第42話 デジマ競技場
ゴルドが三徹から明けて、久方ぶりの熟睡を享受し起床。
今は優雅に朝食を食べていた。
パンに卵にヨーグルト、サラダとそしてソーセージ。
この世界での、貴族として一般的な朝食である。
ただ違うのは、一般貴族は、大量に料理を並べ、今日の気分で食べたいものを選び、他は残すという食事方法を取るので、ゴルドは「普通にもったいないだろ」とそれを拒否して、シェフに料理を任せて一人前しか用意させない。
「うーん。清々しい朝だ。今日は何か予定でもあったかな?」
ゴルドがリンゼに聞く。
「書類決裁がまた溜まってきております」
「うっそだろ!あんだけ処理したのに!?まだあんのかよ!」
清々しい朝はどこへやら。
ゴルドは絶叫して頭を抱える。
「ほ、他には?書類以外の何かをしたい・・・」
「ヒロ様が作られました、競技場の視察がまだです」
「おっ!行こう!そういうのだよ!そういうのを待っていた!」
ゴルドはウキウキとして、今日の楽しみが出来たと喜んでいた。
「・・・な、ななな、なんじゃこりゃあああああああ!!!!」
ゴルドは驚愕する。
デジマの端にありますと、競技場を案内されて、まぁ遠くに見えるあのでかい建物かな?と思っていた建物が、デカすぎて腰を抜かした。
案内役のヒロは変わらずニコニコしており、側使えのリンゼも、分からず無表情である。
「ゴッド様!ドーム型の競技場だから、雨の日でも安心ですよ~」
「これどうなってるの!?なんで屋根があるんだよ!王都の闘技場にだって無いのに!?てかその闘技場よりデカすぎだろ!!」
ツッコミが追いつかないゴルドだが、見上げてもてっぺんが見えない巨大建築に、もはや絶叫すらも霞んでしまうように感じた。
「・・・これさ、普通に考えたら、デジマの総人口どころか、屋敷のある町と、周辺の村々入れたって、利用するには大きすぎないか?」
ゴルドが絶叫をやめて普通に話し出す。
「そうですねぇ。まぁ東京ドームはやりすぎだから、収容人数は2万程度に抑えたんですけど」
「王都の闘技場は1万人規模だぞ!超えてんじゃねぇか!」
ゴルドは恐れた。
ヒロたちの世界には、もっと大きい建物があるのかと。
抑えて作った競技場が、あっさりと自国の王都にある最新闘技場を超えてしまい、ゴルドは、異世界はやはりヤベェと再認識した。
「異世界の常識に引っ張られないよう、気をつけねばな」
ゴルドはそう言って気を引き締める。
「しっかし、こんなに馬鹿みたいにデカいと、中を見るのも一苦労だな・・・周囲をぐるっと回るだけでも時間かかりそうだ」
「あ、それならワカバさん達がいいもの作ってくれましたよ」
「ん?」
ヒロがそう言い、ゴルドがどんなものか想像もつかないが、何となく嫌な予感をしていると、遠くから白い何かがスーっと動いているのが見えた。
だんだんと近づいてくるそれは、ワカバが乗っている、電動カートであった。
「ヒロさんお待たせしました~。試作品第一号の、何の変哲もない電動カートですけど、歩くよりは早いですよ~」
「何じゃこりゃああああ!!!」
「あ、ゴルド様。おはようございます」
ワカバが絶叫するゴルドに、普通に挨拶をする。
「え?え?何待って、オレがおかしいの?だって、何これ?馬じゃ無いよね?馬じゃ無いのに動いているよ?箱?イス?なんかコマが付いてるけど?何で動いているの?何これ?何なのこれ?」
電動のゴルフカートみたいなものだが、そんなものを知らないゴルドからすれば、十分異様な謎の機械でしかない。
「大丈夫?これ舗装されていない道だけど、軽いカートだと、進めなかったり横転しない?」
ヒロはカートを知っているので、驚きはしないが、逆に知識があるからこそ、現実的目線で見てしまう。
「何言ってるんですかヒロさん。重力並行システム搭載なので、横転するわけないですよ~。どんな悪走路でも水平移動ですから~」
「わぁ、僕の世界の常識も、軽くぶっ壊してるね~」
