第34話 古の塔
ジメジメとした石造りの塔。
薄暗い中に、なぜか灯り続けている松明。
「わー・・・まさにダンジョンって感じですね」
「へー、ダンジョンってこういう感じなのか~・・・」
ヒロの感想に、ゴルドは感心しながら返す。
「ヒロはやっぱあれかい?これくらいのダンジョンなら朝飯前だよね?ね?そうだと言って欲しいな」
ゴルドが願望にも似た質問をヒロにする。
「任せて下さいゴッド様!この程度のダンジョンなら目を閉じててもクリアできますよ。まぁ、画面の向こうじゃなくて実際にやるのは初めてですけどね」
「おぉ!さすがだ英雄!信じているぞ!頼むぜヒロ!」
「画面の向こうって何だろう?」
「目を閉じててもクリアできるなんて!さすがヒロ様です!」
もうここには彼ら4人しかいない。
ゲーマーのヒロを頼りに、誰一人ダンジョンを知らずに、異世界のダンジョンへと挑むのであった。
ーーーデジマ
「あの・・・今更ですけど、安全なんですか?ダンジョンって?」
ワカバが本当に今更な事をアイハとリンゼに聞く。
家令がメガネにヒビを入れて固まる。
「大丈夫だよ。みんなのレベルに合わせたダンジョンで、難易度は低いから」
アイハがグーサインを出して説明する。
「ミハエルちゃんのチームは、王家の墓っていうダンジョンね。様々な仕掛けがあったり、ミイラ男とかゾンビ系のモンスターが多いよ」
画面には、まんまピラミッドの中に入っていくミハエルとヴォルクたちの姿がある。
戦闘が早速始まっているが、危なげなく進められているようだ。
「次のフィオーナちゃんの所は、廃病院っていうダンジョンで、死霊系モンスターが多いね。驚かせにかかるお化け屋敷みたいなところ」
「え?それ、あんまりミツキさんの頭脳が活かせないような・・・」
ワカバが心配そうにすると、画面では案の定、美月たちの叫び声がしている。
『なんでダンジョンのクセにおもくそ現代の廃病院なのよぉぉおおお!!!』
ツッコミ職人の美月の絶叫が会場に響く。
「謎解き要素もあるよ!」
「何と言いますか、娯楽のようなダンジョンですね」
アイハの付け足しに、リンゼが冷静にそう分析していた。
「そして、スケマツくんのチームは、1番総合力が高いから、ミュータント製造工場っていうダンジョン。謎解き要素はない。ただただ戦って生き残る場所だよ」
「スケマツくーーーーん!!!!」
ワカバが絶叫するように、画面ではスケマツたちが大量のミュータントに襲われていた。
「危なくなったら、こっちに戻すから。大丈夫!」
「こうやって見ますと、ドラフトにより強くし過ぎても、考えものですのね」
リンゼの今更ながらの感想が、スケマツに届くことはないだろう。
「で!ヒロくんとゴルちゃんのところは、古の塔!ただの古い塔で、動く甲冑とか、ゴーレムとか、そんな無機物系モンスターが多いよ。でもレベルはそんなに高くないかな。ゴルちゃんいるし」
家令がようやくホッとする顔をした。
リンゼはアイハに確認していたので、特に驚かない。
リンゼが改めて画面を見ると、ゴルドとヒロ達は、のんびりと歩いている様子だった。
ーーー古の塔
スカウト役のクローナが、先行して安全確認をする。
続いて、タンクのキャロットが進み、アタッカー剣士のヒロが続く。
最後にコソコソついて行くのは、回復役のゴルド、と、わりかし役割分担をすると、良い感じのパーティーメンバーに見えてくる。
「いた!甲冑のモンスターだよ!」
クローナが声を出して警戒し、キャロットとヒロが構える。
無機物の甲冑が3体、多少ぎこちない動きをしつつ、4人に襲いかかる。
だが、まず1体はクローナがすでに先手で攻撃を用意しており、頭部に狼の俊敏な蹴りを入れる。
そのまま頭部の甲冑がひしゃげて、頭を失った甲冑は動きを停止する。
続けて、キャロットが拳で甲冑を殴り飛ばし、ヒロも剣で叩き斬る。
「よし!回復はいるか!?ケガはないか!?」
ゴルドが用意してましたと回復魔法を構えるが、いや、大丈夫です!と3人に元気に答えられた。
