第36話 異世界でも通用する、万人受け飯
「まずね、彼、水出せるから。ね?ヒロ?」
「え?あ、う、うん!出せるよ」
ゴルドは自慢げに、ヒロの肩に手を置いて言う。
「あと、実は野菜とか、お肉も出せるんだ。な?ヒロ」
「う、うん。まぁ、料理はしなくちゃだけど」
「料理ぐらい!私でもできるさ!」
ゴルドは勝ち誇るように言う。
何一つ、ゴルドは偉くないが、ゴルドは自信満々で、ヒロの隣に立つ。
シルヴィが初めて表情を変えた。
驚きの表情だ。
ヒロの能力に驚いたのか、ゴルドの、お前関係ないのに、なんでそんなに偉そうなの?という驚きなのか、そこは分からないが、すぐに穏やかな笑みに戻る。
「それは、本当にすごい!私の、ただ生きているだけの能力より、何万倍も素晴らしい!」
「はっはっは、だろう?まぁ、シルヴィ殿の能力も十分やばいと思うがな」
「偉そうに言うけど、ゴッド様は関係ないってば」
クローナがようやくいつもの口調で話に入る。
「しばらくは、食糧問題も大丈夫ですけど・・・何か、脱出のヒントになることはありませんでしたか?」
キャロットが、シルヴィに質問をする。
「そうだね・・・まず、私がパーティメンバーといた頃は、とにかくこの塔を歩き回った。迷路のようで、もしかしたら、出口が見つかるかもと・・・だが、一年、ただひたすらに真っ直ぐ進んだが、何故か道は途切れなかった」
「い、一年?・・・長いなぁ~」
長いなんてものでは無いのだが、ゴルドはうーむと考えながら、デジマとか大丈夫か?リンゼ泣いてないか?とか、そういう心配ばかりをしていた。
「おそらく、それだけ動いてゴールがないなら、迷路的なダンジョンではないと思います」
ヒロが改まって考察を話し出した。
こういった知識があるのは、もはやヒロしかいない。
ゴルド達も腰を下ろして話を聞く。
「最初のステージである、古の塔は、きちんと空間があるステージでした。そこから、シルヴィさんが検証して、一年も真っ直ぐ進めると言うことは、ここは現実のダンジョンではなく、虚実、魔力によるものか、あるいは幻か、そういった延々と空間が広がっているタイプの裏ステージだと思います」
「おぉ・・・なんというか、それってずるいな。そんなの初見じゃ看破出来なくない?」
「ゴッド様の言うとおりで、正直、シルヴィさんの証言がなきゃ、この事実に気付くまで、僕たちも相当な年月をかけてないと気づけなかったと思います」
クローナとキャロットがゾッと顔を青ざめるが、ゴルドは、よしよし、気付けたのラッキーと、前向きに捉えていた。
「で?その攻略法とやらも、ヒロならいくつか心当たりがあるというわけか?」
「そうですね。パッと思いつくのは、これが幻術や幻のパターンです。その場合は、それを破る魔法をかけるのが答えなんですが・・・」
ヒロと残りの4人も、誰もが顔を見合わせて、そんな魔法待っているか?と目で問うが、誰も手をあげない。
「オレの治癒魔法の中に、異常状態回復ならあるが?とりあえずいっとく?」
ゴルドが、まるで駆けつけ一杯のビールみたいに、軽いノリでいうので、みんなにかけてみる。
「おぉ、体が軽くなった」
シルヴィが喜ぶが、それは、栄養失調、脱水症状、日光不足からくるその他不調が改善されたに過ぎない。
ヒロやクローナ、キャロットは、当たり前だが効果がない。
「ふむ・・・魔法の類ではないと考えて進めようか」
ゴルドはサクッと次に進めようとする。
「次のクリア方法となると、このダンジョンの謎を解く、が良くある次のパターンですね。正しい道順で進むと出れるとか、ダンジョンが崩れるとか、そうやって進めるはずです」
「正しい道順?なんかヒントある?」
「部屋のどこかに、模様とか、文字があるとそれがヒントになります」
ゴルド達は手分けして部屋を隅々まで見る。
クローナは鼻も効かせながら、キャロットは聴覚を研ぎ澄まして、何かないかヒントを探る。
その間、ゴルドとシルヴィは、天井を見る係として、シルヴィがゴルドを肩車していた。
身長的に、シルヴィの方が高く、力もありそうなので、自然とそうなる。
「シルヴィ殿大丈夫か?キツくないか?ミイラから復活してそんな経ってないだろう?」
「ふふっ、心配してくれてありがとう。でも、さっきの治癒魔法も相まって、元気がみなぎっているよ。アイハンド卿1人くらい、軽いものさ」
「そりゃ頼もしい。ちなみに、シルヴィ殿が歩き回っている時、文字やら模様やらなかったか?」
シルヴィはうーん、と考え込みながら、記憶を辿るが、正直に思い当たる節はないと答えた。
「かれこれ40年ここにいるけど、ヒロ殿に言われてから、そんな方法があるのかって、ようやく気付いたくらいだよ。正直いうと、文字とかあったかなんて見てないから、見逃していたと思う」
「そうか~。まぁ、気にしなきゃ、気付けないしなぁ・・・天井には何もないな」
そっか、残念、とシルヴィが言って、ゴルドを降ろす。
ヒロ達も、この部屋にはもう何もないようで、捜索を終えていた。