一見してヒロの知っているゴルフカートにしか見えないが、聞いたことのないシステムを載っけているようなので、きっと別ものなのだろう。
とりあえず、ゴルドたちはそのカートに乗り込むことにした。
スピードもそこそこ早い。
なのに、揺れを全く感じない。
「うん。やばいね、これ」
「うわっ!うわっ!動いてる!気持ち悪っ!滑らかに動いているのがなんか怖いっ!なにこれっ!何これっ!?」
ヒロは冷静に驚いており、ゴルドは興奮と恐怖とが入り混じってうるさい。
「も~、たかがカートごときで大袈裟ですよ2人とも~。冷静なリンゼさんを見習ってくださいよ~」
ワカバが笑いながら運転して、リンゼの方をチラリと見る。
リンゼは無表情でこそあったが、顔色が悪くなり、全身が小刻みに揺れている。
「冷静・・・ではなかったですかね」
ワカバが苦笑いして済ます。
競技場をぐるっと周り、関係者入り口から中へ入る。
一面に青々とした人工芝が植えられて、広大なフィールドがそこには広がっていた。
「このドーム自体が直径150メートルの円形ドームなので、中のグラウンドは、100メートル四方のものになっています」
ワカバがカートから降りながら説明する。
ゴルドはあまりの広さに、もはや一周回って、いつもの笑いしか出なくなった。
「はっはっは。いやもうこれ、観客席から見たらちっさくて何も見えないじゃん。明らか設計ミスだろ。デカすぎたんだって」
「チッチッチ、ゴルド様。そんな裸眼で楽しむなんて、原始的な方法は、原始時代だけですよ」
「僕の世界は割と原始時代寄りなんだけど。裸眼で楽しむから」
ゴルドの、ドーム観戦を知らない人間からの、競技が見え辛いという指摘に、ワカバはしたり顔で返す。
ついでにヒロに流れ弾が行くが、気にせず進む。
「まずは、古典的ですけど、大画面スクリーンが四方に備わっています。リアルタイム高画質、ブレなしの手堅いビューツールですね」
ワカバが操作して、巨大な画面に映像を映す。
ゴルドがドアップで画面に映っている。
「あぁ、まぁ、これも当初は驚いたが・・・まぁ、慣れれば、便利よね」
中世ヨーロッパ風異世界の現地人として、あるまじきテレビ画面慣れ発言をするゴルド。
このモニター程度であれば、ヒロも予想したものの範疇なので、特に驚きはない。
「次に、より集中してライブにこだわりたい方は、この専用ゴーグルを覗いてもらえれば、まるで目の前で見ているが如く、ズームアップしてみれます」
「専用ゴーグルって・・・サングラスにしか見えないけど」
ヒロがワカバから受け取って、そのサングラスを掛けてみると、観客席に一気にズームできる。
「うわっ!何これ!すごい!望遠鏡とか双眼鏡レベルじゃない!?はっきりくっきり、目の前で見えるレベルだ!なんで!?」
「ふっふっふ、私たちの科学技術を持ってすれば、この程度は児戯に等しいですよ」
興奮するヒロのそばで、ふふんと
鼻を鳴らすワカバ。
ゴルドも覗いて見て、驚嘆の声を上げる。
「はぁー、不思議だな・・・体は近付いていないのに・・・ヴォルク殿に見せてもらった双眼鏡も遠くが見えたが、なんか、遠くが見えるというより、近くに見えるという感じだなこれ」
リンゼがウズウズしてゴルドを見るので、ゴルドがリンゼも見てみろと貸してあげる。
ゴルドとリンゼが仲睦まじく、サングラスを貸し合うので、ヒロとワカバは微笑ましく見守っていた。
「さて、お次が大本命です!これはヒロさんも驚くこと間違いなしですよ~」
「いや、もう十分驚いているよ?」
ワカバが勿体ぶって、また機械を見せてくる。
今度は、先ほどのサングラスと少し変わり、ヘッドギアが付いたゴーグルが出てくる。
「こちらは、『移動型視覚映像転送機・ザ・サードアイ』という、中々に便利なものでして」
「ワカバ殿の世界で便利って感じるということは、相当ハイテクなのか?」
ゴルドがおそるおそるサードアイを手にする。
そして、かけて見てみると、驚愕した。
