第40話 デジマ町長選終結
デジマに、ゴルド達が帰ってくる。
ステージ上に、ゴルド、ヒロ、クローナ、キャロットが立つ。
更に、シルヴィ、ベルネシアもいる。
更に更に、ステージに乗り切らないので、観客席後方に、突如として200人の冒険者が現れる。
シルヴィが把握していたのは、大体300人ほどの冒険者だったが、当たり前だが実際はもっと多い。
シルヴィより先に入っていた冒険者や、そもそもシルヴィと会わずして亡くなった者もいる。
その中で、この世界に来ることを望み、人格として問題のない者をアイハが自動選定し、キリよく200人が、デジマの新たな住人として加わった。
「諸君!我々は帰ってきたぞーーー!!」
帰って来れた喜びを爆発させ、ゴルドがそう叫ぶ。
ノリのいいデジマ住民は、先ほどまでの展開を全て見ている。
領主の、割と命懸けだったダンジョンからの帰還に、全員が歓声をあげる。
ついでに、復活した冒険者達も、すでに終わったかに思えた自らの人生が、もう一度転生して復活した事に、心から喜びと歓声をあげていた。
思ったよりも反応が良すぎるオーディエンスの声に、ゴルドはビビって萎縮してしまった。
「うわ、耳痛いくらいすげぇ声だな。てか、こんな大勢の前に立った事ないし、すげー緊張してきた」
「今更何言ってるのゴッド様?」
クローナが呆れているが、ヒロは嬉しそうに手を上にあげて、歓声に応える。
「ゴルド様!」
「ゴルドさん!」
「ボス!」
フィオと美月とサリーが相次いでゴルドに駆け寄る。
「おー!みんなも無事だった?ダンジョンのレベルヤバくない?みんなケガない?」
ゴルドがいつものノリで声をかける。
「いや、レベルヤバかったの、ゴルドさんの行ったダンジョンだけだったから」
美月が冷静にそう言って、お帰りなさい、と笑顔で迎える。
「ダンジョンのレベルは、ゴルド様の方が高かったのですが、1番に踏破しましたのは、私たちのパーティですことよ?」
フィオが自慢げに笑い、ゴルドに言う。
「1番の商品、楽しみにしておりますわね?」
「おぉ!フィオ達が1番か!みんな頑張ったなぁ。ミツキ殿もサリー殿もおめでとう」
「ありがとうございます!ボス!」
サリーが嬉しそうに笑い、少し涙を流す。
「し、信じてましたから!帰ってくるって!」
「はっはっは、当たり前だ。私はここに必ず帰ってくるさ。居なくなるわけないだろう」
親指を立てて、任せろと言うゴルドに、サリーはたまらず抱きつく。
「まあっ!はしたないですわよサリー!」
「ずるい!っていうアレじゃないけど!その!うー!」
フィオと美月が悔しがるように顔を赤くするので、ゴルドが両手で2人の頭を撫でる。
こうするといいよと、ヒロにアドバイスを言われていた。
「・・・まぁ。悪くありませんわ」
「同じく」
「はっはっは、さぁて、リンゼはどうした?どこだい?」
キョロキョロ周りを見るゴルドに、ようやくステージの下で、ひっそり大人しくしていたリンゼを見つける。
「おぉ~、リンゼ!帰ってきたぜ!どう?泣いてない?」
ゴルドが見つけて手招きをすると、リンゼは無表情で頭を下げて、そそくさと去ろうとする。
「・・・えっ?なんで?」
「あー、ちょっと待ってて、私たちで呼んでくる・・」
ゴルドが目を点にして驚いていると、美月が、リンゼの気持ちを察して、自分が追いかけてあげようとするが、それよりも早くゴルドが走り出す。
「はっはっはー!リンゼ~!!オレだぞ?帰ってきたぞ~!はっはっは!」
笑顔で全力ダッシュするゴルド。
リンゼはあくまでもメイドに過ぎないので、あっさり追いつかれる。
肩を優しく抱き寄せ、ゴルドがリンゼの顔のすぐそばで、顔を近づける。
「・・・ふっ、やはり泣いていたか?ん?泣いてたっしょ?」
「・・・私の、誤った判断で、ゴルド様を危険な目に合わせたのです。側使え失格ですので、もう私には」
「あ!やっぱ泣いてた?目赤いし!無表情崩れてしおらしい顔になってるし~」
「うっ!うるさいです!ゴルド様のお側に、もう私は相応しくなくて・・」
「まぁまぁ、そう言うなって。お前の為に必死に帰ってきたんだから」
ゴルドが笑顔で、心底嬉しそうに笑う。
ーーあぁ、敵わないな、この人には。
堰を切ったように泣き出すリンゼを、ゴルドは優しく、抱きしめてあげていた。
「うーん、敵わないなぁ」
「リンゼ様は特別枠ですわよ」
「実質、正妻ですからね~」
美月達がその様子を見守る。
その同時刻、数十年ぶりの再会を、シルヴィもしていた。
シルヴィがその姿を、ステージ後方に見つけた時、慌てて走り出した。
何度かすっ転びながらも、夢中で走る。
夢だろうか?