「じゃあ、次に・・・」
「まぁ待て」
ヒロが次の道に進もうとすると、ゴルドが止める。
「腹ごしらえしない?喉も渇いてきたしさ」
ゴルドが能天気にそう言う。
そこで気付いたが、ヒロとクローナとキャロットは、部屋で何も見つけられなかった焦燥感があったからか、ひどく疲れを覚えていた。
「そ、そうですね!体も休めないと!」
「あ!私ヒロのこの前言ってたカレー食べたい!」
「燃やすものとか、鍋とかどうしましょうか・・・あ、それらもヒロ様が出せましたね」
ワイワイと3人が盛り上がって、薪や石を出して、簡易的な釜戸を作り、鍋や具材を出していく。
ちなみに、鍋は出せるんかい、と都合がいいなぁと思った読者のために、簡単な解説をすると、ヒロは転生初期は自然物創造の初期スキルであったが、自身のレベルアップに合わせて、その生み出した自然物の操作(風や水を動かすなど)から、もう一つパワーアップし、創造する物の形を意のままに形成して、生み出せる。
なので、実は建築の時から、これくらいの資材、この形の釘、等々、日々建築をしつつ、スキルアップに努めていたので、鉄などを鍋に加工することなど造作もない。
ただ、食べ物を加工する、すなわち、米をすでに炊き立ての状態にするなどは、まだレベルが足りないのか、そこまでは出来ない。
おそらく、形を変える以上に、水や熱など、化学変化と呼ばれる過程を経て、生み出すには、まだ力が足りないのだろう。
以上、ヒロの能力についての仮説である。by美月。
「へー、これがカレーか。シチューみたいだな?美味そうだ!」
ゴルドが皿に盛られたカレーを見て、早く食べたいと言わんばかりにワクワクした顔をする。
にんじん、じゃがいも、お肉と、オーソドックスながらも、具材がゴロゴロある。
「玉ねぎは抜いてあるから」
「ん?玉ねぎもいるのか?てか、なんで抜いてるの?」
「クローナも食べれるようにね」
「「「???」」」
クローナ以外が、頭にハテナが出るが、クローナは気付いて顔を赤くする。
「あ!アタイは犬じゃなくて狼だってば!それに!そもそも獣人で人の部分が強いから玉ねぎも食べれるぞ!」
「あ、そうだったの?犬に玉ねぎはダメって聞いてたから・・・まぁいいや!美味しいから食べて!」
いっただっきまーす!と、全員がカレーを口にする。
外で食べるカレーの旨さは、異世界を超えても共通のようだ。
シンプルな具材ながら、カレールーというシンプルな調味料が、旨みを更にパワーアップしてくれる。
ホクホクのジャガイモに、にんじんと肉が、ご飯と合わさることで、そのハーモニーは極上である。
子供だろうが大人だろうが、夢中にさせてくれる最強の万人向け飯の代表格は、文字通り格が違った。
水を相方に飲みながら、辛さや旨さに舌が楽しみ、口に運ぶスプーンが止まらない。
食事が終わり、全員が人心地つく。
ヒロもクローナ、キャロットも、体ではなく、心に負担があったようだが、食事を挟んですっきり出来たようだ。
「どうだい?シルヴィ殿。カレー美味かっただろう。まぁ、オレも初めて食べたけど」
ゴルドがニコニコして言ってくる。
言っている内容は適当にも程があったが。
「ふふっ・・・アイハンド卿、君ってすごいね」
「・・・ん?なんで?作ったのも出したのもヒロだぞ?」
ゴルドが予想外のシルヴィの答えに、首を傾げる。
「いやいや、まぁ・・・なんていうんだろう。空気を変えるって、そう出来ないことだからさ」
シルヴィが、久しぶりに、過去を思い出したようだ。
それは、この古の塔の裏ステージに来て、絶望していた時の記憶。
仲間の疲弊する姿を見て、そのドン底の空気を変えられなかった自分。
身と心が、数十年ぶりに満たされたシルヴィに襲いかかったのは、過去の後悔と苦い思い出であった。
「空気を変えることができたのも、ヒロのお陰だろ?オレは何もしてないし。それより、ここ出る為にも、行こうぜ!」
過去に囚われ始めたシルヴィに、手を差し伸べて、物理的にゴルドは引っ張る。
不思議と、シルヴィは、包まれていた黒いモヤから、本当に連れ出してくれたかの様な錯覚がした。
笑顔のゴルドに、つい、つられて自分も笑う。
「なんていうか・・・好きです」
「・・・・」
シルヴィが自然とそう言って、ゴルドとヒロ達も固まる。
「・・・あ、人としてね?」
シルヴィが慌てて付け足し、少し笑う。
だが、美形も相まって、もう何というか、その少しの笑いも、いわゆるガチのアレにしか見えない。
美月の顔がチラリとよぎる。
ゴルドはまさかな、とその予感を振り切り、シルヴィに、そりゃ嬉しいと、とだけ答えた。
その時、ポケットから紙が落ちる。
「おっと、失礼・・・てか、なんだっけこれ?」
ゴルドがもはや存在を忘れていたそれを拾い上げる。
そして開いて、思い出した。
「あー、これか・・・これだよ!!」
ゴルドが紙を二度見して、興奮する。
何故なら、この紙こそが、脱出の鍵となるヒントであったからだ。