「・・・オレ要る?」
ゴルドはもう何回かになる戦闘を経て、そうつぶやく。
「もちろんですよ!ゴッド様は居てくれるだけで良いんです!」
「回復役は保険だからな」
「逆に活躍するということは、私たち相当まずい状況ですしね」
ヒロとクローナとキャロットがそれぞれ感想を述べて、ゴルドは「そうだよな・・・」と寂しさを覚えつつ、受け入れる。
「しかし、このまま塔の上についても、ヒロが町長になれるだろうか?もう少し大活躍を見せないと、印象が薄いような気がする・・・」
一応は忘れていなかった、町長選挙のためのダンジョンであることを思い出しつつ、ゴルドは3人の後を歩く。
「ん?」
ふと、壁に変な模様のような、文字のようなものをゴルドは見つける。
「何だこれ?・・・っと、普通の奴なら、うっかり触ってトラブルになるんだろうが、私は違う!迂闊には触らんよ!・・・メモしてみんなに聞くか」
ゴルドはササっとメモをして、ヒロの後を進む。
「お、ここにも・・・なんと、ここにも」
「ゴッド様?何してるんですか?」
ヒロがちょくちょく立ち止まるゴルドに声をかける。
「見てくれ、この変な模様なのか文字なのか。私の勘が言っている、これは謎を解く鍵になるとな!」
「あ、これ『右』って書いてますね」
「ん?」
ヒロ、読めるの?とゴルドが驚く。
「んー、アイハちゃんが、転生の特典で、文字とか言葉が分かるようにしているよってら言ってたので、たぶんそのおかげです。全然見たことない文字ですけど、そう書いてますね」
「おぉ!じゃあ!私がメモしてきたこの内容を読んでみてくれ!なにかヒントになっているかもしれん!」
「どれどれ?・・・・『下下右上B B上下上下左左A』ですね」
「・・・どういう意味かな?」
「隠しコマンドですかね?まぁ、でも、今コントローラーないので、どうしようもないですけど」
ゴルドは徒労だと気付き、メモをそっとポケットにしまった。
「まぁ、ダンジョンという神秘的な場所で、この様な文字をメモすることは、学術的価値がきっとあるのだろう」
ゴルドはそう言って己を慰めることにした。
程なくして、最上階に着く。
「マジで何もなく来ちゃったな」
「ゴッド様何もしてないからな~」
「こらクローナ!ゴッド様のお手を煩わせるほどじゃなかったってだけだよ」
「まぁ、領主様ですしね」
ゴルドは焦っていた。
自分が活躍していないのは、正直どうでも良い。活躍などできる訳ないのだから。
だが、英雄であるヒロの活躍が地味だ。
甲冑とゴーレムがそこそこ出てきたが、なんのハラハラドキドキもなく、完封して勝利している。
ヒロがとにかく強いというのも有るのだろうが、思ったよりクローナとキャロットが優秀すぎるのもある。
俊敏かつ鼻も利いて、斥候として優秀すぎるクローナは、スカウトとして、索敵もトラップの見破りも完璧だったし、キャロットもガードとして、攻撃を受けつつ反撃も、素手でありながら頼もしくこなしている。
そして、ヒロが大体一撃必殺で倒してしまう。
「このままだと、踏破は1番かもしれんが、町長には微妙かもしれない!ヒロがせっかく立候補してくれたのに!私は友人として、ただ数合わせの協力しか出来ないのか!否!」
最後のボス戦を、劇的な戦いにすれば、きっと逆転サヨナラホームランを打てるはずだ。
ゴルドはボスの部屋の前で意気込む。
「みんな!気を抜くなよ!今までの戦いみたいに一撃で終わらせたらダメだ!ちょっと苦戦した風を見せて!ピンチを演出した後!ヒロによる激励と、みんなギリギリの中、立ち上がり私が回復魔法をかけて、そこからの大逆転をするぞ!」
「はい!ゴッド様!」
「いや、なに大声で八百長呼びかけてんの?」
「ゴッド様、さすがにそれはちょっと。あとヒロ様も良い返事しないでください」
クローナとキャロットがゴルドとヒロに困った声をあげる。
「さぁ!行こう!」
ゴルドは威勢よく声を出すが、ヒロの後ろの最後尾でしっかり大人しくしていた。