「お、オレの背中が見えるぞ!」
「えぇ!?どういうことですか!?」
ヒロも驚きの声を上げる。
「ふっふっふ~、これはですねぇ。お名前の通り、人の視点を生み出して、その映像がリアルタイムで見れる機械でして。例えば、サッカーの試合中なら、選手と同じ目線で、フィールドに立つことができるという、発明時はエンタメ業界がこぞって導入した、存在しない第三者目線を生み出す機械なんですよ~」
「サッカーとやらが何かよく分からんが、先ほどの近くが見えるサングラスと違って、視点も変えれて、自分自身が見えるというのは、奇妙な経験だ。死んでないよねオレ?」
「大丈夫です。生きてますゴルド様」
リンゼが冷静に言う。
「ていうか、どうなってるのこれ?原理がわからないよ」
ヒロもゴーグルをつけて、同じく感動しつつ、もはや科学技術で片付けていいのか?という疑問も持っていた。
「あぁ、魔法といえば、魔法にも通ずるな。これはその応用か?」
ゴルドもそう聞くが、ワカバはまさかまさかと手を横に振る。
「いやいや、あんな理不尽なトンデモ技術は無理ですよ。異世界を超えて飛ぶとか、しかも召喚対象を選んでいるって、もうそっちの方が理論が成り立ちませんって」
ワカバはそう言うが、どっちもどっちである。
そこから、べらべらと技術について語るが、正直理解できる人間はいないので、ゴルドもヒロも、あーはいはい、と適当に流していた。
「おーい、ボス。そっちの視察はもういいか?今度はこっち見てくれよ」
ヴォルクが黒いカートに乗ってくる。
「え~、まだだよ!これからどんな競技をするのかとか、ゆくゆくは異世界陸上とか、異世界オリンピックしようって提案を~」
ヒロが口を尖らせるが、ヴォルクが割って入る。
「スポーツの祭典はさすがに無理あるだろ。この領地だけじゃなくて、この世界全体の成長が必要になる。それより、この領地の防衛に関する報告だ。一番手はヒロだから譲ったが、これ以上はこっちも引けんぞ」
ヴォルクの言うことももっともなので、ワカバの運転するカートから、ヴォルクのカートに乗り換える。
ヒロも、領内最強の英雄なので、引き続き来るようにヴォルクが言った。
「まぁ、壁を見るくらいだし、特に見所ないだろ」
ゴルドはふぁー、と欠伸をしてヴォルクの運転に身を任せていた。
「いや、壁はそりゃ見てもただの壁だよ。それより、もう一個の許可をもらった本部ができたから、その視察だ」
「ん?もう一個?」
ゴルドが薄い記憶で、何とか辿ろうとするが、思い出せない。
まぁ、そのうち思い出すか、でいつものように流すゴルド。
「ここだ」
デジマの町中で、妙に覚え辛い裏道を通りまくり、ようやく小さな地下のバーに入るゴルド達。
「何だよここ~。覚え辛い道だし、しかもできたばかり町で、寂れた感じのバーとか、流行らんだろ?」
ゴルドがぐちぐち文句を言いながら入り、小さな店内に入る。
「ようこそいらっしゃいました」
中々、渋いマスターが迎えてくれた。
白髪に、丸いメガネの痩身の男。
年齢不詳というか、年寄りにも、中年に見える。
「オレだ。神の雫、ゴールドブレンドで」
ヴォルクが急に注文をする。
「生憎、切らしておりまして。申し訳ありません」
マスターの男は申し訳なさそうに謝る。
「いつもいる無愛想なウェイトレスに頼んでくれ。彼女なら持ってる」
ヴォルクが更に答える。
「おいおい、失礼なこと言うなよヴォルク殿。無愛想なって、女性に失礼だぞ?そもそもヴォルク殿の方が無愛想じゃないか」
ゴルドがフォローのつもりか、割って入ってくるが、マスターは笑う。
「では、こちらへどうぞ」
マスターはそう言って、バーカウンターの下の、巧妙に隠された隠し扉を開く。
「よし、入るぞ」
「え?・・・いや、え?」
ゴルドは呆気に取られる。
一体、自分は何の許可を出したのだ?
ダラダラ汗を流して、ヴォルクについて行く事しかできないゴルドであった。
薄暗い、地下に続く。




