第35話 古の塔 裏ステージ
スクリーンにて、揺れがおさまり、ゴルドにヒロ達が、とりあえずは無事な様子が映し出されていた。
「ぶ、無事か?」
「早いところ転生魔法でこの世界に戻せないのか?」
ヴォルクとミハエルは、すでにこの世界に戻っており、アイハに聞く。
「うー!うーー!・・・ダメ~、全然発動しないよ~」
涙目になるアイハを、ワカバが慰めて、何とか魔法による救出を試みる。
リンゼが真っ青な顔になり、手を固く握る。
「リンちゃん!顔が怖いぞ~」
ふと、美月が声をかけてくる。
フィオも隣で落ち着いた顔をしていた。
「で、ですが・・・私が許可したばかりに・・・」
「ゴルド様なら心配ございませんわ。カメラも守れてご満悦のようですし」
「カメラより自分の身を守ってよね~」
2人が軽い声掛けをしつつ、リンゼに笑顔を向ける。
「大丈夫。ゴルドさんの事だから、ちゃんと帰ってくるよ」
その言葉を、リンゼも強く頷いて、同意した。
ようやく、いつもの無表情くらいになる。
「早く帰ってきてよね、もう・・・」
美月はそうつぶやいた。
ーーーー古の塔、地下
「ここは・・・塔の中から結局出ていないのかな?」
ゴルドはカメラをようやく手放し、自動追尾が再開される。
ヒロもクローナもキャロットも無事である。
それぞれが周囲を注意深くみるが、先ほどいた塔の中で変わらないようだ。
「まだクリアじゃないってことでしょうか?」
「まぁ、ボスだけちょっと強かったけど、それだけっちゃそれだけだもんなぁ」
キャロットとクローナが考察して、ヒロもピンとくる。
「あれ、中ボスか」
「「「中ボス?」」」
「ボスの一個前のモンスターだね。それか、一応さっきのがボスとしたら、今裏ボス対戦に入ったかのどっちかだよ。良くある展開だね」
「さすがヒロだ。この手の流れも経験済みとは・・・恐れ入るぜ」
ゴルドは慌てる様子のないヒロに安心感を覚える。
「じゃあ、裏ボスを倒しに行こうか!」
ゴルドは意気揚々と声を上げて、道を進む。
そして、曲がり角に人が倒れていることに気づく。
「んん?モンスター・・・じゃないな?他の冒険者とかか?」
「ゴッド様、不用意に近づかない方がいいです。トラップの可能性もあるので」
ヒロが注意を呼びかけて、クローナがすぐにゴルドの前に立ち、様子を探る。
「んー、一応トラップはないみたい。行き倒れっぽいよ」
「なんと!おい、しっかりしたまえ」
ゴルドが駆け寄ってその人物を起こす。
「うっ・・・」
ゴルドがうめく。
それは、痛みがあったからではなく、倒れていた人物が、シワシワのミイラのようになっていたからだ。
「かわいそうに・・・亡くなってから時間が相当経っているな」
「うっ、これは・・・帰れなかった冒険者でしょうか」
ヒロも、思わず顔を背ける。
クローナとキャロットも、気分の良いものではないので、目を伏せる。
「きっと、そうだろうな。安らかに眠れ、名もなき冒険者よ・・・」
ゴルドは丁寧にそれを地面に寝かせて、手を合わせる。
すると、ゆっくりとだが、そのミイラが手を震えながら動き出した。
「「「「え?」」」」
固まる4人は、次の瞬間、絶叫して高速後退りをする。
「ぎゃーー!!おばけ!ゾンビ!ミイラ!」
「ご、ゴッド様落ち着いて!きっとモンスター化したんでしょう!」
「そそそ、そうだ!きっもそうだよ!早く倒そう!」
クローナがビビりながらも、攻撃をしようと拳を構えたが、ふと、ゴルドが気付く。
「ん!いや待て!・・・何か言ってないか?」
「「「え?」」」
微かな声が聞こえたのか、ゴルドがミイラが何かを言っているようだと言い出し、ヒロ達も一旦攻撃を止めるが、構えだけする。
「・・・・~・・~・・・」
「ダメだ、何を言っているかは分からんが・・・ちょっと回復魔法かけてみるか」
「えぇ!?大丈夫?急に元気になったりしない?」
クローナがそう心配するが、ヒロは逆にいい考えだと賛同する。
「この手のモンスターは、治癒魔法かけると逆に浄化されて倒せるので、ありだと思います」
「いや、まぁ倒すつもりでやるわけじゃないが・・・ほれ、どうだ?」
ゴルドが恐る恐る治癒魔法をかけると、目の前のミイラがシュワシュワと回復していき、不思議なことに、ミイラから人間に戻った。