いや、夢ではない。
転んだ痛みがしっかりとしている。
「よっ!・・・おひさ、シルヴィーっ」
金髪ポニーテールの、女性剣士が、親しげに声をかける。
その後ろに、白いローブを着た、メガネの大人しそうな魔法使いの女性と、弓を肩に背負った、ハーフエルフの女性がいた。
会いたいと思っていた。
でも、もう会えるわけがなかった。
どれほど、この瞬間を夢見てきたことか。
いや、ただの夢なら、悪夢でしかないだろう。
あの時のように、あの頃のままで、懐かしい声と雰囲気で、仲間達はシルヴィを見つめていた。
シルヴィは、もう今日だけで何度目だという泣き声をあげる。
だが、死ぬ事すら許されず、仲間の死を見届け続け、あの古の塔に囚われ続けていたシルヴィにとって今日という日はーー
たとえこの先、不死が続き、悠久の時を過ごしたとしてもーーー
ーーー奇跡はあるのだとーーー
そういう、生きる希望と表現するべきか、心が生きていく上での、大切なエネルギーを、力を、シルヴィは確かに、そして尊く感じていた。
「もう、泣き虫シルヴィは変わんないなぁ」
「だって!だって!」
「はいはい。みんな居るよ。ここに、全員、いるから」
シルヴィは、おそらくは長年溜め続けていた涙を、ここで使い切る事だろう。
それでいい。
この異世界に来て、新たなスタートをすれば良いのだから。
「で!センキョだよセンキョ!投票に移るぞ!」
ゴルドがリンゼをいつものように側に居させて、ステージにまた上がり、早速続きをしようとする。
「さぁ!今回の立候補者から!みんな選んでくれ!」
若干、え?まだやるの?、という雰囲気が漏れ出ているが、ゴルドはその空気を読まない。
彼の頭の中は、まだ普通のダンジョン踏破をしたに過ぎない認識である。
まぁ、そもそもダンジョンに入るのも初めてなので、普通を知らないわけだが。
ワカバが慌てて投票用紙を用意する。
住民と、とりあえず復活した冒険者にも配られて、冒険者達は頭にハテナを浮かべる。
「えー、今来た冒険者の皆さんにも、一から説明するとですね。私はゴルド・アイハンド。この地の領主男爵です。そして、皆さんは異世界から転生してまいりました。まぁ、その辺りはベルネシアの手配で、何となく理解しているのかな?」
「え?私何もしてないけど?」
「アイハだよー!私がその記憶補填したんだからー!」
ベルネシアがシレッとそう言い、アイハが私が頑張ったと主張する。
「おぉー、そうなのか。アイハ殿ありがとう。助かったよ」
「えっへん」
喜んで胸を張るアイハにお礼を言って、ゴルドは続ける。
「で、今ね、デジマっていう町を作っているんだが、町長がまだいなくてね。コイツこそは任せられるっていう人物を、この中から選んで欲しい。おーい、ミハエルいる?どこ?」
「ここだ!たわけが!何、何事もなかったかのように、帰ってきてすぐセンキョの続きしているんだ!ていうかあの200人近い冒険者はなんだ!?」
ミハエルがステージによじ登ってきて、開幕説教をする。
「えー、まじ?カメラ見てない?ヒロの活躍見てない?」
ゴルドがダルそうにそう返す。
「見ていたが!この人数の転生は聞いてないぞ!町の機能はまだまだ貧弱なんだぞ!これだけ多くの人を受け入れるには、まずは家が追加でいるし!食わせていく畑もいるし!いよいよ本格的な医療施設がいるし!もう何もかも足りないんだよ!」
