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第37話 メモからのキスからのカメラ



興奮するゴルドとは対照的に、シルヴィもヒロ達も、まだ理解が追いついていなかった。



「何か分かったのかい?」


「これ!古の塔の最初のステージで壁に書いてあった謎の文字だ!なんか、ヒロに読んでもらったら上だとか下だとかそういう意味の!」


「あっ、そう言えば、そういうのありましたね」


シルヴィとヒロが反応するが、ゴルドほど大喜びとはならない。



「ゴッド様、それって本当にヒント~?」


「最初のステージに書いてある時点で、さすがにこの裏ステージのモノとは違うのでは?」


クローナとキャロットが、ごく普通の感覚で感想を述べる。


だが、ゴルドは予感めいたものをしかと感じていた。





「いやいや!きっとヒント!これヒントだって!そんな気がする!すげーする!」




ただ、悲しきかな、ゴルドはその予感めいたものを表現する語彙力が無かった。


クローナとキャロットが優しい眼差しでゴルドを見ていたが、ヒロはここでもう一度頭を働かせる。


「確かに・・・ゲーム的には、そういったパターンもあります。初期ステージにヒントや答えが書かれていて、先のステージでそれが無いと進めないから、詰んでしまう。意外とよくある手です」


「すごいね・・・ヒロ殿は本当にダンジョン経験が豊富だね。そんなダンジョン、私なら詰んで終わっているよ」


まぁ、現在進行形で終わっている様なモノだけどね、と自虐的に笑うシルヴィを、ヒロもゴルドも愛想笑いで流して、もう一度ゴルドのメモを読む。



「これ確か、『下下右上B B上下上下左左A』って読むんですけど・・・コマンド入力だと思うんです。だって、AとかBって言われても、わからないですよね?」


「うむ。意味はさっぱり」


「ふふっ、同感だね」


ゴルドとシルヴィが相次いで答える。


異世界現地人の2人でも、ピンとこないなら、やはりこれはヒロの世界の言葉、コマンド入力としての意味になるはずだ。


「このコマンドが繰り出す技をしろってことかな?それが1番無難だけど・・・」


ただ、そうなると、それはそれで詰んでしまう。


ゲーマーとして、そこそのやり込んだ自負のあるヒロは、このコマンドが、何となくストリートでファイトする有名格ゲーの隠しコマンドっぽいことは、当たり前だが勘付いていた。


しかし、いくらチートを手に入れたヒロでも、あの人外の技の数々は再現不可能だし、そもそも、似ているだけで、ヒロが知っている技コマンドのどれにも当たらない。


「そもそもナナメが無いんだもんなぁ」


「ん?ナナメが無いのが、どうしたんだ?」


「いえ、技を発動させるコマンドかなぁと思ったのですが・・・それにはシンプルなコマンドすぎて」


ゴルドがヒロの疑問を聞くが、当然異世界人のゴルドはピンとこない。


「技を発動させると、ダンジョンがクリアになるのか?」


「この羅列されたメモとしては、僕の世界ではそう受け取られるんです」


「すげーな、ヒロの世界ってすごいすごいと思っていたが、この方向にそって動くだけで、ヒロの世界の者たちは技が出るのか?AとかBはよくわからんが」


「ははっ、ゴッド様。さすがに僕自身は技が出ませんよ。これはゲームで、ゲームの中にいるキャラをそう動かすと、技が出るんです。実際にこう動いても・・・実際に・・・動く・・・」