「ふぅ、ありがとうございます。いやぁ、ようやく動けるようになりました」
黒髪の剣士、しかもすごい美形であった。
「うわ~・・・シワシワのミイラだったのに、すげぇ美形だったんだな」
ゴルドが取り繕うこともなく、そのままの感想を述べてしまう。
「私は、騎士をしています。名はシルヴィです」
美形の騎士は、爽やかにゴルドに握手を求めた。
「お、おう。私はゴルド、ゴルド・アイハンドだ。この世界とは違う世界で、領主をしている」
「なんと!では、名のある貴族様ですか?」
さすが、騎士を名乗るだけあって、ゴルドが貴族だと分かると、すぐさまかしこまる。
「あー、いーよいーよ。この世界とは関係のない貴族だ。それより、その、なんだ、良く生きてたな?」
「あ、それ僕も思いました。ほぼというか、完全ミイラになってましたよね?」
ゴルドがいつものノリで返しつつ、シルヴィが生きていた事に驚愕することを伝える。
ヒロも同意しつつ、クローナとキャロットも激しく頷いていた。
「いやぁ、私のしがない能力ですよ。ちょっと不老不死でして」
「え?不老不死?それってしがない能力なのか?」
ゴルドがノータイムでツッコミ、ヒロ達も顔を全力で横に振る。
「ふふっ。いうほど良いものではありませんよ?不老不死ですけど、先ほどみたいに、飲まず食わずで30年いたら、動けなくなりますし、ミイラと変わらなかったでしょ?」
軽く笑顔でそういうシルビィだが、ゴルド達は反応が出来ずにいた。
飲まず食わずで30年?
というか、本当に不老不死なだけで、あの状態で生かされるだけになる?
色々と不老不死に対する恐ろしさが垣間見えたところで、ゴルドが咳払いをして話を続ける。
「まぁ、これも何かの縁だ。お察しの通り、我らは中ボスと思わしき骸骨騎士を倒したら、この塔の地下らしき所に移動していた。ここを出る方法とか何か知ってるかい?」
「ふふっ、ごめんね。助けになりたいけど、私もかれこれ40年はここに囚われていてね。脱出の手は何も見つけられていないんだ」
笑顔ながら、申し訳なさそうにシルヴィは言う。
「ああ、いや。気にする必要はない。まぁ!1人では大変だったろう。今から我々も協力するから、何とか乗り越えようじゃないか!」
ゴルドがはっはっはと笑い、ヒロ達も安心する顔をする。
シルヴィは、それを微笑ましく見て、しかし、悲しそうな顔をした。
「ありがとう、アイハンド卿。だが、私も、ずっと1人だったわけではない。最初に来た時は、パーティメンバーがいたが、全員餓死した。それから、この塔に迷い込む冒険者などいて、君が言ってくれたように、皆協力をし合ったが、全員餓死した」
「・・・あの、それって、もしかして・・・」
ヒロが顔を青ざめて、シルヴィに声をかける。
「君たちで、300人目かな?私が出会った人間は・・・でもね、誰もこの塔を出られなかった。なぜなら、敵がいないからね」
シルヴィはそう言いつつ、穏やかだった。
絶望の申告に、ヒロもクローナもキャロットも、嫌な汗をかく。
敵が出てこない。
シルヴィが出会った人は、全て餓死。
「ここはね、きっと忘れ去られた、ただの牢獄。出口のない古の塔さ」
悲しく、でも穏やかなシルヴィの顔を良くみると、その目に光はなかった。
ーーーーデジマ
シルヴィの絶望的な説明に、スクリーン前の全員が硬直する。
誰一人として、打開案も、何も言えなかった。
遠い異世界で、領主のゴルドは囚われてしまった。
ただそれだけが、伝わっていた。
ーーーーー古の塔
「はっはっは、とりあえずモンスターが出ないなら、すぐに死ぬことはないな」
「・・・アイハンド卿、君は、まだ事の重大さを理解していないね?」
シルヴィが、穏やかな笑みを崩さず、だが、言っているセリフには、あまり優しさがない。
「まぁ待て、皆まで言うな」
ゴルドは余裕たっぷりで、ヒロを指差した。
「ヒロがいる限り、我々は死なない。彼は英雄だからな」
今、この場で、誰もが絶望で足を止めていた中、ゴルドだけは、笑っていた。
「我々で、初の帰還者となろうじゃないか」
シルヴィの穏やかな笑みとは違う、活きた笑顔が、そこにあった。