ミハエルの絶叫説教は、とても的を得ていた。
ゴルドは事実だけに、ヤバいやり過ぎたと焦り始める。
どうしようかと周囲をキョロキョロ見ると、ステージに取り残されていたベルネシアと目があった。
「あ!ベルネシア殿!あのでっかい塔作ったの、貴女ですよね!」
「え?あ、うん。まぁ、作ったけど?・・・魔法で」
「こう!いい感じの家、ポポンと作れません?」
「一から生み出すのは私でも苦労するから嫌なんですけど」
ベルネシアが本気で嫌そうな目をゴルドに向ける。
「ヒロが資材出してくれるから!どう?資材あればいけそう?」
「あぁ~、まぁ・・・それなら。簡単にできるし」
よし!家問題はこれで解決、とゴルドが言い、次は畑、食糧事情について考える。
「ベルネシア殿。畑とか一気に作れない?」
「はぁ?あんた私を便利屋か何かと勘違いしてない?怒るよ?」
ベルネシアがジト目でゴルドを睨むが、ゴルドは華麗に言い訳をする。
「いやいや、ベルネシア殿が農家の生まれと聞いたから、何か妙案がないかと思ってね。何せ偉大な魔女としてご高名なのだから、きっと私のような冴えないボンクラ領主なんかより、聡明で美しい魔女であれば、きっと!何か良い手をご存じなのだと、そう期待してしまったのです。いやはや、お許しを」
怒涛の褒めをくらい、褒められ慣れていないベルネシアが、ちょっと照れ笑いをする。
「な、なによ急に。そんな褒めたって・・・えっと、畑だっけ?さすがに魔法で一気に作るのは無理よ。だから、ゴーレムとかを大量に生み出して、短時間で一気に作る事なら可能よ。ただ、さすがの私も、畑を作るところまでしかゴーレムを維持できないから、継続は他の人でしてよ?」
「勿論ですとも!いやぁ!さすがコンパスの魔女様だ!優しい!超優しい!その寛容さに!偉大さに!私は敬意を表します!」
リンゼがボソリと、魂琥珀の魔女です、ゴルド様、と訂正するが、ベルネシアは褒められて気が良くなっているので、気付いていない。
「医療施設もどうせなら任せなさいよ。私は魂の研究、つまり人の生と死を学んでいるから、医学的知見も持っているわよ、ふひっ」
気持ちよくなり過ぎたベルネシアは、とうとう自分から仕事を請け負うと言い出す。
ゴルドは、いよっ!女神様!なんて優しいんだ!異世界からの天使!みんなのアイドル!と、囃し立てるだけ派手に囃し立てていた。
ベルネシアは、恐らくはここまで褒められたことがないのだろう。
ふひひ、と淑女らしからぬ笑いをして、嬉しそうにしている。
「よし!ベルネシア殿のお陰で、だいたいどうにかなった!これなら大丈夫だろミハエル殿!」
「うっ、ぐぅ・・・まぁ、確かに・・・」
若干、釈然としないミハエルだが、事実、異世界とはいえ高名な魔女なのだ。
出来ると言った以上、嘘ではないだろう。
「す、すごい人?だなあ・・・家や畑をたった1人で?」
「お医者さんでもあるのか?ゴルド様がすごいという人ということは、すごい人なんだろうなぁ」
「さすがゴルド様、今度は高名な魔女様をお呼びしたのね」
デジマの住人達がざわざわとする。
ゴルドはワカバに、投票を続けるように指示して、町長選を完遂させるよう念を押す。