ヒロが、自分の頭の中で、カチリとパズルがハマったかの様な感覚がする。


ゴルドを見て、メモを見て、正面の道を見る。


「ゴッド様!僕たち、この裏ステージに来てから、この部屋のままですよね!」


「ん?おん。ちょっと進もうとして、シルヴィ殿のミイラ見つけたから、結局部屋としては動いておらんな」



ヒロが今度は、先ほどのゴルドばりに興奮して周囲を見渡す。



「進む道が一個しかない。逆にラッキーだ!この道が下ってことになる!」


「「「へ?」」」


ヒロがイキイキとし出して、全員に説明を始める。


「この下とか上って、進む道と言いますか、良くある平面なゲーム画面で矢印コントロールによる動きを表していると思うんです!」


「お、おぉ、何一つ意味は分からないが、進む道を表しているんだな」


ヒロがそうです!と元気に言って、他のメンバーも続けて動き出す。



「まずは、『下下右上』ですね」



最初を下に進む道だと決めて、方向を確定させる。


そこから、まっすぐに2回進む。


「次は右とメモにありますが、僕らは後ろに進んだので、ゲーム画面的に考えて、進んだ道を背中にした時の右方向に進みます」



「おぉ、なるほど」


シルヴィが早くも理解し始めているが、肝心のゴルドは、なるほどねぇ、やるじゃない、と口では言いつつも、全く理解はしていなかった。


「右に進んだ先に、上、つまり真っ直ぐ進みます」


すると、なんの変哲もない部屋に来る。



いや、部屋の真ん中に、壺があった。



クローナとキャロットも、半信半疑だったが、明確な違いが現れて、希望が明確に現れ始める。



「こ、この壺・・・何十年ぶりだろう。道をとにかく進んでいた時、本当に時たま出てきたんだ。ただ、中身は何もなくてね」



「これ、攻撃コマンドだ」



「え?」



ヒロは迷わず、壺目掛けて剣を振り下ろす。


すると、壺は見事に砕けて、壊れる。


かと思ったら、もう一つ、壺が現れた。


それも、続けて壊す。



「・・・壺を壊すとは、思いつかなかったな・・・無視していたり、入れ物として持っていったりしてたよ」



シルヴィは遠い目をしていたが、ゴルドは着実に進んでいる感触を肌で感じて、意気揚々とし出す。


「さぁ!次はどうだったかな?」


「えっと、『下下右上B B上下上下左左A』ですね。なので、Bの攻撃が終わったので、また進みます!」


コマンド通りの道順を進み、最後のAをするべき部屋に辿り着く。




そこには、これ見よがしに魔法陣があった。



「ま、魔法陣?・・・ということは?」



「Aはジャンプコマンド。あそこにみんなでジャンプして魔法陣の中に飛び込みますよ!」


ヒロが威勢よくそう告げる。



「へっ、これはアタイでも分かるよ。この先が真のボス戦だね」


「戦闘体制に入っておかないと!」


クローナとキャロットが意識を変えて用意する。


「おーしおしおし!ヒロ!良くやった!最後の戦いいけるか?ケガや疲れはないか?治癒魔法いつでもいけるぞ!」


「大丈夫です!ゴッド様!今度こそ帰りましょう!」


ヒロ達は準備万端といった感じで、今にも飛び出しそうなくらいだ。


ただ1人、あまりの急展開に、面食らって無表情になっているシルヴィだけが、動揺を隠せていなかった。



「シルヴィ殿!・・・いけるな?」


「・・・アイハンド卿」



ゴルドが、あえて、いけるな?と声をかける。



「・・・ふふっ、正直、ミイラ状態で死んでた同然の状態から、あなた方に会って、こんなにも急にゴールが見えたことに・・・昔、仲間と苦しんだあの地獄の日々が、嘘の様に感じるよ・・・いや、違う。逆か・・・今、こうしてあなた方といて、こうなっていることが、夢のようだ」


シルヴィの声が震えていた。


ゴルド達に取っては、まだ1日とすら経っていない、数時間の出来事だが、シルヴィのあのミイラ状態になったのだ。


40年という年月は、短いなどとは到底言えるわけがない。




「・・・申し訳ありません。肝心なところで、気持ちが定まらず・・・」



シルヴィが穏やかな笑みすら失っていたので、ゴルドがシルヴィの背中をさすってやる。






「いいさ、いくらでも勇気や元気なら分けてやる。だが、肝心な戦闘では、オレは無力だからな。頼りにするなよ」





ゴルドはいつもの様に、そういって笑った。

よくよく聞けば、本当に情けないセリフである。



シルヴィは、ゴルドの目を見て、ようやく微笑む。




「ふふっ・・・一つお願いしてもいいですか?」


「ん?なんだ?何でもいいぞ?」


「本当ですか?ちょっと恥ずかしいのですが、これが夢ではないという証拠に、私とキスしてください」


「なんだ、そんなこ・・・え?なに?」



戦闘前だが、ゴルドは完全に気を抜いていた。


言葉は悪いが、戦闘においてゴルドは全く役割はなく、果たすべき役割もない。


それゆえ、もうゴルドは仕事が一足早く終わっている様なものだった。


そこへ、超特大の試練がやってくる。



ダラダラと汗をかくゴルド。


シルヴィは、照れ臭そうに赤くなっている。


ゴルドはヒロ達に目線を向けるが、3人は揃って目を背けた。


もう一度、シルヴィを見る。


シルヴィは美形だ。

とても顔が整っている。

きっと、自分が女であれば、シルヴィほどの騎士を目の前にすれば、お姫様みたいになって、喜んでキスをするのだろう。



「・・・」


シルヴィが目を閉じた。


何乙女のようにキスを待っているんだ?


しかも頬にキスでいいかと思いきや、顔は真っ正面である。


ゴルドは、オレが姫役なのでは?君が姫役なの?騎士なのに?と、色々と考えを巡らすが、この大一番の前、変な空気にして、戦闘に何かがあってはならない。



ヒロ達も見ていない。



このダンジョンの中であったことは、ダンジョンの中だけの秘密だ。



ゴルドは、良いんだな?とだけシルヴィに声をかけてーーー。








「よし!行くぞお前ら!」




ゴルドが声高らかに宣言する。

ヒロも、クローナも、キャロットも、威勢よく応える。



「我が剣を、ゴルド姫に捧げます!」

「いや!オレ姫じゃないから!」


シルヴィも先ほどより圧倒的に生き生きしている。




ゴルドはすっかり忘れていた。


魔法陣に向かって、飛び込む一行の後ろに、そっとついて来ている、カメラの存在を。


ゴルド自身が命をかけて、ヒロの活躍をおさめるために守ったカメラが、ずっとついて来ていたことを。



キスシーンが、デジマ住民全てに見られていたことを、彼はまだ知らない。




魔法陣は光り輝き、ゴルド達を最後の場所に連れて行く。



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