいうことは尤もである。
ヒロが出す土から始まり、ノーリスクでばんばんと個人が出していい資源の量と質ではない。
そして、ワカバ達のぶっ壊れ技術の数々。
まぁ、知られれば面倒である。
それらを、未然に防ぐ任務を、彼等が担ってくれる。
「まぁ、現在のところ。我らが領土は、田舎だし、僻地だし、旨味ないしで、どこの誰も狙っていないがな」
「え?うちの領、そんなふうに思われてたの??」
ゴルドが自分の領土の、周囲からの評価を聞いて、落胆する。
「ボス、これは好都合だし、運がいい。攻められる理由も旨みもないってのは、不審がられず自然と守れる形だから、最高の防衛方法だぞ」
「お、おん。ありがとう・・・」
ヴォルクから褒められるが、ゴルドは何となく、そこまで手放しで喜べはしなかった。
「・・・なぁ、ヴォルク殿。とある山の監視もついでにして欲しい」
「ん?どこだ?」
「怪物の山だ。地図はあるか?」
ヴォルクが壁に貼られた地図の前まで案内する。
そこで、ゴルドが、領内の端にある、他国との境界線にまたがる山を指した。
「この山だ」
「わかった。監視対象としよう。オレは人専門だったから、対人の監視ばかり気にしてたが・・・この山には、名前から察するに、モンスターでもいるのか?」
ゴルドはしばらく地図を見つめる。
リンゼが、ぎゅっと、ゴルドの袖を掴む。
「・・・あぁ、モンスターの侵攻。スタンピードがあるのさ」
「モンスターのか?・・・わかった。気をつけて見ておこう」
ゴルドは、地図を見つめていたが、振り返り、いつもの雰囲気に戻った。
「ありがとう。さて、ここの視察はこんなもんかな?」
もう帰っていい?的な雰囲気を出すゴルドだが、ヴォルクは何を言っているんだ?みたいな顔で、書類の束を手に持つ。
「周辺の領土に、他国の情報も集めた。噂程度のものから、実際に見た記録まである。領主として最低限知って欲しい分だけまとめたから、読んでサインをしてくれ」
「んびゃあああああ!!何この量!」
ゴルドが目玉が飛び出すほど驚き、泣き顔になる。
「いいよ!ヴォルクだけ知ってればいいだろ!」
「いいわけないだろボス。ある程度助言はするが、さっきの怪物の山を警戒する指示を出すように、やっぱボスが領主として指示を出せるよう、情報も知ってないとな」
「ンアーーーっっ!!!」
ゴルドは頭を抱えてその場にうずくまる。
そして三徹の恐怖を思い出し、シクシク泣き出す。
「ご、ゴッド様、とりあえず持ち帰ってゆっくり読んだら、夜までには読み終わりますから」
ヒロが助け舟を出す。
「あ、この資料も特級保秘だから。この部屋からの持ち出し禁止だぞ」
ヴォルクがゴルドにトドメを刺して、ゴルドは絶望する。
「お茶を用意しても?」
リンゼがいつものノリで、紅茶を用意しようとする。
「あっちに給湯室あるから、使ってくれ」
リンゼはせっせとお茶を用意し、サリーもこの部屋で働いていたため、ゴルドを慰める兼甘えさせて元気付ける。
何とか資料を読み終わったのは、すでに夕刻時であった。
「あー、しんどー。ヴォルク殿は真面目すぎる。どうせオレの領地が侮られているなら、ここまで警戒する必要もないだろうが」
ゴルドがすっかりやさぐれて、リンゼと屋敷へ向かう。
ヒロもカートを一台もらったので、ヒロが運転しながら、ゴルドとリンゼを乗せてすいすいと道を進む。
「ゴルド様。私たちは守るものが増えました。その分、より強く、守らればならないのです」
リンゼが凛とした声で言う。
ゴルドは、それはそうなんだがなぁ、としぶしぶ同意する様子だが、リンゼはゴルドの方を見た。
「守るものが増えた分だけ、ゴルド様の御身の大切さも、比例して重くなります。ゴルド様の元に皆集まるからこそ、ゴルド様に何かがあってはならないのです」
リンゼの真剣な顔に、ゴルドは、慌てて首を縦に振る。
「わ、わかってるさ・・・ローガンにヒロと一緒に怒られたのも覚えてる。変なことはしないさ」
リンゼはじーっとゴルドを見て、また口を開く。
「それはわかっております。ただ、御身の健康を維持するためにも、明日は健康診断を行います」
「・・・けんこう、しんだん?」
ゴルドはポカンとして、リンゼの言葉を繰り返した。
「明日のワカバ様ご案内の病院で、それを受けていただきますので。ベルネシア様がゴルド様の主治医となります」
ゴルドは小さく頷く。
正直よくわかっていないが、病院の視察だろう。
その程度に思っていたゴルドは、明日地獄を見ることになる。
だが、今はまだ知らない。




