閑話 転生傭兵のサリーは王子様に会いたい
黒い雨は、この世界の象徴だ。
汚染された大気から抽出された、鉄粉や塵やが混ざり合い、ザリザリとした固形の混じった雨が、空から降ってくる。
サリーの世界はこんな世界だ。
およそ自然など生き残っておらず、鉄の廃墟が大部分を占める。
過去には発展していたのだろう。
ビル群も立派に顔を揃えているが、その全てが物言わぬ死に体となっていた。
幾つかは、最先端の未来よろしく、稼働しているドームもある。
人工栽培された植物と、人工肉が製造できる機械がある所が、サリーの所属する【アインツェルゲンガー】の名がつく傭兵部隊のホームである。
だが、ホームとは名ばかりで、傭兵部隊を雇っている雇主がいるだけで、肝心の彼らは、ここに年に数回しか帰れない。
ほとんどは、この枯れ果てた外の世界で、その名の通り一匹狼のように彷徨うのだ。
「リーダー、今度の獲物は?」
「コイツらだ。組織の金を持ち逃げした負け犬だ。3日でカタをつけるぞ」
ヴォルクはサリーが生まれた時からリーダーだった。
サリーはヴォルクから戦闘術も、銃火器類の扱いも学ぶ。
そして、絵本も読んでもらっていた。
お気に入りは、白雪姫である。
いつか、こんな世界でも、私だけの王子様が来るはず。
笑われる夢だから、幼いエリーは誰にもこの夢は言わないが、エリーにとっては、この夢を見る事だけが、この世界で生きる希望になっていた。
仲間は、定期的に死んでいった。
同期の試験管ベビーで生き残っているのは、サリーだけだった。
特別、自分が優秀だったとは思わない。
運良く生き残っただけだった。
最後の同期である親友が、敵の銃に撃たれて、致命傷となる肺に穴が空く。
相当苦しいだろうに、サリーが必死の治療をしていると、死にゆく親友は穏やかな顔で言った。
「やっと、この世界とおさらばだわ・・・サイコーね」
サリーは手を止める。
親友の顔を見る。
そこには、もう何の感情も残っていなかった。
「ねぇ、リーダー・・・私に、王子様は来るかしら」
「・・・なんだサリー?ドラッグでもキメてるのか?」
止めておけ、イカれちまうぞ、とだけヴォルクは言って、笑わなかった。
サリーは夢を口にするようになった。
こんな世界でも、私にとっての王子様がいるはずだ。
きっと、王子様はめちゃくちゃ強い。
ヴォルクなんかより圧倒的に強いのだ。
そしてカッコいい。
誰もが振り向くイケメンで、私よりも背が高くて、細身だけど筋肉質なのだ。
そしてそして、何よりも、優しい。
この世界に生きている私を、優しさで暖めてくれる。
私を愛してくれて、守ってくれて、優しくしてくれる。
そんな王子様が、きっといるはず。
私は王子様に会うまでは、諦めない。
「こっちだ!走れ!」
黒い雨が降る日だった。
口に、目に汚れた雨が入って、嫌悪感が走る。
だが、足を止めない。
振り返り、牽制となる銃撃も繰り返す。
サリー達が、世界を敵に回して、アインツェルゲンガーが死に体となっていた。
仲間が、1人、また1人と命を落としていく。
彼らは、満足していたのだろうか?