ワカバは分かりましたと言って、忙しなく投票の手順を呼びかけているのを見て!ゴルドは一安心する。
「ふぅ、とりあえずこれでセンキョは上手くいくぞ」
「何が上手くいくだ。カメラで追いかけていたから、まだ見れていたものの、領主のお前が異世界から帰って来れないかもしれないとなった時、どれだけの者達が心配したと・・・」
「あー、すまんすまん。いや、すまんと言うか、オレはそこまで悪いわけじゃないが・・・」
「そ、それはそうだがなぁ・・・まぁ、何となく、帰ってくるだろうとは思っていたが」
ミハエルがため息をつきつつ、そんなことを言う。
「・・・無事で何よりだ」
「え?何?ミハエルまで心配してくれてたの?えぇ~、悪いねぇ~、心配かけちゃって」
「軽いなお前は本当・・・」
ゴルドがヘラヘラ笑うのを見て、ミハエルはまたため息をつく。
そこへ、シルヴィが仲間と戻ってきた。
「姫!仲間と会えたよ!」
「おっ、シルヴィ殿。良かったじゃーん。え?何、この後ろの美女3名がお仲間?」
ゴルドが変わらない調子でシルヴィに話しかけて、その仲間達を見て驚く。
「うん。私のパーティメンバーだ」
「何だよ~、ハーレムパーティじゃねえか~。このこの~。オレを姫とか言ってる場合か?お姫様みたいな仲間3人もいといて~」
ゴルドがシルヴィの肩を組み、おちゃらけたイジリをする。
「えっと・・・シルヴィ、やっぱり、この人、勘違いしてると思うよ?」
白いローブをきたメガネの女性が、おずおずと言い出す。
「まー、これに関しちゃ無理もねぇよ。シルヴィと最初に会った時、私らでも分からなかったし」
「・・・同感」
金髪ポニーテールとハーフエルフ女子も口を揃える。
「ど、どしたの?ん?ん?」
ゴルドは妙な反応をするシルヴィの仲間に、違和感を覚える。
ミハエルはじーっと、シルヴィを見て、「あぁ~・・・」と納得するような声を上げた。
「なになに?何納得したような声あげてるのミハエル殿?」
「いや、私じゃなくてシルヴィ殿から聞きたまえ」
ゴルドが何も分からず、シルヴィをもう一度見る。
シルヴィは、気まずそうな顔をして、頬を指で掻きながら、目を逸らしている。
「んー・・・私が女の子って、さすがにわかってるよね?姫・・・」
「・・・・・えっ?」
ゴルドは固まる。
時は止まる。
シルヴィはちょっと拗ねる顔になる。
仲間達は我慢できず爆笑する。
「何だか変な反応するなって思ってたけど・・・キスまでしたんだからさぁ。気づいてよ姫」
「分かるかぁ!美形だけど!男の騎士みたいに振る舞っているから!男に思うに決まってるダルォ!」
「まぁ、そこは、ほら。姫って姫っぽいから」
シルヴィがふふっと笑って、ゴルドをお姫様抱っこする。
「よろしくね!私のお姫様」
「よろしくない!恥ずかしい!降ろして!」
ゴルドは涙目で赤面した。
そして、町長選の投票の結果、ベルネシアに票が集まり、町長はベルネシアになった。
ゴルドが命懸けでダンジョンを踏破し、不死身の騎士や他にもS級冒険者達を数百人引き連れ、ダンジョンの主であるかの魔女をスカウトし、町長にしたという伝説が、のちのち語り継がれるが、それは後世の話である。
「ヒロじゃないのかよ!」
未来を知らないゴルドは、カメラを守ったのにヒロが町長になれず、絶叫していた。