クローナは、まぁ、ゴッド様らしいといえばらしいから良いかと、切込隊長として扉を開ける。
ボスの部屋は広い闘技場のようになっており、中央に黒い甲冑を着たどデカい骸骨が鎮座していた。
「ピンチを演出しよう作戦中止!各々全力でアイツをぶっ倒すぞ!何だよめちゃくちゃ強そうじゃねぇか!?」
ゴルドがボスの見た目を恐れて、速攻で作戦中止を言い渡す。
「分かりました!全力で相手します!」
「最初からそのつもりだよ!リンゼさんに怒られちゃうんだから!ゴッド様を危ない目に遭わせたら!」
「ゴッド様!できるだけ離れて!どこかの陰に隠れるか小さくなっていてください!」
「よし!任せとけ!」
ゴルドは颯爽と走り出し、ボスから離れて、柱の後ろに隠れる。
その間に、ヒロとクローナとキャロットが、それぞれ全力で攻撃を始めた。
「ふぅ、なんてダンジョンだ、最後の最後で強力なボスをぶつけやがるとは。だが!それはそれで好都合!自然と迫力ある戦いができて、ヒロの活躍がどーんとカメラ越しに映って、デジマのみんなも『さすがヒロだぜ!町長よろしく!』ってなること間違いなしだな!」
ゴルドは気付かなかった。
ワカバたちの用意した自動追尾カメラは、柱の後ろにいる、無様に隠れたゴルドをアップにしていることを。
ーーーデジマ
「あの・・・頑張って戦っているヒロさん達が小さく映っているんですけど」
ワカバが申し訳なさそうに言う。
「仕方ありません。ゴルド様の御身が優先です。万が一ゴルド様に流れ弾が当たれば、アイハ様の緊急脱出が必要です。なので、ゴルド様を必ず映していただきます」
リンゼの冷たい命令が、無表情で下される。
情けなく隠れて、ヒロ頑張れー!と応援するだけの領主の姿を、デジマの住民は見せられていた。
「何だか、領主というか、お偉いさんのイメージ変わっちゃうね」
「うん。でも、嫌じゃないかも。ううん。むしろ何だか、この人、良い人なんだなぁって、改めて感じた」
意外と、というとゴルドに失礼だが、異世界からの住民や、獣人達は、何だかんだゴルドの人となりをまだよく知らない人が多い。
「子供と遊んでばっかりだと思ったが、戦えないながらも、しっかり応援してて、根性あるじゃねぇか」
「何か、不思議な魅力ありますね。我々の領主様は、こういったお方なのですね」
知らないところで、ゴルドの人望が上がった。
もっとも、ゴルドが求めたヒロを町長にしようとする考えは、それはちょっと、と遠慮されていたが。
「おぉ!英雄様が倒したぞ!」
そうこうしているうちに、ヒロが最後の攻撃を喰らわせて、ボス戦に無事勝利したようだ。
「おぉ~、フィオチーム、ミハエルチームに続いて、ヒロチームがダンジョン踏破しましたね!第3位です!」
ワカバがマイク越しにそう宣言する。
ちなみに、スケマツチームは残念ながら、スケマツが逃げている途中で盛大にズッコケて、ミュータントにやられそうになったため、緊急転生して途中リタイヤとなっている。
「さぁ!ヒロさんたちもここに戻しましょうか!」
そう宣言するワカバだが、アイハが怪訝な顔をする?
「あれ?まだ踏破出来てないみたい」
「「「え?」」」
ワカバにリンゼに家令が声を揃えて驚くと、ゴルド達を映す画面内で、大きな揺れが起きているのか、画面が揺れて、ゴルド達も動けなくなっている。
「ちょ!早く!転生!緊急転生!」
「や!やってるよ!でも反応しない!誰かに妨害魔法かけられてる!」
「早く!ゴルド様が!ゴルド様がいるんですよ!!」
ワカバとアイハがワタワタする中、リンゼが堪えきれず動揺した大声を出す。
ゴルドは揺れる中、自動追尾カメラを掴んでいた。
その様子もモニター画面越しに住民全員が見てる。
そして、ゴルドが何か言おうと、口を開いた。
「うぉおおおお!ヒロの活躍は絶対に見せるから!このカメラはオレが死守する!」
「「「「いや!あんたの命の方が大事だから!」」」」
会場の全員が、全く同じツッコミをした。
そのまま、ゴルドにヒロにクローナ、キャロットは、次なるステージに強制移動させられていた。