親友のように、この世界に中指を立てれたので、「ざまぁみろ」としてやったり顔で逝けたのだろうか。
すぐ横を弾丸が飛び交う。
先を走っていた先輩傭兵が、撃たれて倒れる。
「がぁっ!!」
「今止血する!立って!走るよ!」
「無理だ!先に行け!」
サリーが布で縛るが、先輩傭兵は苦しそうにそれだけ言う。
「まだ立てるでしょ!諦めないでよ!」
サリーは涙を流して叫ぶ。
サリーは知っている。
この先輩傭兵は、この先の合流地点に、愛する女性を待たせている。
傭兵部隊の中で、恋愛事はままある事だ。
サリーはそれを尊く思っている。
この世界で、愛する人ができる事が、どれほど奇跡的な事だろうか。
私にとっての、王子様と出会えた成功例とも言える。
「アンナさんになんて言うの!?死んでも生きなさいよ!ほら立って!」
「アンナに伝えてくれ・・・愛していると・・・お前がいたって事が、この世界で唯一、最高に幸せな理由だったぜ・・・」
先輩傭兵は限界だった。
その命の灯火は、確実に消え掛かっていた。
「なぁ頼むよ・・・このイカした伝言を、サリー、お前が生きて伝えてくれ・・・王子様に会うまでは、お前は死にそうにないからな」
追手がもうそこまで来ていた。
先輩傭兵は死期を悟り、手榴弾を手に用意する。
それを見て、サリーは走り出す。
後方で、爆発がする。
先輩は、これで幸せなのだろうか。
このクソッタレな世界で、好きな人の為に、自己満足な死を迎えたことに、意味があるのだろうか。
ヴォルクが指定した脱出通路に、生き残りが集まる。
「たったの・・・これだけか?」
ヴォルクが滅多にしない悲壮感漂う顔をする。
だが、呆けている場合ではない。
ここに仲間が1人でもいるなら、やるべき事をせねばならない。
「この地下通路の先に!地上へのハッチがある!」
ヴォルクが殿となり、サリー達を先に行かせる。
「アンナ!その!・・・伝えないと行けないことがあるの!」
サリーが走りながら、先輩傭兵の恋人に声をかける、が。
「サリーとお話ししたいのはお姉さんもだけど、後にしてちょうだい。今は生き残ることが先よ」
ウインクされて、伝言は伝えられない。
「走れ走れ!」
甲高い金属音と、銃撃が聞こえる。
後少しで、ハッチに着く。
梯子を上り、ハッチに手をかけた仲間が、絶望の声を上げる。
「開かねぇ!くそ!溶接されてるぞ!」
絶望だった。
ここに来て、ここまで来て。
ハッチに向けて錯乱して仲間が銃を撃つが、一向に開く様子はない。
こんな地下通路で。
黒い雨に汚れたままで。
私は、王子にすら会えず、死ぬのか。
「アンナさん、伝言、メッセージだけでも!」
瞬間、銃弾の雨が降り注ぐ。
アンナのキレイな横顔が、赤くなる。
ヴォルクが最後まで抵抗する。
アンナが倒れるのを、サリーは必死に受け止める。
「お願い・・・助けてよ」
サリーは、この地獄の中で、時が止まったかのように、静かにそう呟く。
思い出されるのは、幼い頃、ヴォルクが読んだお伽話だ。
「ねぇ、助けてよ・・・王子様」
こんな世界嫌だ。
王子様にも会えない。
人の命が紙切れみたいに吹っ飛ぶ。
親友が、死んで最高だとのたまう。
愛したもの同士が、あっさりと死にゆく世界。
こんな世界嫌だ。
違う世界で生きたい!
「まだ!私は生きたい!」
サリーは目を開けてそう叫んだ。
すると、目に入ったのは、金髪の青年だった。
古めかしい衣装に身を包んだ、優しそうな人物。
何故だろう、サリーは彼を見てすぐにわかった。
彼こそが、サリーの待ち望んだ王子様であると。
「うおおおおおい!何があった!?ケガしてるぞ!てか何で転生早々死にかけてんのぉおおおお!!!」
ゴルドの叫び声がする。
そしてサリーに駆け寄る。
ケガをしていたアンナを、不思議な力で治してくれる。
サリーは、異世界に転生され、そこでようやく王子様と出会えたのだ。
王子様は、私より背が低いけど、心は誰よりも広くて大きい。
王子様の見た目は、私はカッコいいと思っている。
みんな、頼りなさそうとか、気の弱いお人好しに見えるって言うけど、そんな事ない。
誰よりも、真っ先に行動する人。
筋肉は、私よりないかもだけど、いいの!私が守るから。
そしてそして、何より、ゴルド様は優しい。
私を、その優しさで暖めてくれている。
この世界に、
呼んでくれて、
助けてくれて、
愛してくれて、
ありがとう。
ゴルド様は、私の王子様です。
今夜だけ特別に、閑話も投稿です。
サリーの恋模様がもっと見たいという人は、ぜひぜひお気に入りと評価にコメントよろしくお願いします!




